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探索者  作者: 羽帽子
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第09話:「俺、この戦いが終わったら盾を買うんだ!」

 目の前には一面の草原が広がっていた。遠くにはやたらと大きな森。

 そして、その森から少し離れた場所には大きな壁に囲まれた街らしきものも見える。


「あれが神様が言ってた職人の国の王都なのかな?」


 興味深そうに周りの景色を眺めながら改めて異世界に来れた事に感動。

 思わず空に向かって手を合わせてしまった。


 とりあえず、いつまでもここに居ても仕方が無いので街の方へと歩いていく。

 少し気持ちも落ち着いてきたので、周りに誰も居ないことを確かめてアイテムボックスから銅の剣を取り出す。


「ん~、ファンタジー世界なんだなぁ……」


 右手の剣を見てしみじみと呟く。

 目の前に敵が居るのを想像して剣を振るってみる。

 すると、自分が心の中でイメージしていた以上に剣を操れることに驚く。

 身体も自分のものとは思えないほど軽い。


「これがスキルの力なのかな? なんかイメージとのギャップが。まぁ、イメージよりも動けないって逆のパターンよりはずっとマシだけど」


 さらに身体を動かしてみてイメージとのギャップの差を埋めようとしてみる。


「身体をイメージに合わせるんじゃ勿体無いよな? 逆に俺の中のイメージを身体の動きに近づけていかないと。俺は剣だからまだ良いけど、アイラは大変そうだなぁ~」


 四苦八苦しながら魔法を操ろうとしているアイラを想像して自然と頬が緩んでしまう。

 いかんいかんと気を引き締めて連続で×の字に剣を振り、さらに身体を回転してもう一撃。


「おぉ、なんか格好良いぞ!? 慣れたらもっと動けそうだ。スキルすげぇ~!」


 緊張からか、それともこれから始まる新生活への期待からか、つい独り言が多くなってしまう。

 調子に乗って想像の中の敵と擬似戦闘をしながら歩いていたら、いつの間にか目の前にはやたらと広そうな森。

 慌てて街の位置を確認してみる。

 少し離れた所にちゃんと街があるのを見てちょっと安心。


「って、もうあの距離を移動してたのか? 一時間くらいは掛かりそうだと思ってたけど、夢中になってて時間が経つのを忘れてたかも」


 まずは街に行って『探索者』ってのにならないといけないだろう。

 それにちゃんとまともに生活できるように情報も集めることも重要だ。

 ずっと夢見ていた異世界での生活が始まると思うと、どんどんテンションが上がっていってしまう。

 不安よりもずっと強い期待を胸に街に向かって歩いて……行こうとしたら背後の森の中から「ガサッ」と言う物音がした。

 びっくりして後ろを振り返ってみると額に一本の角を生やした白い兎みたいな生き物と目が合った。

 その真っ赤にギラついている目に気圧されてしまった。


「なんだよ……いきなり戦闘なんて。心の準備だってまだなのに!」


 毒づきながらも慌てて剣を構える。

 すると、はっきりとこちらを敵と認識したのか兎らしき魔物がにじり寄ってきた。

 どうやら逃げられる雰囲気でもなさそうなので覚悟を決める。

 混乱中の頭をすっきりさせるためにも「ハアァァッ!」と気合を入れてみる。

 俺の声に一瞬ビクッとする魔物。

 少しだけ冷静になってきた頭で状況を分析。


「どう見ても普通の動物って事はないよな? 映像で見た魔物みたいに目が真っ赤だし……」


 魔物の様子を窺いながらあることを思い出す。


「そうだ、鑑定のスキルがあったはずだ! 『鑑定』っと」


 こちらの隙を窺ってるらしい魔物をしっかりと睨みつけながら鑑定スキルを使ってみる。


『名前:一角兎

 種族:魔物

 レベル:3

 取得スキル:頭突きレベル1』


 すぐさま脳裏に浮かんでくる情報を分析してみる。


「一角兎……やっぱり魔物か……ってか魔物って種族だったのか? まぁいいや、レベルは3か、出来れば1とかが良かったなぁ。頭突きってのは文字通り角を使った突進かな?」


 声に出す事で段々と考えがまとまってくる。

 じっとこちらの様子を窺っている一角兎、と思ったら後ろ足に力を込めて準備万端だったらしい。

 いきなりビュッとこちらに向かって跳躍してきた。


「うおぉっ!? ……痛ッ!」


 避け切れずに左肩を角が掠める。

 焼けるような痛みに顔を歪ませるが、傷を負わされたことに心の奥底から怒りが湧いてくる。


「このヤロウ! ふざけんな!」


 怒りに任せて、着地したばかりの無防備な背中に剣を振り下ろす。


「ピギュッ!?」


 場にそぐわないなんとも可愛らしい一角兎の鳴き声に少しだけ罪悪感を覚えたが、構わずそのまま追撃する。

 剣スキルや身体強化スキルの影響か面白いように攻撃が決まる。

 だが、相手もレベル3らしくなかなかタフだ。

 よろけながらもしっかりと反撃してくる。

 右脚のふくらはぎ辺りを角で切られた時は思わず倒れこみそうになった。


「くそっ……盾が欲しい! 俺、この戦いが終わったら盾を買うんだ!」


 死亡フラグっぽいことを叫びながら、こん身の力を振り絞って剣を叩きつける。

 ガギンと硬いものに当たった音が響く。

 どうやら剣が一角兎の角に直撃したようだ。


「ピギャッ……!」


 急所だったのか、ビクンを全身が震えたかと思うとバタリと力なく崩れ落ちる一角兎。

 その瞬間、頭の中で「ピロン♪」となんだか心地良い音が聞こえた。

 なんだろう? と思いながらもなんとか倒せたみたいなので、ホッと一息入れる。

 戦闘の緊張がなくなって少し気の抜けた顔で強敵の死体を眺めていると、その身体が真っ黒い瘴気のようなもので覆われた。

 それも数秒程度のことで、瘴気がなくなると一角兎が居た場所には白い毛皮が落ちていた。

 それを拾い上げてまじまじと見てみる。


「……ドロップアイテムってことで良いのかな? 剥ぎ取りとかしなくて済むのは助かるかも。あ、『鑑定』っと」


『一角兎の毛皮』

 

 という情報だけ頭に入ってきた。

 シンプルすぎる結果にちょっとがっかり。

 左肩と右脚からジクジクした痛みが襲ってくるが、なんとか勝てたことに満足する。


「あ~、しんどい。一匹倒すのに結構時間掛かっちゃったなぁ」


 相手はレベル3だったし、何よりこちらはまだレベル1だ。

 簡単に倒せる方がおかしいのだろう。


「流石に一匹だけじゃレベルも……。あ、さっきの音ってもしかして?」


 慌てて『ステータス』と念じる。

 若干の期待を込めて見てみると、


『名前:神城瞬

 種族:人族

 レベル:2

 取得スキル:片手剣レベル1・身体強化レベル1・生活・鑑定・スキル取得速度UP』


 見事にレベルが上がっていた。

 あまりの嬉しさに一瞬痛みも忘れてガッツポーズ!


「大変だったけど、いきなりレベルが上がったし幸先良いのかな? これからもどんどんレベルを……って! あ、ああああああああああああああ!???」


 突然の俺の叫び声に背後の森では小鳥達が驚いてバサバサと飛び立つ。

 でも、今はそんな事をいちいち気にしていられない。

 俺はとても大事な事を思い出してしまった。


「……ボーナススキル忘れてた。確か『獲得経験値UP』ってスキルあったよな……?」


 半ば呆然と『ボーナススキル操作』と念じ『獲得経験値UP』の項目を見つける。

 それを見て俺は地面に突っ伏してしまった。



読んでくださりありがとうございました。

あまりの暑さにPCの調子が悪くて、ヒヤヒヤしながら書いてました。

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