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探索者  作者: 羽帽子
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第05話:「アタシ達に何を期待してるの?」

「さて、それじゃそろそろ本題に入ろうかのぅ」


「本題?」


「なんじゃ? おぬしはなぜ異世界にわざわざ呼ばれたのかとか気にならんのか?」


 俺がオウム返しに聞き返すと、神様が呆れた顔で逆に聞いてきた。

 確かにそれは重大な事だ。

 異世界に行ける事にテンションが上がっていて肝心な事を忘れてた。

 少し冷静になろうと小さく深呼吸をして気持ちを静めてみる。

 隣にいるアイラも心なしか真剣な表情で神様を見つめていた。


「いや、それは凄く気になるよ。もしかして『魔王が復活したから勇者になって倒してくれ!』とかそう言った話?」


 いろいろな異世界物の小説を読んだがそう言った話が多かったので、俺のパターンもそうなのだろうかと若干期待を込めて聞いてみる。

 勇者になってチートスキルなんかも貰ってモンスター相手に無双。

 それで冒険で出会う女の子達とイチャイチャ……。

 もしかしたらお姫様なんかともお近づきになれるかもしれない。

 もう気持ちはすっかり勇者気分である。

 アイラも勇者や魔王と言う単語に反応したのかそわそわしていた。

 そんな俺達を見てちょっと気の毒そうな顔の神様。


「いや、そう言った世界もあることはあるんじゃ。今回おぬし達に行ってもらう世界には魔王とかは居ないはずじゃ。まぁ、魔物は居るからそれほど間違ってはいないがのぅ」


 何故かせっかく作った三つ編み髭を器用に解きながら話している。


「それでおぬし達が行く予定の世界なんじゃが、これは口で説明するよりも実際見てもらった方が早いじゃろうなぁ」


 そう言うなり泉の方へ歩き出した。その後ろを俺達が慌てて追いかける。

 

「これから見てもらうのは、あの世界でちょっと前に実際に起こった事じゃ……」

 

 泉に着くと何やら呟きサッと杖を揮う神様。

 すると泉の水面に何やら景色が映り出した。


「あれは穴? いや、洞窟か何かの入り口なのかな?」


 目の前には真っ黒い何やら禍々しい雰囲気の穴がありその周りをぐるりとそれなりの高さの壁が覆っている。

 出入り口らしき一箇所だけ開いた壁の左右には鎧を着た兵士が立っており、その近くには馬車が何台か止まっていた。


「あれがあの世界の『迷宮』と呼ばれる物じゃよ。迷宮は攻略されるまでおよそ5年周期で活動と休眠を繰り返す。そして今が丁度あの迷宮が活動を始めて5年といったところじゃな」


 険しい表情で迷宮を見ている神様。

 俺とアイラは初めて見る神様の様子に少しビビリつつ神妙に同じように迷宮を見つめるた。

 しばらく見ていると何やら迷宮の様子がおかしくなってきた。

 最初はただ一面真っ黒だった迷宮の入り口からそれ以上に濃い闇のようなものが溢れ出してきている。


「始まったようじゃな……」


 そんな神様の呟きが聞こえたかと思うと、迷宮から一気に何かが飛び出してきた。


「うわ……なんだアレは……? 生き物……だよな?」


 目の前の光景に理解が追いつかず、呆然と呟く俺に神様が答える。


「うむ、あの世界の『魔物』と呼ばれる者達じゃな。活動を始めてから5年以内に迷宮が攻略されないと迷宮の中にいた魔物達が一気に溢れ出してくるんじゃ。そして中にいた魔物を全て吐き出すとまた5年の休眠に入る。攻略させるまではその繰り返しじゃよ」


 とんでもない事を当たり前の様に話す神様。

 なんだか神様と言う存在がちょっと怖くなってしまった……。

 アイラの様子を横目で窺うと、真っ青な顔で震えながらもしっかりと水面を見続けている。

 普通の女の子なら怖くて目を逸らすか泣き出してしまう場面だが、アイラはもしかしたらもの凄く芯が強い子なのかもしれない。

 というか、正直なところ俺の方が怖くて泣きそうだ。


「どうやら今回はそれなりに攻略の自信があったらしく、迷宮の傍にある街の領主があまり戦力を整えてなかったらしいんじゃ。まぁ、攻略していたのがあの世界では『英雄』と呼ばれる者達じゃったから心の緩みがあったとしても仕方ないと言えば仕方ないんじゃが、せめて住民の避難は徹底して欲しかったのぅ……」


 残念そうに呟く神様の声にハッとして水面に目を戻すと、辺り一面が魔物で覆われている光景が目に入ってきた。

 そんな魔物達の向かう先には一つの街が……。


 その後映し出された映像は本当に見るに耐えないものだった。

 街から飛び出してきた兵士達、冒険者風の人達もかなりの人数が混じっていたみたいだが、そんな彼らもほとんど大した抵抗も出来ずに魔物の群れに飲み込まれていった。


「本来なら迷宮の期限も判っておるし、国軍を呼ぶなりそれなりの対策を採るからあそこまで一方的にはならないんじゃが、やはり総合的な質の低下が……」


 何やらブツブツと呟いている神様。

 街を守っていた兵士達がいなくなり魔物達が街の中に押し寄せた場面で神様が杖を一振りする。


「これ以上は見なくても良いじゃろう。結果は概ねおぬし達が想像する通りじゃ」


 流石のアイラも呆然と地面にへたり込んでいた。

 もしかしなくても、あの世界に俺達はこれから行く事になるのだろうか。

 元の世界には何の未練も無い。

 でも、少なくとも俺自身に関しては『死』が日常の世界ではなかった。

 しかし、これから行く世界ではどうやらそうではないらしい。


「脅かしてしまったようで申し訳ないんじゃが、おぬし達にはあの世界の現実を知っておいて貰いたかったんじゃ」

 

 痛ましそうな神様。

 確かにわくわく気分で移住した世界が実はかなりピンチな状況だという事を、送られてから知るのと事前に知っておくのとでは対応の仕方もかなり変わってるだろう。

 これは神様なりの優しさなのかもしれない。

 とんでもない事になったとは思うが、元の世界を捨てて異世界に行くのを決心したのは自分自身の意思なので今更あーだこーだ言うのは筋違いだろう。

 若干納得が出来ない部分もあるにはあるが、気持ちを入れ替えて前向きに考えてみる事にした。

 俺がそんなことを考えていると、アイラがようやく冷静さを取り戻してきたのか真剣な顔で神様に尋ねる。


「えっと、神様はアタシ達に何を期待してるの? アタシ達に何かさせたいからわざわざ召喚したんだよね?」


 神様を見つめる横顔が何だか戦乙女ヴァルキリーみたいで凛々しかったので思わず見惚れてしまった。



読んでくださりありがとうございました。

もうアイラが主人公で良いような気がしてくる今日この頃。

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