第06話:「あ、アタシだけなの?」
神様は真剣な表情のアイラに満足そうに頷いている。
俺もアイラも普通の地球人だ。
アイラはどうなのか知らないが少なくとも俺は特に取り得もないただの一般人。
あんな凶暴そうな魔物とまともに闘う能力も世界の役に立ちそうな知識も残念ながら持ち合わせてはいなかった。
そんな俺たちに神様は一体何をさせようと言うのだろうか?
もの凄いチートな能力でもくれるのなら何とかなるかもしれないが、この神様はどうやらバランスとか世界への影響とか変なところで真面目そうなので過度な期待はあまりしない方が良いかもしれない。
本人を目の前にして何気に失礼な事を考えていたらジロッとこちらを見る神様。怖い怖い。
でも、別に怒っているわけでもなさそうなのでちょっと安心。
「実はおぬしやお嬢ちゃん達にやってもらいたいことなんじゃが……」
オホンとひとつ咳をし一拍置いて、神様は続けてとんでもないことを俺達に言った。
「あの世界で『探索者』というものになって迷宮を攻略しつつ、世界中の住人達の能力の底上げをしてもらいたんじゃ!」
「はぁ!???」
思わず素っ頓狂な声が出てしまった。
横を見るとアイラも神様の言葉がいまいち理解が出来ないって顔で俺の方を見ていた。
「いや、探索者ってのになるのも、迷宮を攻略しろってのも、なんとなく理解出来るし、まぁ念願叶って異世界に行けるんだから、それくらいはやっても良いかな? とは思うんだけど……」
つっかえつっかえなんとか言葉を吐き出すとアイラも加勢してくれた。
「あの、神様? アタシ達は普通の一般人だよ? シュンが言ったようにあの世界の役に立つなら迷宮の攻略を頑張ってみるつもりではいるけど……。でも、住人達の能力の底上げって……、そんなことアタシ達には無理だよぅ!」
涙目で必死に神様に訴えるアイラ。
神様は至近距離でのアイラの涙に動揺したのか慌てて言い繕う。
「いやいや! あくまで最終的にちょっとでもそうなってくれたら助かるって意味じゃ! 一応お嬢ちゃん達とPTを組むとメンバーもいろいろと得をするようにするつもりじゃし!」
泣き出した初孫をあやすお爺ちゃんのように必死にアイラのご機嫌を取ろうとしている神様。
「それにこれはわしの方の事情じゃから、お嬢ちゃんがもしひっそりと静かな生活を送りたいと思っておるのなら自由にしてもらっても構わないんじゃよ?」
などとどんどん譲歩していく。
もし俺が同じ事を神様に言っても、あっさり「頼むぞい」とか言われて誤魔化されるのがオチだ。
まさに『可愛いは正義!』だ。
そんな神様の言葉にアイラは相変わらず涙目ではあったが、意思の強そうな瞳でしっかりと見つめ返す。
「ううん! あんな映像を見たんだもん、アタシもあの世界の役に立てるように頑張りたいよ! まだ自信が全然ないけど……。でも、少しでも神様の力になりたいもん!」
やたらと気合の入っているアイラ。
かなりの熱血漢みたいだ。
そんなアイラの言葉に感動したのか、アイラの肩にガシッと手を置く。
「そこまで真剣に思ってくれているのか! 感謝するぞい、アイラよ! そうじゃ、お嬢ちゃんだけ特別にボーナスポイントをさらに加算してあげよう!」
『ボーナスポイント』……何だか素敵な響きだ。
もしやこれも異世界移住特典ってやつなのかだろうか。
感動している神様がうっかり漏らしてしまったらしい言葉に敏感に反応する俺。
しかもそれを更に特別に加算して貰えるとは……。
羨ましそうな俺の視線に気づいたのか、アイラが神様に取り成してくれた。
「あ、アタシだけなの?それは嬉しいけど、やっぱりアタシだけって言うのは……」
などと言いながらチラチラと俺の方に視線を向ける。良いぞ、アイラ!
俺も期待満々な目で神様を見つめる。
涙目になっても効果なさそうなので普通にだったが。
神様はそんな俺達を見て苦笑している。
「分かった分かった。仕方ない、小僧にも特別に加算してやるわぃ」
そんなありがたいことを言ってくれた。
でも、小僧呼ばわりはどうかと思う。
アイラも少しホッとしたのかニコッと微笑んでくれた。アイラ、マジ天使!
「まぁ、二人への特典は後で付与するとして……先程も言ったんじゃが、ほんの少しでもあの世界の住人達にとってプラスになってくれさえすればそれで十分助かるんじゃよ」
優しい声で諭すように話しかけてくる神様。
「無理をする必要もないし、焦る必要もない。元はと言えば、あの世界の現状はあの世界に生きる全ての者が背負い受け入れるべき物なんじゃよ。今回の事は言わばわしの我侭なんじゃろうな……」
そこまで神に想われる世界に俄然興味が湧いてきた。
元の世界の事を考えると複雑な気持ちになるが、これから新しく住む世界なので俺も自分ができる範囲で頑張ってみよう。
俺は元の世界にいる時には一度も思わなかった想いを胸に、こっそりと気合を入れていた。
アイラも神様の言葉に思うところがあったのか、握り拳を作って「フンス! フンス!」と鼻息が聞こえてきそうな勢いで気合を入れていた。
アイラの気合の入りっぷりが少し心配になったので、「無理しすぎないように」と声を掛け、無意識にアイラの頭を撫でてしまった。
びっくりした顔でこちらを見上げるアイラ。
心なしか頬か赤らんでいるから照れてるのかな? 怒ってないよね?
「ごめんごめん」と呟きながら神様を見るとなんかニヤついていた。
「それじゃあ、先程言ったボーナスポイントを含むおぬし達への特典なんじゃが、……あまり過度な期待をするんじゃないぞ? あくまでも人の範囲で頑張って貰いたいからのぅ。神にも匹敵する力なんて無理じゃからな?」
などと悪戯っぽく言う神様。
だが俺もアイラも物凄く期待の眼差しで神様を見つめていた。
異世界に行くのならしっかり特典を貰っておかないと。
読んでくださりありがとうございました。