表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
探索者  作者: 羽帽子
59/118

第58話:「よろしくお願いしますッ!」

「おい、シュン! ドルチェ! 今からあたいの家に行くぞ!」


 翌日、迷宮に行くと俺達を見つけたサーシャが駆け寄ってきていきなりとんでもない事を言い出した。

 ドルチェは「こっちの方が……面白そう」と言って今日も俺に付いて来ている。

 鍛冶は落ち着いてからちょこちょこ作るらしい。

 俺がソロで迷宮に入るのはドルチェもエミリーもかなり不安らしく、何としてもサーシャをゲットすると昨夜は俺そっちのけで盛り上がっていた。


「いや、いきなり言われても……」


「しょうがねぇだろ! 親父もお袋も会わせろ会わせろってうるせぇんだよ!」


「シュンにぃ……行こう」


 ドルチェがすっかり乗り気だ。

 俺もドルチェの時にも両親に挨拶に行ったのでサーシャの両親に会う事自体は当然だと思っているが、急な事だったのでちょっと心の準備が出来ていなかった為少々焦ってしまった。


「さっさとしろよ!」


 気の短いサーシャがもうすでに乗合馬車に乗り込んでいた。


「分かったよ。それじゃ挨拶しに行こうか」


 俺達も馬車に乗りドリスへと向かう事になった。

 初めて行く街なのでちょっとドキドキだ。

 ドルチェも行った事がないらしくわくわくしながら窓の景色を眺めている。


「オルトスの時は……疲れた。……馬車は楽」


「もしかしてそれって『会議の護衛任務』の事か? もっと早く産まれていたらあたいも参加出来たハズなのに……悔しいぜ!」


 一応将来有望な新人が選ばれる任務だったのだが、サーシャにとっては自分が選ばれるのは当然の事らしい。

 どこからその自信が湧いて出てくるのか会う度に不思議に思うのだが、俺も少しは見習うべきなのだろうか?

 ドルチェが自慢げにサーシャにオルトス国についていろいろ話してるのをぼ~っと眺めながら時々相槌を打つ。

 しきりに羨ましがっているサーシャを見てご満悦のドルチェ。

 絶対にドルチェはSだ。

 最近は夜ベッドの上でも俺やエミリーを攻めるのが多くなってる気がする。

 奉仕をするのが大好きなエミリーとSっ気のあるドルチェの2人を相手にするので毎晩クタクタになって眠るのだが、『精力強化』スキルの影響か翌朝になると元気に朝勃ちをしている自分にちょっと恐怖を感じてしまった。

 もし『精力強化』のスキルを上げていったら俺は一体どうなってしまうのか……。


 俺がそんな事で内心悩んでいるといつの間にか馬車がドリスに到着していた。

 馬車から降りてドリスの街を見渡すが、街よりも村と言った感じだ。

 外壁も俺の背丈位までしかなくのどかな景色が広がっている。

 建物もまばらだ。


「シュン、今すっげぇ田舎だと思っただろ!」


 サーシャが睨んできたので慌てて首を横に振る。

 「フン!」と鼻を鳴らすとずんずん街の中を進んで行く。

 その後ろを付いて行くと次から次へと声を掛けられる。


「よう、サーシャ! 旦那を連れて来たのか?」


「ガハハ! ちょっと前まで色気のねぇガキだったおめぇが男を連れてくるとはな!」


 どうやらサーシャの口の悪さは街の人譲りのようだ。

 サーシャが真っ赤になって街の人達を追い払っている。


「くそぅ…! さっさと家に行くぞ!」


 街の外れにある一軒家に近付くと俺達を見つけた3~10歳くらいの子供たちがワラワラと駆け寄ってきた。


「お姉ちゃんおかえり!」


 一番小さい女の子を抱き上げるとぶっきらぼうに「弟妹達だ」と紹介してくれた。当然全員エルフだ。

 剣や鎧を身に着けている俺に彼女の弟達がまとわり付いてくる。

 

「ねぇ、お兄ちゃんはお姉ちゃんのこいびと? けっこんする?」


「ちょ、バカ! そんなんじゃねぇ!」


 恥ずかしいのかちょっと離れた所から俺を見ていた8歳くらいの女の子の言葉に思わず苦笑してしまった。

 もうさっきからずっと真っ赤になったままのサーシャが否定をしているが腕の中の3歳くらいの女の子まで「けっこんするの?」と聞いていた。

  クゥちゃんといい、この世界の女の子はませてる。いや、どこの世界でも一緒か?


 剣を抜こうとしている男の子を止めながらサーシャに続いて家の中へと入っていく。

 ちなみにドワーフのドルチェは弟妹達に『同類』扱いをされてちょっと不機嫌だ。

 「シュンにぃに……大人にして貰ったのに」と物騒な事を呟いていた。


 家に入るとすぐにサーシャの両親が出迎えてくれた。どちらも温厚そうでおっとりとした雰囲気を漂わせている。

 何故この夫婦からサーシャみたいなやんちゃな子が産まれてきたのか不思議だ。

 ドルチェの時とは違ってもの凄く丁重に迎えられて逆に困惑してしまった。丁重と言うか何だか必死みたいだ。

 サーシャがバツが悪そうな顔をしている。

 両親の話では15歳の誕生日の朝を迎えると何の相談もなく探索者になって迷宮に行ってしまった。

 しかもたった1人で行ったと街の人に聞かされたので、無事に帰ってきたのを見た時は家族揃って号泣してしまったらしい。

 そして昨日、娘が心配で心配でたまらなかった所にサーシャから「PTに誘われた」と聞かされたので相手がどんな人物なのか気になって仕方なかったが、嬉しそうに話す娘の姿に何としてでも逃げられないようにしなければと決意していたのだそうだ。

 そして実際に俺達を見て「この人達なら任せられそうだ」と確信したと聞かされたのだが、大事な娘をそんな簡単に男に預けて良いのかと逆に俺の方が心配になってしまった。


「……嬉しそうに」


 そう言ってニヤニヤしているドルチェを睨み付けているが恥ずかしいのかいつもの迫力が全く無かった。

 どうやら両親はサーシャが俺のPTに入るのは歓迎みたいなのだが、肝心のサーシャの意見をまだ聞いていない事に気付いた。

 その事についてサーシャに尋ねる。


「い、言わなくても分かるだろ!」


 照れくさいのかそっぽを向いているサーシャをドルチェがたしなめる。


「こう言う事は……ちゃんと言わないと……ダメ」


「うぅ……あたいを……仲間にしろッ!」


 もうさっきから真っ赤になりすぎて倒れてしまうのではと心配してしまうサーシャだが、「それが物を頼む態度か」と父親に怒られてしまっていた。

 怒られてしゅんとなった彼女が恨めしそうに涙目になりながら俺に頭を下げた。


「うぅ……あたいを仲間に……してください…………うがーーーッ!」


 耐え切れなかったのか走り去ってしまった。

 それでも、ちゃんと最後まで言えた様なのでドルチェも満足そうだ。

 ドルチェの時はもっと大変だったのだが……。

 俺の視線に「楽しかったでしょ?」とでも言いたげな顔をしているので軽くチョップをしておいた。

 走り去っていったサーシャを追いかけようと思ったのだが、「放っておけばすぐ戻ってくる」と家族全員が達観しているので、水(お茶じゃなかった)を飲みながら戻ってくるのを待つことにした。

 両親にとってはゆっくり俺達の話を聞ける良い機会なのか、いろいろと質問をされた。

 まさか「異世界人です」と言うわけにはいかなかったが、当たり障りの無い事をあれこれと話しているうちにかなり気に入って貰えたようだ。


「口は悪いけど、根は優しい子なんです。どうかよろしくお願いします」


「こちらこそ、まだまだ未熟者ですがお嬢さんをちゃんとお預かりします」


 俺とお父さんとでペコペコ頭を下げ合っていると、サーシャがドアの隙間から覗いているのに気付いた。

 俺と視線が合うと気まずそうに入ってくる。


「サーシャ、俺達のPTにようこそ。これからよろしく!」


「サーシャの装備も……ぼくが作る。……任せて」


 「う……あぅ……」と上手く言葉が出てこないサーシャを両親が頭を撫でて励ましている。

 その周りには弟妹達も集まって「がんばれ」と声援を送っていた。

 サーシャが俺達の前に立って真剣な表情で見つめてきたので、俺とドルチェも席を立って正面からその瞳を受け止めた。


「あたいは、口も悪いし怒りっぽいし無鉄砲な所もあるけど……頑張るから! 超頑張るから! だから……よろしくお願いしますッ!」


 差し出された手をしっかりと握る。


「こちらこそ、よろしく」


 握られた手を見てにっこりと微笑むサーシャ。

 その笑顔にドキッとしてしまったのは……悔しいから内緒だ。



読んでくださりありがとうございました。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ