第26話:「綺麗にしてください……」
「ただいま~」
スイングドアを開けカウンターにいるターニアさんに声を掛けたつもりが、そこにはターニアさんではなく仁王立ちのエミリーの姿が。
「シュンさん、おっそーーーーいッ!」
ちょっと……いや、かなりお怒りのご様子。
でも、俺の顔を見て安心したのかすぐに抱きついてきた。
「すっごく心配したんですよ? シルビアさんからシュンさんが国王様達に連れて行かれたって聞いた時は、心臓が止まるかと思いました~!」
何か正確に伝わっていない気がするが、シルビアも状況が良く分っていなかったのだろう。
「ちょっと新人の意見が聞きたかっただけみたいだから、何も心配する事なんてないよ」
頭を撫でながらそう話すとやっと落ち着いてきたみたいだ。
俺を見上げながら「えへへ~」と微笑んでいる。
エミリーに食事を頼んで、装備やリュックを置きに部屋へと戻った。
部屋の中が真っ暗だったのでドアは開けておく。
装備を外してアイテムボックスに入れる。
レベルが上がったので空きスペースが増えて助かった。
明日からはリュックは持っていかなくても済むかもしれない。
「ただいま……」
リュックからコップを取り出し、エミリーのコップの隣に置くと、キスするように軽く合わせる。
「何を……しているのだ?」
「フヒャッ!?」
いきなり背後から声を掛けられ、変な声が出てしまった。
恐る恐る振り返るとシルビアが不思議そうな顔をしていた。
「な、なんでもないですぞよ?」
口調がおかしくなってしまったが強引に誤魔化す。
「そ、そうか……。ギルドでオマエが連れて行かれたから心配していたんだ。大丈夫だったか?」
「あぁ、大丈夫だったよ。ちょっと意見を聞かれただけだから」
笑って答えると、ホッとした顔で「そうか」と納得してくれた。
いろいろ情報が聞きたいと言われたので、一緒に食堂に行く事に。
食堂はゼイルさん達が食事をしている以外は、他に客は残っていなかった。
シルビアによるとメリルとサラも今は自分達の部屋にいるそうだ。
時間外の食事になってしまったので、ゼイルさんにお詫びをすると「気にするな」とあっさり。
「娘の事もあるしな……」と呟いていたみたいだったが、聞かなかった事にした。
シルビアにカロの街の詳細を話すと「それはワタシも見た」と耳元に囁いてくる。
ゼイルさん達はカロの街の惨状がショックだったのか、こちらに気付いていないみたいなので助かった。
エミリーが料理を持ってきてくれたので右にエミリー、左にシルビアと美少女と美女に挟まれて少し緊張しながらの食事だ。
ゼイルさんが「そろそろあいつ等の分を作っておく」と言って厨房へ。
ギルドを出た後バードンさんが予め注文していたそうだ。
そのバードンさん達が入ってきて、テーブルに着いた絶妙のタイミングで料理が出てきた。プロだ。
「あー、腹減ったぜ! ゼイルさんすまねぇな、こんな時間になっちまって」
「気にするな……。事情はさっき聞いた。大変な事になったな」
ゼイルさんの言葉に「まったくだ」と苦い顔のバードンさん。
「あぁ、オルトス国のアルヴィン王は頭が痛いだろうな。街の復興に難民……、特に孤児の問題は深刻だ。この国もそれなりの数の孤児を引き受けるらしいぜ」
「15歳未満ならまだ猶予もあるが、それ以上の年齢の孤児となると……かなり辛い事になるだろうな」
「15歳以上だと何か問題があるんですか?」
何やらバードンさんとゼイルさんとで難しい話をしているみたいだったが、疑問に思った事を聞いてみる。
教えて貰えそうな時にちゃんと聞いておかないと必ず後で困った事になる。トイレの時のように!
「15歳以上は大人ってことになるんだよ。で、15歳未満の引き取り手が無い孤児は子供って事で、15歳になるまでは国が責任を持って養うって決まりがあってな。それまでに働き口が見つかれば問題ねぇんだが、それが出来なかった孤児は『孤児奴隷』として働かなきゃいけねぇんだよ」
「もし、10歳で孤児になって15歳になる5年間国の世話になったら、5年間孤児奴隷として働く事になる。……器量にもよるが5年間の孤児奴隷だと金貨5枚前後だ」
「どこの国もそんなに金があるわけじゃないからな。養った分の金は大人になったら返せって事だ!」
バードンさんが悔しそうに言葉を搾り出す。
3人娘も俯いて震えていた。
「で、問題なのは15歳以上の孤児なんだがな、こいつらはほとんど準備期間無しで働き口を見つけなきゃいけねぇんだよ」
「見つけられなかったらどうなるのだ?」
シルビアが少し怒った顔でバードンさんに尋ねる。
「大人って扱いだから国からの援助はほとんど無い。自力で働き口を見つけられなかったら、やはり『孤児奴隷』として売りに出される。大体金貨3枚~5枚で3~5年契約が多いな。売れなかったら契約年数は変わらずに値段がどんどん下がっていく」
普段の豪快さが全く無く、辛そうに話すバードンさん。
だが、これでは孤児の扱いがあまりにも酷い気がする。
隣のシルビアも憤懣やる方なしと言った表情だ。
「孤児になったのはその子達の責任では無いではないか! 何故孤児達がそんな目に会わねばならないんだ!」
バードンさんに当たっても仕方がないのはシルビアも分っているのだろうが、どうしてもバードンさんの対する口調がきつくなってしまっているようだ。
「そんな事は分ってるさ、嬢ちゃん。でもな、どこの国もタダ飯を食わす余裕がねぇんだよ。少なくとも奴隷で居る間は食事と寝床は保障される」
「だが……!」
「だったら嬢ちゃんが全員養ってくれるのか?」
口調こそ子供に言い聞かせるように大人しかったが、バードンさんの鋭い視線にシルビアが気圧されたのかそれ以上は何も言い返さなかった。
「バードン様のように『孤児奴隷』の育成を目的として複数の奴隷を所有する探索者も居ます」
不意にターニアさんが会話に加わってきた。
「契約期間が切れるまでに探索者として一人前になれるよう『孤児奴隷』を育てる。……バードン様の手によって探索者として生きる術を手に入れた『元孤児奴隷』が世界中で活躍しています」
シルビアの目をじっと見つめ淡々と話すターニアさん。
少し怒ってるようにも見える。
そんなターニアさんの様子に溜息を付くゼイルさん。
「うちもいずれは孤児奴隷を雇う事を考えていたが、どうやら早まりそうだな」
「そうね、娘達もこれからどんどん自分の時間が欲しくなるでしょうしね」
何か含みのある顔でエミリーとターニアさんを見つめるマーサさん。
見つめられた2人はその意味が分ったのか、顔が真っ赤になっていた。
「さてと、酒は明日にして今日はもう帰って寝るか! ターニア、会計を頼む」
「はい、バードン様」
会計を済ませたバードンさんが落ち込んでしまったシルビアの頭を軽く叩いて食堂を出る。
それにぴったりくっ付いていく奴隷3人娘をターニアさんは微妙な表情で見ていたが、「ドアを閉めてきます」と言ってバードンさん達を見送りに行った。
「ワタシもまだまだ未熟だな……。今日はこれで休ませて貰う。すまなかったな」
「……シルビア」
力なく俯いているシルビアを引き止める。
「迷宮を攻略すれば街の人達が魔物に襲われる事は無くなるんだ。俺たちは俺達に出来る事を精一杯しよう。その為に俺達はここに居るんだろ?」
神様が俺達をこの世界に送った理由…『能力の底上げ』。
これはある意味バードンさんが実行している事と同じだ。
「バードンさんにしか出来ない事があるように、俺達にしか出来ない事があるだろ?」
周りの人達には分らないかもしれないけど、俺達なら伝わるはずだ。
俺の言葉にハッとして顔を上げるシルビア。
どうやら分ってくれたようだ。
「……そうだな。ありがとう、シュン!」
まだぎこちなかったがそれでも微笑んでくれた。
今はそれだけで十分だ。
「シュンさん、あたしだってあたしに出来る事を頑張ってるんですよ~?」
「それじゃ、そんなエミリーにはお湯の準備をして貰おうかな?」
拗ねた口調のエミリーの頭を優しく撫でると、「は~い」と返事をしてお湯を沸かしに厨房に入っていった。
お湯は俺が部屋まで運ぶつもりなので厨房のエミリーに声を掛けて食堂で待つ事にした。
「食器はあたしが洗うから」と言って家族を部屋に追いやるエミリー。
1階にそれぞれ両親、ターニアさん、エミリーの部屋があるとの事。
他の客のお湯はもうすでに渡し終えているので俺が最後のようだ。
後片付けを終わらせ、桶に入ったお湯を持ったエミリーが食堂にやってくる。
「エミリー……、どうして2つもあるの?」
重そうにふらついているエミリーから桶を2つ受け取る。
「えへへ~、気にしちゃダメです~!」
嬉しそうにカウンターから俺の部屋の鍵を取り出し階段を駆け上げるエミリー。
何やらかなり舞い上がってるようだ。
無理をしている感じではなさそうなので、何も言わずに付いていく。
エミリーは廊下の突き当たりの小さなテーブルに置いてあるランプを持って鍵を開け、そのまま中へ入ってきた。
勝手にランプを部屋に持ち込んで良いのか気になったが、宿の人間がやってるので大丈夫なのだろう。
部屋の中がかなり明るくて助かるので黙っておく。
さっき荷物を置きに来たときは気付かなかったが、部屋の隅に畳まれたシーツが置いてあった。
床に桶を置き不思議そうにそれを見ている俺の服を、しっかりとドアに鍵を掛けたエミリーが脱がせていく。
「今日もあたしが綺麗にしてあげますね~」
鼻歌混じりに嬉しそうに俺を全裸にするエミリー。
でも、俺の股間にぶら下がっている物を見て流石に恥ずかしそうだ。
俺も恥ずかしい!
美少女が頬を染めて一生懸命俺の身体を拭いてくれる。
これだけで今日一日の疲れが吹き飛びそうだ。
背中、腕、前、脚……そして敏感な所をいつの間にか息を荒くしたエミリーによって磨き上げられていった。
一仕事をやり遂げて満足気なエミリーにお礼を言うと、
「今度はシュンさんがあたしの身体を拭いてくれませんか~?」
もう1つの桶に入った手ぬぐいを絞って俺に手渡してきた。
どうやらこの為にお湯を2つ用意したみたいだ。
もちろん断る理由は無いので頷く。
「そ、それじゃ……脱ぎますね~……」
恥ずかしそうに後ろを向いて服を脱いでいくエミリー。
ランプの光に照らせれて綺麗な肌がどんどん現れてくる。
やっぱりこの世界にはブラジャーは存在しないようだ。
恥ずかしそうに俯いている後姿、色っぽい背中、ゆっくり揺れている尻尾……。思わず後ろから抱きしめてしまった。
「あっ……、もぅ、まだ拭いてないですよ~。……シュンさんの手で綺麗にしてください」
「うん、……拭くね?」
壊れ物を扱うようにゆっくり丁寧に拭いていく。
擽ったそうに身をよじるエミリーを手で押さえつけ、全身を磨いていく。
お互いどんどん呼吸が荒くなっていく。
「ひゃぅッ!?」
大きくはないが形も色も柔らかさも最高の胸を堪能する。
エミリーの膝がガクガク震えていたのでしっかり支えながら拭いていく。
女性の大事な所は特に念入りに綺麗にした。
もう俺にしがみ付いていないと立っていられないエミリーをベッドに寝かせる。
俺ももちろんだがエミリーもかなり興奮が高まっているみたいだ。
手ぬぐいを桶に放り投げ、身体のいたる所にキスをする。
「んんッ! ……あッ!」
必死に声を抑えているのが何とも言えず可愛らしい。
俺もエミリーのこんな可愛い声を他の男に聞かせたくなかったので、唇を重ねて声が漏れないようにした。
大事な所を調べるともうすっかり準備が出来ている様子だったので、最後にエミリーに確認する。
「もう、入れても良い?」
俺の言葉に潤んだ瞳で見つめてくる。そして、ゆっくりと頷いた。
「あ、あの、尻尾が邪魔になると思うので~……」
そう言ってごろりとうつ伏せになりお尻を持ち上げるエミリー。
犬にように尻尾を振って……誘惑しているとしか思えなかった。
「きて……ください……」
プツンと何かがキレる音がしたかと思うと、俺はエミリーの華奢な身体に覆いかぶさっていた。
読んでくださりありがとうございました。
この世界の奴隷についてはかなり悩みました。