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探索者  作者: 羽帽子
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第13話:「これで貴方は探索者となりました」

 服屋から出ると軽く背伸びをする。

 緊張していたのか身体が少し強張っているようだ。


「それにしても、クゥちゃん可愛かったなぁ。お母さんも美人だったし」


 ほんの少しの期待を込めて後ろを振り返ってみるが、店のドアはしっかりと閉じられていた。

 流石に外まで見送りには来てくれなかったらしい。

 若干の寂しさを覚えたが気を取り直して正面の探索者ギルドへと足を向けたが、先程覗いたときに門番のガルスさんよりもごっつい人達が居たのでちょっと怖い。

 気後れしてUターンしそうになったが、ほんの3時間ほど前まではこの世界の神様に会ってたのだ、今更ただの一般人にビビっても仕方が無いと腹を括り建物の中へと足を踏み入れる。

 だが、中に入って拍子抜けしてしまった。


「あれ? 俺だけ?」


 受付のカウンターには何やら作業をしていた職員らしい女性が2人座っていたが、それ以外には俺しか居なかった。

 先ほど見たごつい男達も居なくなってるみたいだ。

 なので、当然のように女性2人から注目を浴びることになってしまい、緊張で顔が強張ってしまう。

 そんな俺を気の毒に思ったのか、ショートカットの女性職員が声を掛けてきてくれた。


「探索者ギルド……ダーレン支部へようこそ。こちらへは初めてですか?」


 口調は淡々としていたが、優しそうな声なので引き寄せられるようにカウンターに近づいていく。

 もう一人の髪の長い女性職員は最初こそこちらを興味深そうに見ていたが、今はまた作業に戻っていた。

 書類整理だろうか? 2人だけしか見当たらないので結構大変そうだ。

 カウンターの正面に立ち改めて声を掛けてくれた女性職員を見る。

 近くで見ると思っていた以上に相手が美人だったので少し気後れしてしまうが、服屋でクゥちゃん達と会話してきたのが功を奏したのか、緊張しながらも割りとすんなり言葉が出てきた。


「はい、ついさっきこの街に着いたばかりです。探索者になろうと田舎から出てきました」


「では、説明をさせていただきます……」


 いきなり説明が始まってしまった。

 どうやら世間話とかするタイプではないらしい。

 わざわざ声を掛けてくれるくらいだから根は優しいのだろうが、淡々としてるのでいまいち良く分からなかった。

 少し戸惑ったが説明を聞き漏らさないように神妙な顔をして耳を傾ける。


「まず探索者の仕事ですが、迷宮の探索がメインとなります。迷宮が活動期になってからの猶予期間内に攻略が完了するように、少しでもご尽力いただければと思います」


 攻略に失敗した映像を思い出しブルッと震えてしまった。

 どこまで自分が役に立てるか不安だったが、頑張ってみようと決意を込めて頷く。

 そんな俺を見てほんの少しだが微笑んでくれた。

 笑うとちょっと幼く見えるので何だか可愛い。

 思わずその笑顔に見惚れていると、すぐに元の真面目そうな顔に戻ってしまった。


「迷宮探索は危険も多く命がけです。ですが、誰かがやらなければいけない大切なお仕事です。なのでこれから探索者になる貴方にはそれなりの特典もあります」


 思わず『特典』という単語に反応する俺。

 神様から貰った特典がかなり凄かったので期待してしまう。

 そんな俺の反応にもさして気にした様子もなく淡々と説明を続ける。


「探索者になるとどの街に行っても通行料を払わなくて済むようになります。これは優秀な探索者には国境を越えた活動を積極的にして貰おうと言う配慮です」


 俺はこの街に来た時の通行料をガルスさんが代わりに払ってくれたのを思い出し改めて心の中で手を合わせておく。


「次に探索者ギルドがある街ではほとんどの店で1~2割引になります。これは特にそう言った規則があるわけでありません。純粋に脅威に立ち向かってくれる探索者への厚意だと思ってください。ですので割引をして貰えなくても怒ってはいけません」


 わざわざ付け加えるという事はきっと割引をして貰えなかった人がトラブルでも起こしたのかもしれない。 

 そういった苦情もギルドに入ってくるのだろう。

 まだ探索者ではなかったのにクゥちゃんのお店で割引して貰えたのは、かなりラッキーだったみたいだ。


「最後にこれが一番大きいと思いますが、探索者の資格を1年以上維持し続けている人に限り毎年の税金が免除されます。貴方の場合ですと来年以降の話になりますので今すぐ影響があるという訳ではありませんが……」


 税金がどれくらいなのか分らないので判断が難しいが、これはかなりの高待遇ではないのだろうか?


「ただ、これらの特典目当てに登録するだけして、迷宮探索を疎かにする人や旅の商人が最近は特に増えてしまっています」


 チラリとこちらを窺う女性職員。

 ガルスさんも言っていたがどこにでもズルをしようとする輩はいるらしい。


「そういった事への対策なのかどうかは分りませんが、登録をしますと毎月一定の数の魔物を倒さないと探索者としての資格が抹消されてしまうのでお気を付けください。倒すだけでなくちゃんとギルドに来て更新をするようにお願いします」


 どのくらいの数を倒す必要があるのかは分らないが、積極的に探索するつもりなので問題はないとは思う。

 だが、怪我や病気などで探索出来なくなる場合もあるかもしれないので油断は禁物だ。

 ギルドに来たらこまめに更新した方が良いかもしれない。

 問題なのは一ヶ月が何日なのか分らない事だ。

 ここは恥を忍んで思い切って聞いてみるべきだろう。

 聞くは一時の恥、聞かぬは一生の恥である。


「あの、すっごく田舎に住んでいたもので……、今日って何月の何日ですか? あと俺が居た所では一ヶ月が30日前後だったのですが……」


 恐る恐る聞いてみると流石に驚いているみたいだったが、俺の今にも泣きだしそうなくらい困った顔を見て親切に教えてくれた。


「本日は馬の月の6日目です。一ヶ月が30日なのは合っています。一週間が6日でそれが5回で一ヶ月です」


 それだけでもありがたかったのに、さらに細かい情報まで丁寧に教えてくれた。


「今日は一週間の6日目に当たるので、休養日にするのが一般的です。ギルドは年中無休ですが、探索者の中にもきっちり休む人が多いですね」


 だからこんなに人が居ないのかと思わず納得。

 さっきの服屋はちゃんと営業していたので例外はありそうだが、俺も定期的に休みを取った方が良いだろう。

 しかし、ニート歴がな長かったので、怠けすぎないようにするのが一番大変かもしれない。

 お礼を言うと少し照れくさそうに頷き、カウンター脇に置いてあった占い師が使いそうな大きな水晶玉らしい物を俺の前に差し出してきた。

 いきなり占いでもするのだろうか?

 「貴方は才能がありません」とか言われたらどうしよう。


「では、この水晶玉に手を置いてください。少し熱くなったりしますが心配ありませんので」


 内心ヒヤヒヤしながら水晶玉を見ていると手を置くように言われたので、素直に右手で水晶玉に触ってみる。

 それを確認するとおもむろに呪文らしきものを唱え始めた。

 すると水晶玉を触っている右手が熱くなってきたので少し焦ったが我慢する。

 じっと自分の右手を見つめていると手の甲に徐々に魔法陣のようなものが浮かび上がってきた。

 くっきりと浮かび上がった所で呪文が終了。


「成功です。これで貴方は探索者となりました」


 その言葉に呆然と自分の右手を見ると、手の甲の魔法陣が刺青のようになっていた。

 無駄に格好良く、何だか中二心がくすぐられそうな文様だ。

 内心ちょっと浮かれ気味に手の甲を眺めていると、淡々とした女性職員の声が聞こえてきた。


「探索者になった方は2階の資料室やここの裏にある訓練場を利用することができます。あと、探索等で手に入れたアイテム類は隣の部屋で売る事が出来ます。職人の街なので需要が多いです、ご協力頂けると幸いです」


 慌てて視線を戻して頷く。


「これからのご活躍を期待しております。ですが、くれぐれも無理をなさらずに……お身体を大事にしてください」


 丁寧なお辞儀と共に言われた言葉に俺も自然とお辞儀をする。


「少しでもこの世界の脅威を取り除けるように頑張ります!」


 そんな俺に彼女が満面の笑みを浮かべていた。

 隣に居たもう一人の女性職員が驚いた顔で同僚の笑顔を見つめているので、きっとレアなのだろう。

 俺も当然のようにそんな素敵な笑顔に見惚れていた。


 

読んでくださりありがとうございました。

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