第116話:「「「召し上がれ」」」
「……魔石勝負」
サーシャの何気ない一言によって一変してしまった空気を全く気にせず、ドルチェが左右に座っているアイラとリンの顔を交互に見上げている。
口の端がわずかに上がっているので、どうやら楽しんでいるようだ。
サーシャもテーブルの上に身を乗り出して二人の顔を覗き込んでいる。
「うっ……。シュン達の無事な姿を確認してからにしようってリンと話してたから、まだどっちが勝ったとかは分からないよ!」
そう言ってアイラがリンに探るような視線を向けると、リンはにっこり微笑みテーブルの上にアイテムボックスから取り出した魔石を一つ置いた。
「わたくし達の方は『土魔石』が一つですわ。アイラ様の本日のご成果は?」
そう言ってリンがアイラに笑顔を向けるが、目が全然笑っていないので間に挟まれている俺としてはちょっと怖い。
「あ、アタシだって!」
頬を膨らませたアイラもアイテムボックスから取り出した魔石をテーブルにドンと置く。
こちらはどうやら『水魔石』のようだ。
「……引き分け?」
テーブルに置かれた二人の魔石を交互に見つめてドルチェが小首をかしげる。
引き分けということは今夜は……。
「どうやら今夜は二人……いや、ドルチェも含めて三人か。良かったじゃないか、シュン」
ダリアが「ククク」と笑いを堪えながら冷やかしてくるが、この三人というか、アイラとリンが一緒になるとベッドの上でもお互いライバル心剥き出しで歯止めが利かなくなってしまう恐れがあるので、正直なところ俺としては期待よりも不安でいっぱいだ。
そんな俺の心情を知ってか知らずか、当の二人は負けなかったことが余程嬉しかったらしく、珍しく上機嫌でお互いの健闘を称え合っていた。
ようやく張り詰めていた空気が元に戻ったので、ホッとため息をついて食事を再開したのだが、時間が経つにつれて俺の身体にある異変が起こっていた。
先程からやたらと身体が熱い。特に下半身のある一部が……。
そうとは知らないアイラとリンが相変わらず俺を挟んで会話を弾ませている。
「それにしても、土トカゲを見つけるなんて、リン達は凄いよ!」
「うふふ、シュン様のご指導の賜物ですわ」
俺の右肩に頭を寄せてはにかむリン。
サラサラで良い香りがする髪が頬に当って……股間が痛い!
「アイラ様こそ、水トカゲをお倒しになるなんて……火魔法では大変だったでしょう?」
「うん、聞いてよ聞いてよ! アタシの魔法じゃ倒しきれなかったけど、ダリアが剣でシュバッて倒したんだよ!」
興奮したアイラがリンに楽しそうに身振り手振り説明しているのだが、動くたびに二つの大きく柔らかい胸が俺の左腕に押し当てられて……股間が超痛い!
そして、とどめとばかりに、
「シュンにぃ……もっと食べて」
俺の膝の上に陣取ったドルチェが、俺の為にわざわざ作ってくれた料理を小皿に乗せてしきりに勧めてきて……小さいが張りのあるお尻を敏感になっている部分に擦り付けてきていた。
というか、ドルチェは絶対に気づいている。どう考えても原因はこの料理だろう。
「ど、ドルチェ……この料理って」
「あぅ……耳は弱いから」
「あ、ごめん」
周りに気づかれないように小声でドルチェに問い質してみようと思ったのだが、つい息が荒くなってしまっていたようだ。
それにしてもピクピク動いて可愛い耳だ。思わず甘噛みしたくなるのを何とか堪える。
「それより、この料理って何か入ってる?」
「今夜は……三人。精を……つける」
やっぱりそれ系の何かが入っていたか。
だけど、もしアイラとリンが二人とも魔石を手に入れていなかったらドルチェ一人で俺の相手をすることになっていたような?
ただでさえ『精力強化』のスキルがあるのに、どうなっても知らないぞ?
「ぼくは……一人でも大丈夫。むしろ……その方が良かった」
相変わらず俺の考えていることはお見通しらしい。
「ちょ、ちょっとドルチェ! 一人でもってどういうこと? 抜け駆け反対だよ!」
「アイラ様のおっしゃるとおりですわ! そ、それにシュン様のお料理にいったい何を!?」
小声で話していたつもりだったが、流石にすぐ傍にいる二人には聞こえていたようだ。
目を吊り上げて詰め寄ってくるアイラとリンにドルチェが悪戯っぽい顔で答える。
「……『ナイトゴブリンの血』。今日……手に入った」
「そ、それって殿方の……あ、あの……せ、精力を高めるという?」
ナイトゴブリンのドロップアイテムを手に入れた時のドルチェの意味深な笑顔はこういうことだったのか。
リンはアイテムの効能を知っているのか顔を真っ赤にして俯いてしまったが、俺は気づいていた……俯きながらもチラチラと俺の股間に視線を向けているのを……。
「ドルチェが料理なんて珍しいな~って思ってたけど、シュン大丈夫? なんだか辛そうだよ?」
俺の顔を心配そうにアイラが覗き込んでくる……胸を押し当てながら。
これ以上刺激されたら理性が吹っ飛んでしまいそうだ。
「……元気になってるだけ」
ドルチェがアイラの胸を親の敵のように見つめながら対抗するようにお尻を更に押し当ててくる。
「で、でもドルチェ! そういうことをする時は事前にちゃんとアタシ達に言ってくれないと! そ、それに、ドルチェは『不戦勝』って扱いにはなってるけど、もし勝負してたら今夜は参加できなかったんだから………………え?」
アイラが言い終える前にドルチェがテーブルの上に二つの物体を置いた。
「おっ、そういえば『光魔石』を手に入れてたんだっけ! 25階層は銅塊や銀塊だけじゃなくて光トカゲまで出るからラッキーだったよな! あ、ちょっと借りるぜッ!」
正面に座っているサーシャが魔石を両目に押し当てて「光る眼!」とか言いながら遊んでいる……子供か!
「うふふ、サーシャ様ったら」
そんなサーシャを見てリンが面白そうに笑っているが、アイラの顔は思い切り引きつっている。
そして、何故か俺がアイラに涙目で睨まれてしまった。
「シュンの意地悪~!」
まぁ確かに光トカゲを見つけたのも倒したのも主に俺だったからなぁ。何ていうか……すまんかった。
でも、見つけたら最優先で倒したくなるのが探索者の性なので許してほしい。
「ぼくの……独占?」
「わ、悪かったよぅ! アタシの負け! でも、今度からそういうことをする時はちゃんと教えてよねッ!?」
いや、俺としてはまず真っ先に俺に相談して貰いたいんだけど……事後承諾とかじゃなくて。
それよりも、そろそろ本格的にヤバイことに……。
「シュン様……お辛そうですわ」
俺の今にも張り裂けそうになっている部分に視線が釘付けになっているリンから唾を飲み込む音が聞こえてきた。
アイラもスイッチが入ってしまったのか更に胸を押し当ててくる。
「ねぇ、もういっぱい食べたよね? 後は寝るだけだよね?」
「そ、そうですわね。早くベッドに……あ、いえ、お部屋に参りましょう」
周りの目を気にしてか必死に取り繕うとしているリンだが、どう見ても興奮してるのがバレバレだ。
ダリアやヘルガ、それに実の姉であるシーナが苦笑している。
サーシャも俺たちの雰囲気に気づいたのか「あ! まったく! てめぇらはいつもいつも!」と顔を真っ赤にして怒り出した。
でも、お前はまた今夜も覗き見するんだろ?
「それじゃ……ごちそうさま。今度はシュンにぃに……ぼく達を食べて貰う」
身も蓋もないことを平然と言いながらドルチェが立ち上がり、俺の手を引いて二階へと引き摺っていく。
「あ、待ってよ! 抜け駆け禁止ッ!」
「わ、わたくしを仲間外れにしないでください!」
慌てて俺達の後に付いてくる二人の背後からダリアの声が聞こえてきた。
「ちゃんと『防音の魔具』は使うんだぞ!」
「うふふふ……まずはわたくしからですわね!」
全裸になってベッドに正座しているリンが「よろしくお願いします」とお辞儀をしてくる。
ジャンケンで勝ったリンが一番手で、その次がアイラ……最後になってしまったドルチェはチョキの形になっている自分の右手を親の敵のように睨み付けていた。
「これからシュン様にケモノのように襲われてしまうのですね……興奮してしまいますわ」
「早く終わらせてよね? アタシだってもう我慢の限界なんだから!」
「ぼくも……いつでもOK」
周りの目もなくなって(ドアの隙間から覗いている目はあったが)全員裸になったことで女性陣の興奮もピークに達しているようだ。
もちろん俺もアイラと同じく我慢の限界だ。というか、理性が今にも完全に飛びそうになっている。
ベッドに横になったリンの両脚がゆっくりと開かれる。
背中にはアイラの豊満な胸が押し当てられ、首筋には先程からドルチェが吸い付いている。
「シュン様」
「シュン」
「……シュンにぃ」
理性が崩壊しようとしている俺の耳に三人の甘い声が聞こえてきた。
「「「召し上がれ」」」
ハイ、イタダキマス。
その夜、俺は一匹のケモノになった。
読んでくださりありがとうございました。
頑張ります。




