第47話:「一度くらいなら触らせてやっても良いぞ?」
「わらわの威光に恐れをなしてファーガンから逃げ出した小童共が……またお仕置きをされたいのかえ?」
いきなり現れた頭に木の枝のような角の生えた妖艶な美女が小馬鹿にしたような目でバイロンを見ている。
それにしても凄い存在感のある女性だ。恐る恐る『鑑定』をしてみた。
『名前:メイラン
種族:龍人
レベル:31
取得スキル:水魔法レベル4・風魔法レベル2・魔力操作レベル2・生活・鑑定・スキル取得速度UP』
角があるからもしかしたらって思っていたが、やはり龍だったのか。それに2系統の魔法を使えるとか規格外だ。
同じように『鑑定』をしたのか、アイラの目も驚きで大きく見開いている。
ドルチェも只者ではない気配を感じ取ったのか少し震えていた。
先程まで威勢の良かったバイロンの顔も真っ青だ。
「また」と言う事は以前もこの龍人にお仕置きでもされたのだろうか?
「メイラン様の御指示を頂けるのでしたら、この場で始末致しますが?」
影のようにメイランの後ろに従っていた犬耳の獣人が物騒な事を言い出す。
それを聞いてバイロンが背中の剣を抜こうとするが、メイランのひと睨みで身体が固まってしまったのか最後まで剣を抜けずにいた。
「ふん……このような小物どうでも……うむ?」
言葉を止めたメイランが急に迷宮の入り口を振り返る。
釣られるように視線を向けると、そこには迷宮から出てきたばかりのソルがこちらに歩いてきていた。
「アイラにシュンか。どうしたんだい? 随分面白そうなのも居るみたいだけど」
ただ歩いているだけなのに背中がゾクゾクしてくる。
迷宮で戦っていたからだろうか、冷気が周囲に漏れ出していた。
「ヒィッ!?」
突然コンラッドが悲鳴を上げて地面に崩れ落ちた。その恐怖に彩られた顔の頬の辺りが少し凍っている。
「キミ……なに勝手に僕のステータスを覗いてるの? 殺すよ?」
ソルなら本当に殺しかねない。
恐怖でブルブル震えているコンラッドの姿にすぐに興味を無くしたのか、ソルが今度は視線をメイランに向ける。
自分の主人を守る忠犬のように犬耳の獣人が間に割って入ろうとしたが、メイランに「おやめ、ロア」と制止されて後ろに下がる。
どうやらお互いの力を推し量ってるみたいだ。
「お、お前ら! このオレを忘れ……」
空気の読めないバイロンをメイランがキッと睨みつける。
「まだおったのか。もう貴様などに興味はないわ。……去ねッ!」
「ぐっ……ちくしょう……!」
悔しそうに唇を噛み俺達を睨みつけるバイロン。
その負けん気だけは評価出来るかもしれない。
「シュン……これは?」
不意に背後から掛けられた声に振り向くと怪訝そうなシルビア達が立っていた。
「コレ」と親指でバイロン達を指差すとシルビアの眉間に皺が寄る。
「あぁ、やはりシュン達にも絡んできたのか。どうする、潰すか?」
ソルといいシルビアといい、何故こうも過激なのか。
シルビア達の登場で更に状況が不利になったバイロンの顔が歪んでいく。コンラッドに至っては恐怖で失神寸前といった感じだ。
「もうおぬしらに話す事は何もない。わらわの気が変わらぬうちに目の前から消え去るがよいわッ!」
メイランの恫喝にビクンと震えたバイロン達が後ずさる。
「くそぅ……覚えてやがれ!」
典型的な小物の捨てゼリフを言うと、コンラッドを引き連れて馬車へと乗り込んでいった。
土煙を上げて去っていく馬車を見て皆呆れ顔だ。
気を取り直した俺達は改めてお互いに自己紹介をする事になった。
「おぬし達は『職人の国』や『魔法の国』の探索者じゃな? わらわと同じ立場の者も何人かいるようじゃ。わらわの名は『メイラン』誇り高き龍人族じゃ!」
偉そうにふんぞり返っているメイラン。
ただでさえアイラの巨乳よりも迫力がある爆乳がさらに強調されている。
女性陣が冷めた目を向けているがどこ吹く風だ。
俺が思わずその胸に視線を向けると、メイランのすぐ後ろに控えていた獣人のロアにもの凄い目付きで睨まれた。
そんな俺をメイランが「フフフ」と満足気に見ている。
それぞれ自己紹介を終えると、メイランが胸を揺らしながら俺に近付いてきた。
「確かシュンと言ったかえ? わらわのこの身体に興味があるようじゃな。もし、いつかおぬしがわらわより強くなったのなら、一度くらいなら触らせてやっても良いぞ?」
明らかにからかってる口調だがその色気は半端じゃない。
ほんの少しだが顔がにやけてしまったのに気付いたのか、ドルチェとアイラが左右からしがみ付いてきた。
「シュンにぃには……ぼくが居る。……ダメ」
「う……アタシだって居るもん! とくかくシュンはダメーッ!」
少しでも引き離そうとズルズル俺を引きずっていく2人。シルビアがそんな俺達を見て溜息をついている。
ちなみにソルはもう興味が無くなったのかさっさと馬車に乗って帰っていってしまった。
「ところで、さっきのヤツ等は最初に戦士の国を選ばなかったワタシ達を『軟弱者』と呼んでいたが……オマエも同じ意見か?」
シルビアの目付きが鋭くなっている。
返答次第によってはもう一悶着起こってしまいそうだ。
ピリッとした空気が流れる。
「フフフ、そう睨むでないダークエルフの娘よ。わらわはあの小童共の様に狭量ではないわ。場所など些末な事じゃ」
「うむ、この国に居る『同類』の総意では無い事が確認出来ればそれで良い。すまなかったな」
「ウフフフ……『同類』ときたか。おぬし達はそうなのかもしれぬが、少なくともこの国の者達には『同類』と言う意識はないじゃろうな」
どうやらこの国の同類達は友好的な交流はあまりないようだ。
「あの小童共は、わらわがこの地に舞い降りた時にいきなり『下僕になれ!』等とほざいたものでな。少々お仕置きをしてやったのじゃが……」
メイランの話によると、彼女にお仕置きをされたバイロン達は他の街に逃げて行ったのだが、どうやら今回の会議に参加するギルド長の護衛で王都に戻っていたようだ。
「そこでたまたま出会った俺達に絡んできたのか……。コンラッドってのはバイロンに弱味でも握られてるのかな?」
「気が弱そうだったし、良い様に利用されてるんだろうね。アタシもダリア達に会えなかったら不安でどうなってたか分からないよ」
ブルッと震えるアイラを背後からヘルガが抱きしめる。
そのままヘルガの巨体にすっぽり収まったアイラの頭をダリアとシーナが優しく撫でていた。
ドルチェが羨ましそうな顔をしていたので、くしゃっと頭を撫でてあげた。
「では、そろそろワタシ達も街に帰ろう。メイラン達も、もし良かったら一緒に夕食を取らないか? ワタシが奢ろう」
「フフフ……わらわの胃は底無しじゃから奢らなくても結構じゃ。……じゃが代わりに酒には最後まで付き合って貰うぞ?」
上機嫌のメイランとそれに忠実に従うロアが馬車に乗り込む。
俺達も行きと同じメンバーに別れて馬車に乗り街へと戻った。
街に戻りギルドでアイテムを売って外に出ようとするとセリーヌさんが声を掛けてきた。
「お疲れ様です、皆さん。明日はダーレンに戻りますが、準備の方は大丈夫ですか?」
「えっと、午前3の鐘が鳴るまでに門の外でしたっけ?」
「はい。ですので、それまでに露店等で必需品の購入をする事をお勧めします」
「分かりました。エミリーやクゥちゃん達のお土産も忘れずに買わないと……」
セリーヌさんと別れて宿屋に戻る。ダリア達も一緒に食事を取るとの事なので大人数だ。
アイラは今夜もこの宿屋に泊まるらしい。
それを告げるアイラの目がギラリと輝いていたのは気のせいだろうか?
『精力強化』を取得したとは言え、身体が持つかちょっと心配だ。
読んでくださりありがとうございました。




