第39話:「むしろホッとする……?」
「ねぇ、シュン……それにドルチェも、何だか歩き方変だよ?」
俺達の宿屋にわざわざ迎えに来てくれたアイラが、階段を辛そうに降りてくる俺に声を掛けてきた。
すでに下に降りていたシルビア達がそんな俺とドルチェをジト目で見ている。ドルチェはそっぽを向いて知らん顔だ。
でも、ちょっと頬が赤く染まっている。
結局、昨夜は深夜遅くにドルチェが限界を迎えるまで愛し合った。と言うか、徹底的に搾り取られた。
もう昨夜だけで何度精を放ったか覚えていない。
朝起きたらドルチェの声がかすれていたのには驚いた。
お互いに全身筋肉痛だったので、朝食も取らずに時間ギリギリまでベッドに横になっていた。
HP回復スキルが役に立たなかったのは誤算だった。だが、筋肉痛とかには効かないと分かっただけでもよしとしておこう。
ドルチェが「ヒリヒリする」と歩き辛そうに俺にしがみ付いているが、俺の方も脚がガクガクで生まれたばかりの小鹿状態だ。
「お、お待たせ! ちょっと旅の疲れが出ただけだから気にしないで!」
必死に言い訳をしてみるが、アイラ以外にはバレバレみたいだ。
間違いなく声を聞かれていたであろうシルビア達は言うに及ばず、ダリアさん達の目がなんか冷たい。
「だ、大丈夫!? シュン達も長旅だったんだよね? 辛かったら部屋で休む? アタシが看病してあげるよ!」
「あ、いや……大丈夫だから。早くギルドに行こう!」
俺の空いてる方の腕にしがみ付いて心配そうな顔のアイラに良心が痛む。
そして、彼女の柔らかい巨乳に腕がめり込む感触にドキドキ。やはりこの世界にブラは存在していないようだ。
昨日あれだけ搾り取られたのに下半身の一部が元気になりそうだったので、慌てて頭の中から邪念を追い払う。
そんな俺をドルチェが呆れた顔で見上げていた。
ちなみに今回ソルは一緒ではなかった。アイラが誘ってはみたが「興味が無い」と言って迷宮に行ってしまったそうだ。
ギルドに到着すると、すでにセリーヌさんとシアさんが待っていてくれた。
挨拶をしてアイラ達を紹介しようとしたら、ダリアがいきなりセリーヌさんに抱き付いた。
「セリーヌ! 久しぶりだな! それに、シア!」
「ダリアさんにヘルガさんまで……。あの、どうしてここに?」
セリーヌさんが抱き付いてきたダリアと微笑んでいるヘルガを驚いた顔で見ている。驚いた顔なんてかなりのレアだ。
「わたし達はアイラの付き添い。PTを組んでるの」
まだちょっと混乱気味のセリーヌさんにヘルガが優しく説明している。
「アイラさんと言うのはこちらの金髪の方ですかー? もしかして『火魔法』を使います?」
何故かアイラの胸を凝視しているシアさんが聞いてきた。
いきなりの質問にアイラが少し戸惑っている。
「う、うん! アタシがアイラです! 火魔法は確かに使いますけど……?」
「やはり、貴方が『炎姫』だったのですね。お噂は昨日リメイアの王都マーメリアのギルド長から聞かせて頂きました」
ようやくいつもの落ち着きを取り戻したセリーヌさんの言葉にアイラが真っ赤になる。
「あ、あれは……ギルド長やカーラ様が勝手に……! アタシはそんな大した人間じゃ! もう……もうーーーッ!」
暴れだしそうになってしまったアイラをシーナさんが宥める。
なおも真っ赤になってジタバタしているアイラが可哀想だったので、話題を逸らす意味も含めてセリーヌさんに話し掛けた。
「セリーヌさんはダリアとヘルガのお知り合いだったんですね。ギルドの関係で、ですか?」
「それもありますが、お2人は……」
セリーヌさんは何かを確認するようにちらりとダリアを見ると、ダリアさんとヘルガさんが頷いている。それを確認して言葉を続けた。
「お2人は、バードンさんのPTに居たのです。その……『孤児奴隷』として」
「孤児奴隷になったばかりの頃は屈辱だと思っていたが、今では御主人様と巡り会えた事に感謝している」
「わたしも、今でもバードン様を『御主人様』としてお慕いしているわ」
2人が元孤児奴隷だった事にも驚きだが、まさかその主人がバードンさんだったとは。
「ほう、バードン殿の。ターニアが言っていたのはこの事だったのか」
シルビアの発言にダリアがもの凄い勢いで詰め寄る。
「し、シルビア! 君は御主人様を知っているのか!? あの方は今どこに?」
「いや、詳しい事はシュンに聞くと良い。彼はバードン殿のお気に入りだからな」
チラッとこちらを見てそんな事を言うシルビア。それを聞いたダリアが今度は俺に詰め寄ってきた。
「あ~……、バードンさんは今は鍛冶の国の王都ダーレンに居ますよ。ボルダス王に呼ばれて専属探索者ってのになってますから」
「そうなのか。……流石御主人様だ。我々も一層の精進が必要だな! やるぞ、ヘルガ!」
バードンさんの名前を聞いて熱く盛り上がっているダリアさんをにこにこ笑顔で見守るヘルガ。
それにしても、ダリアはもっとクールなイメージだったが、意外と熱い性格だったようだ。
「では、そろそろ孤児院へ向かいましょう。積もる話は歩きながらしましょうか」
そう言って歩き出すセリーヌさんにゾロゾロと全員で付いて行く。
気が付けば人数が11人に膨れ上がっていた。
途中、アイラからいろいろと話を聞く。
神様に送られて魔法の国にたどり着き無事に探索者ギルドに登録したまでは良かったが、出会う人全員……特に男性が異様なまでに優しくしてくれて中にはアイラを巡って言い争いまで起こってしまったそうだ。
やはりアイラもだったか。しかも俺なんか比べものにならないくらい大変だったみたいだ。
「なんか下心丸出しの人達ばっかりで、凄く怖くて……。そんな時にダリア達がアタシを守ってくれたんだよ!」
今思い出しても相当怖かったのだろう。少し震えていたので頭を撫でると、ハッとした顔をして頬を染めて俯いてしまった。
「どうしてだろう……シュンだと全然嫌じゃない。むしろホッとする……?」
そんな俺達を感慨深げに見ているダリア達。
ドルチェが何か言いたげに見上げていたので、同じように頭をナデナデ。
「あの時は本当に異常な状況だったからな。アイラが男性恐怖症になってしまったのではと心配をしていたのだが、どうやら大丈夫そうだな」
ダリアの言葉にさらに真っ赤になるアイラ。
「アイラの気持ちは良く分かる。ワタシは男が苦手なんだが、何故かシュンだけは平気だ」
シルビアがうんうん頷いている。
その後もいろいろと情報交換をした。
トイレでの失敗談を話すとアイラが凄い勢いで同意してくれた。やっぱりあれには彼女も困ったそうだ。
シルビアも「予めシュンの話を聞いてなかったら危なかっただろうな」としみじみ呟いていた。
それ以外にもお風呂が無い事を嘆いたらアイラに思いっきり自慢された。
「着きました。ここがオルトス中の孤児が集まっている孤児院です」
どうやら話してるうちに孤児院に到着したみたいだ。
最初に感じた印象は「ここって学校?」だった。
広場をいろんな種族の小さな子供達が走り回り、その横では少し大きくなった子供達が木剣で素振りやチャンバラをしている。
ここからでは良く見えないが、奥にある校舎みたいな建物ではどうやら勉強している子供もいるみたいだ。
「なんか俺の知ってる孤児院と違うな。まるで学校みたいだ」
「うん、どう見てもそうだよね」
唖然とした俺の呟きにアイラが同意してくれた。
「懐かしいな。我々も2年だけだったがここで世話になった」
ダリアとヘルガが懐かしそうに孤児院を眺めている。
セリーヌさんの先導で建物に向かって広場を歩いていると、周りに子供達が集まってきた。
特に木剣で遊んでいた年長の子供達は目をキラキラさせて俺達を見ている。
「ねぇねぇ! 探索者だよね?」
「迷宮ってどんな感じですか? 魔物は怖くないですか?」
「あたしを買ってください! 役に立ちます!」
中には自分を売り込んでくる子まで居た。特にアイラやシルビア達女性陣は凄い人気だ。
「女の子の孤児奴隷にとって女性探索者は最高の主人候補なんですよ。身体を狙われる危険もぐんと減りますからねー」
モテモテのアイラ達を羨ましそうに見ていた俺にシアさんが説明してくれた。
さらにセリーヌさんが俺の傍に来て小声で話す。
「でも、今ここに居る子供達は以前からオルトス国で養われている孤児達ですので、今回連れて行く事は出来ません。早く建物に入った方が良いでしょう」
確かに情が移ってしまったらちょっと面倒な事になってしまうかもしれない。
セリーヌさんの言う通りにアイラ達に声を掛けて建物へと急ぐ。
「なんだか、コールの気持ちが少し分かっちゃったよ」
先程まで周りに居た子供達の方を振り返りながらアイラが寂しそうに呟く。
「コール?」と聞き返すと、口を押さえて気まずそうにしていたが、リメイアであった出来事を俺達に話してくれた。
「アタシ達の『同類』でコールって男の人が居たんだけどね、その人はこっちに来てすぐに『孤児奴隷』が欲しいって言って、リメイアの孤児院に行ったんだけど、そこで1人の女の子に一目惚れしちゃったみたいでね……」
その時の事を思い出して言葉が詰まったアイラをダリアが慰める。
ダリアにお礼を言い1つ頷くと先を続けた。
「それでね、その子はもうすぐ15歳で『孤児奴隷』として金貨4枚で売りに出される事が決まっていたみたいだったの。でも、そんな大金はこっちに来たばかりだから当然持ってなくて……。どうしても諦めきれなかったコールは、寝る間も惜しんで迷宮に篭ってて……結局生きて戻って来れなかったんだ」
「探索者になったばかりで、しかもソロだったからな。アイラと顔見知りみたいだったので我々も止めたのだが……。本気で惚れていたのもあるだろうが、今思うとアイラ達が持つボーナススキルの力を過信しすぎていたのかもしれないな」
ダリアの指摘はもっともだが、俺もエミリーやドルチェを手に入れるのに大金が必要だと聞かされたら同じ事をしてしまいそうだ。
真剣に話を聞いていたシルビアも「ワタシ達も気を付けるべきだろうな」とメリル達と話していた。
彼女達も少しでも早く孤児奴隷をPTに入れようとしているので、コールの話は他人事ではなかったのだろう。
俺も「気を付けよう!」と心に誓う。
だが、そんな俺の決意を試すかのように、カロの街の孤児が居る場所へ連れて行かれた俺は……そこで1人の少女と出会った。
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