第04話:「アタシ達が最初なの?」
相手が神様だと知った時のアイラの顔はなかなかの見物だった。
でも俺と同じように驚きよりも納得の部分が大きかったのか、割とすんなり状況を受け入れているように見える。
彼女も俺と同じように今までいた元の世界から抜け出して異世界に行きたいと普段から妄想していたのだろうか?
「シュンはやっぱりジャパニーズだったんだね! アニメとオタクの国だね、ワンダフル!」
お互い自己紹介したことで落ち着いてきたのかアイラの口調がかなりくだけていた。
同じような立場の同じ世界の人間がいるのが良い影響を与えたようだ。
それにどうやらこっちのフレンドリーな性格が素なのだろう。
こんなにコミュ能力が高そうな子が元の世界を捨てる意思を持ってることに若干の違和感があったが、アイラにはアイラの事情や悩みがいろいろあるのだろうしその事には触れないように気を付けよう。
「アイラはアメリカ人なんだね。外人さんと話すの初めてだから緊張しちゃうよ」
本当はもうすっかり慣れてしまっていたが、ちょっとおどけた感じでそう言ってみる。
言葉の問題が解決したので話し易いと言うのもあるが、やはりアイラの人柄なのか普段の俺とは思えないくらい饒舌になっていた。
でも、こんなに可愛い子と話すのは流石にまだちょっと恥ずかしい。
胸を見過ぎないようにするのも一苦労だ。
「アハハッ、アタシ達これから異世界に行くのに! 外人どころか相手は異世界人だよ?」
そう言えば確かにそうだった。
ちゃんと生活に馴染めるかどうか今更ながらにちょっと心配になってくる。
ちなみにアイラは、今はもうタンクトップとホットパンツではなく俺と同じような服を着ている。
ポニーテールを結んでいたゴムもピンク色のリボンに変わっていた。
ちょっと残念な気持ちもあるけど、これはこれで似合っている。
相変わらず胸が凄いことになっている。
それに何だか先端辺りが……。
もしや、これから行く異世界にはブラジャーが存在しないとか?
内心の動揺を隠しつつ心の中でガッツポーズをする。
それはさて置き、ちょっと気になった事があったのでアイラに聞いてみる。
「アイラって元は15歳だったんだよな? いきなり2、3歳も年を取った形になっちゃったけど大丈夫なの?」
女性は特に年齢に敏感だと聞いていたので、もしかしたら内心かなりショックを受けているのでは? と思ったので思い切って尋ねてみた。
「んーと、ハッピーって気持ちの方がずっと強いかな? あのまま徐々に大きくなっていくのを楽しむのも魅力的だったけど、今はこの身体になれたことの方がずっと嬉しい!」
そう言って屈託無く笑うアイラ。
そんなアイラの言葉に微妙な顔をしている神様。
話を聞いてみると、どうやら神様は俺達の世界も作った神様だった事が判明。
神様の予想では元の世界よりも異世界への移住を強く望んでいるような人物は世界に希望を見出せないほどにそれなりに人生経験を重ねている三十代以上の年齢層だと思っていたので、まさかまだ十代のアイラが召喚されるのは予想外だったらしい。
召喚される全ての者に対して一律に『その対象が一番力をふるえる年齢にし、何か疾患などがあれば全て取り除く』といった内容で召喚されるようにしていたとの事。
ちなみに俺の元の世界での年齢は三十代後半だった。
アイラのような若者が元の世界より異世界を選んだと言う事は、神様が創った俺達がいた世界はそれだけ魅力がなかったという事にも繋がってしまい、なんとも複雑な心境なんだそうだ。
「まぁ、わしが作ったどの世界も愛着があるし愛情も注いではいるが……、なにせ数が多くてのぅ。それに基本わしらは作ってもある程度形になったら、それぞれの世界を見守るだけで直接干渉するようなことはしないようにしておるんじゃ。だからおぬし達の世界の事も愛してはいるがそのままにしておくつもりじゃ。……すまんのぅ」
俺の中ではすでに元の世界より新しい異世界の方に興味が移っていたので、「気にしないで」とだけ言っておいた。
アイラも同じ気持ちらしい。
ちなみにどんな基準で召喚対象を選んだのか質問してみる。
「そうじゃなぁ、まずは人族かそれに近いそれなりの知性がある事。これがまず最低条件じゃ。そうじゃないとあの世界に対して多大な悪影響を与える可能性があるからのぅ」
確かにいきなりドラゴンや異形なモンスターみたいなのが現れたら向こうの世界の人達もパニックになるだろう。
「次に円滑な移住や積極的な活動をしてもらえるように、元の世界よりも新しい異世界での生活を強く望んでいる者を探しておった。元の世界に未練を残しそうな既婚者や恋人がいる者、あと円満な家族がいる者は対象から外すようにしてのぅ。まぁ、そういう者達はそもそもそれほど強く異世界への移住を望んではおらんかったがな」
カハハと笑いながら髭を撫でる神様。
俺は「思いっきり対象に当てはまってるなぁ~」などとぼんやり思いながらどんどん増えていっている三つ編み髭を眺めていた。
アイラはどうなんだろう? と思って横顔を窺ってみるが、その表情からは何も読み取れなかった。
「まぁ、あとは大前提としてわしが作った世界から、といった具合かのぅ。他にも細かい基準などはあるんじゃがおぬし達に話せるのはこのくらいじゃ」
「召喚されたのってアタシ達が最初なの?」
アイラの言葉に神様が首を横に振る。
「いや、すでに三人ほどあの世界に送り込んでおるよ。まぁいずれどこかで会う機会もあるかもしれんが、できれば異世界から来たと言う事は内密にして欲しいんじゃ」
余計な混乱を招かないためにも黙っておくのが得策なのには賛成だ。
信頼出来るPTメンバーには時期を見て話した方が良いかもしれないが、むやみやたらに吹聴しないように気を付けるべきだろう。
俺はそう結論付けたので素直に頷いておく。
アイラも俺の横でうんうん首を縦に振る。その仕草がなんか可愛くて癒された。
「まぁ、最終的にあの世界に移住してもらうのは十人ほどになるかのぅ。あんまり多く送り込んで世界のバランスが崩れたら本末転倒じゃ」
「神様もいろいろ大変なんだなぁ」と、他人事のように心の中で呟いていた。
読んでくださりありがとうございました。
まだ異世界に辿り着きません。




