第63話:「カエル肉は……ご馳走」
「それじゃ、探索を続けようか」
サーシャが落ち着いたのを見計らって先へ進もうとするとドルチェが俺を呼び止める。
「シュンにぃ……ドロップアイテム……忘れてる」
貴重な収入源を忘れるところだった。慌てて拾いに行くと牙が2本落ちていた。
「『ビッグバットの牙』ってやつみたいだけど……」
「あー、あたい知ってるぞ。確かウチのお袋が飲んでる薬の材料のはずだぜ!」
「……貧血の薬」
「それそれ! お袋、よく立ち眩みするからな~……心配だぜ」
それならこのアイテムはサーシャに渡してドリスの探索者ギルドで売って貰おう。
「シュン、ありがとな!」
ここ最近やけに素直になってきたサーシャがお礼を言ってきた。
ダーレンでも需要はあるのかもしれないが、これくらいの融通は利かせても良いはずだ。
気を取り直して探索を再開。
先程の戦闘でコツを覚えたサーシャが大暴れしている。
ドルチェを助けた時のファイアボールはまぐれだったのか威力こそ弱くなっているが、ちゃんと術名だけで発動出来る様になったみたいだ。
「術の名前を言わずに発動させるのって可能?」
「あ~、それは流石に無理だぜ。そんな事が出来るヤツの話なんて聞いた事ないな」
オルトスの迷宮に行った時にソルが睨んだだけでコンラッドを少し凍らせていたのを思い出したので何となく聞いてみたのだが、流石にそこまでうまい話は無いみたいだった。
「そうだよなぁ。完全なクイック発動が可能ならもっと『魔石』が流通してるはずだよな」
シルビアの凄さを改めて実感する。『専属』の誘いが来るのも当然だ。
サーシャのレベルが上がった所でボス部屋に到着した。
準備の確認をして中へと突撃する。
「でかっ!」
現れた魔物を見て思わず声が出てしまった。
ビッグバットを2回り以上大きくしたコウモリ……『ジャイアントバット』だ。
スキルは先程までのビッグバットと殆ど同じだが、大鷲ぐらいもあるコウモリと言うだけでなかなかの迫力だ。
「むぅ……当たらない」
飛び掛ってきたジャイアントバットにドルチェが両手槌を振り回すが、あざ笑うかのようにスルリとかわしていく。
俺でも動きについていくのがやっとだ。明らかにビッグバットよりも素早い。
「身体が大きくなったのにスピードが上がるって……反則だろ」
つい愚痴が漏れてしまう。
「……サーシャ」
「おう! 任せろ! ファイアアロー!」
ドルチェの声に気合十分のサーシャが放った火の矢がジャイアントバットの羽を掠める。
「とぅ……!」
ジャイアントバットの巨体が空中でぐらついたのを見たドルチェが以前ポイズンスライムを倒した時のように両手槌をぶん投げた。
『ドシャッ』と何かが砕ける音が聞こえた。
「うわ……直撃かよ!」
「あ、サーシャは見るの初めてなんだっけ」
相変わらず見事なコントロールだ。
落ちてきたジャイアントバットを予備の両手槌で止めを刺している。
俺のレベルが上がったらご褒美に『器用』を更に上げてあげよう。
ドヤ顔のドルチェがドロップアイテムを持ってきた。
『ジャイアントバットの羽』
かなりの大きさなのでアイテムボックスに入るか心配だったが、あっさりと吸い込まれるように収納されていった。
ちなみに羽は傘や外套の素材になるらしい。
「ドルチェ……おっかねぇ~」
サーシャが引き攣った顔でドルチェの事を見ていた。
これくらいの事でビビるようではまだまだ甘い。
まぁ、俺も最初は同じような反応をしてたが……。
9階層に進み小休止。
「俺も『投げナイフ』とか覚えてみようかなぁ……」
先程の戦闘で何の役にも立てなかった事を反省する。
これからも飛び回る魔物と戦う機会が増えそうなので、対策として俺も投擲系のスキルを覚えた方が戦い方に幅が出るかもしれない。
「ナイフなら……ぼくが作る。今は……持ってない」
「あたいの見せ場が減っちまうのは癪だけど、覚えた方が良いと思うぜ!」
ドルチェとサーシャも賛成してくれるみたいだ。
ナイフの作製をドルチェにお願いして9階層の探索を開始する。
「……止まって。……何か……聞こえる」
探索を開始するとすぐに『ゲッ……ゲロッ』と遠くから鳴き声が聞こえてきた。
「……カエル」
「あぁ、カエルだな!」
2人にも聞こえたらしい。
気のせいかサーシャの口元に涎が垂れているような……?
「もしかして食用?」
元の世界でも蛙の肉は鶏肉みたいで美味しいと言う話は聞いていたが、まさか実際に食べる事になるかもしれないとは予想外だった。
全く同じ『カエル』と言うわけではないだろうが、期待と心配が入り混じった微妙な気分だ。
鳴き声の方へと進んでいくと少し開けた場所に出た。
そこには子牛程もある巨大なカエルがのっしのっしと歩いていた。
「こりゃあ美味そうだぜ!」
「え?」
思わずサーシャに聞き返してしまった。
どう見ても美味しそうには見えないのだが……。
「カエル肉は……ご馳走」
ドルチェの目も何だか妖しく光っている。
こんな目をドルチェはよく俺とのエッチの時にしているが、まさか俺とのエッチはカエルを食べるのと同じなのだろうか?
「今日の晩メシはお前に決めた! 我が贄となれ! ファイアボールッ!!」
テンションがちょっとおかしくなったサーシャが特大のファイアボールを巨大なカエルに叩き込む。
苦しそうに悶えているカエルにドルチェが追い討ち。
俺はあっさりと巨大カエルが倒されるのを呆然と見つめていた。
「食べ物が絡むと……怖ぇ~……」
煙となって消えた跡には肉の塊が落ちていた。
鑑定しなくても分かる。あれはきっと『カエル肉』だ。
どっちのアイテムボックスに入れるかプチ喧嘩になっているドルチェとサーシャを見て、9階層の探索が長引きそうな予感にため息が漏れた。
2人を引き離しカエル肉を自分のアイテムボックスにしまう。
「肉はちゃんと平等に分けるから喧嘩しないの!」
「「は~い」」
返事は素直だが目が怖い。
その後、『ビッグフロッグ』が絶滅してしまうのではと心配をしてしまうくらいの大虐殺が9階層で繰り広げられた。
「まさか、魔物の心配をする日が来るとは……」
「いや~! 狩った狩った!」
「……満足」
サーシャはもちろん、俺もドルチェもレベルが上がったのだが、2人共取り憑かれたようにひたすらカエル狩りをしてたので気付いたのはボス部屋の前にたどり着いてからだった。
「ってか、ボス部屋そっちのけで狩りをしてたよな」
レベルは俺が32、ドルチェが30、サーシャが26だ。
ボーナススキルのポイントが26になったので、予め話し合っていた通りに25ポイントを使って『器用』を30%UPにした。
その事を教えるとドルチェが凄く嬉しそうだった。
きっと投擲スキルにも影響があると思われるので上げて損は無いだろう。
9階層のボスは『ファイアフロッグ』と言う真っ赤な巨大カエルだ。
「うおっ!? こいつ口から火を飛ばしやがった!」
「いや、最初に『火魔法』使ってくるって教えただろ?」
「だって! 口からだぜ? 普通驚くだろうが!」
本当は俺もかなり驚いたのだが、先にサーシャが驚いてくれたので逆にこっちはちょっと冷静になることが出来た。
サーシャがお返しとばかりにファイアボールを放つがあまり効いていないみたいだ。
それでも足止めにはなるので助かった。
「やっと活躍出来そうだな」
ジャンプして押し潰そうとしてくるのをかわして脚を斬り落とす。
動きが鈍くなった所にドルチェがすかさず両手槌を顔面に叩き込む。
『グシャッ』と嫌な音がして片目が潰れたファイアフロッグが最後の足掻きとばかりに口から火を飛ばしまくるが距離感が掴めないのかでたらめな方向に飛んでいく。
がら空きの背後に回りこんで背中に剣を突き刺すと、ビクンと震えて動きが止まった。
黒い煙となって消えると何やら小瓶が落ちている。
「『ファイアフロッグの油』か。これは食材じゃないよね?」
「確か……火傷の薬の素材」
2人共『肉』じゃなくてちょっと残念そうだ。
あんなに乱獲したのにまだ欲しいのかと呆れてしまった。
ドルチェなんてつい先程「……満足」とか言っていたばかりなのに。
ジト目の俺の視線にドルチェがさっさと黒い穴に入っていく。
「次はいよいよ10階層だ! シュンも早く行こうぜ!」
サーシャが俺の背中をバシッと叩いてドルチェの後を追う。
そう、いよいよ今日の目的地点の10階層だ。
逸る気持ちを抑えて俺も彼女達の後に続いた。
読んでくださりありがとうございました。
ステータス
『名前:神城瞬
種族:人族
レベル:32
取得スキル:片手剣レベル3・身体強化レベル3・精力強化レベル1・生活・鑑定・スキル取得速度UP』
(所持ポイント23)
『片手剣レベル3(30)・身体強化レベル3(80)・精力強化レベル1(20)』
『名前:ドルチェ
種族:ドワーフ
レベル:30
取得スキル:両手槌レベル2・身体強化レベル2・生活』
(所持ポイント23)
『両手槌レベル2(20)・身体強化レベル2(40)』
『名前:サーシャ
種族:エルフ
レベル:26
取得スキル:火魔法レベル2・魔力操作レベル2・料理レベル1・裁縫レベル1・生活』
(所持ポイント12)
『火魔法レベル2(20)・魔力操作レベル2(40)・料理レベル1(10)・裁縫レベル1(10)』
ボーナススキル
『獲得経験値UP(―):40倍』
『HP回復速度UP(40):10倍』『MP回復速度UP(20):5倍』
『HP上昇(25):20%』『MP上昇(25):20%』
『筋力上昇(25):20%』『精神上昇(25):20%』
『器用上昇(50):30%』『敏捷上昇(25):20%』
(所持ポイント1)