第01話:『異世界ライフを送りませんか? YES/NO』
「あ、この小説も面白そうだな」
時間は気が付けばもう午前2時を過ぎていた。
俺の名前は神城瞬、いわゆるニートってやつなので時間潰しに今日も一日中ほとんど生気を失った目で、ネットの小説投稿サイトで大好きな異世界トリップ物の小説を漁っていた。
「はぁ……。こいつら羨ましいよなぁ~。俺もこんな世界じゃなくて異世界にトリップしたい……」
流石に少々眠くなってきたので、気になった小説をお気に入り登録だけして寝ようと思い登録ボタンにカーソルを合わせる。
「あ~、そういえばもう登録したお気に入り小説って100個くらいになったのかな?」
眠い頭でそんな事をぼーっと考えながらカチッとマウスを左クリックして登録した瞬間、いきなり別のサイトへ飛ばされてしまったようだ。
「は? え???」
寝ぼけ眼を擦りながら画面に顔を近づけてそのサイトの一文を読む。
『異世界トリップに憧れているアナタ! 是非私の世界で楽しい異世界ライフを送りませんか? YES/NO』
その文の意味を理解した瞬間、俺の脳が一瞬にして覚醒した。
「来たか? ついに俺にも来たのか……!? あ、悪戯の可能性も……。いや、でも……」
俺は前のめりになりながら急に激しくなってきた鼓動をどうにか抑え、震える手でYESにカーソルを合わせクリックをする。
『一度異世界に移住をすると二度と元の世界には戻れなくなりますが、よろしいですか? YES/NO』
次のページの文に目を通すと、ちょっとでも目を逸らしたら消えてしまっているかもしれないと不安だったので、画面から目を離さずに軽く深呼吸をしてみる。
「ス~……ハァ~……ス~……ハァ~……。ま、まぁ、この世界には何の未練もないし悩むまでもないよな!」
正直、まだ悪質な悪戯である可能性も捨てきれない。
と言うか、その可能性の方が高いだろう。
この状況でも意外に冷静に頭が回っていることに自分でも驚きながら、それでも若干の期待を込めてYESをクリックする。
その瞬間PCの画面が激しく光りだした。
「うあぁっ!?」
前のめりに食い入るように見ていたためモロに光を見てしまい反射的に立ち上がって両手で目を覆う。
「くっ……、やっぱりただの嫌がらせかよ……!」
いきなり激しい光を見たため頭がクラクラする。
おまけに目もやられてしまったようなので何も見えない。
「あー、くそっ! 期待した分だけ騙されるとキツイなぁ……」
まだ若干目がしぱしぱするが騙された怒りでキッと画面を睨みつけ……ようとしたら何か様子がおかしい。
目の前にはPCの画面ではなく頭の天辺から足の先まで真っ白なお爺さんがちょこんと立っていた。
「やぁ、ようこそ! わしの世界に……じゃ!」
そんな事を言いながら右手に杖を持ち左手で異様に長い真っ白な髭を弄りながら楽しそうな顔でこっちを眺めていた。
読んでくださりありがとうございました。