第37話:「ちゃんと全部話すよ!」
「あ、ああああアイラさん! そ、その男はなんなんですか!?」
俺とアイラが再会を喜び合っていると、イケメン風の男が金切り声を上げてきた。
そこでようやくアイラの連れの存在やドルチェと一緒だった事を思い出した。
ちなみにドルチェはさっきから冷たい目だ。
ブツブツと不穏な事を呟いているので背後からぎゅっと抱きしめて頭をナデナデ。
ヒステリックに喚いている男の事は俺もアイラも完全にスルー。
「ごめんね? 不意打ちで顔馴染みに会ったからつい嬉しくって」
耳元に顔を近付けて囁くと「しょうがないなぁ」と言った顔でコクリと頷くドルチェ。そんな俺達をアイラが驚いた顔で見ている。
「う、うわぁ~……シュンが女の子に! まだこっちに来て2週間も経ってないのに……」
今度はアイラがブツブツと何やら呟いている。気のせいか目が怖い。
「あの時、首に縄をつけてでも……」とか聞こえたような?
「アイラ、紹介するよ。俺のPTメンバーのドルチェ、鍛冶師だよ」
「……よろしく」
アイラは俺の腕の中で上目遣いで見上げてくるドルチェを複雑な表情で見つめていたが、すぐに以前の明るい笑顔に戻って挨拶をしてくれた。
「初めましてッ! アタシの名前はアイラだよ! 『ドルチェ』って呼んでも良いかな? アタシの事は『アイラ』って呼んでね!」
相変わらずフレンドリーな娘さんだ。
アイラの勢いにドルチェがちょっと気圧されているが「……分かった」と答えている。
俺達が和気藹々と話していると先程のイケメンが割り込んできた。
「アイラさん! さっきからなんなんですか、この男は! アイラさんを抱きしめるなんて!」
「君こそ何のつもりなのかな? アイラが誰と仲良くしようが、君には何の関係も無いと思うんだが?」
いつの間にかアイラの傍にはバードンさんと同じくらいの大きさの獣人のお姉さんと、短めの漆黒の髪で目付きの鋭い小柄な人族の美少女、それに女性神官といった感じの栗色でストレートのロングヘアーの優しそうなエルフ美女が立っていた。
「で、ですが! ダリアさん」
「ここへの道中ずっと我慢していたのだがね……。流石にこの国に着いてからもそうやってしつこくされると、我々としても迷惑なのだよ」
目付きの鋭い少女……ダリアさんがイケメンを睨みつける。
まるで熟練の暗殺者のような視線に周りの空気が固まってしまったかのようだ。
「ほらほら、ダリアもそんな怖い顔しないの! でも、彼女の言う通りこの街では自由行動のはずなんだから、アタシ達の事は放っておいて欲しいな!」
アイラが割って入るが、どうやら彼女も腹に据えかねていたらしく口調が厳しくなっていた。
悔しそうに顔を歪めているイケメンを無視してアイラが俺に話し掛けてくる。
「ねぇ、シュンの近況とかいろいろ聞きたいから、どこか落ち着ける所に行こうよ!」
「落ち着ける所って言われても、俺も今日ここに着いたばかりだから分からないよ」
「でしたら、貴方様のお泊りの宿屋にお邪魔してもよろしいですか?」
女性神官風の美女がそんな提案をしてくる。
「うん! それが良いよ! ナイスだよ、シーナ!」
「さっそく行こう!」とアイラに腕を掴まれて引きずられていく。
もう片方の腕にはドルチェがしっかりとしがみ付いていた。
イケメンとその連れ達とはここでお別れのようだが、1人ドルチェと同じくらいの背丈で透き通るような白い肌、銀色の瞳に白に限りなく近い銀髪の少年が俺達の後に付いてきていた。
「アイラ、ソルは連れて行く?」
最後尾に居た獣人のお姉さんが先頭で俺を引っ張っているアイラに声を掛ける。
思わず振り返ってお姉さんの事をジロジロ見てしまった。
あれの耳は犬? いや、違う……もしかして熊だろうか?
俺の視線に気付くとにっこりと微笑んでくれた。外見に見合わず温厚そうなお姉さんだ。
「あ、ソルの事すっかり忘れてたよ! ありがとう、ヘルガ!」
ヘルガさんって言うのか。暗殺者みたいな美少女がダリアさんで、神官みたいな美女がシーナさん。アイラの仲間っぽいし忘れないようにしっかり覚えておこう。
「ところでシュン、シュンが泊まってる宿屋ってどこ?」
「こっち……付いて来て」
場所の確認すらせずにここまで引っ張ってきたアイラから、今度はドルチェが主導権を握って先導する。
相変わらずどちらも俺の腕にしがみ付いたままだ。
「アイラのあんな姿は初めて見るな」
「そうですね、ダリア。でも、とても楽しそうです」
後ろの2人の会話が聞こえたのでアイラの顔を見ると、恥ずかしいのか真っ赤になっていたが確かにどこか楽しそうだ。
「アイラ、僕が一緒に行くのは構わないよね? まぁ、ダメと言われても付いていくんだけどね。面白そうだし」
「う、うん。むしろソルは付いてきてくれなきゃ困るよ!」
謎の少年ソルの言葉にアイラが少し焦った感じで返事をする。苦手なのだろうか?
アイラが「同類だから」と俺の耳元に囁いてきたので、驚いてソルを見る。
どう見ても10歳前後の少年にしか見えない…。
探索者になれたって事は少なくとも15歳以上なのだろうが、神様によって最適な身体になっているはずなのに子供にしか見えない。
気になったので『鑑定』をしようとすると、凍るような目で睨まれたので慌てて前を向く。
あのまま『鑑定』を使ってしまっていたら、もしかしたら俺の命はその場で消えていたかもしれない。
心まで凍りつかせるようなソルの目に俺はそう直感した。何だか今も背中がゾクゾクする…。
背後からの凍えるような威圧感に内心ビクビクしながら歩いていると、やっと宿屋に到着した。
アイラ達を部屋に入れて良いか確認したら「午後3の鐘が鳴るまでなら構わない」との事。
ついさっき午後2の鐘が鳴ったばかりなので2時間は話が出来そうだ。
アイラ達を部屋に通すと隣の部屋を借りているシルビアに声を掛けた。シルビアが出てくるとアイラとソルだけを廊下に呼び出す。
ドルチェが何か言いたそうにこちらを見ていたが、今はちょっとだけ我慢して貰おう。
「シルビア、急にごめん。アイラにソル……同類2人に会えたから、これから近況報告を兼ねた情報の交換をするつもりなんだけど、シルビアも参加するよね?」
「ほう、アイラか……ククク……それは楽しそうだな。もちろん参加するよ」
シルビアには以前、俺の口からこぼれた「アイラ」という名前を聞かれてしまった。
俺とアイラの顔を見比べてニヤリと楽しそうに笑っている。
「ありがとう。それでちょっと相談なんだけど、シルビアもアイラも今のPTメンバーとこれからもずっと一緒にやっていくつもりなら、今まとめて俺たちの事を説明しようと思うんだけど……どうかな?」
俺の提案に真剣に考え込むシルビアとアイラ。
ソルはここに来るまでに誰ともPTを組んでいない事を確認している。
恐る恐るソルの事も『同類』として説明して良いか訪ねると「好きにしろ」と許可を貰えた。
「アタシはみんなを信頼してるから、この機会にちゃんと全部話すよ!」
「ワタシもだ。ずっと隠し続けるのは彼女達にも失礼だろうからな」
2人からもOKを貰ったので、ホッと胸を撫で下ろす。もちろん俺もドルチェに正直に話す覚悟は出来ている。
シルビアが呼んできたメリルとサラ達と一緒に俺の部屋に入ると、俺達の真剣な表情に何かを感じ取ったのか、部屋に居た全員が少し緊張している。
ベルガさんはニコニコしていたが。
「待たせてごめん。皆はシルビアやアイラとPTを組んでいるから薄々勘付いていたとは思うんだけど、これから俺達の事について全部話そうと思う。この話は出来ればここだけの話にして内緒にして欲しいんだけど……良いかな?」
全員を見回しているとドルチェと目が合った。
ドルチェの瞳がキラキラ輝いている。ずっと聞きたいのを我慢してくれていたみたいなので嬉しいのだろう。
他の人達も「やっとか」と言った表情だ。
全員が「絶対に内緒にする」と約束してくれたので、俺とシルビアとアイラの3人で自分達の身に起こった出来事を、神様との会話の部分は少しぼかしたが、正直に告白した。
ソルは最後まで我関せずと言った態度だった。
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