第70話:「ワタシをがっかりさせないでくれよ?」
孤児院とギルドでかなり運動をしたので宿屋に戻るとすぐに身体を拭く事にした。
俺は2階の1人部屋、サーシャは3階の2人部屋にそれぞれ戻る。
するとすぐにエミリーがお湯の入った桶を持ってきてくれた。
その後ろには両手に桶を持ったドルチェの姿があった。
サーシャの分と合わせて2つも持っているのに余裕の表情だ。
流石にあの重たい両手槌を振り回してるだけはある。
「ドルチェも今帰ったの? お帰り」
「ただいま……。シュンにぃ……これ」
桶を床に置きアイテムボックスから盾を取り出す。
『魔樹の盾:+6』
一度工房で見ているがこうして完成品を目の前にすると改めてドルチェの凄さを実感する。
「ありがと! 大切に使うね」
ちょっとはにかんだ笑顔を浮かべて頭を差し出してくるので優しく撫でると鼻から息を漏らしてご満悦と言った感じだ。
横でエミリーが羨ましそうに見ている。
「桶は俺が上に運ぶね」
せめてものお礼にとドルチェから桶を2つ受け取って3階へと運ぶ。
ドルチェは「これくらい…余裕」と断ってきたがこれくらいはさせて欲しい。
3階のドルチェとサーシャの部屋に行くと、部屋の中でサーシャが真剣な顔で生活スキルの『ファイア』を指先から出していた。
「うわっ!? ノックくらいしろよなッ!」
「開けたの……ぼく。ここは……ぼくの部屋」
いきなり入ってきた俺達を見てバツが悪そうに文句を言ってくるが、ドルチェに返されて悔しそうな顔をしている。
でも、ノックをしなかったのは確かなので素直に謝ると少しだけ機嫌を直してくれた。
どうやら怒ってるわけではなく照れてるだけのようだ。
「今のって魔法の訓練? 帰ってきてからもやってたのか」
「あ、あたいの勝手だろ! 今から身体を拭くんだからシュンはもう出て行けよな!」
そう言って真っ赤な顔で俺をぐいぐい押して部屋から追い出す。
ドルチェが「……見たい?」と誘惑してくるがサーシャの鬼のような形相に大人しく退散する事にした。
エミリーと一緒に2階の部屋へと戻る。
てっきりエミリーもドルチェ達の部屋に残ると思っていたのだが、「大事なお仕事があるから~」と俺の後ろを付いてきた。
「シュンさんの身体を拭くのはあたしの一日の楽しみなんですから、勝手に自分で拭いちゃダメですよ~」
部屋に入ると器用に後ろ手に鍵を掛けて楽しそうに俺の服を脱がせていく。
全裸になって美少女に拭いて貰っていると何だか自分が偉くなったような錯覚をしてしまう。
見られるのにもすっかり慣れてしまったので正面も拭いて貰うのだが、気持ち良い刺激に下半身の一部が硬くなってしまった。
それを見たエミリーが嬉しそうに上目遣いで見つめてくる。
「今夜はシュンさんと一緒に寝られないので、お詫びにお口でしてあげますね~」
そろそろ食堂も空いてくる頃合になったのでドルチェを誘って食堂に行こうとベッドから起き上がる。
サーシャは今頃昼間のエミリーとの約束通り厨房で俺達の料理を作ってる所だろう。
廊下に出て3階へ上がろうとすると階段の途中でドルチェとシルビアが何やら話をしていた。
珍しい組み合わせなので声を掛けるタイミングが掴めずにいると、俺に気付いたシルビアがちょっと顔を赤らめて目を逸らす。
「あ、ごめん。邪魔しちゃったかな?」
「シュンにぃ達を……助けてくれたお礼を……言ってただけ」
「あ、あぁ、大した話ではない。気にするな」
そうは言ってもいつも落ち着いた雰囲気のシルビアがあからさまに挙動不審だ。
俺の視線に耐え切れなかったのか「メリル達の部屋に行く途中だった」と小走りに階段を駆け上がっていってしまった。
「ぼく達は……食堂」
残ったドルチェもこれ以上触れられたくないのか俺の腕を掴んで引っ張っていく。
かなり気になるが無理に聞き出すのは止めておいた方が良いだろうと判断して、エミリーとサーシャが待つ食堂へと向かった。
「これはまた……、凄いね」
テーブルいっぱいに並べられた料理を見てエミリーが初めて作ってくれた日の事を思い出したが、それに匹敵するくらいの量がありそうだ。
でも、今日は俺1人分ではなく4人分との事なのでちょっと安心だ。
「このシチューも美味しいな。これはサーシャが?」
「おう! リザードマンの肉が入った特製シチューだぜ!」
昨日死闘を繰り広げたばかりの『リザードマン』を食べる事になるとは思っても見なかったが、カエル肉と同じく美味しいので気にするのは止めて料理を堪能する事にした。
エミリーの料理はどれも最高だが、サーシャの腕前もなかなかのものだ。
「2人共、良いお嫁さんになれるよ」
「シュンさんが貰ってくれるんですか~?」
「な、なななな! バカな事言うんじゃねぇよ!」
俺が褒めるとエミリーとサーシャがそれぞれ対照的な反応をする。
エミリーは嬉しそうににっこり微笑み、サーシャは逆に怒り出してしまった。
「サーシャは……照れてるだけ。……喜んでる」
ドルチェの冷静な指摘にサーシャが黙り込んでしまったのでどうやら図星だったみたいだ。
2人の手料理を全部食べ尽くしそれぞれの部屋へ戻る時間になった。
エミリーも今夜は後片付けをしたらドルチェ達の部屋にお泊りだ。
久しぶりに1人で寝る事になりそうなので少し寂しいが、女性陣の親睦を深めて貰う為にも今日は我慢しよう。
別れ際ドルチェが何故か俺に向かってサムズアップしていた。
その時はどういう意味なのか分からなかったが、すぐにその意味が分かる時が来た。
『コン……コン』
遠慮がちにノックされた音に気付いて声を掛けると、ドアの向こうからシルビアの声がした。
慌ててドアを開けると、そこには俯いて手をもじもじさせているシルビアが立っていた。
驚いて言葉が出ない俺に「入っても良いか?」とシルビアが聞いてくるので首をブンブン縦に振って中へと通す。
緊張した顔でベッドに腰掛けたシルビアに、俺はどこに座ろうか迷っているとシルビアがすぐ隣をぽんぽん叩くので素直に従う事にした。
俺が隣に座ると一瞬ビクッと震えるがしばらくお互い黙っていると、急にシルビアが深呼吸を始めたのでびっくりしてしまった。
「ハァ~ッ……、まさかワタシがこんなに緊張するとはな」
「えっと、何か相談事?」
「相談というわけではないのだがな。シュンは慣れてるかもしれないがワタシはこういう事は初めてなので、どう言ったら良いか」
必死に頭の中で話をまとめようとしているようだがなかなか上手く行かないのか、しまいには頭を抱えて唸り始めてしまった。
かと思うとガバッと顔を上げて俺を睨み付けてくる。
「シュンが悪いのだぞ。シュンが毎晩のようにエミリーやドルチェと……いかがわしい事をしてるから」
「ご、ごめん。……やっぱり寝不足に?」
恐る恐る聞いてみるといつの間にか目が据わっているシルビアに押し倒された。
「オマエに、気になる男に抱かれて喜んでいる彼女達の声を毎晩聞かされているワタシの気持ちが分かるか?」
「気になる男って……」
「ワタシはこれまで元の世界でもずっと男には興味が無かったのだぞ。今まではそれで何の問題もなかったのに。オマエに出会ってからワタシの心の中にはいつもモヤが掛かってる」
歯止めが利かなくなったのかずっと抱え込んでいたらしい心情を吐露するシルビア。
「初めてシュンが声を掛けてくれた時、本当は不安でいっぱいだったから凄く嬉しかった。その後もいろいろこの世界の事とかを教えてくれて感謝してるんだ。……それなのに」
ジロリと据わった目で睨んでくる。
「それなのに、オマエは次から次へといろんな女を口説き落として毎晩のようにいちゃいちゃと! 初めて気になった男がこんなに女に手が早い男だったなんて全くの想定外だ……。しかし、一番想定外なのは、シュンに抱かれている彼女達の事が羨ましいと思ってしまう自分が居る事なんだ」
そう言って自嘲気味に笑うシルビアがとても辛そうだったので彼女の頬に手を当てると驚いた顔で俺を見つめている瞳から涙が零れた。
「そうやって他の女を口説いてきたのか? 本当の事を言うとな、ワタシはシュンの事は諦めようと思っていたのだ。自分が気になる……いや、認めよう。自分が好きになった男は他の男と同じようにただ女を抱く事しか興味が無い汚らわしい男だと必死に思い込もうとしてな」
今までの俺の行動を見ればあながち間違っていない評価かもしれないので彼女に呆れられていると思っていたのだが、まさかここまで悩ませてしまっていたとは。
今更ながらに恥ずかしい気持ちになった。
「でも、最近のオマエの顔は少しだが『戦士』の顔になってきてるぞ。最初はすぐに迷宮で命を落とすと思っていたのだが、身体付きもずっとたくましくなってきた」
俺の腕や胸板をまさぐるシルビアの手の感触に思わず声が漏れてしまう。
そんな俺の様子に緊張が解れてきたのか段々とシルビアの瞳が妖しくなっていった。
「ワタシの男を見る目はまだまだかもしれないが、オマエは初めて好意を持った男なんだ。これからはあまり情けない姿を見せてワタシをがっかりさせないでくれよ?」
俺に覆いかぶさって目を覗き込んくるシルビアに心を鷲掴みにされたように何度も頷く。
それを見たシルビアが唇を重ねてきた。
「ククク……、ワタシのファーストキスだ。先程も言ったがそんな好きになった男が毎晩のように他の女を抱いているのだぞ? 正直もう我慢の限界なのだ」
俺の顔中にシルビアのキスが降り注ぐ。
「そんな時にドルチェに提案されたのだ『シルビアには……恩がある。チャンスを……あげる』とな。彼女から見たらワタシの気持ちも完全に見透かされていたみたいだな」
階段で話していたのはどうやらその事だったようだ。
それに別れ際のアレはこういう事か……。
どうやら今回の事はドルチェが仕組んだ事らしい。
アイラの時といい、彼女は一体俺に何をさせたいのか。
まるで神様の思惑通り俺にハーレムでも作らせたいのだろうか?
「ワタシももう本当に我慢の限界なのでな。彼女の提案に乗ることにした」
「それって……」
「ずっと守り通してきた操を捧げるのだ。後になって後悔するようなつまらない男にはならないでくれ」
俺の身体に跨ったまま服を脱いでいくシルビア。
いつもと違って明かりがないのでハッキリとは見えないが均整の取れた引き締まった裸体に見惚れてしまう。
吸い寄せられるように胸に手を伸ばすと緊張で強張りながらも俺の自由にさせてくれた。
「凄く鼓動が早いね」
「当たり前だ。オマエと違って初めてなのでな」
どうやらシルビアもかなり嫉妬深い性格だったようだ。
いつものクールな彼女からは想像もつかなかったが、今の情熱的な彼女も大好きだ。
「どうしたら良いのか分からないから、……シュンの好きにしてくれ」
その言葉に今度は逆に俺が彼女をベッドに押し倒した。
俺の腕の中でシルビアが生まれたての赤ん坊のように縮こまっている。
何度もキスをすると少しずつ身体の緊張が解れていくのか反応が激しくなってきた。
「シュン……もう……」
怯えの中にも何かを期待するような眼差しのシルビアにゆっくりと身体を重ねていった。
読んでくださりありがとうございました。
いろんな人達の期待に押し潰されないかちょっと心配。




