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探索者  作者: 羽帽子
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第72話:「十分バケモノだぜ」

 思った以上に連携が上手く行き、大した怪我も無くリザードマンを倒す事ができた。

 これならボスに挑戦しても大丈夫だろう。


「それじゃ、開けるよ」


 ボス部屋の扉の前で後ろの2人に振り向くと、少し緊張しているがどこかワクワクした顔で俺を見つめている。

 今日はここまで苦戦らしい苦戦をしていないので自信が漲っているようだ。

 盾スキルを上げた事で戦闘での安定感が格段に上がった気がする。

 部屋に入るとすぐに部屋の中心に駆け寄る。

 反対側にはドルチェ、少し離れた場所にはサーシャとすっかり固定化されたいつもの陣形だ。


「……来るぞ!」


 黒い瘴気が集まって1匹の魔物が現れる。

 両手斧を持った『ハイリザードマン』だ。

 シルビアから事前に情報は聞いていたが、リザードマンよりも1周り大きく威圧感もかなりあるので足が竦みそうになるが「ハァッ!」と気合を入れて剣を振り下ろす。

 左の腕を斬られたハイリザードマンの真っ赤な目が俺を睨む。

 自分にターゲットを絞らせる事がこのPTでの俺の大事な役割なのだが、毎回この憎悪に満ちた目で睨まれるのは心臓に悪い。

 横薙ぎに振り回された両手斧の一撃をギリギリの所でかわし隙を付いてがら空きの顔面に盾を叩き込む。

 本来の盾の役割は敵の攻撃をガッチリと受け止める事なのだが、強化された『魔樹の盾』とはいえハイリザードマンの銅の両手斧の攻撃を喰らったら破壊されてしまう恐れがあるので、今は防御よりも攻撃への繋ぎといった感じに使っている。

 ドルチェは銅製の武器の攻撃なら受け止められると言っていたが、流石に両手斧の一撃を受けるのは遠慮したい。

 右手に剣、左手に打撃武器……気分は二刀流だ。

 普通のリザードマンが相手なら顔面に盾を喰らってよろけたところをドルチェやサーシャが追い討ちを掛けるのがいつものパターンなのだが、流石はボスだ。


「ドルチェ、危ない!」


 追撃しようとしたドルチェを慌てて制止。

 俺の声に急停止したドルチェの顔面スレスレをハイリザードマンの両手斧が空を切った。

 もし、いつものように攻撃をしていたらと思うとゾッとする。

 目を見開いたドルチェがバックステップで距離を取る。

 まるで後ろにも目が付いているかのようなハイリザードマンの動きに攻めあぐねているとサーシャの魔法が炸裂した。


「隙はあたいが作る! シュンとドルチェは攻撃を続けろッ!」


 リザードマン系の魔物にはあまり火魔法は効かないのだが、それでもまとわり付く炎が鬱陶しいのか身を捩って消そうとしている。

 こちらへの注意が逸れた今がチャンスだ。


「ドルチェ!」


 俺の合図に合わせて前後から同時に攻撃を加える。

 剣が顔面を斬り裂き両手槌が背中にめり込む。

 ハイリザードマンが反撃しようとした時には俺とドルチェはすでに攻撃範囲から離れている。


「オラッ! ファイアボール!!」


 両手斧を振りかぶったところにサーシャのファイアボールが俺の剣で斬り裂いたばかりの顔面に直撃。

 流石にこの一撃は効いたのか両手斧を落として両手で必死に炎を消そうとしている。

 地面に落ちた両手斧は足で遠くに蹴飛ばしたので、ハイリザードマンの攻撃力は大幅ダウン。

 それでも腕を振り回して反撃しようとするハイリザードマンだったが、こうなってしまってはただの大きな2本足のワニだ。

 それでも十分脅威のはずなのだが、感覚が麻痺してしまっているのか一切恐怖を感じなかった。

 最後の足掻きとばかりに大きく口を開けて噛み付こうとしたハイリザードマンの口にサーシャの何発目かのファイアボールが炸裂した。


「止めッ!」


 仰け反ったハイリザードマンの無防備な喉を一閃すると血が噴水のように噴き出し、ついにドサリと後ろに倒れた。


「はぁ~……疲れたぜ!」


 魔法を連発したサーシャが床にへたり込んでいる。

 ドロップアイテムの『ハイリザードマンの皮』を持ったドルチェがそんなサーシャを労っている。

 ドルチェに褒められて嬉しいのか「エヘヘ」と満面の笑みだ。

 美しい光景のはずなのだが、サーシャのドルチェを見つめる瞳に若干の不安を覚えてしまう。

 ドルチェが気付いてるのか分からないが、どう見てもあれは『恋する乙女』の瞳だ。


 13階層へと進み、最初の小部屋で小休止がてら『ハイリザードマンの皮』の使い道を相談する。

 ドルチェの話によると『ハイリザードマンの皮』はかなり頑丈な鎧の素材にもなるが、摩擦に強い特性があるので靴にするのが最適との事。

 素早い動きをしているとどうしても靴の劣化が激しくなってしまう。

 今履いている皮の靴もそろそろ寿命なので、話し合った結果今回の素材で靴を作って貰う事にした。

 基本的に靴は皮製、脛当ては金属製にするのが主流らしい。

 確かに迷宮探索の時にガシャガシャと大きな音を立てて歩くのはご法度だ。

 兵士なら防御力重視でそれでも良いのだろうが、探索者には隠密性も求められるので靴は皮製の方が無難だろう。


 一応今日の目標である12階層の突破は達成したのだが、まだ時間に余裕があるので13階層の偵察をする事にした。


「あれ? ドルチェ、あれって……」


「……炎角兎」


 どうやら13階層の魔物は2階層のボス『炎角兎』みたいだ。

 レベルが上がっているので油断はできないが、12階層のリザードマンと比べるとかなり楽に倒せたので、このまま一気に13階層を突破してしまおう。

 ドルチェとサーシャもハイリザードマンとの戦いの余韻が残っているのかいつにも増して好戦的だ。

 ただ、水属性の魔物の次が火属性の魔物なのでサーシャはちょっと残念そうな顔をしていた。


 順調に探索を進めていると、通路の先でチラッと火が揺れている。

 炎角兎は角が燃えているので見つけ易く、今回も先制のチャンスだ。

 後ろの2人に合図をして慎重に近付くと何だか様子がおかしい。

 近付くのを止めて目を凝らしてみると炎角兎ではない……『火トカゲ』だ。

 まだこちらに気付いてないのか壁に張り付いてじっとしている。

 2人の傍まで下がると作戦の確認をした。

 いつかは『属性トカゲ』を倒せるようにといろいろシミュレーションした成果を試す事ができるチャンスに全員興奮気味だ。

 まずサーシャが離れた場所から魔法を叩き込み、倒しきれなかった場合は俺が追撃をする。

 非常にシンプルな作戦だが、少しでも余計な行動を挟むとすぐに逃げられてしまうので、これくらい単純な方が俺達には合っている。

 懸念だったサーシャの魔法も今ではバッチリだ。

 火属性なのでサーシャの魔法はあまり効かないかもしれないが、一瞬でも足止めができたら俺の剣で倒せるかもしれない。

 動きが異常なほど素早い魔物なのでドルチェには周りの警戒をして貰う。

 魔物だけでなく他の探索者の存在も厄介だ。

 もし『魔石』をゲットしたところを見られたら、金目当てに最悪襲われる危険性もあるので注意が必要だ。

 

 気付かれないように中腰で剣を構えて集中力を高める。

 後ろで杖を掲げているサーシャも真剣な表情だ。

 ドルチェも周囲の確認をして軽く頷く。

 サーシャには言っていないが、もし魔法が外れて逃げられたら一か八かでナイフを投げてみるつもりだ。

 俺の投擲技術が上がればナイフによる先制も可能なのだが、まだそこまでは流石に無理なのでそれは諦めた。


「ファイアアローッ!」


 クイック気味に放たれた火の矢が火トカゲに襲い掛かる。

 その瞬間に俺も一気に距離を詰める。

 3本のうち1本が見事に火トカゲに命中。

 弱点属性だったら今の攻撃で倒せたかもしれないが、それでも驚いた火トカゲが一瞬ビクンと硬直した。

 ほんの数瞬だが、今の俺にはそれでも十分だ。


「ハァッ!」


 一気に距離を詰めると、逃げようとする火トカゲに一閃。

 HPは極端に少ないのかあっさりと倒せたので拍子抜けしてしまった。

 少し呆然としている俺の横にドルチェとサーシャが駆け寄ってくる。


「何かあっさり倒せちゃったね」


 嬉しいはずなのに何故か苦笑が漏れてしまった。


「普通は弱点属性で一発で倒さねぇと、2発目を撃つ前に逃げられちまうらしいぜ」


「でも、今の俺みたいに一瞬固まった時を狙えば他の人でも簡単に倒せるんじゃないかな?」


 俺の言葉にドルチェとサーシャがちょっと呆れ顔だ。


「シュンにぃは……『身体強化』レベル3。そんな人……滅多に居ない」


「それにシュンって剣のスキルもレベル3だろ? 十分バケモノだぜ」


「それよりも……『魔石』」


 ドルチェの指摘に慌ててドロップアイテムを探すと真っ赤な石が地面に落ちていた。

 まるで燃えているような赤い光を放つ魔石に、触っても火傷をしないか心配していると横からドルチェがヒョイと摘み上げた。


「『炎魔石』……フフフ」


 ドルチェの瞳が妖しく光っている。


「なぁ、その魔石って売るのか?」


 サーシャの瞳もキラキラ輝いているが、こちらは普通に喜んでるだけみたいだ。


「どうするかは後で決めよう。今は探索に集中だ」


 こういう時こそ集中力を切らさないようにしないと大怪我をしてしまうだろう。

 俺も興奮ではしゃぎ回りたい気持ちを抑えて、少しでも冷静になるようにと深呼吸をひとつ。

 ドルチェから炎魔石を受け取りアイテムボックスへと大事に保管した。

 背中にもの凄いオーラの妖しい視線を受けながらも探索再開だ。



読んでくださりありがとうございました。

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