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探索者  作者: 羽帽子
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第22話:「……苦かったです~」

 自分のコップに注いだ水をエミリーがゆっくり飲んでいる。


「落ち着いた?」


 ベッドに腰を下ろし声を掛けると、照れくさそうにこくりと頷く。

 ちなみにもう服は着ている。

 俺のコップにも水を注ぎ持ってきてくれたのでお礼を言うと、嬉しそうにはにかみながら隣に座るエミリー。


「……苦かったです~」


 エミリーの言葉に思わず苦笑。

 頭を撫でながら「ごめんね」と謝ると、首を横に振って頭を俺の肩に預けてきた。


「ううん、あたしの方こそはしたない真似をしてごめんなさい。でも、シュンさんの役に立ちたいって思ったら止まらなくなっちゃったの~……」


 自分の行為を思い出したのか真っ赤になっている。

 まさか口でされて……しかもアレを飲まれてしまうとは。

 初めてでつたないながらも情熱たっぷりのご奉仕を思い出し、頬が勝手に緩んでしまう。


「ありがと」


 感謝の気持ちを込めてそう言うと、嬉しそうに微笑んだエミリーに軽いキスをされた。


「えへへ~、またいつでもしてあげますからね~! シュンさんだけですからね? こんな事してあげるのは~!」


 そんな嬉しい事を言ってくれるエミリーに今度は俺の方からお礼のキス。


「幸せです~! もっとここに居たいけど、あたしはそろそろ食堂の方に戻りますね~」


 夕食の準備があるらしく、名残惜しそうに部屋から出て行った。

 ドアの所まで見送り鍵を掛けてベッドに倒れ込む。

 非常にやばい、もう自重出来る自信が全く無い……。

 おそらく近いうちにエミリーと最後の一線を越える事になるだろう。

 ゼイルさん達に気づかれるのも時間の問題だ。

 まだ探索者になったばかりの俺との関係を反対されるかもしれない。

 明日から迷宮探索開始なので、エミリーの為にも少しでも強くなって、周りの人達に認められるようになりたい。

 気合を入れるためにパシッと両手で顔を叩く。

 部屋でじっとしてると落ち着かないので、少しの時間でもギルドで訓練をしようと思い準備を整えて下に降りる。

 ターニアさんに部屋の鍵を預けて外に出ようとすると、シルビアと鉢合わせになった。

 「おかえり」と声を掛けると疲れた顔で「うむ」とだけ返事をし中に入ってくる。

 その後ろには訓練場でシルビアに引っ付いていた人族の女の子が2人。

 さっそく2人が俺の事を睨んでくるが、ポカリとシルビアに頭を叩かれていた。


「先程も言ったが、シュンはワタシの友人だ。今度そんな態度を取ったらPTパーティーの話は無かった事にして貰うぞ?」


 シルビアの言葉に慌てて俺に頭を下げてくる2人。

 俺と同じ新人探索者のはずなのに、この貫禄の差は一体…。


「PT組む事に? 良かったじゃないか」


「あぁ、2人も最近探索者になったばかりらしくてな。メリルにサラだ」


 シルビアが紹介してくれたので「シュンです」と俺も自己紹介。

 茶色い髪で女性としては高い俺と同じくらいの身長の子がメリル、金髪で小柄な子がサラだと教えて貰う。

 確か訓練場ではメリルが槍、サラが片手剣と盾を持っていた気がしたが、今はどうやらアイテムボックスに保管しているみたいだ。


「あぁ、そうだ。ターニア、1人部屋2つか2人部屋1つ、どちらか空いてないか?」


 こちらを興味深そうに見ているターニアさんにシルビアが聞く。


「1人部屋は1つしか空いてませんが、2人部屋でしたら大丈夫です。1泊銅貨80枚になります」


 1人部屋が1泊銅貨50枚なので、2人部屋だと20枚の節約になるようだ。

 今後仲間が増えた時の為にもしっかり覚えておこう。

 まだ全然あてがないが、情報収集は大事だ。

 でも、メンバーが女の子だったらエミリーの反応が怖そうだ。

 小説などの主人公はよく平気でハーレムとかを維持出来るものだと改めて感心してしまった。


「ところで、シュンはどこかに出かけるつもりだったのか?」


 メリル達が会計を済ませてるのを眺めながらシルビアが声を掛けてくる。

 ギルドで訓練するつもりだったが、良く考えたら身体を拭いて貰ったばかりだった。


「ん~……、訓練するつもりだったけど、どうしよう?」


 悩んでいると食堂からエミリーが顔を出してきた。


「あ、やっぱりシュンさんの声だった~! シルビアさんもおかえりなさ~い!」


 シルビアにも元気に挨拶をするエミリーを見てホッとする。

 もうすっかり大丈夫みたいだ。

 シルビアも「ただいま」と挨拶を返し、PTメンバーになったメリルとサラを紹介している。

 メリルが「犬耳ハァハァ」と言ってた気がしたがスルー。

 まぁ、気持ちは良く分る。

 ターニアさんに連れられて3人が階段を上がっていく。

 残された俺とエミリー。

 尻尾をブンブン振りながら、すかさず俺に抱きついてくる。


「シュンさん、夕食はどうしますか~? あと半鐘程で3の鐘が鳴りますよ~」


 3の鐘と言うと午後6時頃だろうか? エミリーが作ってくれるのなら混む前の方が良いだろう。


「エミリーが作ってくれるなら今からがお願い出来るかな? 混む時間は避けた方が良いよね?」


 嬉しそうに「もちろん~!」と頷くエミリー。


「やっぱりシュンさんは優しいなぁ~、……大好きです~!」


 頭を撫でながら一緒に食堂に向かった。

 俺をテーブルに案内すると、エミリーは「ふんす!」と鼻息荒く気合を入れて厨房へと突撃して行った。

 昨日みたいに大量の料理が出て来なければ良いが……。

 昨日の夕食を思い出し心配になってしまった。

 待つ間暇だったので『ボーナススキル操作』と念じて、残り34ポイントの使い道を考える。

 生活スキルの事を考えると『MP回復速度UP』か『MP上昇』が良さそうだ。 でも『MP上昇:10%』を付けても生活スキル3回の俺って……。

 トイレでの悲劇を思い出してブルッと震える。

 そう言えば、もし迷宮でトイレに行きたくなったらどうするのだろうか?

 難解な問題に「むむむ」と唸っていると野太い声で名前を呼ばれた。


「おう、シュンじゃねぇか! お前もメシか?」


 操作を中断して振り向くと、バ-ドンさんがこっちに歩いてきた。

 3人の少女達もぴったりくっついている。

 そして、さも当然とばかりに俺と同じテーブルに着く。

 わざわざ足りない分の椅子を持って来てまでして。


「なんか考え事でもしてたみてぇだが、なんかあったのか?」


 座るなり聞いてくるバードンさん。

 正直女性が一緒なのであまり言いたくなかったが、「ん? んー?」と暑苦しい顔を近づけてくるので耳元にこしょこしょ話す。

 俺の話を聞いて豪快に大笑いしながらバシバシ肩を叩いてくる。痛い。


「ぶははは! そんな事を真剣に考えてたのか? そんなのしたくなったらする! それで終わりじゃねぇか」


 目に涙を浮かべて笑っているバードンさん。

 答えは実にシンプルだった。

 でも、ソロの俺にはちょっとハードルが高そうだ。

 してる間に魔物に襲われたら目も当てられない。

 迷宮に入る日は宿を出る前にしっかりトイレに行っておこうと決意。

 話が終わった所でマーサさんが注文を取りに来た。

 今の会話を聞かれていないかちょっと心配だ。


 注文が終わりしばらく談笑(3人娘達は相変わらず無口だった)していると、エミリーが料理を持ってきてくれた。

 バードンさん達がいるので恥ずかしいのか料理を置くとそそくさと厨房に戻っていく。

 でも、気になるのかこっそりこっちの様子を窺っていた。

 バードンさんはそんな俺達を見てにやついている。


「なんだよ、もしかしてお前の分だけエミリーの手作りなのか~? 色男は得だなぁ!」


 美少女奴隷を3人も引き連れている人に言われても嫌味にしか聞こえない。

 外野の声は無視してガツガツ食べ始める。うん、美味しい!

 心配そうに覗いているエミリーにウインクしてあげると投げキッスで返された…。

 何だかバカップル一直線だ。バードンさん達も呆れ顔になっている。

 ゼイルさんの視線が怖かったが、なんだかんだで開き直ってしまっている自分がいて内心少し驚いた。

 バードンさん達の料理も来たので(こっちはゼイルさん作)一緒に舌鼓を打っていると、どんどん食堂に人が集まってきた。

 そろそろ午後3の鐘の時間なのだろう。

 エミリーもマーサさんも忙しそうに立ち回っている。


「あ、そうそう、良い家は借りられました?」


 バードンさん達が武具屋で別れてから家を探しに行ってた事を思い出し聞いてみる。


「あぁ! ちょっとばかし値が張ったが良いのを借りられたぞ!」


 住む家が見つかって嬉しそうだ。

 俺もいつかPTメンバーが増えたら借りる事になるのだろうか?

 果たしてその時エミリーは付いて来てくれるのか。

 今から心配になってしまった。


「やっぱり風呂は付いてないんですよね? 風呂でゆっくり疲れを癒したい……」


 俺の溜息混じりの言葉に「贅沢なやつだ」と苦笑しているバードンさん。


「オレ様もリメイアで入った事があるが、あれは良い物だな! 今度知り合いの鍛冶工房に作ってくれないか頼んでみるか!」


 エルフのソニアさんも入ったことはあるのだろうか?

 様子を窺ってみると『リメイア』と言う単語を聞いて何とも微妙な顔をしていた。

 その後も迷宮での心得とかを聞きながら食事を続ける。

 いつの間にはシルビア達も食堂に来ていてチラチラとこちらを見ていたので、バードンさんに紹介した。

 バードンさんの名前を聞いてメリルとサラが固まっていたが、そんなに有名なのだろうか?

 そのバードンさんはシルビアの事が気に入ったのかあれこれ話しかけている。 男が苦手のシルビアは逃げ出したそうにしていた。

 可哀想だったので「そろそろ料理が来るんじゃない?」とフォローするとホッとした顔で戻っていった。

 バードンさんは不満そうだったが、可愛い少女が3人も側にいるんだから自重して欲しい。


 食事を終えた俺は部屋に戻りベッドに横になる。

 部屋の中はすっかり暗くになっていた。

 バードンさん達も明日から迷宮探索を開始するそうなので、お酒を飲まずに新しい家に帰っていった。

 それを見送るターニアさんが寂しそうな瞳をしていたのが印象的だった。

 俺もいつかエミリーにあんな瞳をさせてしまう事になってしまうのだろうか……。

 1人きりになるとマイナスな事ばかり考えてしまう。

 首を振って気持ちを入れ替えようと『ボーナススキル操作』と念じて先程の続きに戻る。

 暗くても頭の中に直接イメージが浮かんでくるので、操作するには何も問題が無かった。

 早く一人前になりたいが、まずは死なない事を最優先にするべきだろう。

 トイレ用にMP関連を強化したかったが、しばらく考えてから30ポイントを使って『HP回復速度UP』と『HP上昇』それに『敏捷上昇』を一段階ずつ上げた。

 『HP回復速度UP』と『HP上昇』は普通にダメージによる死亡確率を下げる為。

 『敏捷上昇』は何かあった時に逃げられる可能性を少しでも上げる為だ。  複数の敵に囲まれた時用の保険として取っておいた。

 その分『獲得経験値UP』を40倍にするのが遅れそうだが、いくら経験値が増えても死んでしまったら意味が無い。

 結果として、ボーナススキルは、


『獲得経験値UP(50):20倍』

『HP回復速度UP(20):5倍』

『HP上昇(25):20%』

『MP上昇(10):10%』

『筋力上昇(10):10%』

『精神上昇(10):10%』

『器用上昇(10):10%』

『敏捷上昇(25):20%』


 と言う組み合わせになった。

 後は戦闘に慣れてきたら通常のスキルポイントを使って『身体強化』をレベル2にしてみるつもりだ。

 俺の勘だが『身体強化』を上げるとHPや筋力などの身体に関わる能力が底上げされそうな気がする。

 部屋の暗さにも目が慣れてきたので、操作を終了して水を一杯飲む。

 明日はいよいよ迷宮探索だ、やはり緊張してしまう。

 エミリーと話をして癒されたいが、今は忙しく働いているだろうから邪魔するわけにもいかない。

 食事をしている時に午後3の鐘が鳴ったので、今は7時ちょっと前くらいだろう。

 流石に寝るには早すぎる。

 暇なのでドアを開けて廊下の明かりを頼りに歯ブラシを出して歯を磨く。

 ついでにトイレも済ませた。


 やる事が無くなったのでぼーっとベッドに横になり、鉄の剣を鞘から抜いて眺める。

 そう言えば、この剣は普通の鉄の剣と同じ値段だった。

 普通の『鑑定』スキルだと細かいところまでは分らないのかもしれない。

 なんだかんだでチートスキルをいろいろ貰ってしまったようだ。

 そんな恩恵を受けたにもかかわらず、PTメンバーを1人も見つけられない事に少しだけ焦ってしまう。

 これではこの世界の住人の能力の底上げに何も貢献できない。

 あっさりと2人も見つけたシルビアが羨ましい。


『ガラ~ンゴロ~ン♪』


 不意に鐘の音が響き渡る。どうやら1時間近くもぼーっとしてたようだ。

 苦笑して剣を鞘に戻すとドアをノックされた。

 「は~い」と返事をしてドアを開けると、エミリーが立っていた。


「お父さんが今日はもう上がって良いって言ったの~」


 部屋に入れ話を聞いてみると、早く俺に会いたくて接客や食器洗いをいつも以上に頑張っていたら、空いてくる頃にはもうほとんどやる事が無くなってしまったそうだ。

 苦笑混じりに「行って来い」と言われたらしい。

 ゼイルさんが俺の部屋に来るのを許可した事に驚く。

 外堀どころか内堀まで埋められそうな勢いだ…。


「えへへ~、……頑張ったよ~?」


 褒めて褒めてと頭を差し出してきたのでナデナデ。

 「夕食は?」と尋ねると、速攻で食べてきたとの事。


「そんなに急がなくても逃げないよ?」


 頭を撫でながら言うと「だって~」と拗ねてしまった。

 上目遣いに見つめてくるので「頑張ったご褒美」とキスをすると一瞬で機嫌が直った。

 暗い部屋の中で2人きり。我慢出来る自信が全く無い。


「本当はね~、今日このままシュンさんの部屋に泊まろうと思ってたの。でも、明日は初めての迷宮でしょ~? ゆっくり寝かせてあげないとってお姉ちゃんにも言われたの~。……だから明日無事に帰って来たら~……ね?」


 耳元に甘い声で囁いてくる。

 まるで死亡フラグみたいだと一瞬思ってしまったが、エミリーの気持ちが嬉しかった。


「でも、寝る前に~……飲ませて?」


 俺が黙って頷くと、エミリーは嬉しそうに一枚一枚服を脱がせていった。



読んでくださりありがとうございました。

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