プロローグ
「うーむ……、またひとつ街が飲み込まれるのか……」
泉に映った痛ましい光景に、地面に届きそうな立派な白髭を撫でながらひとりの老人が呟く。
老人の視線の先には所々崩れた外壁、火に包まれ逃げ惑う人々、そして街その物を喰い尽くす勢いで襲い掛かる魔物の群れ…。
「あの迷宮はギリギリ間に合うと思っておったのじゃが、数も質も低下しつつあるあの世界の住人ではやはり無理じゃったか……」
人々の悲痛な叫びが届いたのか、次から次へと魔物が湧き出している大穴を忌々しそうに睨みながら右手に持つ杖を一振りすると映っていた景色が消え、泉はいつもの水面へと戻る。
「わしが直接手を下せばあの程度の魔物は一瞬で片付くが、わしらは基本的に世界には干渉せず見守るのが仕事じゃからのぅ。それにそのような世界にしたのも元はと言えばわしじゃしなぁ……。じゃが、このまま何もせずそのままというのも……あの世界はわしのお気に入りのひとつじゃし」
俯きながら白髭を弄りつつしばらく思案していたが、良い案でも浮かんだのかゆっくり顔を上げる。その顔はちょっとした悪戯を思いついたかのように少しニヤついていた。
「わしが直接あの世界に干渉するのは拙いが、代わりにどこか異世界から希望者を集って彼らに手伝ってもらうのはどうじゃろう?」
杖を地面に突き刺しごにょごにょと呪文らしきものを呟くと老人の身体が光り輝いていく。
「あまり大人数すぎると世界のバランスが崩れてしまうからほどほどにしておかんと……。じゃが質の向上のためにも何かしらの特典は付けても良いかもしれんのぅ」
読んでくださりありがとうございました。
初投稿です。