第41話:「今日はアイラの相手をして」
「皆様のお陰で連れて行く子供達が決まりました。ご協力ありがとうございます」
セリーヌさんがそう言って俺達に頭を下げる。
リストを見せて貰ったが、どうやらシェリルにミナ、ミル姉妹もちゃんと入れてくれたようなので、マーサさんに良い報告が出来そうで一安心だ。
そして、シェリルを仲間にする為にも頑張ってお金を稼がないと。
セリーヌさん達はこの後も孤児院の人達といろいろと打ち合わせがあるそうなので今日はここでお別れだ。
「私とヘルガは今日はこのままセリーヌ達に付き合うつもりだ。それと、シーナはおそらく今夜はここに泊まる事になるだろうな」
「アイラは、シュンと一緒にいる?」
ダリアとヘルガは久しぶりに会ったセリーヌさんやシアさんと積もる話がいっぱいあるのだろう。
「仕事が終わったら飲みに行こう」と誘っていた。シアさんがもの凄い乗り気だった。
回復魔法が使えるシーナさんは、怪我をしている子供達を放ってはおけないみたいなのでここに留まるらしい。
アイラはと言うと、ヘルガの問いかけに俺の顔をチラチラ見ていた。
「う、うん、シュンと一緒にいるよ」
それを聞いたダリアがアイラの耳元で何か呟くと、アイラの顔がボッと火が出そうなくらい真っ赤になった。
「シュン、アイラを頼むぞ」
ニヤニヤ顔のダリアが俺の肩を叩く。
それに対して何故かドルチェが「……任せて」と返事をしていた。
「ワタシ達はまだ時間もあるから迷宮に行こうと思う。じっとして居られないからな」
シェリルの話を聞いて何か思う所があったのか、シルビアが燃えている。いつも落ち着いている彼女にしては珍しい。
彼女達がPTメンバー候補を見つけにここに居るのを思い出したので良さそうな子が見つかったか聞いてみると何とも曖昧な顔をしていた。
「ワタシ達としてはシェリルを仲間にしたかったのだが、彼女はどうやらシュンの事が気になって仕方が無いようなので諦めるしかないな。とりあえず何人かの候補は見つかったが、今のところは保留と言った感じだ」
やはりシルビアもシェリルに目を付けていたようだ。
戦闘スキルがあるのも魅力だが、俺は彼女の魔物や迷宮にに対する深い憎しみの宿った瞳がどうしても忘れられそうになかった。
今も俺の事をじっと見つめている。
今は憎しみが生きる原動力でも良いが、でも、いつか彼女が心から笑顔になれるように、少しでも力になりたい。
その為にも少しでも多く迷宮に行ってお金を稼がないといけないのだが、今日はアイラも一緒だ。
どうしようか悩んでいると、ドルチェが俺の服を引っ張ってきた。何か言いたそうなので顔を寄せる。
「焦る気持ちも……分かる。でも……今日はアイラの相手をして」
ドルチェの言葉にアイラの様子を窺うと目が合った。
普段なら明るく微笑んでくれるのだが、今のアイラは何か悩みでもあるのか思い詰めているように見える。
アイラとシェリル2人の視線に先程から落ち着かない。
俺にとってアイラは大切な『同類』……いや、『仲間』だ。
彼女に悩みがあるなら当然力になってあげたい。
「それじゃ、少し早いけど一度宿屋に戻ろうか。一息入れたらその後何をするか考えよう」
「うん……アタシもそれで良いよ」
返事はしてくれるがやはり元気が無い。心配だ。
そんなアイラをドルチェがじっと見つめている。
ドルチェに心当たりが無いか聞いてみたら「……鈍感」とバッサリ。
いや、俺だって何となくは気付いてるが、でも、もし俺の勘違いだったら……めちゃくちゃ恥ずかしい!
神様の所に居た時からアイラが俺を気に掛けてくれている事は知っていたが、それが『恋』なのかは全然自信が持てない。
俺とアイラは神様の所でほんの1、2時間一緒に居ただけで、その後は2週間近くも離れ離れだったのだ。
それがこうやって再会したばかりで彼女に惚れられていると思えるほど、モテた人生は送っていなかった。
勘違いで大恥をかいた記憶しかない。
だが、エミリーやドルチェの例もある。まずは、いろいろと話を聞くところから始めないと。
連れてきてくれたセリーヌさん達にお礼を言って建物を出ると、広場に居た子供達が寄ってきて、またもや質問攻めに合ってしまった。
アイラの事もあり今は長居する事はできないので、「用事があるから」と子供達に謝って孤児院を後にした。
真っ直ぐ宿屋に戻ろうと思ったが、ドルチェの「お腹……空いた」の一言で朝食を取ってない事を思い出す。
アイラには悪かったが途中のオープンカフェみたいな所で軽食を取る事にした。彼女も何か飲めば少しは気持ちが落ち着くかもしれない。
「ダーレンにはこういった喫茶店みたいのってないんだよなぁ~。アイラの方にはある?」
「え? あ……うん、王都にだったら何件かあるよ」
まだちょっと心ここにあらずな感じだったが、さっきよりはましになってきたようだ。
美味しそうにオレンジみたいな色のジュースを飲んでいる。
「羨ましいな。あ、羨ましいって言えば、リメイアには風呂屋があるんだよね? 俺、てっきりそういうのって職人の国の方が普及してると思ってた」
「うん、それだけでも魔法の国を選んで良かったと思ってるよ!」
心の底から羨ましがってる俺を見て、やっとアイラが少し笑ってくれた。
「家を借りたら……ぼくが作る」
身体を拭く度に口癖のように俺が「風呂に入りたい」と言っているので、職人魂を刺激されたドルチェは最近風呂の作り方を勉強中だ。
アイラに風呂の仕組みについてあれこれ質問していたので、俺も横でサンドイッチを摘みながら耳を傾けていた。
「アタシもそんなに詳しくは無いけど、リメイアのお風呂は『炎魔石』と『水魔石』を使って大量のお湯を作ってるみたいだよ」
「やっぱり……鍵は『魔石』」
ドルチェがふんふん頷いている。
「『魔石』ってダーレンの迷宮でも取れるよね? 何で作らないんだろ?」
「ん~……多分『魔石』を落とすトカゲを倒すには魔法が有効だからじゃないかな? 弱点属性の魔法を使って一撃で倒さないとすぐ逃げられちゃうみたいだから」
俺の疑問にアイラが答えてくれた。
確かに迷宮で遭遇した『火トカゲ』の逃げっぷりはそれはもう見事だった。魔法を使わずにあれを倒すのは至難の業だろう。
それこそ『敏捷』を上げまくらないと無理かもしれない。
でも、ボーナススキルがある俺達なら上手くやれば倒すチャンスは十分ありそうだ。
「そう言えば、この国の『同類』にまだ会ってないけど、俺の所に2人、アイラの所に3人って事はここには5人はいる計算になるよね?」
「うん、でもこの国には活動期の迷宮が4つもあるみたいだから、皆それぞれの街に分散してるんじゃないかな?」
「俺たちみたいに新人研修として来てる人もいるだろうし、ひょっこり会いそうではあるよね」
最初に送られる国に『戦士の国』を選ぶくらいだから迷宮の探索も積極的にしていることだろう。
いろいろと為になる情報を聞いてみたいが、これだけ沢山の人の中から見つけ出すのは大変そうだ。
アイラとこうして再会できたのもかなりの偶然だった事だし、会えたらラッキーくらいに考えておいた方が良いかもしれない。
食事が終わりアイラも大分落ち着いてきたみたいなので、続きは宿屋で話すことにした。
人目がある所では話せない事もいっぱいあるだろう。
「宿屋に戻ろう」と告げた時のアイラの反応を見ると、正直連れて行っても良いのか迷ってしまった。耳まで真っ赤にして瞳がなんだか潤んでいるような……?
道を歩いていても、今までとは違い俺の服をちょこんと遠慮がちに掴んでいる。
そんなアイラを見ているうちにあることに気付いた。彼女が浮かべる表情に見覚えがある。
そう、それは……ダーレンで何度も見た、エミリーが浮かべる表情にそっくりだった。
読んでくださりありがとうございました。