第10話:「何かに襲われでもしたのか?」
「オーマイガッ!」
ゴロンと地面に寝転がり空を見上げて悪態をつく。
まさか神様もこうなるとは思ってなかったのだろうが、それでも『後でゆっくり決めろ』みたいな事を言っていた神様に一言物申したい気分だった。
だが、済んでしまった事を今更後悔しても仕方が無いと気持ちを切り替えてなんとか立ち上がる。
「……痛ッ」
先程よりは多少はマシにはなってきたが、左肩も右脚もまだまだ痛い。
服にも血が滲んでいるので端から見たら大怪我だと思われるかもしれない。
「これは早く街に行って治療とかしないと拙いかもしれないなぁ。後遺症とか残ったらやばいし」
痛む右脚を庇いながら街に向かって歩き出す。
無くさないようにと毛皮をアイテムボックスにしまう。
剣は念のため持っておく。
「今襲われたら確実に死んじゃうかもな……」
死の危険性が身近にある世界に来た事を今更ながらに実感した。
薬草も回復魔法も無い状況に少しだけ危機感を抱くが不意にある事を思い出した。
「あ、そう言えば『HP回速度UP』ってスキルなかったっけ? それにボーナススキルを今のうちに取得しておかないとな」
今度こそ忘れないうちにと心に決め『ボーナススキル操作』と念じる。
頭の中に浮かんできたボーナススキルの項目に目を通す。
ボーナスポイントは105になっていた。
サービスで貰えたのが100ポイントだったはずなので、レベルUP報酬が5ポントってことらしい。
「『獲得経験値UP』は必須だよな? でも、その前に『HP回復速度UP』を試したいな」
少しでもこの痛みが引くならとの願いを込め、スキルを取得しようと改めて項目を見る。
『HP回復速度UP:1倍』
「ん~、何ポイント必要なんだろ? 肝心な所が抜けてるよなぁ、神様は」
必要なポイント数が判らなければ計画的にポイントを使うのがもの凄く大変になってしまう。
こればかりはどうにかして欲しいと心の中で愚痴ってしまった。
『HP回復速度UP(5):1倍』
「……あれ? いきなり仕様が変わった?」
思わず空を見上げてしまう。
もしかして……今、神様が俺の事を見てるのだろうか?
とりあえず、空に向かって手を振ってみた。
恐らく送ったばかりなので気になって覗いていたのだろう。
これからもずっと覗かれ続けるのなら精神がおかしくなってしまうかもしれないが、流石に神様もそこまではしないだろう。
ここで文句でも言ったら元の仕様に戻されてしまうかも知れなかったので黙っておくことにした。
「まぁ、便利になったんだし良しとするか。さっそく取得しよう」
5ポイントを使用してスキルを取得する。
すると『HP回復速度UP(10):2倍』と表示が変化した。
「ん~、2倍か……。正直あまり変わらないような?」
傷口などを眺めてみるが特に変化はないようだ。
いまいち効果が良く分らないので保留にしておく。
じっとスキルの項目を注視しても何も仕様変更されてないので、こう言う仕様だと諦める。
忘れないうちにと『獲得経験値UP』取得する事にした。
『獲得経験値UP(1):1倍』と表示されていたので1ポイントを使って取得成功。
「1ポイントって……。やっぱりこれは必須スキルなんだろうなぁ」
改めてスキルを見てみると『獲得経験値UP(5):2倍』となってたのでさらに取得。
『獲得経験値UP(10):5倍』になったのを確認。
ポイントはまだ94も残っているので、思い切ってもう2段階上げてみる。
『獲得経験値UP(50):20倍』
「おぉ~、20倍! これは助かる。ポイントの残りは64か…。次のも取れるけどどうしよう?」
5倍、10倍、20倍と増えていってるので次はおそらく30倍か40倍なのだろうか?
取得すると残りポイントが14しか残らないので思案所だ。
それにあまり上げすぎるとPTパーティーを組んだ時にメンバーに怪しまれそうだ。
神様が「PTメンバーにも有効じゃ」と言っていたのを思い出す。
「まぁ、20倍の時点で今更って気もするけどね」
開き直って40倍にするか他のスキルを取るか迷ったが、いろいろ試してみたかったので他のスキルを取ってみることにした。
他にはMPの回復速度UPと各ステータスのUP。
HP、MP、筋力、精神、器用、敏捷の6つだ。
MPは今のところ使い道が無さそうなのでスルーする。
次に各ステータスだが、死んだら終わりなのはこの世界でも同じなのでHPは是非とも上げておきたい。
さっそく5ポイントを消費して取得。
『HP上昇(10):10%』
これでHPが10%上がったらしい。
いまいち実感がないがこれで少しは死への危険性が減るだろう。
一段階目にするにはどれも5ポイントみたいなので、ついでに他のステータスも取得してみる。
『獲得経験値UP(50):20倍』
『HP回復速度UP(10):2倍』
『HP上昇(10):10%』
『MP上昇(10):10%』
『筋力上昇(10):10%』
『精神上昇(10):10%』
『器用上昇(10):10%』
『敏捷上昇(10):10%』
結果として、以上のボーナススキルを取得した。
残りポイントは34。
これならレベルが4上がれば経験値スキルも取得できるし、何か必要なスキルが急に発生してもすぐに取れそうだ。
スキルの取り直しが出来ないのでこれくらい慎重な方が良いだろうと判断して一旦ボーナススキルの操作を止める。
「さて、次は普通のスキルを見てみようかな?」
あれこれ考えていると気が付けばもう街の門の近くにたどり着いてしまっていた。
何だか周りからの視線が痛い。
所々に血がこびり付いている自分の姿を改めて確認して「どうしたものかなぁ」と困り果ててしまった。
すると門番の兵士らしき人がこちらに歩いてくる。
緊張しながらもなんとか微笑んでみようとするが顔が引きつってしまい上手くいかない。
そんな俺に苦笑しながらなおも近付いてくる兵士。
20歳くらいに見えるがこの世界の住人の場合見た目で年齢を判断するのは難しいだろう。
神様が「青年期が長い」と言っていたのを思い出す。
俺の側に来ると少し警戒気味に声を掛けてきた。
「よぅ、どうしたんだ? そんなに怪我をして。……何かに襲われでもしたのか?」
「えぇ、森の近くで兎みたいなやつに襲われました……」
兵士の問いに素直に答えると兵士は眉間にシワを寄せて眉がつり上がった。
「なに? 祝福の森に一人で近づいたのか? 無謀な事を」
どうやら少し怒ってるようだ。
「す、すみません。街が見えたのではしゃいでいたら気が付いたら森に近づいてしまっていて。あの、山奥の田舎から出てきたので嬉しくなっちゃって」
異世界トリップ物の小説ではよく主人公が身元を隠すために「田舎から来た」と言っていたので、俺もここぞとばかりに真似をしてみた。
申し訳無さそうな顔の俺を見て兵士も納得してくれたようだ。
「オレも初めてこの街に来た時は同じような気持ちだったし良く分るぞ? だが、森に近づく時は気を付けるようにな! あぁ、それよりも早く怪我を治療した方が良さそうだな」
「ついてこい」と言う兵士の後に従って街への門をくぐる。
街の様子をじっくり見たかったが、すぐに詰め所らしき所に連れ込まれてしまった。
読んでくださりありがとうございました。