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探索者  作者: 羽帽子
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第21話:「可愛いです~!」

「エミリー……尻尾に触っても良い?」


 マーキングでもするかのように俺にしがみ付きスリスリしているエミリーにお願いをしてみた。

 ずっと毛並みが良くフサフサした尻尾に触りたかったのだ。


「うん、恥ずかしいけど~……シュンさんなら良いですよ~?」


 許可を貰ったので恐る恐る撫でてみる。

 ひと撫でごとに『ビクン』と震えるエミリー。

 歯を食いしばって何かに耐えている感じだ。


「あ、もしかして尻尾に触られるのって本当は結構嫌だったりする?」

 

 手を止めて顔色を窺うと、エミリーが顔を赤く染め潤んだ瞳で見上げてくる。

 その破壊力に理性が崩壊しそうになった。


「ううん、嫌なんかじゃないです~。むしろ嬉しすぎて困っちゃうくらいで。好きな人に撫でて貰うのってこんなに気持ち良かったんですね~」


 目を細めて嬉しそうなのでもっと続けたかったが、俺の理性がピンチだったので最後にひと撫でして終わりにした。

 エミリーがもっとして欲しいと尻尾を振っていたが何とか我慢する。


「喉乾いたから水でも飲もうか……」


 そそくさと立ち上がりテーブルに置いてあるコップらしき物に水を注ぎ飲もうとしたらエミリーに止められた。


「シュンさん、それコップじゃないですよ~?」


 ジト目のエミリーの言葉に「ふえっ!?」と間抜けな声を出したきり固まってしまう。

 そんな俺にクスクス笑いながら説明してくれた。


「それは歯磨きとかで口をゆすいだ水を捨てる入れ物ですよ~。そこにあるゴミ箱と同じような物です~」


 昨日今日とどうやってたのか聞かれたので正直に話すと、ベッドの上を転げ回りながら笑われてしまった。


「シュンさん……可愛いです~!」


 恥ずかしさに赤面してしまった俺を見てエミリーが抱き付いてくる。

 「しょうがないな~」とばかりに頭を撫でられてしまった。

 いつもと立場が逆になってしまった事におもわず苦笑。

 宿屋に泊まるような探索者や旅人にとってコップは必需品なので、わざわざ置いたりしないそうだ。

 それに、以前持ってない人に貸し出したら持ち逃げされてしまったとの事。


「シュンさんは大丈夫だから、後でコップ持ってきますね? あ、あたしの分と2つ持ってきます~」


 貸してくれるのは嬉しいけど、どんどん外堀を埋められていってるよう気がしてぶるりと震えてしまう。


「あ、そう言えば、エミリーはここにいても大丈夫なの? 手伝いとかあったんじゃ?」


 エミリーの機嫌も直ったみたいなので、今更ながらに心配になった。

 時間的にはちょうどお昼だ、食堂は戦場なのではないだろうか?

 もしゼイルさんにエミリーが怒られるはめなったなら俺も一緒に謝るつもりだ。

 その事を話すと嬉しそうに俺を抱きしめる力を強めた。


「この時間は大丈夫ですよ~、大変なのは朝と夜だけです~。お昼にわざわざ食堂で食事をする人なんて滅多にいませんよ~?」


 エミリーによると、どうやらちゃんとした食事は朝と夜だけで昼は屋台で軽く摘む程度なのだそうだ。


「午後1の鐘が鳴ったらお母さんと買い出しに行きますけど、それまでは一緒です~!」


 そう言うやいなやキスをしてくるエミリー。

 すっかり気に入ってしまったようだ。

 まだ正直戸惑いの方が大きいが、エミリーの好意を受け止められる男になろうと改めて決意をする。

 お互いの舌が触れ合うとビクッと身体が強張ってしまったみたいだが、優しく背中を撫でてあげると恐る恐るといった感じだがちゃんと絡ませてくれた。

 しばらく堪能してると、不意にドアがノックされたので慌てて離れる俺とエミリー。


「は、はい! どちらさまですか?」


 内心の動揺を隠して声を掛けるとシルビアの声。

 どうやらターニアさんが様子を見に来たと言う訳ではなさそうだ。


「すまない、ワタシだ。迷宮の事を聞きたいのだが、今大丈夫か?」


 エミリーの顔がまだ赤かったが、こちらを見て頷いているのでドアを開ける。

 部屋の中にエミリーが居る事に一瞬驚いた顔をしていたが、すぐにニヤリと笑われてしまった。


「ほうほう、こっちに来てまだ間もないと言うのに意外に手が早いのだな。……ククク」


 照れ隠しに頭を掻きながら部屋に招き入れようと思ったが、お腹が空いているのでシルビアに聞いてみると「今日は朝から何も食べてない」との事だったので3人で食堂に行く事になった。

 エミリーが簡単なサンドイッチならすぐに作れると言ってくれたのでお言葉に甘える事にする。

 宿代に含まれるのは朝食と夕食だけなので、別料金として銅貨5枚ずつ支払った。

 エミリーはいらないと言っていたがこういう事はちゃんとした方が良いと俺とシルビアで説得して受け取ってもらう。


「それじゃ、まずは迷宮についてだね……?」


 エミリーの言う通り昼食を取る習慣がないからか俺達の貸切状態だった。

 テーブルに着きバードンさんから聞いた迷宮の情報を伝える。

 シルビアも慣れるまではソロで頑張るらしい。

 PTパーティーに誘われたらどう言って断ろうか悩んでいたが大丈夫そうなので一安心。

 アイラにも言ったように俺はこの世界に最初から住んでいる人としか組まないつもりだ。

 その事を話すと「頑固だな」と苦笑されたが否定はされなかった。

 迷宮について一通り話した所でエミリーがサンドイッチを持って来てくれた。

 だが、不機嫌そうに頬が膨らんでいる。


「どうしたの?」


 頭を撫でてあげながら聞いてみると、3階に泊まっていた探索者達が急に他の街へと旅立ったので今から部屋の掃除をしなければいけなくなったらしい。


「う~、もっとシュンさんと一緒にいたかったのに~!」


 恨みがましく厨房を見ていたので、こっそり耳元に囁く。


「お金はもう払ってあるから、後で時間が取れたらまたお湯を持ってきてくれるかな? エミリーに拭いて貰いたいな」


 それを聞いた瞬間パァッと顔を輝かせ「分りました~!」と何故か敬礼をして食堂から飛び出していった。

 呆れ顔のシルビアが「スケコマシ」と呟いていたがスルー。


「なんか知らないけど、こっちに来てからやたらと会う人達が好意的だから、ある程度割り切らないと大変だよ? 多分シルビアもいろんな人から好意を寄せられると思う」


 冗談だと思ったみたいだが、俺が真面目な顔で話してるのを見てシルビアも何か考え込んでいた。


「そう言えば、ワタシに話しかけてきた門番や武具屋の店員とかみんな好意的だった気がするな。服屋の女の子にも何故か懐かれた」


 やっぱりシルビアもそうだったみたいだ。

 俺だけじゃなかったことにちょっとだけがっかりしたが、これで神様が何かしたという事はほぼ確定だろう。

 真意は良く分らないが悪意はないだろうと思うので、素直にこの状況を受け入れた方が良いだろう。

 もちろん自分を磨く事は忘れないが……。


「ワタシは実は男が苦手なんだ。困った」


「だったらPTメンバー全員女性で固めたら良いんじゃない?」


  真剣に悩み始めてしまったので、場の空気を軽くしようと軽い気持ちで言ってみたのだが思い切り食いついてきた。


「そ、そうだな! それならあまり男と接しなくても済む!」


 俺の手をぎゅっと握って目を輝かせてお礼を言ってくるシルビア。

 その迫力に「う、うん、頑張って」としか言えなかった。

 でも、俺も男なんだが? と疑問に思ったので聞いてみる。


「シュンは何故か知らないが大丈夫だ」


 小首を傾げてあっさりと言われてしまった。

 同じ異世界人相手でも有効なのだろうか?

 今思うとアイラもかなり好意的だったような気がする。

 もうこの事に関しては「こういうもの」と割り切って深く考えるのは止めた方が良さそうだ。


「あ、大事な事忘れてた。シルビア、ボーナスポイントとスキルポイントの操作はもうした?」


「うむ、こっちに送られてすぐにいろいろ取得したぞ。通常のスキルはまだだがな」


 シルビアの当然だと言わんばかりの返答に思わず頭を抱えてしまう。

 不思議そうにしていたので理由を説明すると肩を叩かれて同情されてしまった。


「それにしても、弓スキルを2にするのに9ポイントと言うのは半端だな」


 何気なく呟いたシルビアの言葉に驚く。


「え? 10ポイントじゃないの? 俺の剣スキルは2にするのに10必要だよ?」


 2人して「うーむ」と考え込んでしまう。


「弓は元々あっちの世界でも使ってはいたが、こっちのスキル制度と言うのはいまいち良く分らないな」


「ん? シルビアって元から弓使いだったの? だとすると、今のシルビアの実力が弓レベル1以上って事なのかも?」


 俺の仮説に「うーむ」と唸るシルビア。

 どうやら俺達が思っていた以上に複雑なシステムみたいだ。

 これ以上考えても頭が混乱するだけだと諦めて、今後何か新しい事が分ったらまた話し合おうと約束をする。

 食事も済んだし、これ以上特に話す事も無くなったのでどうしようか迷っていると「訓練場を見たい」と言われたので一緒に行く事にした。

 黙って行ったら後で絶対に拗ねられそうだったので、3階に上がりエミリーに声を掛けてから部屋に戻り準備をする。

 部屋の前で待ち合わせをしてギルドの訓練場に向かった。






「ただいま~!」


 時間はまだ午後2の鐘が鳴る少し前くらいだろうか、宿屋のスイングドアを開けカウンターのターニアさんに挨拶をする。

 そのターニアさんが「お帰りなさい」と言い終える前に、飛んできたエミリーにタックルされた。


「おかえりなさ~い!」


 どんどん俺に対する接し方が過激になっていってる気がする……。

 俺の胸に顔をグリグリ擦り付けていたかと思うとキョロキョロ何かを探している。


「うん? どうしたの?」


 ほとんど癖のようになってしまった頭撫でをしながら聞いてみると、シルビアが一緒に居ないので不思議に思ったらしい。


「あ~、シルビアは最初は一緒にギルドで訓練してたんだけどね。なんか彼女の弓の扱いが凄くて、気付いたら人に囲まれてた」


 光景を思い出し苦笑混じりに言う俺に、美少女姉妹が「お疲れさまです」と労ってくれた。

 でも、本当に大変なのはシルビアだろう。

 かなりベテランらしい探索者の男達も居たが、それ以上に女性達に大人気だった。

 もちろん俺ではなくシルビアが。

 「お姉さま~」と懐かれているみたいで、俺がシルビアに声を掛けようとしたらもの凄い目で睨まれた。

 思わずシルビアに「ごめん」と一声だけ言って逃げてきてしまった。

 食堂で男達に睨まれた時の比じゃない。女の子怖い!

 なんか熱心にPTに誘われていたみたいだったが大丈夫なんだろうか?

 いまいちこの世界の人達が好意を寄せてくる基準が良く分らない。

 俺が遠い目をしてたら、エミリーにつんつん突かれた。


「ねぇ、シュンさん。お湯持って行く~?」


「あ、うん、お願い。汗掻いちゃったから身体を拭きたい」


 俺の返事に嬉しそうに頷くとパタパタと裏に走っていった。

 三つ編みに結んだ後ろ髪と尻尾がシンクロして揺れていて見てて和む。

 ターニアさんはそんな俺達を見てクスクス笑っていた。


「すっかり仲良くなったみたいですね。ちょっと我侭な所がある妹ですが、これからもよろしくお願いしますね」


 頭を下げられたので、慌てて俺も「こちらこそ」とお辞儀をする。

 しばらく待っていると両手に桶を抱えたエミリーが戻ってきたのですぐに受け取った。

 女の子にこんな重いものを運ばせるのは申し訳ない。

 「ありがと~!」とお礼を言ってくるエミリーと階段を上がる。

 部屋の鍵を代わりに開けて貰い「お湯早かったね」と声を掛けたら「そろそろだと思って準備してたの~」と、照れくさそうにはにかむエミリー。

 そして、俺を部屋に入れ器用に後ろ手に鍵を掛ける。


「自分の部屋に入るといつもこうやって鍵を掛けてるから慣れちゃったの~」


 その手際の良さに感心してると、ちょっと自慢気に説明してくれた。

 桶を床に置き剣と盾をテーブルの上に置こうとしたら、コップが2つ追加されている事に気付く。

 少し考えてリュックをベッドの側に置き、剣と盾をリュックに立て掛けた。


「コップ持ってきてくれてたんだ、ありがとね」


 お礼を言うと嬉しそうに2つのコップを眺めているエミリー。

 何か妄想でもしてるのかニマニマしてたのでちょっと引いてしまった。


「なんだか一緒に暮らしてるみたい~」


 エミリーの発言に俺まで照れてしまう。

 帰ってきたら美少女が身体を拭いてくれる。

 元の世界では絶対に考えられない状況だ。


「シュンさん、それじゃ~……脱いで?」


 どうやら何かのスイッチが入ってしまったようだ。

 まだ少し恥ずかしいが、昨日もして貰ったのでそれほど緊張することもなく装備を外し上着を脱ぐ。


「後ろからかな? お願いするね」


 そう言って後ろを向くが何故かなかなか拭いてくれる気配がしないので「どうしたの?」と聞くと、とんでもない事を言われた。


「下も~」

 

 戸惑っていると背後に近づいてきたエミリーに、あれよあれよと言う間に下着ごと脱がされてしまった。

 あまりの展開に硬直する俺の身体を丁寧に拭いていくエミリー。

 後ろが終わり前に移動する頃には俺もエミリーもかなり興奮状態になってしまっていた。

 当然のごとく下半身の一箇所が硬くそそり立っている……。

 上半身を拭き終えたエミリーが俺の正面に跪く。


「シュンさん……苦しそうです~……」


 エミリーの瞳が妖しく光っている。

 外では午後2の鐘が鳴り響いていた。



読んでくださりありがとうございました。

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