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探索者  作者: 羽帽子
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第20話:「オマエもなのか?」

「あの……すみません、誰がこの剣を作ったか分りますか?」


 大事そうに鉄の剣を抱え店長に聞く。

 そもそも3つの国からこの『職人の国』を選んだのは、凄腕の職人と早い段階から繋ぎを持っておきたかったからなので、これを作った職人とはぜひお近づきになっておきたい。

 だが、店長は残念そうに首を横に振る。


「申し訳ありません。一部の高級な武具なら分るのですが、そちらの剣等はいくつかの工房から大量に仕入れた物なので誰の作かは分らないのです」


「いえいえ、お気になさらないでください。この剣があまりにも手に馴染むので気に入ってしまっただけですので……。あ、剣はこれを買います!」


 剣を抱えホクホク笑顔の俺に店長さんも嬉しそうだ。


「お気に召して頂けてこちらも商人冥利に尽きます。拝見したところ剣用のベルトをお持ちでないご様子ですので、お近づきの印としてお付けしましょう!」


 専用のベルトなんて物があるのに驚く。

 西部劇とかで見かけるガンベルトみたいな物だろうか?

 店長の言葉に俺が首を捻っているとバードンさんが犬耳少女を指差す。


「なんだシュン、お前その格好でどうやって剣をぶら下げるつもりだったんだ? ベルトってのは、ほれカルアが着けてるやつだ」


 昨日椅子を持ってきてくれた少女はカルアさんって名前だったのかと関係ない事で感心してしまった。

 

「へ~……、剣ってこうやってぶら下げるんですね。確かにこれは便利そうだ。店長さん、ありがとうございます! 大切に使いますね」


 店長も満足気にうんうん頷いている。

 エルフのソニアさんも胸に杖を抱えていたので武器選びはOKみたいだ。

 杖を胸に抱える姿がなんかエロいと思ってしまったのは内緒。

 次に防具売り場へと案内された。

 俺の予算では皮系の装備しか買えないとの事なので、また『鑑定』を駆使していろいろ見て回る。

 今更だが、『鑑定』がMPを消費しない事に神様に感謝。

 一通り皮装備を見たが、剣のように特殊な表示の装備が無かったので少しがっかりしてしまった。

 ちなみに装備は身に着けると勝手にサイズがフィットするようになってるらしい。

 職人凄すぎ。


「あ、盾も買わないと! これは確実に予算オーバーだよなぁ……」


 だが、必要経費だと割り切って木の盾を一つ選ぶ。

 普通のしかなかったので少しがっかり。


「えっと、決まったのでお会計をお願いします」


「はい、かしこまりました。鉄の剣、木の盾、皮の鎧、皮の帽子、皮の籠手、皮の脛当てでよろしいでしょうか? 銅の剣の下取り分を差し引きまして、……全部で銀貨62枚になります」


 思ったよりもずっと安い。流石初心者用の装備だ。

 銀貨62枚を払い会計を済ませる。

 銀貨がまだ30枚残っているので贅沢をしなければなんとかなるだろう。

 それに明日からは迷宮に入るつもりなので収入も見込める。


「お? いっぱしの探索者に見えるじゃねぇか!」


 バシッと背中を叩かれた。

 バードンさん達も会計を済ませたようだ。

 まだレベルが低くアイテムボックスの容量が少ないので、買った装備はそのまま身に着けている。

 帽子だけはちょっと恥ずかしかったのでアイテムボックスに保管。

 店長に見送られて店を後にした。


「オレ様達はこれから家を借りに行くんだがお前さんはどうする? 付いて来ても良いぞ?」


 バードンさんはそう言ってくれたが、俺はちょっとやりたい事があるので丁重に断った。


「すみません、これからギルドの訓練場に行って剣の練習をしてきます。盾を持つのも初めてなので……」


「そうか、頑張れよ! エミリーを泣かせない為にも強くなれ!」


 最後にもう一度俺の背中を叩き去っていく。

 俺は叩かれた背中の痛みに顔をしかめつつギルドへと向かった。






 ギルドは昨日とは打って変わって人の出入りが激しかった。

 職員も今日は4人座っている。

 昨日は一般的な休養日だったので、これが普段の光景なのだろう。

 セリーヌさんもシアさんも見当たらなかったので、訓練場の場所や注意点を聞くために一番空いている所に並ぶ。

 ちょうど前の人の番になった。どうやら新規登録らしい。

 セリーヌさんがしてくれたのより大雑把な感じの説明を復習がてら後ろで聞いてみる。

 前の人は説明を真剣にふんふん頷きながら聞いているので、特典目当てではないらしい。

 こっそり様子を窺ってみる。


「!?」


 声が漏れそうになったので慌てて口を押さえる。

 浅黒い肌に尖った耳。

 ゲームやファンタジー小説でよく出てくるダークエルフそのものだった。

 周りの人もチラチラ見ているのでかなり珍しいのだろう。

 もの凄い美人だからっていうのもあるかもしれない。

 腰まで伸びた輝いている銀髪、スラリと引き締まった肢体。

 それだけでも目を引くのには十分だ。

 思わず失礼を承知で『鑑定』と念じてしまった。


『名前:シルビア

 種族:エルフ

 レベル:1

 取得スキル:弓レベル1・身体強化レベル1・生活・鑑定・スキル取得速度UP』


「……はぁ!?」


 思わず素っ頓狂な声が出てしまった。

 周りの人が一斉にこちらを見る。

 目の前のダークエルフ……シルビアさんも怪訝そうな顔で振り向いていた。

 内心の動揺を隠してペコペコ謝る。

 『鑑定』に『スキル取得速度UP』という事は、俺と同じって事だ。

 まさかこんなに早く同類が見つかるとは……。

 声を掛けるべきなのか迷ったが、ここでの生活に役立つ事のアドバイスはしてあげようと思い列から外れて出入り口近くの壁際に移動する。

 水晶玉での登録も終わったらしく出て行こうとするシルビアさんに声を掛ける。


「俺を鑑定で調べてみて……。で、納得したらちょっと外で話そう」


 それだけ簡潔に言う。

 驚いた顔で俺を見ていたシルビアさんが、鑑定をしたのか次の瞬間目を見開く。


「オマエもなのか?」


 震える声に頷く。


「シルビアさんは今日こっちに送られてきたの?」


「あぁ、さっき飛ばされてきたばかりだ。シルビアで良い。オマエの名前は……何と読むのだ?」


 「シュンだよ」と答えると、「では、シュンと呼ぶ」と即決。

 なかなかさっぱりした性格のようだ。

 とりあえず、簡単にこの世界での注意点だけを伝えた。

 トイレでの失敗談を話したらお腹を抱えて大笑いされてしまった。

 クールだと思ったけどそうでもないみたいだ。

 拠点にしている宿屋、おすすめの服屋と武具屋を教え一旦別れた。

 迷宮の事なども聞きたがっていたので、落ち着いたらまた会う約束をする。

 「俺もまだ迷宮には行ってないんだけどね」と言ったらまた「ククク」と笑われた。


 その後、訓練場で買ったばかりの装備の感触を確認。

 剣はスキルがあるので思った以上に扱えるが問題は盾だった。

 空想の中の敵との模擬戦闘をしてみたが、盾で防ごうとするとどうしても視界を塞いでしまう。

 同じく訓練をしていた人に聞いてみたら「攻撃を受け止めるんじゃなく、弾いたり逸らしたりって感じにすると良いよ」とのアドバイスを貰った。

 午前4の鐘が鳴った所で訓練を中断して宿に戻る事に。

 腹の虫が煩い。






「あれ? シルビア?」


 宿屋に入るとシルビアとターニアさん、それにエミリーの3人がカウンターで話をしていた。

 一斉に振り向く3人、シルビアとターニアさんはニコリと微笑んでくれたが、エミリーは何故か哀しそうな顔をしていた。


「うむ、シュンか。オマエが勧めてくれた武具屋と服屋に行って来たぞ。それと、ワタシもここに泊まるつもりだ。よろしく頼む」


 エミリーの事が気になったが「こちらこそ」と返し握手をする。

 思ったよりもずっと早い再会に思わず苦笑。

 先程とは違い俺と同じ皮装備、腰のベルトには剣ではなく矢筒がぶら下がっている。

 背中のリュックも俺とお揃いだ。

 「アイテムボックスには弓しか入らなかった」と笑っていた。


 会計を終えたらしくターニアさんに連れられて階段を上がっていくシルビアを見送っていると、エミリーが涙を浮かべた顔で俺を見上げていた。


「どうしたの? エミリー?」


 優しく頭を撫でながら聞いてみると、ギュッと抱きついてきたので焦ってしまう。

 周りには誰も居なかったが見られたら流石に恥ずかしい。

 「部屋に行く?」と聞くと顔を埋めたまま頷いたので2人で部屋に戻る事にした。

 シルビアはどうやら隣の部屋らしく、ターニアさんが「お湯は……」「お食事は……」などといろいろと説明をしていた。

 何故かこっちをチラリと見てウインク。何を期待しているのだろうか?

 そんなターニアさんを尻目にエミリーを部屋に招く。

 まだエミリーは俯いているので心配になるが、まずは原因を聞かない事には始まらない。

 腰の剣を外し盾やリュックと一緒にテーブルの上に置く。

 そして、俯いて立ち尽くしているエミリーの手を引き、いつの間にか新しいシーツになっているベッドに座らせた。

 俺はその正面に膝をついて下からじっと見つめる。

 最初は目を泳がせていたが、そのまま見つめていると諦めたのか視線を合わせてくれた。 

 視線が合った所でゆっくりと話し掛ける。


「朝はあんなに元気だったのにどうしたのかな? 何か嫌な事でもあった?」


 無言で俺を見つめているエミリー。

 今にも泣き出しそうだ。

 頭を撫でながら「なんでも話してみて?」と聞くとやっと口を開いてくれた。


「シルビアさん……凄く綺麗な人だった……」


「あ、うん。美人さんだね……?」


 いまいち良く分らない。

 シルビアさんが綺麗だと何か問題があるのだろうか?

 不思議そうに首を傾げている俺を見て「む~!」と何故かお怒りのエミリー。


「シュンさんの方から声を掛けたんだよね~? 親切にいろんな事を教えてくれたって……宿も……」


 拗ねた子供のようなエミリーの態度に俺は衝撃を受ける。

 予期せぬ同類との遭遇に、つい声を掛けてしまったが、もしやこれはリア充共が経験するという伝説の『修羅場』や『嫉妬』というやつなのだろうか!?

 いやいや、ここは冷静になろう。勘違いだったら目も当てられない。

 思わずにやけそうになってしまったが、ぐっと堪えて立ち上がりエミリーの隣に腰を下ろす。


「訓練しようと思ってギルドに行ったら、ちょうど彼女が登録をしてた所だったんだ。で、俺も昨日登録したばかりだから不安な気持ちも良く分ったし、つい声を掛けちゃったんだよ」


 「バードンさんがここを紹介してくれたようにね」と付け加えるとようやくニコッと笑ってくれた。


「それじゃ~……、シルビアさんがシュンさんの好みのタイプだったから声を掛けたんじゃなかったの~?」


 エミリーの言葉に思わずむせる。

 横を見ると真剣な表情で俺を見つめていた。

 その眼差しに、ここで嘘や誤魔化しを言うと信頼を失ってしまう気がしたので正直に話す。


「美人だなって思ったし、好みのタイプかって聞かれたら「うん」としか言えないけど、……でもね」


 涙の溜まった不安そうな眼差しのエミリーの頭にポンと手を置き、


「俺はエミリーの事も凄く好みのタイプなんだよ?」


 耳元で囁くと、『ボンッ!』と言う音が聞こえそうなくらい真っ赤になってしまった。

 そんなあわあわ混乱しているエミリーがあまりにも可愛かったので、一瞬軽く重ねるだけのキスをしたらピキッと固まってしまった。

 嫌だったのかな? 俺の勘違いだったのかな? と心配になってしまったが、顔を覗いてみると口元がにやけていた。

 そのままコテンとベッドに倒れこむと手で顔を覆って脚をバタバタ。

 そんな奇行を見守ってると、ムクリと起き上がったエミリーにいきなり押し倒された。


「シュンさ~ん? あたし、初めてのキスだったんですよ~?」


 上から覗き込んでくる目が怖い。

 まるでヘビに睨まれたカエルを連想してしまった。

 でも、怒っているわけではなく逆に嬉しすぎて困ってる、そんな表情だ。


「大切にするよ」


 いろんな想いを込めて呟くと、口を塞がれた。

 先程の軽いキスではなく気持ちをぶつける様な濃厚なキスに戸惑ってしまったがそのまま受け入れる。

 流石に舌を絡ませたりはしなかったが、気持ちのこもったキスに満足したのかようやくエミリーの唇が離れた。


「あのね? 責任を取って~とか……あたしだけを見て~とか、危険な探索者を辞めて欲しいとかは言わないよ。でもね~……これだけは約束して欲しいの……」


 エミリーの真剣な眼差しに「うん」と頷く。


「……ずっと……ずっと側に居てください。……絶対に、死なないで欲しいです~……!」


 俺の顔にポタリと落ちてくる涙。そんな彼女に俺はもう一度唇を重ねた。


「……うん、守るよ」



読んでくださりありがとうございました。

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