第52話:「浮かれてた……反省」
『名前:ドルチェ
種族:ドワーフ
レベル:25
取得スキル:両手槌レベル1・身体強化レベル2・生活』
見事に両手槌のスキルを取得していた。
俺からビッグワームのドロップアイテムである『ビッグワームの牙』を受け取ってアイテムボックスに入れる時もずっと鼻歌混じりで上機嫌だ。
5階層に進み、最初の小部屋で小休止。
ドルチェはすぐにでも探索に出て戦いたがっていたが、俺達にとっては未知の領域なのでちゃんと休憩を挟むことにした。
「シュンにぃ……スキルポイント……使いたい」
ドルチェがポイント操作をしたのは少し前に『身体強化』を上げた時だけだったので、早く操作がしたいのか瞳をキラキラさせてにじり寄ってくる。
ドルチェの所持ポイントは『23』なので今すぐにでも両手槌のスキルを2に上げる事ができる。
俺の時はまだ身体が全然スキルに慣れていなかったので少し時間を置いたが、ドルチェだったら大丈夫だろうと判断してOKを出した。
「2になった……わくわく」
楽しそうにスキル操作をしているドルチェを見て少し癒された。
でも、ここで両手槌を振り回すのはちょっと勘弁して欲しい。
ちゃんと休憩するように窘めると大人しく座りはしたが、身体が小刻みに動いているので、ちゃんと休憩になっているか疑問だった。
10分もするとドルチェが立ったり座ったりを繰り返すようになったので苦笑しながら探索を再開する。
ここから先はシルビアから情報を聞きそびれてしまったのでどんな魔物が出るか分からないので殊更慎重に進むべきだろう。
逸るドルチェを抑えながら周囲を窺いつつ進んでいくと、前方に何やらブヨブヨドロドロした生き物と呼んで良いのか分からない謎の物体が居た。
「スライム……?」
どうやらあれがファンタジーの定番モンスター『スライム』みたいだ。
『名前:スライム
種族:魔物
レベル:5
取得スキル:消化レベル1・分裂レベル1』
『消化』はきっと体内に取り込んで消化するスキルなのだろうが、問題はもう1つの『分裂』スキルだ。
「消化と分裂のスキルがあるみたいだけど、攻撃したら分裂するのかな?」
「物理攻撃で……分裂」
物理職泣かせで有名なのでドルチェも話に聞いていたようだ。
先程までのウキウキした顔から一転もの凄く嫌そうな顔をしていた。
ただ分裂すればするほど生命力は確実に弱まっていくのでちゃんと物理攻撃でも倒せるらしいのでちょっと安心した。
じわじわとにじり寄ってくるスライムを剣で突くと「ブシュッ」と中の液体がこぼれる。するとそのこぼれた液体が蠢きだした。
「これは……かなり気持ち悪いな」
魔法なら分裂させないで倒せそうだが、俺達はとにかく力押しで倒すしかない。
ドルチェが分裂したばかりのスライムの片割れの槌を叩き込む。
水風船が割れるようなかなり派手な音にビクッと身が竦んでしまった。
液体が飛び散ったがどうやら分裂はしていないみたいだ。
「無限に分裂するわけじゃないみたいだし、攻撃を続ければ普通に倒せそうだな」
覆い被さってこようとするもう片方のスライムをひらりと避けて剣で切り刻む。
どうやらこのレベルでは1回分裂するのが精一杯なのか呆気なく倒れて煙になった。
ドロップアイテムを拾って鑑定をすると『スライムゼリー』と言うアイテムらしい。
ドルチェに聞いてみると「デザート……じゅるり」と涎を垂らしていた。どうやら食材みたいだ。
基本的に素材はギルドに売らなければいけないのだが、ドルチェが何やら期待の眼差しでこちらを見上げているので街に戻ったらセリーヌさんに相談してみよう。
もしかしたらエミリーに渡しても大丈夫かもしれない。
彼女ならきっとおいしい『デザート』を作ってくれるだろう。
ボス部屋にたどり着く頃には俺のレベルも上がっていた。
殆どドルチェ無双と言った感じだった。
スキルを取得出来たのが本当に嬉しいみたいでとにかく張り切りまくっている。
ドルチェによる武器や防具のチェックが終わりボス部屋に突撃。
『名前:ポイズンスライム
種族:魔物
レベル:レベル6
取得スキル:消化レベル1・分裂レベル1』
スキルは今までのスライムと同じみたいだが、名前の通り毒を持っているのか毒々しい紫色をしていた。
「ドルチェ……毒に注意」
「……任せて」
ドルチェが飛び込んで一撃を加えるが「ボヨン」と弾かれてしまった。
打撃による攻撃はあまり効かないのかもしれない。
「それなら俺が!」
剣で斬り掛かると紫の液体が飛び散る。
そしてその液体が蠢きだす。
分裂するのは想定済みなのでここからが本番だ。
相手の攻撃パターンはこちらに覆い被さってくるだけなのでかなり予測がし易い。
これなら楽勝かと思われたその時、ドルチェの渾身の一撃がポイズンスライムに炸裂した。
「ナイス、ドルチェ! え?」
紫の体液を浴びてびしょ濡れになったドルチェを見ると、その顔が苦痛で歪んでいる。
「もしかして……毒!?」
ドルチェが必死にアイテムボックスを操作しているが、手が震えるのかせっかく取り出した『毒消し薬』の小瓶を取り落としてしまっていた。
今すぐ駆け寄るべきかそれとも先にボスを仕留めるべきか一瞬迷ったが、まずは目の前の脅威を取り除く事を優先だ。
飛び散る体液に気を付けながらも一気に片を付けるべく何度も斬り付けてようやく倒す事が出来た。
煙になって消えるのを確認しるとすぐにドルチェの元に駆け寄る。
呼吸が荒くなって涙を流しているドルチェを抱きかかえて毒消し薬を飲ませた。
苦しそうな顔をしているがちゃんと飲んでくれたようだ。
不思議な事にポイズンスライムが消滅したのにドルチェの服は濡れたままだった。
「本体は消えたのに体液は残ったままなのか……」
ドルチェをお姫様抱っこしたまま6階層の小部屋へと進む。
ボス部屋に長時間居座るのが少し怖かったので、一刻も早く安全な場所に移動したかった。
俺もドルチェを抱えていたので念の為にと毒消し薬を飲んでおいた。
「服も着替えた方が良さそうだね。ドルチェは替えは持ってる?」
まだあまり力が入らないみたいだが、顔色は大分良くなってきていた。
「うん……持ってる」
「それじゃ、先に俺が着替えちゃうからちょっと待ってね」
アイテムボックスから服を取り出し急いで着替える。
自分の着替えを終えると今度はドルチェの番だ。
ドルチェが動けないので俺が着替えさせるしか方法が無い。
一枚一枚丁寧に、だが素早く脱がせていく。
何度見ても魅力的なドルチェの裸体に興奮してしまいそうになったが、今はそんな事を考える時ではないと頭を振って邪念を追い出した。
身体も濡れているので手ぬぐいで綺麗に拭き取り、今度はドルチェが取り出した服を着せていく。
「ふぅ~、これで一安心かな?」
「ありがと……シュンにぃ」
「それにしても危なかったね」
「浮かれてた……反省」
ドルチェはしきりに反省していたが、あれは避けようが無かっただろう。
「次、気を付ければ良いから。どう叩けば自分に飛び散らないか一緒に考えようね」
落ち込んでしまったドルチェを励ますように頭を優しく撫でながら対策を話し合った。
「次は……失敗しない」
身体がちゃんと動くようになる頃にはドルチェの気持ちも大分落ち着いてきたみたいだ。
だが、無理をさせたくは無いので今日の探索はここまでにして宿屋でゆっくり休む事にした。
ちなみに毒で汚れた服は持ち帰るのは危険だと判断して燃やす事にした。
小部屋で燃やすと煙が充満しそうだったので、扉を開けて通路に出て生活スキルの『ファイア』で燃やしたのだが濡れていたのでかなり大変だった。
「俺のMP、もう空っぽだ」
相変わらずのMPの低さにちょっと泣きたくなってしまった。
後始末を終えて外へ出る。
中途半端な時間だったのであまり人気が無くすぐに馬車に乗る事が出来た。
街に到着するとまっすぐ宿屋に戻る。
「お帰りなさいませ。早かったですね」
出迎えてくれたターニアさんにお湯の用意をして貰う。
ゼイルさんとマーサさんが孤児院にミナ、ミル姉妹を見に行っていて人手が足りないので少し時間が掛かるらしい。
そう言われてみるといつもなら帰ってきた瞬間に飛び付いてくるエミリーの姿も無い。
「エミリーなら洗濯物を取り込んでいる所だと思います」
顔に出ていたのか俺の表情を読み取ったターニアさんが教えてくれた。
「それじゃ、ドルチェは部屋で休んでて。俺はちょっとギルドと服屋に行ってくるから」
「分かった……待ってる」
階段を上がっていくドルチェを見届けて宿屋を後にした。
ギルドに入るとこちらに気付いたシアさんに会釈をして『買取室』へと向かう。中途半端な時間なので、すぐにセリーヌさんに会う事が出来た。
「買取をお願いします。あとちょっとお聞きしたい事が……」
「はい、なんでしょう?」
小首を傾げているセリーヌさんに『スライムゼリー』を見せる。
「これなんですが、料理が得意な子に渡して『デザート』を作って貰ったりするのって大丈夫ですか? 基本的に素材はギルドに売らないといけないみたいですけど……」
「『スライムゼリー』ですか。私もこれで作れるゼリーは大好きです。コホン、ご自分で楽しむ為に使用するのなら問題ないです。ただ、それで商売をとなると話は別ですが」
どうやら売ったりするのはダメだが自分達で食べたりするのに使うのはOKみたいだ。
セリーヌさんも好きみたいだし、余ったらおすそ分けする事にしよう。
お礼を言ってギルドを後にする。
「あ……ポイズンスライムのドロップアイテムを拾うのを忘れてた」
苦労して倒したのにドルチェの事に夢中ですっかり忘れていた。
少し落ち込んだが、彼女が無事だったので良しとするべきだろう。
「後はクゥちゃんの店で服を買ってドルチェの所に戻るか」
失敗しても生きていれば次がある。
大切な仲間を失わずに済んだ事に感謝し、明日からまた頑張ろうと決意を新たにした。
読んでくださりありがとうございました。




