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探索者  作者: 羽帽子
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第105話:「私がみっちりと鍛え上げてやろう」

「あ、早かったね。流石アイラ」


「お待たせ、シュン! って……凄い血だよ!」


 23階層の最初の小部屋へとやってきたアイラが、俺の姿を一目見るなり血相を変えて駆け寄ってきた。

 傷の手当は彼女達が来る前に終わらせていたのだが、血で赤く染まったズボンを見れば怪我をした事は一目瞭然だ。


「『HP回復速度UP』のスキルが付いているから、放っておいてもそのうち出血は止まると思うんだけど……。ごめん、ちょっとミスった」


「し、シュンは悪くねぇよ! あたいを守ろうとしてくれたんだから!」


「いや、完全に俺の力量不足だよ。それにしても、アイラ達が無傷で良かったよ」


「アタシ達の方はヘルガが居るから。そんな事よりも、今日はもうマーメリアに戻るよ!」


 アイラがヘルガに目配せをすると、無言で頷き近付いてきたヘルガが俺を抱え上げた。


「……お姫様抱っこ」


 ドルチェがどこか羨ましそうな顔で見上げてくるが、男なのにお姫様抱っこをされてしまった俺は顔から火が出る程恥ずかしい。


「怪我したシュンが悪いんだから、我慢する!」


「う……、我慢します。ヘルガ、ありがとう」


「どういたしまして」


 ヘルガから向けられる優しげな瞳に気恥ずかしくなったので視線を逸らすと、ダリアがサーシャを相手に何やら話し込んでいた。


「ほら、ダリアもサーシャも早くここから出るよ!」


「あぁ、そうだな。街に戻ってシーナかリンに光魔法で治療して貰わないとな」


 ダリアはすれ違い様に俺の頭をコツンと軽く叩くと、そのまま迷宮の外へと繋がっている穴へと消えていった。


 街に近付くにつれてどんどん周りに人が増えていく。

 そして、人が増えれば増えるほど、ヘルガにお姫様抱っこをされている俺の耳に届く笑い声も多くなっていた。


「シュン、我慢だよ、我慢! これに懲りたら、もっともっと強くなってよね!」


 キツイ言葉に聞こえるが、俺の手を握るアイラの手が震えている。

 これ以上彼女を心配させない為にも、少しでもここに居る間に強くなっておきたい。


「アイラ達ってどうやって無傷であの『鉄ネズミ』を倒したの? さっきヘルガが居たからって言ってたけど」


「サーシャから経緯を詳しく聞いたが、戦法はシュン達が取ったのと同じだ。私が正面に張り付き、アイラが魔法で攻撃だ。そして、ヘルガがアイラを飛んできた針から守る」


「え? でも、ヘルガって盾なんて持ってたっけ?」


 迷宮の中では確かヘルガは片手斧しか持っていなかったはずだ。片手斧といっても普通の人なら両手で持たないと扱えそうにないくらい大きな斧だったが……。

 ダリアの説明に首を傾げていると、ヘルガが優しく俺を地面に立たせ、おもむろにアイテムボックスから彼女の巨体がすっぽり隠れるほど巨大な鉄の盾を取り出した。

 まるで、俺が前に居た世界の機動隊が使っていた盾を更に大きくした感じだ。


「流石にこれを持って走ったりとかはできないみたいだけどね!」


 アイラが楽しそうに盾の後ろに隠れる。

 確かにこれなら鉄ネズミの針攻撃も完全にシャットアウトできそうだ。

 試しに持ち上げてみようとしたら、「怪我が治ってから」とヘルガにやんわりたしなめられた。

 そして、盾をアイテムボックスに戻したヘルガが、先程と同じように俺をお姫様抱っこし街へと歩き出す。どうやら本当にこのまま家まで運ばれるようだ……。


「シュン、怪我が治ったらギルドの訓練場に行くぞ。私がみっちりと鍛え上げてやろう」


「あ、アタシも行くよ!」


「……ぼくも」


 ダリアの提案にアイラもドルチェも張り切っている。

 少しでも強くなりたいと思っていたところだったので、俺の方からお願いしたいくらいだ。


「ありがとう。貴重な時間を使わせちゃって悪いとは思うけど、よろしく!」


「あぁ、任せておけ」


 非常に頼りになるダリアなのだが、俺はそんな彼女が迷宮を出てからずっと道端に落ちている石を拾っているのが気になってしかたなかった。

 そして、ダリアに何か耳打ちされたアイラとドルチェまで同じように石を拾い集めている。

 石をひとつ拾う度に向けられてくる3人の意味ありげな視線。

 ある想像をしてしまった俺は、ヘルガの腕の中で震えが止まらなかった。






「ヒール!」


 俺の全身を優しい光が覆ってくる。

 それまで右脚を襲っていた痛みがどんどん消えていくのが分かる。

 ドルチェやアイラに必要以上に心配させたくなかった手前ずっと痛みをこらえていたので、本当に助かった。


 「ありがとう。もう大丈夫みたいだ」


 リビングのソファから立ち上がり、歩いたりジャンプしたりしてみるがもう完全に治っているようだ。改めて光魔法の凄さに感心する。

 見守っていたアイラ達もホッとした顔をしていた。

 だが、1人、俺の怪我を治してくれた目の前の女性だけは、変わらず険しい表情のままだ。


「シュン様、わたくし本当に心配したのですよ? シュン様にもしもの事があったら……」


 リンの瞳から涙が零れる。

 ある意味、迷宮に居なかったリンの方が、俺が怪我した事に対してショックが大きかったのかもしれない。

 もしかしたら、その場に居なかった自分を責めてしまっている可能性もある。


「リン。我々はこれからギルドの訓練場でシュンを鍛えるつもりなのだが、一緒に来るか? 回復要員が居てくれるととても助かる」


「そうだよ! もうこれ以上シュンが大怪我をしない為にも、アタシ達ができる事は何でもしないと!」


「そうですわね、ダリア様、アイラ様。わたくしでよろしければ喜んでお手伝いさせて頂きますわ」


 回復要員が居てくれるのは本当に助かる。

 だが、俺はふとある事が気になった。


「そういえば、セリーヌさんから、誰かに傷付けられたりしたら攻撃した相手に『天罰』が下るって聞いたんだけど、……訓練で怪我とかしたら皆に……」


「いや、それは大丈夫だ。何故か訓練場では『天罰』が下らない事になっている。まぁ、それ以外の場所ならどうなるか分からないがな」


「え? 俺、ダーレンの孤児院でシェリル相手に訓練とかしちゃってたんだけど……。それにドルチェのお父さんと決闘とかしちゃったし……」


「打ち身程度ならあまり影響はないはずだが、訓練場を使うのが一番安全だろうな。それ以外の場所でするのなら相手の攻撃を一切受けずに、尚且つ相手にダメージを一切与えないように気をつける事だ」


 それはいくらなんでも難易度が高すぎる。

 訓練場を使えるのはギルド員だけと言われているのだが、今度セリーヌさんかギルド長に相談してみよう。

 もし『専属』になったら、それだけ融通が利くようになるかもしれない。


「あ、あの、わたくしも少々気になっていた事が……。サーシャ様のお姿が見当たらないようなのですが、いったいどちらに?」


 そういえばリンにはまだ説明していなかった。


「サーシャは……王宮」


「王宮ですか?」


「なんかやる事があるらしくて、これから毎日迷宮から帰ったら王宮に顔を出すらしいよ。理由を聞いても『いずれ分かる』って言って教えてくれなかった」


「アタシとドルチェは昨夜聞いたけど、シュンには内緒だよッ!」


「……秘密」


「ず、ずるいです! わたくしも知りたいです!」


「あはは、リンには訓練場で話してあげるから!」


 凄く気になるが、俺が聞いても教えてくれそうにない。

 『いずれ分かる』と言うサーシャの言葉を信じてその時を待つしかなさそうだ。


「では、我々は訓練場に向かうとしよう。シーナとヘルガはどうする?」


「わたくしはまだ買っておきたい物がありますので、回復要員はリンに任せます。ヘルガはには買い物を手伝って貰いたいのですが……」


「荷物持ちは任せて」


「イリス達もシーナお姉様のお買い物を手伝ってください。街中ですし、シュン様達と一緒ですので護衛は不要です」


「承知いたしました、リンお嬢様」


「決まったかな? それじゃ、訓練場にレッツゴー!」


 意気揚々とリビングから出て行くアイラをドルチェとリンが追い掛ける。

 そんな彼女達の後姿を見つめていると、俺の背中をダリアがバシッと叩いた。


「シュン、シャキッとしろ! あの子達を幸せにするのだろ!?」


 そうだ、あの3人だけでなく、ダーレンで待っていてくれているエミリーやシルビアの為にも一日でも早く『英雄』になる決心をしたのだ。

 それが彼女達だけではなく自分にとっての幸せでもある。


「分かってる。行こう、ダリア。徹底的に俺を鍛えてくれ!」


「あぁ、鍛えてやるとも……覚悟しておけ」


 まるで熟練の暗殺者を彷彿させるダリアの鋭い視線に、俺は力強く頷いた。

 あ、でも、その前にズボンを履き替えないと……。



読んでくださりありがとうございました。

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