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探索者  作者: 羽帽子
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第25話:「こいつも連れて行って良いか?」

 カロの街の壊滅。

 探索者達から一斉に放たれたその情報に、バードンさんも流石に数秒ほど絶句していた。


 「……カロの街が? あそこは確か英雄ロメルスのPTパーティーが攻略してたんじゃないのか!?」


 眉間に皺を寄せ、睨むように周りの探索者に確認するバードンさん。

 めっちゃ怖い! 周りの人達も顔が真っ青だ。


「どうやら失敗したらしいぞ? バカ領主のせいで街も壊滅じゃな」


 不意に聞こえてきた声に、全員の視線が入り口に向かう。

 そこには立派な髭を生やしたドワーフ。

 ドワーフなので身長こそ低かったが、全身筋肉で出来てるんじゃないかと思うほどのガッシリした体格。

 目は鋭く、異様なまでの存在感。

 その背後には数人の兵士達が付き従っている。この男の護衛か何かだろうか?

 そして、そのさらに後ろには戸惑っているシルビア達の姿があった。ちょうど街に戻ってきたらしい。

 いつの間にかギルドの中がシンと静まり返っていた。


「……ボルダス王?」


 誰かの呟きが聞こえてきた。

 いきなりの国王のお出ましに、ギルド内の空気が固まってしまっているみたいだ。

 そんな雰囲気の中、バードンさんが苦笑混じりにボルダス王に話しかける。


「あんたがわざわざここに来るって事は、カロの街の話はやはり本当なのか?」


 どうやら相手が国王でも口調が変わらないらしい。

 大丈夫なのか心配になってしまったが国王は平然としているし後ろの兵士達も特に咎めたりしないので、この人は普段からこうなのだろう。


「本当ですよ。先程正式にオルトス国のギルド本部から詳細が届きました」


 ボルダス王の代わりに、いつの間にかカウンターにいた男の人が答える。

 柔和な顔付きで事務処理が得意そうな感じだ。


「おう、ギルド長か。ワシの所にもアルヴィン王から連絡が入った」


「わざわざお越し頂き申し訳ありません。本来ならこちらからお伺いする所なのですが……」


 恐縮そうに頭を下げるギルド長にボルダス王は「気にするな」と笑っていた。

 だがすぐに鋭い目に戻る。


「では、さっそくだが奥で今後の対策を話し合うとするか。……バードン、オヌシの意見も聞きたいから付いてこい!」


 頭を掻きながら「へいへい」と大人しく従うバードンさん。

 流石に奴隷は連れて行けないみたいなので、3人娘に家に戻ってるように指示を出していた。

 だが、俺と目が合うと何故かニヤリ。もの凄く嫌な予感がする。


「なぁ、ボルダス王……こいつも連れて行って良いか? まだ新人なんだがな」


 バードンさんの言葉に今度は俺に視線が集まった。

 特にボルダス王の刺すような視線が痛すぎる。

 バードンさんを恨みがましい目で睨んだが、本人はニヤニヤと涼しい顔。


「ふん、構わんぞ。それにこの小僧は、この間オヌシが言っていたヤツじゃろ?」


 それだけ言うとスタスタと歩いていく。

 俺とバードンさん、それにギルド長が後に続く。

 奥の部屋の前に着くとボルダス王が振り向いた。


「オマエ達も今は自分が出来る事をしっかりやるんじゃ! 迷宮の攻略……頼むぞ!」


 ギルドの職員や探索者達にそう言い残すと部屋へと入っていった。

 兵士達が部屋の前を固める中、バードンさん達に続いて、俺も恐る恐る部屋へと入る。

 外では午後3の鐘が鳴っていた。






「まじか……。ボルダス王の言う通り、本当にバカ領主だったんだな!」


 ギルド長からの詳細を聞いたバードンさんがお手上げとばかりに両手を挙げている。

 要約すると、迷宮の期限が迫り焦ったカロの街の領主が、大金を払って過去2回も迷宮を攻略した『英雄』の称号を持つロメルスのPTを専属探索者として雇ったそうだ。

 その英雄PTは噂に違わず、破竹の勢いで一気に40階層を突破。

 期限がギリギリだったがすっかり安心してしまい、国王から国軍の派遣の是非を問われても「問題なし」と答え、援軍の申請を一切していなかったそうだ。

 しかし、結果は迷宮攻略は失敗に終わり……カロの街も魔物に飲み込まれてしまった。

 その話を聞いて俺は神様の所で見た映像を思い出した。

 どうやらあれがカロの街だったようだ。思わず手に汗を握ってしまう。

 ちなみに溢れ出した魔物達は、念の為にと王都で準備をしていた国軍によって粗方討伐されたらしい。


「確かに大バカじゃが、……ワシとしても、よもやロメルスが失敗するとは思わなかったぞ」


 「ワシが授けた剣も失われてしまったか……」と寂しそうな国王。


「それなんだがな……。シュン、オレ様がお前にした質問覚えてるか? 迷宮の中でしたやつだ。それをもう一度ここで話してくれ」


「それって、魔物と戦ってみてどうだったかってやつですか?」 


 バードンさんが頷いたので、迷宮内で言った事を繰り返した。

 それを聞いて真剣な表情で考え込んでいるボルダス王とギルド長。

 思わぬ反応に俺の方が焦ってしまう。


「オレ様も同じような事を数年前から感じていた。そして、今日ここの迷宮に入って確信したぜ。……明らかに魔物達が強くなっている!」


 神様はこの世界の住人達の質が低下していると言っていたが、それだけではなく、逆に魔物達の力も増加しているのか……。

 どうやら事態はかなり深刻そうだ。


「う~む、困った事になったな。バードン、それにギルド長、何か良い案はないか?」


 俺には聞いてくれないのでちょっぴり寂しい。

 というか何故自分はこの席にいるのだろうか?

 本当だったらすぐに宿に戻ってエミリーに身体を拭いて貰い、手料理を食べて……夜はムフフな展開が待っていたのに!

 思わずバードンさんを睨んでしまった。

 鐘が鳴ってから1時間程経っているので7時頃か、流石にお腹が空いてきた。

 蚊帳の外なのでどんどん思考が離れていく。


「おい……おい! シュン!聞いてんのか!?」


 いきなりバードンさんに頭を叩かれた。

 気が付くと3人の視線が……。

 俺が聞いてなかったのが分ったのか、こめかみに青筋を浮かべたバードンさんが説明する。


「新人のお前の意見が聞きたい。急場凌ぎとして探索者を増員してはどうかって話になったんだが、お前はどう思う?」


 何故そんな重要な事を俺に聞くんだろうか。

 でも、成りたての俺じゃないと分らない事もあるのかもしれない。


「えっと、戦力の増強は必要不可欠だとは思います。でも、今日は1階層に半日近く篭り……半日フルに戦ってそれなりに魔物を倒しましたけど、おそらく宿代すら稼げていないと思います。現状ではせっかく増員した探索者達も生活が出来なくて辞めてしまうかと……」


 神様からのいろんなスキルを付けている俺ですらこうなのだから、他の新人探索者はもっと過酷な状況だろう。


「確かに新人の離職率は以前から問題にはなっていますね。それで無理をして命を失うと言う報告も受けています」


「じゃが、探索者を増やすためにいろいろな特典を付けた結果が……特典目当てに最低限の探索しかしない輩の増殖じゃ。これ以上さらに優遇したとしても効果は見込めんじゃろうな」


 渋い表情の3人。

 俺が今まで読んできた小説等では、『冒険者カード等に魔物を倒した情報が入っていて、ギルドで報酬が貰える』と言った話が多かった気がする。

 情報源を隠して、それとなく提案してみると…3人は真剣に検討を始めてしまった。


「それは、技術的には可能じゃ。今でも中ボスを倒した者に対する報酬を支払う時に水晶玉で本当に倒したかどうかの確認をしておるからな。ちょっと弄ればなんとかなるかもしれん」


 俺が不思議そうな顔をすると、今のギルドの水晶玉はボルダス王とリメイアのカーラ女王が共同で作ったのだそうだ。

 それ以前から水晶玉は使っていたが、迷宮に入る為の魔法陣の刻印にしか使用していなかったらしい。

 ちなみに刻印が無いと迷宮の入り口で弾かれてしまう。


「特典目当ての人達対策として、登録料の復活や維持条件の強化も検討した方が良さそうですね。支払う報酬の予算確保もしませんと」


「あぁ、その辺は近々アルヴィン王がワシやカーラ女王……それに各街の領主、ギルド長を集めて今後の対策を検討したいと言って来たから、その時にでも提案してみるつもりじゃ!」


 何かどんどん話が大きくなっていってるような。思わず冷や汗が。

 バードンさんが「良かったじゃねぇか!」と背中を叩いてくるが、果たしてこれで良かったのだろうか?

 でも、倒せば倒すほど報酬が増えるのであれば、それだけやる気にも繋がるかもしれない。

 その結果として戦力の底上げが出来たら万々歳だ。


「孤児の受け入れも頼まれたし、……忙しくなりそうじゃな!」


 『孤児』と言う言葉にバードンさんが反応したみたいだが、すぐに元の顔に戻っていたので気のせいだったのだろうか?

 なおも議論を交わしているボルダス王とギルド長。

 俺とバードンさんはこれ以上ここに居てもあまり意味がないだろうと思い目配せをすると、


「そんじゃ、俺とシュンはそろそろお暇するぜ! いい加減腹が減った!」


 バードンさんも早く帰りたかったのだろう、すぐにボルダス王に言ってくれた。


「おう、助かったぞ! バードン、それにシュンと言ったか。オヌシの意見、参考になったぞ!」


 やっと帰る許可が下りたようなので、2人に一礼をして部屋を後にする。

 バードンさんに「貸しひとつですよ」と言ってやりたかったが、今までいろいろと教えて貰った恩があるので黙っておいた。


「バードンさん、シュンさん、お疲れ様でーす」


 部屋を出るとすぐにシアさんが駆け寄ってきた。

 先程は見当たらなかったがセリーヌさんも一緒かな? と思いキョロキョロ探していると、シアさんがニヤッと笑いながら「セリーヌはアイテム買取室ですよー」と教えてくれた。


「あ、そう言えば、元々ここにはアイテムを売りに来たんだった」


「今日はいろいろゴタゴタがあったので、特別に午後4の鐘が鳴るまではやってますから、今から行けば間に合いますよ。……私達も今日は残業です」


「あぁ、オレ様は早くメシが食いたいから先に帰るぞ! 後で『夜の止まり木亭』に行くからシュンは一杯付き合え!」


 バードンさんは俺の背中を叩いてさっさと帰って言ってしまった。

 俺はシアさんにお礼を言って買取室があると言う部屋のドアを開けた。


「……あれ?」


 すぐにセリーヌさんに会えると思ったが、その部屋の中には長椅子が3つ並んでいるだけで誰も居なかった。

 奥にドアがあるのでその先の部屋にいるのだろうか?

 少し迷ったが、ここに居ても仕方が無いので奥のドアを開けて中に入る。


「あら? シュンさん、ボルダス様とのお話はお済になったのですか? お疲れ様でした」


 連れ込まれていた事はシアさん経由で知っていたのか、カウンターで作業をしていたセリーヌさんが俺の顔を見るとすぐに労ってくれた。


「ありがとうございます。まだアイテムの買取をして貰えるって聞いたのですが、大丈夫ですか?」


「はい、まだ午後4の鐘が鳴っていないので大丈夫ですよ。このトレイにアイテムを載せてください」


 カウンターの上に置いてあるトレイにアイテムボックスから取り出した戦利品を載せる。

 それを手早くセリーヌさんが調べていた。


「『布』が21枚で銅貨21枚、『一角兎の毛皮』が2枚で銅貨10枚、『木の棒』が1本で銅貨10枚。……合計銅貨41枚です。以上でよろしいでしょうか?」


「はい、それでお願いします」


 やはり宿代にも届かなかったみたいだ。

 本当は『一角兎の毛皮』は3枚あったが、1枚は癒しアイテムとして持っておきたかったので売らない事にした。


「今日はこちらに居たんですね、受付に居なかったのでお休みかと思ってました」


「いえ、私は本当はここの部署の所属なので、受付に居る方が珍しいと思います。あの時は他の職員が休みでしたので……」


 それでいくら見回しても見つからなかったのかと納得。

 ここに来ればセリーヌさんに会えるようだ。

 それならば、これからも沢山アイテムを持って会いに来よう。


『ガラ~ンゴロ~ン♪』


 お金を受け取り迷宮探索初日の感想等を話していたら、午後4の鐘が鳴ってしまった。


「あ、すみません! もう時間ですね」


「そのようですね。では、これからもお身体に気をつけて頑張ってくださいね」


 セリーヌさんに見送られて部屋を出る。

 シアさんの姿が見えなかったので、残っている職員に会釈をしてギルドを後にした。

 外はもう真っ暗だ。


「お腹空いた。……宿に戻ろっと」

 

 お腹をさすりながら、エミリーの待つ『夜の止まり木亭』へと向かった。



読んでくださりありがとうございました。

神に愛された住人達と愛されなかった魔物達……。

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