第28話:「予備の武器はちゃんと持ってるか?」
小部屋の扉を開けて探索を開始する。
もう1階層のマップは殆ど覚えてしまったので効率を考えたら一気に2階層を攻略するべきなのだろうが、一気にいろいろとスキルを弄ってしまった事でかなり身体に違和感がある。
慣れるまでは1階層で戦う事にした。
「っと、さっそく1匹発見! ……突撃ッ!」
昨日と同じように距離を詰めようとダッシュをしたら、殆ど一瞬で目の前に飛び出てしまい慌てて剣を突き立てたのだが…。
こちらに気付いたゴブリンが棍棒を振り上げた時にはもう戦闘が終わっていた。
「怖ッ……、レベル3怖ッ!」
その後も4回ゴブリンと戦ったが、全て一撃で片が付いてしまい拍子抜け。
レベルも1つ上がったので、そのまま1階層のボス『ハイゴブリン』に戦いを挑んだ。
『獲得経験値UP(―):40倍』を付けていても1レベル上げるのに費やす時間が増えて来たので先に進むべきだろう。
正直1階層の魔物では自分の実力が良く分らない。
「止めっと!」
「ギギャッ!?」
ハイゴブリンですら瞬殺だった。
瘴気がの中から現れた瞬間に「先手必勝」とばかりに三連撃を叩き込んだら、あっさり沈んでしまった。
木の棒を拾いながら「なんだかなぁ~」と溜息。
レベルも上がらなかった。
「もうちょっと苦戦をして、追い詰められてそこから這い上がって強くなる! とかそう言うのを期待してたんだけどなぁ。俺の今のレベルでの適正階層はもしかしたら10階層以上なのかも?」
ここはもう苦戦する魔物が出てくるまで一気に攻略を進めて自分の適正階層を見極めるしかないだろう。
石橋を叩きまくってる間に魔物が溢れ出してきて街が襲われたら目も当てられない。
2階層最初の小部屋で水を一杯飲んで小休止。
今日はここまで誰にも出会っていない。みんなもっと深い階層に潜っているのだろうか。
扉を開けて探索を進める。
「ん? 少し暑い……?」
1階層に比べて2階層はなんだか少し暑い気がした。
だが少し汗が滲む程度なのに気にせず進む。
少し進むと通路の脇から一角兎が飛び出してきた。
警戒していたので盾で弾いて打ち落とす。起き上がる前に止めの一撃。
「あ、『鑑定』しておけばよかったかな? でもスキルも無さそうだし、しなくても良いか」
『一角兎の毛皮』は銅貨5枚で売れるので、10匹倒せばそれだけで宿代になる。
なかなか美味しい魔物だ。
レベルも1上がった。
ハイゴブリンを倒しても上がらなかったので、ギリギリくらいまで貯まっていたのだろう。
ボーナススキルのポイントが14になったので10ポイント使ってMPを上げた。
『MP上昇(25):20%』
これで喉が渇いたら多少は気兼ねなく水が飲める。
戦闘には直接関係ないが長時間探索するには必須だ。
「探知スキルがあったら今も攻撃される前に気付けたんだろうなぁ。何としても覚えたいな……」
目、耳、鼻、肌に感じる空気の流れ…全ての情報を取り入れて周囲に魔物が居ないか感じ取ろうと思ったがさっぱり分らなかった。
地面に耳を押し当てて足音が聞こえないか試してみたがそれも失敗。
でも、諦めずに全ての感覚を駆使して、周りに細心の注意を払いながら探索を続ける。
「ん? あれは何だ?」
注意深く進んでいると、チラッと火のような物が視線をよぎった。
用心しながら近付くと何やらトカゲのような生き物が居た。
尻尾が何故か燃えている。
「魔物……だよな?『鑑定』っと」
『名前:火トカゲ
種族:魔物
レベル:2
取得スキル:火魔法レベル1』
スキルを見て驚く。
どうやらこの魔物は魔法を使ってくるみたいだ。
もう少し近付いてみようと思い身体を動かした瞬間、こちらに気付いた火トカゲがもの凄い速さで逃げ出した。
それはもう見事としか言いようが無い逃げっぷりだった。
「……お前は、はぐれメタルか……」
呆然としながら呟く。
シルビアは火トカゲの事は何も言ってなかったので、もしかしたらレア魔物なのかもしれない。
今度バードンさん辺りにでも聞いてみよう。
気を取り直して探索続行。
順調に一角兎、たまにゴブリンを倒していく。
レベルも2上がりドロップアイテムも順調に増えていった。
ボス部屋を見つけたら突撃するつもりなので、貯まったポイントを使って筋力を強化する。
『筋力上昇(25):20%』
手に持った剣や盾がさらに軽く感じる。
この分なら鉄の鎧とかを装備してもスムーズに動けそうだ。
通路でゴブリンを倒して進んでいくと、奥に扉が見えてきた。
ボス部屋だ。
「確か角が燃えてる一角兎みたいなやつなんだっけ? シルビアは言ってなかったけど、魔法を使ってくる可能性もあるから要注意だな」
扉を開けて中へと入る。
1階層のボス部屋とあまり変わりはなかった。少し暑いだけだ。
「っと、お出ましか」
黒い瘴気が集まってきたかと思うと、一匹の一角兎が現れた。
でも、その角はユラユラと炎を纏っている。
ハイゴブリンの時のように一気に攻める事はせずに、落ち着いて『鑑定』と念じる。
『名前:炎角兎
種族:魔物
レベル:2
取得スキル:頭突きレベル1・跳躍レベル1』
どうやら魔法は使ってこないようなので一安心。
だが、あの角が突き刺さったら間違いなく致命傷だ。
「動きが素早かったって言ってたよな。……それに跳躍のスキルが気になる」
角で狙われないようにフェイントを混ぜながら距離を詰める。
炎角兎も左右に飛び跳ねてこちらの様子を窺っている……かと思ったらいきなり飛び掛ってきた。
「うをッ!?」
一角兎のように脚に力を溜めていた様子も無かった。
もしかしたらこれが『跳躍』のスキルだろうか?
だが、油断さえしなければ捉えられない動きではない。
少なくともさっきの火トカゲに比べたら天と地ほどの差だ。
「一角兎は角が弱点だったけど、こいつもそうなのかな? でも、ヘタに角を攻撃して剣が折れたりしたら大ピンチだしなぁ……」
やはり痛い出費にはなるが命には代えられないので、予備の剣を買っておくべきだったかと今更ながらに後悔する。
「とりあえずは一角兎のように……飛び掛ってきたら盾で打ち落として追撃だな」
予備動作があまりないのでタイミングを計るのが難しいが、身体を慣らすには良い相手かもしれない。
限界を確かめるようにどんどんスピードを上げていく。
炎角兎も必死に飛び跳ねているが、飛び掛るタイミングが掴めないのか攻撃してきてくれない。
仕方が無いので少しスピードを抑える。
すると、ようやく飛び掛ってくれたので盾で打ち落とそうとしたがタイミングがズレてしまった。
「痛ッ! ……腕をかすったか」
角がかすめた所が焼けるように痛い。と言うか、絶対に火傷している。
軽く息を吐き再度チャンスを待つ。
スピードでかく乱して一気に攻めればおそらく楽勝なのだろうが、それは何か悔しかったので何としても盾で打ち落とす覚悟だ。盾スキル早く欲しい。
集中するためにあえて立ち止まって盾を構える。
飛び跳ねながらこちらの隙を窺っていた炎角兎が飛びかかってくる。
「ここだッ!」
気合を込めた盾の一撃が炎角兎の身体に直撃。
「ピギュッ!?」
吹っ飛んでいく炎角兎を最大限のスピードで追いかけ、空中でそのまま切り刻む。
地面に落ちる時にはすでに炎角兎は事切れていた。
想像以上の剣レベル3での動きにしばし呆然。
「なんかもう……人間の動きじゃないような……」
冷や汗が頬を伝うが、気を取り直してドロップアイテムの角を『鑑定』してみる。
『一角兎の角』
「……なんで炎角兎を倒したのに一角兎の角なんだ? あれか? もう燃えてないからか?」
レアドロップだったら『炎角兎の角』とかになるのだろうか?
そもそもレアドロップがあるのかも疑わしい。
なんだか気が抜けてしまったので、3階層への真っ黒い穴を潜って小部屋に出ると、そのまま引き返して迷宮の外へと出た。
レベルが上がったのがせめてもの慰めだ。
「お腹も空いてきたし、昼食にするか~」
昨日と同じように壁に寄りかかって、アイテムボックスからリンゴを取り出し齧り付いた。
「よう、美味そうなもん食ってるじゃねぇか!」
「ん? あ、バードンさんこんちには!」
バードンさん達は昼食を取る習慣がないのか何も食べていなかった。
それとももう食べたのだろうか?
「あ、そうだ。バードンさんに聞こうと思ってたんだった。2階層で尻尾が燃えてるトカゲに会ったんですけど、あれってレアなんですか?」
「なに!? お前『火トカゲ』を見つけたのか!? 倒したのか?」
なんか予想以上の食い付きだ。男に顔を寄せられても嬉しくない。
「逃げられました」と首を横に振る。
「だろうなぁ。オレ様だって属性トカゲは2匹しか倒したこと無いからな。まぁ、見つけただけでも大したもんだぜ!」
俺の背中をバシバシ叩きながら豪快に笑っている。
やはりかなりのレア魔物だったみたいだ。
「属性トカゲってやつは倒すと何を落とすんですか?」
俺の質問になぜかニヤリと意地悪そうな顔のバードンさん。
「あいつらはそれぞれの属性の『魔石』を落とすぞ。かなりの高値で買い取ってくれるからな。せいぜい頑張って倒すんだな! いつの事になるか分らねぇがな!」
どう見ても挑発されている。
こめかみを引きつらせながら「頑張りますよ」とだけ言っておいた。
「あ、レアで思い出しましたけど、炎角兎とかの魔物にもレアドロップとかってありますか? ドロップアイテムが『一角兎の角』だったのがなんか納得いかなくて……」
バードンさんが苦笑しながら首を横に振る。
「残念だけど、そんな話は聞いた事無いな。諦めるんだな」
やっぱりそこまで甘くは無かったようだ。
「おっと、お前さんに確認しておかなきゃいけねぇ事があったんだった! シュン、予備の武器はちゃんと持ってるか?」
「予備ですか? いえ、この剣だけですけど……」
俺の答えを聞いたバードンさんが天を仰ぐ。
「あー、やっぱりそうだったか! すまんな大事な事を言い忘れていた。いいか? 予備の武器は絶対に用意しておけ! ソロのお前だったらなおさらだ。今からでも街に戻って銅の剣でも短剣でも良いから買って来い!」
顔を寄せて真剣な顔で言ってくるので、思わず「はい」と頷いていた。
「絶対だぞ!」と念を押して迷宮の中へ入っていった。
残された俺はしばらく唖然としてしまったが、もしかしたらそれが原因で誰かが亡くなった事でもあったのだろうか。
真剣なバードンさんの顔を思い出し、今すぐ武具屋に向かうことにした。
「出費が痛すぎるけど、……命には代えられないよな」
乗合馬車に乗り込み街へと戻る。
門番のガルスさんに「早いお帰りだな」とからかわれたので、予備の武器の事を話したら「絶対に必要だ」と言われたので、この世界で戦うには必須だったみたいだ。
所持金を確認して武具屋を目指す。
いろいろとに日用品を買い足したりしていたので、銀貨が29枚になっていた。
「鉄の剣が確か銀貨20枚だったよなぁ……。流石にそれを買うわけにはいかないから、銅の剣にしておくか」
溜息を吐きながら歩いていると、エミリーとマーサさんと鉢合わせした。
「あれ? え? シュンさん? うわぁ! シュンさんです~!」
俺を見つけたエミリーが飛びついてきた。すれ違う通行人達の視線が気になる。
困った顔をしていたらマーサさんが助け舟を出してくれた。
「はしたないですよ、エミリー? そういった事は二人っきりの時にするのが効果的です」
何かが間違っているような気がしたが、顔を赤く染めたエミリーが離れてくれたので黙っておいた。
二人っきりだったら大歓迎だったし。
「でも、どうしてここに? 迷宮に行ってたんじゃなかったんですか~?」
エミリーの疑問にバードンさんとのやり取りを伝えると、凄い形相で怒られた。
「もう! 何かあってからじゃ遅かったんですよ? あたしがどんな気持ちで迷宮に行っているシュンさんを待っているのか……」
最後は涙声になってしまった彼女に「ごめん」と謝って頭を下げる。
「そんなに心配ならあなたも武具屋に付いていったら? 目の前でちゃんと武器を買ったのを確認したら少しは安心でしょう?」
マーサさんの提案に期待の眼差しで俺を見上げるエミリー。
「ついでにお買い物よろしくね?」とちゃっかり付け足す事も忘れなかった。
「それじゃ、一緒に行こうか?」
「はい! 何だかデートみたいですね~!」
俺の腕にしがみ付いてはしゃいでいるエミリーを見て微笑んでいるマーサさん。
「それでは、娘をお願いしますね。午後2の鐘までに戻ってくれば大丈夫ですから。……ゆっくりしてらしてね?」
そう言ってマーサさんは悪戯っぽくウインクした。
読んでくださりありがとうございました。
ステータス
『名前:神城瞬
種族:人族
レベル:20
取得スキル:片手剣レベル3・身体強化レベル2・生活・鑑定・スキル取得速度UP』
(所持ポイント27)
ボーナススキル
『獲得経験値UP(―):40倍』
『HP回復速度UP(20):5倍』『MP回復速度UP(20):5倍』
『HP上昇(25):20%』『MP上昇(25):20%』
『筋力上昇(25):20%』『精神上昇(10):10%』
『器用上昇(10):10%』『敏捷上昇(25):20%』
(所持ポイント9)




