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探索者  作者: 羽帽子
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第107話:「わ、わたくしの全てを征服してください!」

「よう! 遅かったな!」


 家へと帰ってきた俺達に、キッチンから顔を出したサーシャが声を掛けてきた。

 どうやら、俺達よりも先に王宮から帰ってきていたようだ。


「その様子だと、怪我の方も大丈夫そうだな」


「怪我よりも特訓の方がキツかったよ。……死ぬかと思った」


「うぅっ、アタシ達だってシュンに石を投げるのは辛かったんだよ?」


「いや、感謝してるよ。ありがとう、アイラ」


 少し拗ねてしまったアイラのフォローをしていると、風呂屋を出てからずっと上機嫌だったリンが腕を引っ張ってくる。


「シュン様! わたくしもいっぱい頑張りました! 光魔法は意外と疲れるんですよ?」


「ぼくも……たのし……頑張った」


 リンだけでなくドルチェまで褒めて欲しそうな顔をしているので、改めてお礼を言っていると、2階からシーナとヘルガが降りてきた。


「あら、お帰りなさい。もうそんな時間になっていたんですね」


「た、ただいま戻りました、シーナお姉様。あ、あの……」


 シーナの顔を見たとたん、緊張しているのかリンの表情が強張っている。

 そのままシーナの腕を取ると、こちらをチラチラ見ながら2階へと上がっていった。


「何だろう? 聞かれたくない話でもあったのかな?」


「そ、そんな事より、夕食の準備しないと! シュンはリビングに行ってて!」


 明らかに何かを誤魔化そうとしているアイラにリビングへと追い立てられてしまったので、大人しくソファに座って料理ができるのを待つ事にしたのだが、どう考えてもアイラとリンの様子がおかしい。


「ドルチェは何か知って……あれ?」


 当然のように横に居ると思っていたドルチェの姿が、いつの間にか居なくなっている。


「ドルチェならアイラ達の後を追ってキッチンに入って行ったぞ? 何やら歌を歌っていたな」


「『き~のこ……きのこ~♪』って歌ってたわね」


 ソファから立ち上がって探しに行こうとしていた俺に、正面に座っているダリアとヘルガが教えてくれた。


「あ、そっか、今日はマツタケをゲットしたんだっけ」


 キノコ大好きドルチェさんとしては居ても立ってもいられなかったのだろう。

 何だかキノコに負けた気がして少し複雑な心境だった。

 そして、今更ながらにリビングにテーブルが増えている事に気が付いた。

 全員で食べられるようにわざわ購入したようだ。


 20分程待っていると、アイラを先頭にサーシャとドルチェ、それに3人の護衛メイド達がそれぞれ両手に大きな皿を持って入ってきた。


「お待たせ! 人手が多かったから思ったより早くできたよ!」


 目の前に置かれたカニ料理を見て自然と笑みが零れる。


「シュン、涎が……。そんなにカニが好きだったの? 肉料理が好きって言ってたからちょっと心配だったんだけど、良かったぁ~!」


 右隣に腰を下ろしてきたアイラが嬉しそうに微笑む。


「マツタケの方が……美味しい」


 左隣のドルチャの前にはキノコ……特にマツタケを使った料理が所狭しと並べられていた。


「ドルチェ……独り占めはダメだからね?」


「…………………………分かってる」


 何もそんなこの世の終わりみたいな顔をしなくても……。


「あれ? リン達はまだ降りてきてないの? アタシが呼んでくるね!」


「あ、うん、よろしく。……あ、ドルチェ! まだ食べちゃダメだよ!」


「ドルチェの為にも早く呼んでこないとね!」


 立ち上がったアイラがリビングから出て行き、しばらくするとリンとシーナを連れて戻ってきた。


「お待たせしてしまって申し訳ありませんでした。……美味しそうな香りですね」


「本当にごめんなさいね」


 俺の顔を見て顔を赤くするリン。

 シーナはそんな彼女を優しげな瞳で見つめていた。


「あ、シュン様のお隣が空いていますわね」


「ちょ、ちょっと! そこはアタシの席だよ!」


「わたくしの為に空けて下さったのではないのですか?」


「違うよッ! この席は誰にも譲らないんだからッ!」


「……そうですか、残念ですわ」


 アイラが慌てて駆け寄ってくる。

 わざわざ呼びにきてくれた事へのお礼なのか、リンがいつものように喧嘩する事なく大人しく引き下がると、それを見ていたドルチェがいきなり立ち上がった。


「リンは……ここに座る」


「え? よろしいのですか? ですが、それではドルチェ様は……」


「ぼくは……ここ」


 当然といった顔で俺の膝の上に乗ってくるドルチェ。小柄な彼女だからこそできる裏技なのだが、正直これでは非常に食べ辛い。

 しかも、せっせと自分の目の前にキノコ料理を並べ直している。


「全員揃ったようだな。では、頂くとしようか」


 そんな俺達の事は放っておく事にしたのか、ダリアがあからさまにこちらを見ようとせずに、淡々と食事を開始した。


「……幸せ」


 膝の上のドルチェが一心不乱にキノコ料理に襲い掛かっている。

 どうやって食べようか思案していると、両側からフォークが差し出された。


「シュン! このカニドリアはアタシが作ったんだよ! 食べて食べて!」


「カニ料理といえば、素材の味を生かした蒸し焼きが一番です。殻はわたくしが剥きますのでどんどん召し上がってください」


 どちちも目がギラギラしているので何だか怖い。それに、どちらかの料理を先に食べたら後が怖そうだ。

 ダリア達も気になるのかチラチラとこちらを盗み見している。


「……シュンにぃ」


「ん? どうした? ……むぐッ!?」


 いきなり振り向いたドルチェが、俺の口の中に問答無用で料理を突っ込んできた。


「焼きマツタケ……おすすめ」


 俺が食べたのを確認すると、満足げに食事を再開し始めたドルチェを、フォークを突き出したままのアイラとリンが何とも言えない顔で見つめている。


「なんか……順番とかどうでも良くなっちゃったよ!」


「そうですわね。このような事で争っても意味がありませんわ」


 どうやらドルチェのお陰で何を乗り切ったようだ。

 ホッと胸を撫で下ろした俺をサーシャが呆れた顔で見ていた。






「こ、これは……?」


 食事を終え、明日の予定を話し合った俺達は寝る時間になったので、それぞれの部屋に戻る事にしたのだが、俺は昨日寝た部屋のドアを開けたまま固まってしまった。

 部屋の中には何故か大きなダブルベッドがドンと置かれている。

 昨夜は確かに普通サイズのシングルベッドが置いてあったはずだ。

 部屋を間違えたかと思い振り返ると、顔だけでなくエルフ特有の長く尖った耳まで真っ赤にしたリンが背後に立っていた。

 その両脇には、少し不機嫌そうな顔のアイラと、いかにも何かを企んでいそうな顔のドルチェの姿が……。


「シュン、特訓を頑張ったらご褒美を上げるって約束したよね?」


「わ、わたくしもシュン様とは『キス』の約束を……。それに、今夜は……」


「ぼくも……約束のキス」


 3人に背中を押されながら部屋に入り、ドアが閉まった瞬間、アイラとドルチェが俺をベッドに押し倒してきた。

 リンはドアの辺りにアイテムボックスから取り出した道具らしき物を置いている。


「防音の……魔具」


 俺の視線に気付いたドルチェが疑問に答えてくれた。

 消音の魔具を設置したリンがベッドに上がってくる。

 まだ少し緊張しているのか、おそるおそるといった感じだが、潤んだ瞳で俺の顔を覗き込んできた。


「最初は……リン」


「ファーストキスだしね! 今回は譲ってあげるよ!」


「ふ、不束者ですが……よ、よろしくお願いいたしましゅ!」


 茹蛸のようになってしまったリンの頬に手を当てると、瞳を閉じたリンの顔が近付いてくる。

 軽く唇を合わせるだけのキスだったが、それでもリンが震えているのが分かった。


 リンとアイラのキスに触発されたのか、今までで一番激しいキスをしてきたドルチェが、部屋から出て行こうとしている。

 てっきりドルチェも最後までここに残ると思っていたのだが、どうやら昨夜と同じようにアイラの部屋で寝るらしい。

 ドルチェまでこの部屋で寝ると、サーシャが1人きりになってしまうので、ドルチェとしては放っておけないのだろう。

 何か聞かれたくない話でもあるのか、部屋のドアを開けたドルチェが手招きしてくる。


「シュンにぃ……今夜はリンよりも先に……アイラを抱いて」


「アイラを?」


「そうじゃないと……アイラが拗ねる。あと……リンの時は……時間を掛けてゆっくり」


「分かった。注意するよ」


「ぼくは……やる事があるから……おやすみ」


 そう言ってドルチェはスタスタと歩いていってしまった。

 ドルチェの『やる事』が気になったが、おそらく聞いても無駄だろう。

 若干の不安を覚えつつ部屋に戻ると、いつの間にか全裸になっていたアイラが、恥ずかしそうにしているリンの服を脱がせている最中だった。

 何か言い合っているが、消音の魔具があるので聞こえない。ベッドに近付くとようやく声が聞こえてきた。


「あ、シュン、お帰り! ほら、リンは観念して全部脱ぐ!」


「じ、自分で脱げますわ! ちょ、ちょっと、変なところを触らないでください!」


 俺も参加してリンの服を脱がせたかったが、ここはグッと我慢をして2人のやり取りを見守る事にした。キャットファイトみたいで何だか興奮する。


「く、屈辱です……」


「えへへ、シュン、お待たせッ!」


 最後の一枚を剥ぎ取り一仕事を終えたアイラが満面の笑みを向けてくる。

 リンは流石に俺に見られるのが恥ずかしいのか、必死に両腕で胸を隠しているのだが、その仕草が逆に扇動的で俺の理性が吹き飛びそうだ。

 だが、ここでリンを襲うわけにはいかない。


「リン、2人でアイラの事を襲っちゃおう」


「は、はい! 名案です!」


「え? え? えええええ?」


 何かのスイッチが入ったらしいリンがアイラを押し倒す。

 俺は怯えの中にも嬉しさを垣間見せているアイラの顔を見ながらゆっくりと服を脱いでいった。






「シュン様……わ、わたくしの全てを征服してください!」


 ベッドの上で四つん這いになっているリンが今にも泣き出しそうな顔で俺を見つめてくる。

 そんなリンの下では先程からずっとアイラが彼女の胸を愛撫していた。

 2人がかりでの愛撫にリンの理性も崩壊してしまったようだ。

 ドルチェの言葉通りにゆっくり時間を掛けたのだが、少々やりすぎたかもしれない。

 これ以上焦らすのは可哀想だと判断し、背後からリンの華奢な身体に覆い被さるが、その時俺はドアの隙間から誰かが覗いている事に気付いた。

 というか、顔が部屋の中に完全に入っているのでバレバレも良いところだ。

 一番下には片目を瞑ってサムズアップをしてくるドルチェ。その上には目元にハンカチを当ててうんうん頷いているシーナ。そして、一番上には初めて目にする光景に圧倒されたのか、目を皿のように見開いているサーシャの姿があった。

 『やる事』とはまさかこの事だったのだろうか?


 初めての男女の営みを無事終えたリンが気持ち良さそうに眠っている。

 そんなリンの頭をシーナが優しく撫でながら、小さく溜息を吐いた。


「まさか、わたくしよりも先にリンが大人の階段を昇ってしまうとは思いませんでした。ですが、リンの相手がシュンで良かったです」


「『領主の娘』にまで手を出しちゃったんだから、もう本当に後には引けなくなったね」


 ベッドに寝そべりながらアイラが悪戯っぽい目を向けてくる。

 元よりそのつもりなのだが、もし『英雄』になれなかったらクリフトスさんに八つ裂きにされてしまいそうだ。


「シュンにはここに滞在している間に30階層を突破して貰いたいところなのですが……」


「装備を強化しないと……難しい」


 放心状態だったサーシャを部屋に送ってきたドルチェが会話に加わる。


「それに関しては、明日にでもカーラ様に紹介状を書いて貰えないか頼んでみましょう」


「ぼくが……鍛冶で居ない時は」


「その時はまた訓練場で特訓だね!」


 ドルチェが鍛冶をする日数を差し引くと、迷宮に入れるのは1週間弱になりそうだが、本当に『英雄』を目指すのならば弱音を吐いている場合ではない。

 周りを納得させる為には10年20年後では遅い。今回の活動期の間に何としてもダーレンの迷宮を攻略する必要があるだろう。


「シュンしゃま~、だいしゅきでしゅ~……」


 リンの幸せそうな寝言に皆の口元には自然と笑みが浮かんでいた。



読んでくださりありがとうございました。


更に追い詰められていく主人公。でも、爆ぜろ!

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