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探索者  作者: 羽帽子
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第100話:「迷宮に向けて……レッツゴー!」

 朝、目を覚ました俺が部屋のドアを開けると、1階から食欲を刺激する美味しそうな香りが漂ってきた。

 いつもより早い時間の目覚めだが、先程から腹の虫が煩いので、フラフラと吸い寄せられるようにキッチンへと入って行くと、俺に気付いたアイラが元気に声を掛けてくる。


「あ! シュン、おはよっ!」


「おはよう。良い香りだね。……でも、凄い量だな」


「お弁当の分もあるから……楽しみにしててよッ!」


 弁当まで用意してくれるとは大助かりだ。

 キッチンではアイラだけでなくサーシャや護衛メイドの3人も忙しそうに動き回っている。

 そして、そんな彼女達をドルチェがキッチンに置かれたテーブルに頬杖をつきながらぼ~っと眺めていた。

 いつも以上に眠そうな顔をしているので、昨夜は結構夜更かしをしていたのかもしれない。

 ドルチェの隣に座って同じように料理をしている美少女達の後姿を眺めていると、俺の視線が気になるのか、アイラが恥ずかしそうにチラチラとこちらの様子を窺っている。

 その姿は、新婚ホヤホヤの新妻のようでなんだかこちらまで気恥ずかしくなってしまった。

 背後から抱きしめてそのままキッチンで……。などとピンク色の妄想をしていると、包丁を持ったサーシャが呆れ顔で俺の事を見ていた。

 誤魔化すように頭を掻きながらも、ある意味いつも通りのサーシャの様子に内心ホッとする。

 きっと昨夜はドルチェとアイラにいろいろと悩みを打ち明けたのだろう。


「ドルチェ、ありがと。サーシャは大丈夫そうだね」


「サーシャは……問題ない。……問題は……アイラとリン」 


「……だよな~。昨夜は静かだったけど、今夜どうなるか……」


 今から心配になってしまうが、その時に重要な鍵を握っていそうなのは目の前のドルチェだろう。

 俺のPTメンバーでもあり、常に一緒に行動している彼女の言葉は、アイラやリンにも影響が大きい。

 コソコソと顔を寄せて会話をしている俺達に混ざりたいのか、アイラが手を止めてこちらへ近寄ってくるが、ちょうどその時、料理の香りに釣られたのか残りの4人もキッチンへとやってきた。


「おはようございます。素敵な朝ですわね」


「おはよッ! もうすぐ朝食ができるよ!」


 昨日の事など無かったかのように笑顔で挨拶をしているアイラとリンだが、視線が絡み合った瞬間、火花が散ったように見えたのは気のせいだろうか?


「この人数だ、キッチンとリビングに分かれた方が良さそうだな。我々はいつも通りキッチンで食べる事にしよう」


 ダリアの提案に、アイラが慌てて俺の腕にギュッとしがみ付いてくる。


「あ、アタシはシュンと一緒が良いからリビングで食べるよ! リンはシーナと一緒が良いよね!?」


「お気遣いありがとうございます、アイラ様。ですが、シーナお姉様とは昨夜ずっとご一緒できましたので……」


 そういってリンは俺のもう片方の腕に自分の腕を絡ませてきた。

 しかも、これ見よがしに顔を寄せて囁いてくる。


「シュン様、昨夜はお一人で寂しくはありませんでしたか? 今夜は……」


「ちょ、ちょっとまったッ! シュンは今夜こそアタシの部屋で寝るんだから横入りしないでよね!」


「そのような事、どなたがお決めになったのですか? 大切なのはシュン様のお気持ちですわッ!」


『ガラ~ンゴロ~ン♪』


 街中に鳴り響く午前1の鐘が、俺には戦いのゴングにしか聞こえなかった。


 左右から差し出される料理をひたすら食べる。

 美少女2人による『あ~ん』攻撃。

 端から見たら八つ裂きにされても文句が言えない光景なのだろうが、正直、俺は口の中に放り込まれる料理の味が分からないくらい追い詰められていた。

 結局、リビングで食べる事になったのだが、俺の左右をアイラとリンが占拠し、ドルチェとサーシャが正面に座っている。

 いつもなら真っ先に隣を確保するドルチェがすんなり場所を譲った事に驚いたが、あのドルチェがこのまま黙っているとも思えない。

 リビングに居るのは俺を含めてこの5人だけだ。

 他のメンバーは今頃キッチンで楽しい食事タイムを送っている事だろう。


「ほら、カエル肉のから揚げだよ! いっぱい食べないと力が出ないからね!」


「シュン様、お肉だけでは栄養バランスが悪いですわ。お野菜もちゃんとお取りになりませんと」


 先程からずっとこの調子で俺の口に甲斐甲斐しく食べ物を運んでくる。

 ドルチェに視線で助けを求めるが、そ知らぬ顔でひたすら食べ続けている。

 だが、時折何か妄想でもしているのか、ニヤリと不気味に笑っていた。

 サーシャは完全に『我関せず』の態度を貫いている。


 永遠とも思える食事が終わり、食後のお茶を飲みながら今日の探索についてのミーティングを行う事になった。

 ここでの探索は全てアイラ達と『共闘』をする事になっていたのだが、リン達が加わることになったので若干の修正が必要になっている。

 特に今日は人数が増えた為に足らなくなった家具や雑貨を買う為に、シーナが探索に同行しないのでなおさらだ。

 護衛メイドの3人も残ると言い出したが、シーナに「リンの護衛を最優先に」と諭されていた。

 ちなみにリン達がこのままこの家に留まる事はアイラも素直に受け入れている。

 何だかんだいって賑やかになって嬉しいのだろう。


「今日は10階層から開始して、可能だったら20階層まで突破しちゃうよ! でも、キツかったらちゃんと言うんだよ? 特にリン達!」


「分かっていますわ。死んでしまっては元も子もありませんから。わたくしにはまだまだやるべき事がたくさんありますので……」


 何故かリンが俺の顔を見て頬を染めている。


「それよりも、シーナお姉様がいらっしゃいませんので、アイラ様もくれぐれも油断なさいませんように。お怪我をなさった時は遠慮なくおっしゃってくださいね」


「心配してくれてありがとね!」


 相変わらず火花が散っているが、2人共立派な探索者なのだから迷宮に入ったらちゃんと『共闘』をしてくれるはずだ。多分。


「それじゃ、迷宮に向けて……レッツゴー!」






「ここがリメイアの迷宮か……結構近いんだね」


 街と同じように丸太を打ちつけて造られた壁に覆われた迷宮の入り口をしばし眺める。

 迷宮まで徒歩で約30分。山道だったのでそれなりに疲れはしたが、予想よりもずっと街に近い場所にあるので驚いた。


「今回で3回目の活動期なんだって。活動期になってまだ4ヶ月ちょっとだったかな? 今のところソルの25階層がトップだけど、すぐにアタシ達が塗り替えるよ!」


 ソルも凄いが、改めて考えるとソロで30階層を突破したギルベルトって……。機会があれば一度会ってみたいものだ。


「まずはシュン達の腕前を確認したいので、シュンとリンのPTで交互に戦って貰おう。『人喰い鷲』との戦いだけでは不十分なのでな」


 ダリアの言葉にリンも真剣な顔で頷く。


「分かった。最初は俺達が戦うよ。魔物の情報は……聞かない方が良いかな?」


「そうだな。それを調べるのも特訓の内だからな」


「それじゃ、さっそく入ろうか」


 総勢10人の大所帯なので周りから注目されているので、すぐにでも迷宮に入りたい。

 特に俺に対する他の探索者からの視線が痛すぎる。


「……楽しみ」


 10階層へと繋がっている転移魔法陣に足を踏み入れると、両手槌を握り締めたドルチェが言葉通り楽しそうな顔をしていた。

 サーシャもいつになく真剣な表情だ。

 そういう俺も久しぶりの迷宮探索なので、知らず知らずの内に鼓動がかなり早くなっている。


 11階層の最初の小部屋で待っていると、すぐにアイラやリン達が追い掛けてきた。


「危なかったらすぐに加勢するよ! 頑張ってねッ!」


「シュン様なら大丈夫だと信じておりますわ」


 背中に2人の熱い視線を感じる。何故かかなり昔にあった授業参観を思い出してしまった。

 探知スキルで周囲を窺い、魔物が近くに居ない事を確認して扉を開ける。


「この先に1匹いるね。慎重に行こう」


「やっぱり『探知』スキルって便利だね。今度教えてね」


 迷宮の中なので大きな声を出さないようにしているのか、アイラが小声で囁いてくるが、息が耳に当たってくすぐったい。


「シュンにぃ……あれ」


 ドルチェの視線の先に目を向けると、何か遠くで飛び跳ねている影が見えた。

 ゆっくり近付いてみるとその魔物の姿がはっきりと見て取れた。


「キノコ……だね」


「ちゃんと『マジカルマッシュ』って言ってやれよな。……まぁ、キノコだけど」


「……最高」


 大好きな『キノコ』との再会にドルチェが生き生きとしている。

 ドルチェが急かすのでサクッとあっさり倒すと、アイラが何とも言えない顔をしていた。


「う~……倒した事のある魔物だった?」


 聞いてくるアイラに「何度もね」と答える。


「って事は、ボスはマツタケ……もとい『ジャイアントマッシュ』かな?」


「むぅ……正解。初めて見る魔物に驚くシュンが見たかったのに……ガッカリだよ!」


「わたくし達も他の迷宮で倒した事がありますわ」


「それならこの階層はさっさと突破するか。人も増えてきたところだしな」


 ダリアが言う通り、かなりの数の探索者が遠巻きに俺達の事を見ていた。

 ダーレンと同じくこの迷宮も10階層から20階層の間が一番探索者の数が多いようだ。 


「この分なら本当に20階層まで到達できそうだね!」


 注目されるのが苦手なアイラが俺の背後に隠れて背中を押してくる。


「早く……マツタケ」


 ドルチェもアイラとは全く違う意味で俺の背中をグイグイ押してきた。


「わ、分かったから! 迷宮で人を押さない!」


 こんな調子で俺の『英雄計画』は本当に達成されるのだろうか?

 思わず遠い目をしてしまった俺の視線の先では、マジカルマッシュが楽しそうに飛び跳ねている。


「あ……キノコ」


 ドルチェに見つかった不運なマジカルマッシュが、両手槌の一撃で宙を飛んでいた。



読んでくださりありがとうございました。


気が付けば100話突破。

これからも少しでも楽しんで頂けるように頑張ります。

200話までにはダーレン編が終わると良いなぁ……。

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