第35話:「帰ってきたら……ずっと一緒」
「おはよう、シュン。昨晩もお楽しみだったみたいだな」
「ん、おはよう。約束通り一回だったでしょ?」
「ククク……言うようになったじゃないか」
エミリーやドルチェと一緒に朝食を取っているとシルビアが話し掛けてきた。
最近シルビア達も俺達と同じく早い時間に食事をするようになっていた。
「周りに沢山男がいると落ち着かない」と言うのが最大の理由らしい。
「今日の集合時間って午前2の鐘が鳴る頃だっけ?」
「うむ、場所は門を出て西側だと言っていたな」
お互い食事をしながら確認をする。
今日から護衛任務だ、遅刻しないように気をつけないと。
「うぅ~、皆さんが居なくなると……寂しいです~」
昨夜ドルチェと2人がかりでたっぷり愛してもやっぱりまだ寂しいらしい。
「たった2週間とちょっと……帰ってきたら……ずっと一緒」
背伸びをしたドルチェに頭を撫でて貰い、涙を拭いて「えへへ~」とようやく笑顔を見せてくれたエミリー。
彼女の為にも頑張って宿屋に向いてそうな子を見つけて来ないと。
好みの子を見つけて来いとは言われているが、接客に向いてなさそうな子を選ぶわけにはいかないだろう。
ドルチェの事はもちろん大好きだが、彼女みたいなタイプが接客に向いてるとは到底思えない。
「それじゃ、人も増えてきたしそろそろ部屋に戻ろうか」
「……忘れものがないか……ちぇっく」
席を立つ俺にエミリーが抱きついてくる。
「気をつけて行って来てください。あたし、ちゃんと待ってますから~!」
「うん、行って来るね。エミリーも身体に気を付けて」
シルビア達や他の客の目もあったが気にせず抱きしめ返した。
門を出ると街の外にはかなりの数の人だかりが出来ていた。
「結構多いな。他の街の領主やギルド長達も一緒なんだっけ?」
「はい、途中で泊まる予定のビスタス以外の街の方々と一緒です」
背後からセリーヌさんの声。
驚いて振り返るとセリーヌさんやシアさん、それにギルド長のレイアスさんが立っていた。
後ろには男性職員がもう2人。
どうやらダーレン支部からはこの5人で行くらしい。
職人の国ドゥーハンには王都ダーレンの他に、ドリス、ビスタス、ズールの3つの街がある。
国王やドリス、ズールの領主を護衛する兵士が50人、それぞれの街のギルド職員達が5人ずつ、
そして新人探索者が12人。
ビスタスの街でさらに増えるので、それなりの数の団体旅行だ。
新人探索者の数が少ない気がしたのでセリーヌさんに聞いてみると「有望な新人となるとこれでも多い方です」との事。
「シュンさん達にはこちらの馬車を護衛して貰います」
セリーヌさんの後に付いて馬車へと向かう。
馬車……馬はとても貴重なので数に限りがあるらしく、乗って行けるのはごく一部の人達だけだ。
俺達が護衛する馬車にはダーレン支部のギルド職員達が乗り込む。
当然俺達は徒歩での旅だ。
食料などの荷物は水牛みたいな動物が引いている荷車に積め込まれていた。
「道中は『はぐれ魔物』がたまに出る程度ですが、一応任務ですので気を抜かないようにお願いします」
「はい、セリーヌさん。しっかり守りますので安心してください」
兵士が50人しか居ないので少し心配だったが、それほど危険な旅ではないみたいだ。
セリーヌさんによると迷宮から溢れ出た魔物はその殆どがその場で討伐されるので、運良く逃げられた魔物が住処にしている森に近付きさえしなければ安全に旅が出来るとの事。
ボルダス王がやって来て馬車に乗り込む。どうやらそろそろ出発らしい。
「そろそろだな」
肩を叩かれたので振り向くと、いつの間にかシルビア達も来ていた。
ドリス、ズールのギルド職員が乗っている馬車の周りにも探索者風の人達が数人居る。
「近付いて『鑑定』してみたが『同類』は居なかった」
耳元でシルビアが囁く。
「会える可能性があるのはオルトス国に行ってからかな?」
「あぁ。だが、特に共闘しろとは言われていないから無理に捜す必要もないだろう」
「だね。でも、会えたら情報交換とかはしておきたいな」
俺とシルビアがコソコソと会話をしていると、ドルチェが不審そうに俺達を見ていた。
説明した方が良いのか迷ったのでシルビアに聞いてみる。
「シルビアってスキルの事とかメリルやサラにはちゃんと話した?」
「そうだな、もちろん詳しくは話していないが……。あの2人はワタシの事を信頼してくれてるらしいから、今の所は何の問題も無いな」
どうやらメリルもサラも相当シルビアにぞっこんみたいだ。
俺もドルチェにはそれなりに信頼されてるとは思うが、正直どこまで話して良いのか迷う。
シルビアが離れるとすぐにドルチェが傍に来た。何か言いたいのをぐっと堪えてる感じだ。
どう声を掛ければ良いのか分からなかったので、黙って頭を撫でる。
「シュンにぃは……凄いけど……謎だらけ」
頬を膨らませて拗ねてしまったみたいだ。
「いつかちゃんと話すよ」
「……待ってる」
不安そうな瞳をしっかり見つめて「必ず」と告げると少しだけ表情が和らいだ。
俺自身に関しては機会を見てある程度話すつもりだが、『同類』の存在はなるべく隠しておいた方が良いかもしれない。
「今日はここで野営をします」
セリーヌさんの言葉に俺達が頷く。
まずは西の国境近くにあるビスタスに向かうが、2日かかるので今夜は野宿をするらしい。
「国王や領主も居るのに野宿なのか?」
「はい、実は新人探索者や兵士達に野営訓練をさせるために、わざとこうした日程になっていますー」
シルビアの問いにシアさんが答える。
ボルダス王も元探索者なので野宿でもあまり問題が無いとの事。
「むしろ、はしゃいでいらっしゃいますね」
セリーヌさんが苦笑している。
国王にもいろいろとストレスがあるのだろう。
正直言うと、俺も初めての野営にかなりテンションが上がっている。
「まずはテントの設営、それから食事の用意。夜間は交互に見張りをして頂く事になります」
思ったよりもハードそうだが、本当だったら食材の確保から始めなければいけなかったはずだ。
それに比べたらかなり恵まれている。
見張りも周りに兵士達が居るので危険はそうそうないだろう。
「シルビアはテントの設営ってやった事ある?」
「もちろんあるぞ? シュンは無いのか?」
ドルチェも当然と言った顔。どうやら未経験者は俺だけみたいだ。
皆の手ほどきを受けながら俺も設営に参加する。
男1人女4人……しかも全員かなりの美少女だ。
周りの男達はそんな俺達を羨ましそうに、または怨嗟を込めた目で見ていた。
テントの設営が終わり、次は食事の準備だ。
これは女性陣もあまり得意ではないとの事。
テントは立てられるが料理は苦手。何だか間違ってる気がしたが、指摘したら後が怖そうだったので黙っておいた。
それに、そのどちらも苦手な俺が言う資格は全然ないだろう。
「分からなかったら教わる」と言う事で、食事の準備をしている兵士達に混ざって教えて貰う事にした。
当然の事ながら女性陣がモテモテだ。
男が苦手なシルビアも頑張っているので、俺もドルチェと一緒に皮むきをした。
『器用』を上げた効果なのか分からないが、結構上手く剥けた気がする。
周囲はもうすっかり暗くなっていた。
食事を終えて食器を洗う。国王や領主以外は全員、自分の使った分は自分で『ウォーター』を使って洗うのが決まりだそうだ。
「強化してもギリギリ……俺のMP低すぎっ!」
ドワーフのドルチェですら余裕で洗っていた。
やはり小さい頃から生活スキルを使い続けているこの世界の住人の方がずっとMPが高いみたいだ。
魔法メインのアイラもきっと苦労している事だろう。
金髪巨乳美少女の姿を思い出していると、ドルチェが俺を呼んでいた。
心を読まれたりしてないか心配になってしまう。
「な、何?」
「……見張り。ぼく達が……最初」
「そうなんだ、それじゃテントに戻ろうか」
「シュンにぃ……えっちな事……考えてた?」
心は読まれていなかったが、変な誤解はされていたみたいだ。
ドルチェの中の俺のイメージはどうなってるんだろうか? エッチなのは否定しないけど。
男性用と女性用に分かれた俺達のテントの前に座って見張りをする。
シルビア達が焚き火を用意してくれたいたのでかなり明るい。毛布も俺とドルチェの分が置いてあった。
今日は全然役に立っていない気がする。
エミリーを抱きしめて癒されたい。
初日なのにもうホームシック(?)になってしまった。
ぼーっと焚き火を眺めていると、ドルチェが寄りかかってきた。
眠いのかと思ったが目はしっかり開いている。
「シュンにぃ……さっきえっちな事考えてたか……聞いたでしょ?」
「うん」
「本当は……ぼくが……考えてた」
そう言うと、ドルチェが俺の股間に手を伸ばしてくる。
毛布で隠れているとはいえ周りには見張りの兵士達が居る。
「ドルチェ、ダメだよ」
「大丈夫……結構離れてる」
確かに他の見張りとの距離はあるが……。
どうやって止めようか考えていると、ドルチェが胡坐をかいた俺の上に乗ってきた。身体が小さいので腕の中にすっぽり。
「毛布で隠したから……ばっちり」
悪戯っぽく笑うドルチェの姿に説得は諦めた。
「護衛任務の最中なんだから一回だけだよ?」
こっそりと周りに気付かれないように、生まれて初めての野外プレイを体験。
『ウォーター』と『ウィンド』で事後処理をする。
生活スキルは偉大だと改めて実感した一日だった。
読んでくださりありがとうございました。