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探索者  作者: 羽帽子
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第11話:「ダーレンへようこそ!」

 目の前の兵士は見た目こそ若々しいがその二の腕は俺の倍近くあった。

 戦ったら恐らく瞬殺されるだろう。

 怒らせないように気をつけようと心に決め大人しく付いていく。


「おう、悪いんだが門番をちょっとだけ代わってくれないか? この兄ちゃんの怪我に傷薬を塗ってやりたいんでな!」


 詰め所で休憩中だったらしい一人の男に声を掛けて俺を中に入れる。

 椅子に座って寛いでいた男が俺の姿をチラっと見た。

 一瞬「子供?」と口走りそうになったが必死に我慢する。

 身長は俺の胸位までしかなさそうだが、その身体つきはやたらとガッシリしていた。

 それに何より髭モジャだ。

 もしかしてドワーフなのだろうか?

 鎧を身に纏い貫禄もあるので内心ビビりつつも、初めての異種族との遭遇に興奮していると、その男は無言で頷き立て掛けてあった槍を手に取って出て行ってしまった。


「アイツは無口だがなかなか良いヤツでな?」


 俺を連れてきた兵士は、そう言いながらゴソゴソと薬箱のような物を取り出していた。


「ほれ、そこに座れ。ちょっと傷口を洗い流すぞ? あ、それと武器はちゃんと鞘に……って鞘持ってないのか? それじゃ、アイテムボックスにでも入れておいてくれ。流石にそのままじゃ街に入れるわけにもいかないしな」


 目の前の兵士を見ると腰にはちゃんと鞘に収まった剣があった。

 自分の剣を見て慌ててアイテムボックスにしまうと、兵士は俺の左側の袖をまくり傷を確認する。


「ウォーター!」


 兵士がその言葉を言った瞬間、指先から水が飛び出し俺の左肩に当たる。


「い、痛ッ!」


「我慢しろ。この程度の傷で泣き言なんて恥ずかしいぞ?」


 ニヤリと笑いながらなおも水で傷口を洗う兵士。

 これは生活スキルなのだろうか? と感心しつつ文句の一つでも言ってやりたかったが、好意でしてくれているのだとなんとなく伝わってくるので黙って我慢しておく。


「お? もう血はちゃんと止まってるじゃないか。これなら大丈夫そうだな!」


 ガハハと笑いながら同じように右脚の傷も洗い流してくれた。

 どうやら、ちゃんと『HP回復速度UP』のスキルが効いていたようだ。


「ほれ! これで終わりだ!」


 バシッと背中を叩かれて我に返る。

 どうやら俺がぼーっと考え込んでる間に傷薬まで塗ってくれたようだ。

 スースーして少し染みるが良く効きそうな感じだ。

 匂いは……何か微妙な匂いだ。

 苦そうな匂いとしか言いようが無かった。

 その微妙な匂いに「HP回復速度はもっと上げよう!」と心の中で誓う。


「ありがとうございました! 薬まで塗って貰っちゃって……」

 

 この世界での傷薬の価値がどれ程かは知らないが、それなりの値段はするだろう。

 兵士にお礼を言って立ち上がる。


「いやいや気にするな、大怪我じゃなくて良かったじゃないか!」


 いい人で良かったと安心して改めてお礼を言い外に出ようとしたが呼び止められる。


「あー、ちょっと待ってくれるか? これから一応、門番としての仕事をしなけりゃいけないんだよ」


 そう言いながらまた俺を椅子に座らせた。

 兵士の言葉に思わず警戒してしまう。

 何か拙い発言でもあったのだろうか?

 それとも見た目からして怪しいと思われてるとか?

 警戒心駄々漏れの俺の態度に笑いながら手を振る兵士。


「ガハハ、そんなに身構えなくて良いぞ。ただオレも門番だからな。一応どんな理由でこの街に来たのか確認だけでもしておきたいんだ」


 なるほど、確かに門番としては最低限確認しておきたい事柄なのだろう。

 特に隠すようなことではないので正直に話す。


「えっと、山奥の田舎から来たのはさきほど言いましたが、実はこの街で『探索者』になろうと思ってやってきました」


「ほう、探索者になりたいのか。最近は恩恵目当てに登録だけしてろくに活動もしないやつらが増えたが……」


 俺の目をじっと見つめながらそう言ってくる兵士。

 だがすぐにニヤリと笑う。


「まぁ、お前さんなら大丈夫そうだな。これでも人を見る目には自信があるからな! それに一人で魔物と戦う度胸もあるみたいだしな」


 満足そうにそんな事を言ってくれた。

 褒められたようなのでなんか照れくさい。


「あぁ、そう言えばお前さんの名前を聞いてなかったな。オレの名はガルス、この国の兵士で門番をしている。よろしくな!」


「あ、シュンです。こちらこそよろしくお願いします」


 今更だと思ったが自己紹介は大事だ。

 ちょこんと丁寧に頭を下げた俺を面白そうに眺めているガルスさん。

 どんなスキルを持ってるのか気になったので『鑑定』してみようかな? と言う思いが頭に浮かんだが、なんだか失礼な気がして自重しておく。


「そんじゃ、用は済んだし外に出るか。何はともあれ、ダーレンへようこそ! ここが職人の国ドゥーハンの王都だ!」


 詰め所を出たガルスさんは自慢気にそう言いながら目の前の街並みに目を向けていた。

 俺も同じように街を眺めてみる。

 何だか思ったよりシンプルな街に見える。

 しかし、建物の造りとか壁などがやたらと頑丈そうのできている。

 流石は職人の街といったところか。

 見るもの全てが新鮮なので、瞳を輝かせながら街を見ている俺を見てガルスさんもご満悦そうだ。

 さっそく街の探索に繰り出そうと意気揚々としていたらガルスさんに止められた。


「シュン、お前さんはとりあえずその服をどうにかした方が良いと思うぞ? あー、この大通りを真っ直ぐ進んだ右側に真っ白な大きい建物があるだろ? あれが探索者ギルドだ。服屋は道を挟んでちょうど向かい側だな」


 親切に教えてくれた。

 確かに通り掛かる人のほとんどが俺を見て眉をひそめている。

 流石にこのままだとめちゃくちゃ恥ずかしい。

 すぐにでも新しい服に着替えた方が良さそうだ。

 ガルスさんに治療の事も含めてお礼を言うと、照れくさそうな顔をしている。


「気にしなくて良い、やる気のある探索者は貴重だからな! 本来なら通行料を貰わないといけないんだが、これはご祝儀ってことでオレが払っておく。その代わり無理しない程度に頑張ってくれよ?」


 俺の背中をバンバン叩きながら豪快に笑っている。

 照れ隠しなのだろうが痛いですガルスさん。


「あ、あの、ありがとうございます。ガルスさんを失望させないような探索者になりますね」


 満足そうにうんうん頷いているガルスさんに見送られて俺は街への一歩を踏み出した。



読んでくださりありがとうございました。

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