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探索者  作者: 羽帽子
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第111話:「ちょっと刺激が……強すぎた?」

「ゴクゴク……ふぅ~……今日は順調だな! もう23階層だぜ!」


 コップの中の水をサーシャが一気に飲み干す。

 23階層の最初の小部屋でひと息入れているのだが 21、22階層をほぼ無傷で攻略できたので、サーシャがいつになく上機嫌だ。


「やっぱり、ドルチェの装備は凄いな」


 武器が『鉄の剣:+8』になった事で、今までとは段違いに戦闘時間が短くなった。

 うんうん満足げに頷いている俺を見てドルチェも嬉しそうにしている。

 今後、ドルチェやサーシャの武器が新しくなればもっと楽になる事だろう。


「盾は……どう?」


「うん、鉄ネズミの攻撃もちゃんと防げたし、問題ないよ」


 特訓の成果なのか盾スキルを上げたからなのかは分からないが、鉄の盾がやけに軽く感じられる。 

 もっと手ごわい魔物が出た時にどれだけ戦えるか今から楽しみだ。


「それじゃ、この調子で23階層も攻略しちゃおうか」


「よっしゃ! 任せろ! 焼き尽くしてやるぜ!」


「油断は……ダメ」


「お、おう! だ、大丈夫だぜ!」


 早く探索を再開したくてうずうずしていたのか、勢い良く立ち上がったサーシャにドルチェがすかさず釘を刺す。

 もう何度も繰り広げられた光景に、俺達の顔には自然と笑みが浮かんでいた。


 探索を進めるとすぐに何匹かの魔物の気配を感じ取る事ができたので、一番近くに居る魔物を目指す事にした。


「1匹だけでうろついてるみたいだから丁度良いかな? 22階層とは違って走り抜けなくても良いから逆に楽かも」


「ダーレンでもあの土ネズミの大群を相手にするのか……憂鬱だぜ」


「『鉄』が手に入るから……ぼくは好き」


 げんなりした顔のサーシャとホクホク笑顔のドルチェ。

 ここまではっきりと2人の評価が分かれる階層も珍しい。


「っと、そろそろ魔物の近くだから集中しよう」


「探知スキルがあるシュンが居ると、ずっと気を張っていなくても良いから助かるよな」


「俺はレーダーかよ……」


「……れーだー?」


「あ、何でもないよ、ドルチェ」


 ドルチェが小首を傾げて見上げてくるが、説明するのが難しいので誤魔化しておく。それに、もう魔物が目と鼻の先に居るので気持ちを入れ替えないと。

 ドルチェ達をその場に待機させて慎重に魔物の様子を窺うと、そこには見慣れた魔物の姿が……。

 流石に初めての階層での最初の戦闘なのでそれなりに緊張していたのだが、拍子抜けしてしまった。


「……シュンにぃ?」


 戻ってきた俺の何とも言えない微妙な顔を見てドルチェが心配そうに声を掛けてくる。


「えっと、『ハイゴブリン』だった。スキルは多少強化されてるから注意が必要……かな?」


「何だ、ゴブリンかよ」


「……やった」


 サーシャも俺と同じような表情をしているが、ドルチェは何故か嬉しそうだ。

 俺の服を引っ張って「……早く」と急かしてくる。

 幸いハイゴブリンはまだこちらに気付いていないので、ドルチェの突然の変化に戸惑いつつもサーシャに指示を出した。

 

「そ、それじゃ、いくよ? サーシャ、魔法で先制攻撃を頼む」


「任せろ……ファイアボールッ!」


「ギャッ!?」


 背中に直撃を喰らったハイゴブリンが地面にのた打ち回るが、すぐに起き上がってこちらに突進してきた。


「流石にこのレベルだと致命傷にはならないか……っと!」


 棍棒の一撃をかわし、顔面に盾を叩き込んで仰け反らせる。


「……粉砕」


 そして、よろけたところを背後に回り込んでいたドルチェが、ハイゴブリンの焼け爛れている背中に容赦ない攻撃を浴びせていた。

 しかし、流石は23階層の魔物といったところか、何かが砕けた音がしたにも関わらず、背後のドルチェに向かって棍棒を振り下ろそうとしている。


「さ、させるか!」


 ドルチェのピンチに俺は無我夢中で剣を叩き込んでいた。

 頭を失い棍棒を振りかぶったままのハイゴブリンの身体がゆっくりと崩れ落ちる。

 どうやら、俺の一撃がハイゴブリンの首を斬り落としていたようだ。


「シュンにぃ……ありがと」


「ちょっと危なかったね。知ってる魔物でも、レベルが違うとここまで強くなるのか……」


「あぁ、あたいももうちょっと楽に倒せると思ったけど、やたらとタフだったな」


 もし新しい剣でなかったら首を斬り落とせていたか疑問だ。

 油断はしていないつもりだったが、知っている魔物という事で心の中に気の緩みがあったのかもしれない。


「ダーレンでも以前戦ったボスがザコとして出てくる事はあったけど、レベル差も10くらいしか違わないからあまり変わらない印象だったしなぁ」 


「もう……別の魔物」


「うん、新しいスキルを覚えてる可能性もあるし、先入観には気を付けた方が良いかも」


 俺とドルチェがあれこれ反省点を上げていると、サーシャがドロップアイテムである『木の棒』を差し出してきた。


「しっかし、レベルがいくら上がっても落とすアイテムは変わらないんだな。しけてやがるぜ!」


「でも……鉄と同じくらい……欲しかったアイテム」


「あ、そういう事か!」


 差し出された木の棒を受け取り満面の笑みを浮かべているドルチェを見て、俺はピンときたがサーシャはまだ気付いていないようだ。

 きょとんとした顔で俺とドルチェの顔を交互に見ている。


「木の棒がか?」


「……サーシャの杖」


「!?」


 ドルチェの言葉にサーシャが息を呑む。


「む、胸当てを貰ったばかりなのに……い、良いのか!?」


「……当然」


「ふぁぁ……あ、ありがとな! ドルチェ!」


 ドルチェの手を取りブンブン振って喜んでいるサーシャだったが、ドルチェの次の言葉を聞いて絶句してしまった。


「今回は……普通の杖。その次は……魔石を使う」


「あ……え?」


 ギギギと俺の方に強張った顔を向けてくるが、何故そこまで驚いているのだろうか?

 戦力を強化するのなら属性付きの装備は必要だと思うのだが……。

 サーシャが固まったままなのでドルチェに話し掛けてみる。


「サーシャの杖だったらやっぱり『炎魔石』かな?」


「その予定……楽しみ」


 ドルチェも早く作りたいのか拳を握り締めて鼻息が荒い。

 魔石が手に入ったら次回と言わず、すぐにでも作り出しそうな勢いだ。


「ちょ、ちょっと待てよ! 属性付きの杖なんていったいいくらすると思ってんだよ!?」


「買うと……金貨5枚くらい。でも……ぼくが作るから……無料」


「良かったな、サーシャ。しかもドルチェが作る杖だから性能がとんでもない事になるぞ?」


「いや、でも……そんな高価な杖……あたいには……」


 サーシャの顔が引き攣ってしまっているが、逆に俺は何だかわくわくしてきた。

 俺もいつか『炎の剣』とか作って貰いたい。


「本当は……『魔王樹の枝』を……使いたい」


「魔王樹? 初めて聞く名前だけど魔物なのかな?」


「魔樹の……強化版。早く……倒したい」


「へぇ~、楽しみだな……って、サーシャ大丈夫か?」


 いつの間にかサーシャが地面に体育座りをしながら遠い目をしていた。


「ちょっと刺激が……強すぎた?」


「そうなの?」


「属性付きの……魔王樹の杖は……国宝級」


「え? 国宝って……そんなにレアだったんだ。って……イタタタタ!?」


 驚いている俺の両頬をサーシャが思い切り摘んで引っ張り、そのまま顔を寄せてまくし立ててきた。


「ったく! シュンはそんな事も知らないで話してたのかよ! 鍛冶王と言われているボルダス王ですら作るのに何度も失敗して結局1本しか作れなかった代物だぞ! そもそも魔王樹自体がレアな魔物だから必ず迷宮に出てくるってわけでもねぇし! 属性杖だけでも高価過ぎるのに、魔王樹って! あぁ! もう!」


「く、詳しいんだな」


 言い終えるとやっと手を放してくれたので、ジンジン痛む頬を手で擦りながらドルチェの顔を見ると、「……有名」と言われてしまった。

 ちなみにその成功した1本はカーラ女王が所持しているらしい。


「でも、ドルチェだったら作れるよね?」


「今のぼくだと……微妙。鍛冶レベル……上げないと」


「ドルチェなら本当に作れちゃいそうだけど、問題は迷宮に魔王樹が出てくるかどうかだぜ」


「こればっかりは……運」


 サーシャの最強武器を手に入れる為にも是非ともダーレンの迷宮に出てきて貰いたいものだ。

 俺はふとある事が気になったのでドルチェに聴いてみることにした。


「剣とかの武器だと、どの素材を使うのが一番強い?」


「英雄ロメルスが持ってた……『水の魔剣』。……魔鉄製」


「確かそれもボルダス王が作ったんじゃなかったっけ?」


 そういえば、以前カロの街の件でバードンさんと一緒に呼ばれた時にボルダス王が『ワシが授けた剣も失われてしまったか……』って言っていたような気がする。

 あの時言っていた剣が『水の魔剣』だったのか。


「魔鉄ってのはどの魔物が落とすアイテムなのかな?」


「確か……魔鉄ゴーレム」


「ゴーレムか、そんなのまで居るのか」


 ゲームやファンタジー小説ならお馴染みのゴーレムだが、この世界にも出てくるようだ。

 もしかしたら世界を作った神様が同じなのが影響しているのかもしれない。

 などと考えていると、こちらに近付いてくる魔物の気配を察知した。

 話している間も探知スキルで周囲の警戒をしておいたのだが、かなり大きな声で話していたので流石に気付かれてしまったようだ。

 俺の気配が変わった事を感じ取ったドルチェとサーシャの顔が引き締まる。


「さてと、俺達はドルチェの作る剣や杖に相応しい使い手にならないとな」


「あぁ、あたいも覚悟を決めたぜ! どんな杖だって使いこなしてやる!」


「ぼくは……シュンにぃのお嫁さんに……相応しい女に……なる」


「おい、ドルチェ……」


 ドヤ顔で目標を掲げるドルチェの姿に、気勢をそがれてしまったサーシャが盛大に溜息を吐いていた。



読んでくだりありがとうございました。

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