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探索者  作者: 羽帽子
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第110話:「仲間外れは……可哀想」

 翌朝、目を覚ました俺の目に最初に飛び込んできたのはドルチェの顔だった。

 俺の腹の上に跨り、じっと顔を覗き込んできている。


「お、おはよう、ドルチェ。起こしにきてくれたんだ」


「…………んっ」


 俺が挨拶をすると、ドルチェのどこか眠そうな瞳が近付いてきて唇を塞がれた。

 このままドルチェを抱きしめようしたのだが、両腕が痺れていて動かせない。

 朝一番のキスを確保できた事で満足したのか、ドルチェの小さくて柔らかい唇が離れたので、首を動かして左右を確認すると、右腕にはアイラ、左腕にはリンが、それぞれ俺の腕を枕代わりにしてスヤスヤと気持ち良さそうに眠っていた。


「今夜はぼくも……シュンにぃの腕枕で寝る」


 どこか羨ましそうに眠っている2人を見つめているドルチェ。

 今日からアイラとリンによる俺との夜を賭けた戦いが行われる事になってしまったので、昨夜はドルチェが2人に譲る形になったのだが、自分は覗き見するだけで参加できなかったのが内心寂しかったのかもしれない。


「昨夜は……凄かった」


「あ~、うん。……『精力強化』のスキルが無かったらちょっとやばかったかも」


 前哨戦とばかりにアイラとリンが代わる代わる俺に襲い掛かってきたのを思い出し、俺は『精力強化』スキルのありがたみを実感していた。


「ダーレンに戻って家を借りるようになったら……」


「ぼく……エミリー……リン……シルビア。もっと……凄くなる。……それに」


「それに?」


「サーシャも……あと一押し」


 そういってドルチェが嬉しそうにうんうん頷いている。

 最初に覗きをしていた夜こそ初めて目の当たりにした光景にショックを受けていたサーシャだったが、その次の夜にドルチェとしているのを覗き見した事で何か吹っ切れたのか、昨夜は明らかに雰囲気が変わっていた。

 恥ずかしさよりも興味の方が上回ったのか、ドアの隙間からではなく部屋の中に入り込み、真っ赤な顔で食い入るように俺達の行為を凝視していたサーシャ。

 そんなサーシャをドルチェが満足げに見つめていたのだが、どうやら本気でサーシャまで夜の仲間に引き込む気満々のようだ。


「仲間外れは……可哀想」


「でも、無理強いはダメだよ? サーシャは俺に惚れてるってわけじゃないんだから」


「アタシとしては、これ以上ライバルが増えるのは困るよ!」


「わたくしは、サーシャ様でしたら大歓迎ですわ」


 いつの間にか起きていたらしい2人が会話に参加してきたのだが、その表情は対照的だ。

 俺達がダーレンに戻ったら頻繁に会うことができなくなってしまうアイラとしては、これ以上ライバルが増えるのは気が気でないのだろう。

 その点、同じ場所を拠点としているリンは余裕があるのだろうが、修行中の彼女がいったいいつまでダーレンに居られるのか気になるところだ。

 何となくだが、彼女は俺が『英雄』になるまでずっと傍にいそうな予感がする。


「シェリルも……楽しみ」


「そうだった! シュンのPTにはシェリルも入るんだった~!」


 俺の腹の上で楽しそうに身体を揺らしているドルチェの言葉に、アイラが頭を抱えてしまった。

 サーシャだけでなくシェリルまで……。

 スキルポイントが貯まったら『精力強化』スキルを上げようか真剣に悩んでいると、俺の腹の虫が盛大に鳴った。

 女性陣がクスクス笑いながらベッドから降りる。


「もうすぐ……できるはず」


 どうやら、また起きるのは俺達が最後だったようだ。

 皆をこれ以上待たせるのは申し訳ないので、ドルチェ達の後を追って急いで部屋から出た。


「装備もグレードアップした事だし、シュンにはいっぱい食べて探索を頑張って貰わないとね!」


「アイラ様、わたくし達の勝負もお忘れなく。負けませんわ」


「アタシだって負けないよ! シュンがこっちに居られる時間は限られてるんだからね!」


 そんな2人を見つめていたドルチェがポツリと呟いた。


「シュンにぃと一緒に居ると……毎日、楽しい」






 朝食を終え、準備を整えた俺達が迷宮に到着すると、時間が早すぎたのかいつも迷宮の入り口に立っている兵士もまだ来ていないようだった。


「迷宮まで徒歩って不便なだけだと思ってたけど、馬車の時間とかを気にしないで好きな時に好きなだけ探索できるってのはかなり良いね」


 ヘルガにお姫様抱っこをされた時は徒歩での移動を恨んだものだが、時間を気にしないで探索ができるというメリットはかなり大きい。


「その分、無理をしすぎちゃう人も居るんだよね。……コールのように」


 『コール』。俺達と同じように神様によってこの世界に送られた異世界人だったのだが、一目惚れした孤児奴隷の女の子を買う為に無理をしすぎて死んでしまった男だ。


「シュンには一日も早く『英雄』になって貰いたいけど……」


「『英雄』になるのなら多少の無理や無茶は必要だが、引き際はだけはちゃんと弁えてくれよ?」


 俯いてしまったアイラの肩に手を置きながらダリアが真剣な瞳を向けてくる。


「分かってる。無謀な探索だけはしないようにするよ」


「ぼくが……一緒。……大丈夫」


「お、おう! あたいだって付いてるぜ! ドルチェが鍛冶で居ない時は任せとけって! ……って、なんで揃いも揃って不安そうな顔なんだよ!」


 杖を振り回して怒り出したサーシャが、そのままズンズンと迷宮の入り口へと歩いて行ってしまった。


「さっさと行くぞ! 燃やして燃やして燃やし尽くしてやる!」


 落ち込んで魔法が発動しなくなってしまうよりはずっとマシだが、宥めるのが大変そうだ。

 しかし、今日は昨日と違ってドルチェが一緒なので、サーシャの事は彼女に任せておけば問題ないだろう。


「それじゃ、アタシ達も探索スタートだよ! リン! 負けないからね!」


「うふふふ、勝つのはわたくし達ですわ!」


 アイラもリンも気合たっぷりなのは頼もしいのだが、ヒートアップし過ぎて我を忘れて取り返しのつかない目に合わないか心配だ。


「2人共、勝負するのは良いけど……無茶しないようにね?」


「アイラの事は我々に任せておけ」


「リンは大丈夫かしら? 光魔法が使えるからと過信してはいけませんよ?」


「わ、分かっておりますわ、シーナお姉様! では、行って参ります!」


 恥ずかしいのか興奮しているのか、若干頬を赤く染めたリンが護衛メイド達を引き連れて10階層へ繋がっている転移魔法陣の中へと消えていった。


「それじゃ、アタシ達も行こうよ! シュン! 『共闘』できなくなっちゃったけど、お互い頑張ろうねッ!」


 ブンブンと手を振りアイラが20階層への転移魔法陣に飛び込み、その後をシーナとヘルガが追い掛けていく。


「では、私も行くとするか。……あぁ、そうだ、我々は昼になったら一度外に出るつもりだから、何かあったらシュン達も外に出るように」


 俺が頷いたのを確認し、ダリアも迷宮の中に入っていった。


「結局あたい達が最後になっちまったじゃねぇか!」


「マイペースが……一番」


 迷宮の入り口でサーシャが俺達の事を睨んでいるが、ドルチェはどこ吹く風で装備の確認をしている。


「胸当て……どう?」


「あ、あぁ! バッチリだぜ! えへへ」


 ドルチェに聞かれたサーシャが胸の部分を叩いて上機嫌で答えている。

 不機嫌だったサーシャが一瞬で上機嫌に……流石ドルチェだ。

 ドルチェが何か言いたげな視線を向けてきたので、彼女が作ってくれた鉄の剣と盾を構える。


「剣も盾も手に馴染んでるよ。ありがとう、ドルチェ」


「お礼を言うのは……ぼくの方。約束……守ってくれてる」


「約束って鍛冶の事?」


「いっぱい作れて……幸せ」


 正面から見上げてくるドルチェ。瞳を輝かせて本当に幸せそうに微笑んでくれた。


「また2人だけの世界に……。あたいもまぜろよぅ……」


「夜……まざる?」


「そ……そんな事できるかーーーーッ!!!」


 顔を真っ赤にしたサーシャが転移魔法陣の中に消えていく。


「……あと一押し」


「押すどころか引っ張っているようにしか見えないんだけど……」


 俺はひとつ溜息を吐くと、先程とは打って変わって悪戯っぽい笑みを浮かべているドルチェと共にサーシャの後を追った。



読んでくださりありがとうございました。

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