第59話:「……いっぱい癒してあげる」
「ちょ、そう言う事は早く言えよな!」
ドリスの探索者ギルドでPT登録を済ませ、迷宮行きの乗合馬車の中で新たに仲間になったサーシャにボーナススキルやレベルが上がった時のポイントUPの事については話すと案の定怒られた。
異世界から来た事も話したのだが、何故かこれに関しては「異世界人は人を見る目があるな!」と感心されてしまってちょっと困惑。
サーシャは結局しばらく慣れるまでは自宅から通う事になった。
その方が家族も安心すると思うので俺達も賛成だった。
それに弟妹達に腹いっぱい食べさせてあげたいので、宿代で銅貨50枚も払うのは勿体無いらしい。
「でも、シュンが家を借りられるようになったら、あたいもダーレンで一緒に住むからな!」
何だか凄く楽しそうだ。
これからの事で期待に胸いっぱいと言った感じなのだろう。
今現在どれだけ収入があるのかドルチェが計算してくれた。
装備に使えそうな素材は彼女に渡しているのだが、PT用の装備以外を売った場合のお金を足すとそれなりの稼ぎになるようだ。
お金は週末にその週に稼いだお金を3分割する事になり、サーシャも同意してくれた。
「今後は……迷宮2日……鍛冶1日が……ぼくのベスト」
この世界の一週間は6日間なので、話し合った結果最後の6日目は全員休日にする事になった。
ドルチェは自分にとっては鍛冶をするのが一番良い休日の過ごし方なので、俺達が休みの日も鍛冶をしていたいと主張しているので自由にさせてあげる事にした。
それでもドルチェの負担が大きい気がするので、少しでも彼女のストレスが溜まらないように注意しておこう。
「あたいも休日は気が向いたらダーレンに遊びに行くから、そん時は街を案内しろよな!」
エミリーにも引き合わせてあげたいのでサーシャが来たら一緒に街巡りするのも楽しいかもしれない。
ドルチェも以前買い物は好きだと言ってたはずだ。
鍛冶ばかりではなく偶にはそうした休日も必要だと思うので誘ってみよう。
エミリーとしては俺と2人きりの方が喜ぶかもしれないが、サーシャも毎週来るわけではなさそうなのでちゃんと2人だけのデートの時間も確保出来そうだ。
迷宮の探索に関してはサーシャが加わった事で戦力のUPは確実だろう。
今後の課題としては猪突猛進のサーシャをどう調教…もとい落ち着かせるかがキーポイントになってきそうだった。
テンションが下がると魔法が使えなくなる欠点もあるので、テンションを上げつつ暴走しないように締める所は締める必要がある。
ドルチェが居る時は彼女がしてくれるので安心だが、彼女が鍛冶で居ない日は俺が手綱を握らねばいけないのでちょっと不安だ。
だが、何だかやり甲斐があってちょっとワクワクしている自分がいる。
じゃじゃ馬を飼い馴らす……。
これは意外と男のロマンなのかもしれない。
しおらしくなったサーシャを妄想していると、気が付けば迷宮に到着していた。
「あははは! 我が紅蓮の炎に焼き尽くされるが良い! ファイアアロー!!」
彼女の魔法が7階層のボス『大魔樹』に炸裂する。
樹の魔物なので火が苦手なのか盛大に燃え上がり……崩れ落ちた。
探索を開始したのが午前4の鐘が鳴る頃だったので、午後の探索だけで7階層に到達した計算になる。
サーシャが加わった事で格段に速度が上がったのを実感。これにはドルチェも驚いていた。
午後からだけでこのペースなら朝から潜れば10階層突破も行けるかもしれない。
それに昨日3人一緒に探索したのが良かったのか、コンビネーションもなかなか上手くいったような気がする。
しかし、時々魔法使いなのに先頭を突っ走って行きそうになるので、その都度
ドルチェに叱られてしゅんとなるサーシャを俺が宥める、と言う図が何度か繰り返されていた。
それでも、俺と組んだ事でどんどんレベルが上がっていくのと同時にテンションも上がっていってる状態だったので、昨日一昨日に比べると扱いが段違いに楽だった。
倒した魔物の数も今までの中で最高記録だ。
レベルは俺が1つ上がってとうとう30に、ドルチェは2つ上がったので28になっている。
そして、サーシャは何と今日一日だけで8も上がりレベル16。
念願の初めてのスキル操作ができたのが嬉しかったのか、終始頬が緩みまくっていたが、火魔法がレベル2になった事によって新しく覚えた『ファイアアロー』を調子に乗って連発しまくってしまい、肝心な時にMP切れになったりしていたので、ドルチェに思いっきり呆れられていた。
それでも初めてのPTを組んでの迷宮探索なのでとても楽しそうだった。
本来ならそういう時こそ油断をしないようにと諌めるべきなのだが、彼女が珍しく見せる笑顔に俺もドルチェも「今日だけは特別」と言う事にしてなるべく小言は言わないようにしてあげた。
あくまで『なるべく』だったが……。
今日の探索は7階層までにして外に出る事に。
俺のレベルが上がったのが『大魔樹』を倒した時だったので、安全な場所に戻ってきた所でボーナススキルの何を取得するかを話し合う事にした。
29ポイントあるので『HP回復速度UP』以外は上げる事が可能だ。
ドルチェが『器用』、サーシャが『精神』をそれぞれ推しているので、俺がどちらかを選ぶ事になってしまった。
「ちょ……2人共、目が怖すぎるってば」
2人とも自分の選択を支持するようにと圧力を掛けてくる。
『器用』は俺とドルチェに有効だが『精神』はおそらく魔法を使うサーシャにしか影響がないのかと思ったのだが、話を聞くとそうでもないらしい。
生活スキルも精神を上げると水の量が多くなったりと微妙に影響があるとの事なので、今回はサーシャの意見を取り入れて『精神』を1段階上がる事にした。
これで少しはトイレが楽になれば良いのだが……。毎回ヒヤヒヤしながら用を足すのは嫌だ。
「う……、あ……ありがとな!」
まさか自分の意見が聞きいれられるとは正直思っていなかったらしく、サーシャが素直にお礼を言ってきた。
慣れてくるとじゃじゃ馬なサーシャも可愛く見えてくるが、こう言ったちょっとしおらしい彼女も新鮮で良い感じだ。
この分なら上手くやっていけそうな予感がする。
でも、褒めるとすぐ調子に乗って取り返しがつかない事をやらかしそうなので、飴とムチの使い分けには気を付けないといけないだろう。
「それじゃ、また明日な!」
手を振って意気揚々と馬車に乗り込んで行ったサーシャを見送ると、ドルチェが話し掛けてくる。
「明日…ぼくは鍛冶がしたいけど……大丈夫?」
「うん、大丈夫だよ。出来ればドルチェとサーシャ用の胸当てを先に作ってくれると助かるな」
「……分かった。今日も……『双蛇の皮』が手に入ったから……作ってみる」
ドルチェが探索に加われないのは痛手だが、それを差し引いても鍛冶師がPTに居るととても助かる。
彼女には頑張って早く鍛冶スキルを取得して欲しかったので、これからもどんどん作って貰うつもりだ。
明日サーシャと2人きりなのは正直若干の心配もあったが、この3日で多少は扱いにも慣れたので何とかなるはずだ。
最初から相性が抜群だったドルチェやエミリーの方が特殊なのだと思う事にして、焦らずゆっくりサーシャとの関係を築き上げていこう。
サーシャだけではなく野生動物みたいなシェリルとも良い関係を築く必要があるので、これくらいで怖気付いていては話にならない。
「シュンにぃ……帰ろう」
馬車に乗り込むとドルチェが肩を寄せてくる。
「お疲れ様……。帰ったら……ぼくとエミリーとで……いっぱい癒してあげる」
今夜も2人を相手に激しい夜になりそうだった。
読んでくださりありがとうございました。
ステータス
『名前:神城瞬
種族:人族
レベル:30
取得スキル:片手剣レベル3・身体強化レベル3・精力強化レベル1・生活・鑑定・スキル取得速度UP』
(所持ポイント17)
『取得スキル:片手剣レベル3(30)・身体強化レベル3(80)・精力強化レベル1(20)』
『名前:ドルチェ
種族:ドワーフ
レベル:28
取得スキル:両手槌レベル2・身体強化レベル2・生活』
(所持ポイント19)
『取得スキル:両手槌レベル2(20)・身体強化レベル2(40)』
『名前:サーシャ
種族:エルフ
レベル:16
取得スキル:火魔法レベル2・魔力操作レベル1・料理レベル1・裁縫レベル1・生活』
(所持ポイント14)
『取得スキル:火魔法レベル2(20)・魔力操作レベル1(20)・料理レベル1(10)・裁縫レベル1(10)』
ボーナススキル
『獲得経験値UP(―):40倍』
『HP回復速度UP(40):10倍』『MP回復速度UP(20):5倍』
『HP上昇(25):20%』『MP上昇(25):20%』
『筋力上昇(25):20%』『精神上昇(25):20%』
『器用上昇(25):20%』『敏捷上昇(25):20%』
(所持ポイント19)