第48話:「凄く強い子になりそうだよね?」
「シュンとこうして2人っきりで過ごせるなんて……ドルチェに感謝だね!」
ベッドの中で抱き付いてきたアイラの手のひらが俺の背中を撫で回す。
キスをすると嬉しそうに舌を絡ませてきた。
今ドルチェの姿はこの部屋には無い。
明日になったらまた離れ離れになってしまう俺とアイラに気を使ってくれたのか、ドルチェは本来ならアイラが寝泊りするはずだった部屋に移ってくれたのだ。
「今日だけ……特別」とニヤリと笑って部屋から出て行った。
「まさかアタシとシュンがこんな関係になるなんて、初めて神様の所で会った時は夢にも思わなかったよ」
「あれからまだ2週間くらいしか経ってないんだよね。いろいろあったけど、長いんだか短いんだかよく分からない2週間だったなぁ~」
裸で抱き合いながら2週間の間に起こったいろいろな出来事を思い返す。
いつしか話題は神様の手によってとしか思えないほどいろんな人に好意を持たれるようになった事についての話になっていた。
「あれには正直凄く困っちゃったよ! もしかしたらダリア達がアタシに声を掛けてくれたのもあれのお陰かもしれないけど、でも、男の人に言い寄られたりするのはアタシは嫌かな……」
「最初は俺達がこの世界に馴染み易い様にしてくれたのかもって思ってたけど、どうやら別の意図がありそうだよね」
「ハーレムを作って子供を沢山作る……とか?」
やはりアイラもその可能性に思い至っていたみたいだ。
俺も薄々はそうなんじゃないかと思っていたが、『能力の底上げ』をする為にそこまでするのかと少し呆れてしまった。
「アタシとシュンの間に子供が産まれたら凄く強い子になりそうだよね?」
いきなり飛び出した言葉に驚いてアイラの顔をまじまじと見てしまう。
冗談っぽく言っていたが、その顔は火が出そうなくらい真っ赤だ。
「お、おやすみッ!」
俺の視線に耐え切れなかったのか、クルッと後ろを向いて寝ようとしていたが逃がすわけが無い。
後ろからぎゅっと抱きしめて『ドキドキ』と鼓動が早くなっている胸を揉みしだく。
「今すぐは無理だけど……いつか、ね?」
真っ赤になった耳に囁くとアイラがコクリと頷く。
その後俺達は深夜遅くまでお互いの身体の感触を刻み込むかのように何度も愛し合った。
翌朝、顔を洗っているとドルチェが戻ってきたので3人で朝食を取りに食堂へ行くと、眠そうな目のシルビア達が居た。
もしかして深夜遅くまでアイラとしていたので煩かったのではと思い謝ったのだが、シルビアに何故か気まずそうに目を逸らされてしまった。
代わりにメリルが俺にサムズアップしているがどういう意味なのだろう?
「昨日結構飲んでたみたいだけど大丈夫?」
「あぁ、そっちは午後4の鐘が鳴る頃にはお開きになったからな。……メイランは飲み足りないみたいだったがな」
水を一気に飲み干して溜息をついているシルビア。
テーブルに突っ伏して「やってしまった……」と呟いているが何の事なのかさっぱりだ。
買い物に誘ってみたが手を振って断られてしまった。ギリギリまで寝ていたいそうだ。
軽めの朝食を終えて部屋で一休みしていると、ダリア達が迎えに来てくれたのでチェックアウトをして露店巡りに行く事になった。
チェックアウトする時の宿屋の人のホッとした顔に何だか申し訳ない気持ちだった。きっとシーツ交換とか大変だった事だろう。
宿屋を出るとちょうど午前2の鐘が鳴り響いた。
アイラ達の集合時間も同じ時間なので、一緒に居られるのは後2時間弱だ。
右腕にドルチェ、左腕にアイラがしがみ付いた格好で露店通りへと向かう。
すれ違う男達の視線が痛かったが、何だか慣れてしまったのかあまり気にならなくなってしまった。
「シュンも日用品を買うの?」
「うん、それもあるけど、ダーレンで待っててくれてる知り合いへのお土産を買おうかな? って思ってる」
「そっかぁ、それじゃアタシも一緒に選んであげるよ!」
露店通りをアイラにぐいぐい引っ張られながら見て回る。
「知り合いってやっぱり女の子だよね? ちょっと妬いちゃうけど、でもシュンの大切な人だろうし……一生懸命選ぶねッ!」
エミリーもクゥちゃんもリボンを着けて居た事を思い出し、お土産は木彫りの髪飾りにした。
エミリーには犬の形をしたのを選び、クゥちゃんには翼の形の髪飾りを選ぶ。
アイラに「クゥちゃんってどんな子?」と聞かれた時に俺が一言「天使」と答えたので、天使をイメージした髪飾りになった。
アイラもここに来た記念にと髪飾りを買おうとしていたので、俺がプレゼントすることにした。
炎が揺らめいている感じのなかなか格好良い髪飾りがあったので、それを買ってあげるとニコリと微笑んでさっそく髪に着けてくれた。
「凄く似合ってるよ」
「えへへ、ありがとッ! 宝物にするね!」
嬉しそうにはにかんでいるのを見て贈った俺も満足だ。
ドルチェにも何か買ってあげようとしたのだが「ぼくは……ずっと一緒に居るから……いらない」と断られた。
そう言った時のドルチェの顔はどこか誇らしそうだった。
歯ブラシ等の日用品も購入し、する事が無くなったので少し早めに門の外に出る事にした。
そこではすでにかなりの数のドゥーハン、リメイア両国の兵士やギルド員達が旅の準備をしていたので、邪魔にならないように外壁に寄り掛かってその光景をぼーっと眺める。
「もうすぐお別れだね……」
ぎゅっと俺の腕にしがみ付く力を強めてアイラが呟く。
おそらく後30分もすれば出発の合図が出るだろう。
「すぐは無理だろうけど、余裕が出来たらいつでもダーレンに遊びにおいで」
「うん、シュンも一度くらいはマーメリアに来てよね? 綺麗な街だよ」
再会の約束をするがやはり不安を隠しきれないのか、アイラの瞳に涙が光っている。
周りの視線が無いのを確認して軽くキスをすると、やっと少しだけ笑ってくれた。
「ごめんね、ちゃんと笑っていないと! お互いの居場所も分かってるんだから、またこうやって会えるよね!」
自分に言い聞かせるように明るく振舞うアイラ。
「アイラ、ギルド長達が出て来た。そろそろ行くぞ」
ダリアの言葉にもう一度キスをしてアイラが離れる。
ドルチェやシルビア達とも別れの挨拶をして、自分達が護衛する馬車へと去っていった。
「……行っちゃった」
ドルチェも寂しそうだ。
頭をひと撫ですると先程のアイラのようにぎゅっと抱き付いてくる。
「セリーヌ達が来たようだ。ワタシ達も行こう」
シルビアに頷きセリーヌさん達の元へと向かう。
俺達は自由行動だったがセリーヌさん達はずっと仕事だったので、少し疲れている感じだった。
「お疲れ様です。会議で何か良い案でも出ましたか?」
「シュンさん達もお疲れ様です。そうですね、いろいろな案が出ましたが、まだ技術的な問題もあるので、今ここでお話出来る様な内容では無いのです。ですが、少しでも探索者の皆さんのお力になれるようギルドとしても頑張るつもりです」
魔物討伐報酬の件がどうなったか気になったが、いずれ正式にギルドから何らかの発表があるだろう。
それまでは今まで通り、いや今まで以上に迷宮探索を頑張らねば。孤児のシェリルを仲間にしたり家を借りたり、やるべき事が一杯だ。
周囲がざわつき始めると街の門から兵士を引き連れたボルダス王が出てきた。
隣には銀色の髪の女性と赤褐色の髪の男性が一緒に歩いている。
一歩歩く毎にその銀色の長い髪が日の光に当たってキラキラ輝いていた。
「あの方がリメイアのカーラ女王陛下です。そのお隣がアルヴィン国王陛下です」
セリーヌさんが丁寧に教えてくれた。
アルヴィン国王はいかにも凄腕の探索者といった感じの体格の良い大男だった。
どうやら国王自らここまで見送りに来たようだ。
ガッチリと握手をしてボルダス王、カーラ女王がそれぞれの馬車に乗り込む。
それを見届けて周りの領主達やギルド長達も馬車に乗り込んでいった。
「やっと……帰れる」
「また5日間の旅が始まるのか。俺も早くエミリー達に会いたいな」
ひとつ伸びをして動き始めた馬車を追いかける。
こちらを見ていたアイラに大きく手を振ると向こうも振り返してくれた。
ソルはチラッと一度こちらを見ただけだった。
「それじゃ、ダーレンに帰ろう!」
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