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探索者  作者: 羽帽子
52/118

第51話:「……スキル……取得した!」

「さてと、そろそろ探索に戻ろうか」


 3階層最初の小部屋で一息ついた俺達は探索を再開する事にした。

 炎角兎との戦いで興奮状態だったドルチェも水を飲んでかなり落ち着いたようだ。


「3階層って『大蜘蛛』だったっけ?」


「うん……シルビアが……言ってた」


 シルビアから馬車の中で聞いた情報によると、3階層の魔物は『大蜘蛛』がメインでボスは『大毒蜘蛛』と言う魔物らしい。

 特にボスは噛まれると毒を受けてしまう恐れがあるので要注意とのアドバイスを受けた。

 あと糸も吐いてくるが予備動作が大きいので油断さえしていなければ大丈夫との事。

 毒消し薬は一応用意してあるがそんなに沢山は持ってないので、噛み付き攻撃だけは喰らわないようにとドルチェと再確認した。


「あ、前の方に何か居る。ちょっと待ってね」


 通路の先に何やら黒っぽい塊が蠢いていたので『鑑定』で調べると案の定『大蜘蛛』だった。


『名前:大蜘蛛

 種族:魔物

 レベル:3

 取得スキル:噛み付きレベル1』


「やっぱり『大蜘蛛』だね…まだ気付かれていないみたいだから一気に倒そう」


「噛み付き……注意」


 ゆっくりと近付いて行き隙を窺う。

 『隠密』とか気配を消せるスキルでもあれば便利なのだろうが、取得が滅茶苦茶大変そうだ。

 できればバードンさんが持つ『探知』も欲しいので、気配を探りながら探索しているのだが、取得までの道はまだまだ遠そうだ。

 ギリギリまで近付いた所でダッシュで一気に距離を縮める。


「ギギッ」


 こちらに気付いた大蜘蛛が飛び掛ろうとしていたがこちらの攻撃が先にヒットする。

 脚を2本ほど斬り落とすと動きが鈍くなった。


「とうッ……!」


 ドルチェの気合を入れた一撃が大蜘蛛の胴体を捕らえた。

 壁まで吹き飛びベチャリと激突して張り付いた所に俺がすかさず止めを刺す。


「ドロップアイテムは『糸』か。裁縫用の素材かな?」


「鍛冶には……使わない」


 ちょっぴりガッカリした顔のドルチェの姿に、早く鉄等の鍛冶素材をプレゼントしてあげたかった。

 その後も3階層の探索を進めてボス部屋に到着。レベルもそれぞれ1つずつ上がった。

 ボーナススキルも戦闘スキルもポイントがまだ足りないので何も弄っていない。

 40倍の『獲得経験値UP』が付いているが2人だとそれぞれに入ってくる経験値も半分になるので、低階層ではさすがにそう簡単にレベルは上がらなくなってきた。


「ボス部屋だね。開けるよ」


「毒に……注意」


 扉を開けて中に入ると紫と黒の縞模様でいかにも毒々しい大蜘蛛が現れた。


『名前:大毒蜘蛛

 種族:魔物

 レベル:4

 取得スキル:噛み付きレベル1・捕縛レベル1』


「捕縛? これは糸を使ってくるスキルの事かな?」


 何にしろスキルが2つもある魔物と戦うのは初めてだ。


「ドルチェ、噛み付きももちろんだけど糸も注意!」


「……分かった」


 前後で挟み撃ちにするのは危険だと判断して左右から攻撃する。

 意外とすばしっこいので苦労したが、なんとか脚を1本斬り落とす事に成功。

 するといきなり大毒蜘蛛が身体を半回転してお尻をこちらに向けてくる。


「シュンにぃ……糸」


 お尻を持ち上げたかと思うと糸が噴出された。

 事前に知っていたので結構簡単に避ける事が出来たが、もし何も知らないで戦っていたらチャンスとばかりに追撃をして糸が直撃していたかもしれない。

 ソロだったらその時点でお陀仏だ。

 糸を出し切った瞬間を狙ってラッシュを掛ける。

 ドルチェの一撃が当たりよろけた所ですかさず顔面を攻撃するとのた打ち回って暴れだした。どうやら顔面が弱点だったようだ。

 暴れ回る大毒蜘蛛のまぐれ当たりに注意しながら攻撃を加えていると、ついにその動きが止まった。


「ふぅ~……、何とか毒は受けずに済んだね」


「……緊張した」


 俺もドルチェもかなり汗を掻いている。

 3階層の攻略に1時間近く掛かったので、無理はしない方が良いかもしれない。


「時間的にもそろそろお昼頃だろうし、4階層の小部屋でリンゴでも食べようか」


 俺の言葉にドルチェもホッとした顔になった。

 ドロップアイテムは『解毒液』と言う『毒消し薬』の素材だそうだ。

 4階層に進み最初の小部屋で腰を下ろし、アイテムボックスからリンゴを取り出し2個ずつ分け合った。甘酸っぱい味に頬が緩む。

 本当は外に出て太陽の下で食べたかったのだが、一度外に出るとまた1階層からのスタートになってしまうので迷宮の中での食事になってしまった。

 もし10階層毎の『転移魔法陣』がなかったらと思うとゾッとする。


「そう言えば、あまり注意して見てなかったけど、20階層の転移魔法陣が入り口にあったような?」


「うん……あった」


 どうやら俺達がオルトス国に行ってる間に誰かが20階層を突破したみたいだ。

 もしかしたらバードンさん達かもしれない。

 食事を終えて水を飲みながら休憩をしていると、何だかドルチェがそわそわしている。


「ドルチェ、どうしたの?」


 気になったので聞いてみると、珍しく赤い顔でモジモジしてしまった。


「……お、おしっこ」


 どうやら尿意を催してしまったらしい。

 バードンさんは「したくなったらする!」と豪語していたがドルチェは女の子だ。


「どうする?ここでしちゃう?」


 「う~……う~」と唸りながら葛藤しているドルチェが我慢できなくなったのか部屋の隅に移動している。

 俺が居たらやり辛いと思い部屋の外に出ようとしたのだが、もし3階層から進んできた探索者が来たら怖いので傍に居て欲しいとドルチェに止められた。


「耳……塞いで」


 か細い声でお願いしてくるドルチェにいけない性癖が目覚めてしまいそうになったが、何とか堪えて両手で自分の耳を塞ぐ。

 もちろん振り返って覗いたりなんて行為は絶対にしない。


「あ……何だか俺までしたくなってきた……」


 しばらくじっと耳を塞いで立っていると背中をぽんぽん叩かれたので振り向くと、赤い顔のドルチェが「……終わった」と教えてくれた。

 なるべくドルチェが用を足した跡を見ないようにしながら交代で今度は俺が用を足す。

 半勃ちになってしまっていたのでちょっとやり辛かったが、何とか終えて一息つき振り返ると、ドルチェがニマニマしながらこっちを見ていた。


「え、見てたの? ずるい!」


 俺が憮然とした顔で言うと「ぼくの……見たかった?」とからかわれてしまった。

 さっきまでの恥じらいを持ったドルチェは何処に行ってしまったのか。

 ドルチェの頭をコツンと叩くと「……冗談」と悪戯っぽい顔をして扉を開けて部屋から出て行ってしまった。

 俺も尿の匂いが立ち込める小部屋でこれ以上休憩するつもりはなかったので後を追いかける。


「4階層は確かシルビアの話だと『ワーム』か……」


 オルトス国の迷宮での事を思い出して苦虫を噛み潰したような顔になってしまった。


「油断しなければ……大丈夫」


「うん、さっきの大蜘蛛達と同じで噛み付きにさえ気を付ければ行けそうだね」


 ある意味3階層の大蜘蛛よりもずっと戦い易いだろう。

 少しジメジメしているので足を滑らせないように注意する方が大変かもしれない。

 順調にワームを倒しながら進んでいくと、少し先の通路を何かが横切った。


「ん? 今何か居た……?」


 ドルチェに確認してみたが彼女は気付かなかったみたいだ。

 慎重に注意しながら様子を窺うと壁に何かがいる。


「あ……トカゲ……属性トカゲか!」


 思わず興奮して叫んでしまった俺の声に驚いたトカゲがもの凄い速さで逃げ出した。


「ま、待てッ!」


 慌てて追い掛けようとする俺にドルチェの声が飛ぶ。


「シュンにぃ……ワーム!」


 トカゲが逃げて行った先に1匹のワームが居た。

 気付かずに追い掛けていたら攻撃を喰らっていたかもしれない。

 ドルチェにお礼を言って深呼吸をする。

 冷静になろうとしたがついついワームに八つ当たりをしてしまった。


「さっきのって水属性のトカゲかな? 『水魔石』って貴重?」


「水汲み……しないで済む」


 どうやら水が湧いてくる魔石みたいだ。


「お風呂にも……使える。……欲しい」


 密かにお風呂作りに燃えているドルチェの為にも次に見つけた時は何としても倒したいが、あの逃げっぷりを見ると確かに弱点属性による魔法の一撃でしか倒せないのじゃないかと不安になってしまった。

 剣でアレを倒すにはもっと素早く動けるようにならないと無理だろう。


「何だか、もの凄く動き回りたい気分だ」


「……ぼくも」


 燃えに燃えた俺達がワームをどんどん倒していく。

 気が付くとドルチェのレベルもまた1つ上がり、ボス部屋へとたどり着いていた。


「この間よりもレベルが高いから気を付けて!」


「……任せて」


 テンションが上がっている俺達の攻撃がどんどん『ビッグワ-ム』に炸裂していく。

 調子に乗って大怪我をしないように注意するのが大変なくらいだった。

 身を捩って噛み付こうとするビッグワームの攻撃をかわし胴体を切り裂いた。

 ビクンと震えながら倒れた巨体に念の為に止めの一撃を加えると黒い煙のようになって消えていった。


「ん~、レベル上がらなかったか。残念」


 レベルUPの音が聞こえなかったので結果は分かっていたのだが、ボスを倒すとついついステータスを確認する癖が付いてしまっていた。

 同じように自分のステータスを確認しているドルチェがプルプル震えている。


「どうしたの? もしかしてまたおしっこ……?」


 俺が最後まで言い終える前にドルチェが弾丸のように飛び付いてきた。


「シュンにぃ……スキル……取得した!」


 俺に抱き付いたドルチェが瞳をキラキラ輝かせて嬉しそうに待望の報告をした。



読んでくださりありがとうございました。

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