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Ghost Student  作者: 荻海
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出逢い

 いつもと変わらない授業の風景。あくびを噛み殺しながら黒板を眺め続ける。退屈だけど、こんなにも平和ならば悪くはない。


 僕は平和が好きだ。


 歴史上では日本に限らないが、多くの人間が戦争を繰り返した。

 勝者は支配者となり、敗者はこの上ない屈辱と苦しみを味わう。

 けれども、敗者に限らず、勝者もまた、多くの犠牲を出している。犠牲の上に成り立つ勝利。

 人間はどうしてそこまでして戦争を引き起こそうとしたのだろうか?


 犠牲となったのは人間だけではない。多くの植物や動物も、人間の戦争に巻き込まれて死んでいったはずだ。

 地球もかなり傷を負っているだろう。


 戦争についてぼんやりと考えていると、ようやく退屈な授業が終わった。ちょうど第二次世界大戦の辺りだから、大分戦争について考えてしまった。


「葉一、今日これからどうする?」


 今日の全ての授業が終わり、これからホームルームだというのに、親友である波風瞬はかぜしゅんは僕の所に来て立ち話を始めた。


「その前に、先生来るよ」


 一言注意すると、何故か瞬はぽかんと口を開け、頭にハテナを浮かべた。


「どうした瞬?何か変なこと言ったか?」


「お前、先生の話聞いてなかったのか?」


「え?」


「先生が授業終わる前に言ってただろ?少し時間が余ったからこのままホームルームするって」


 しまった。ずっと考えに耽っていたせいで全く聞いてなかった。ついでに授業の内容も前半から第二次世界大戦だったため、半分ほどわかってない。


「珍しいな。お前が先生の話を聞かないなんて」


「いやちょっと戦争にはどんな意味があったんだろうって考えてたら周りの音とかわからなくなってたから」


 早口で理由(言い訳)を述べると、瞬はハイハイと、適当に流した。


「で、これからどうするよ?」


「う~ん、ちょっと図書室で調べ物して行きたいんだけど」


「そっか。じゃあ俺は適当に走ってくる」


 瞬は走るのが好きで、暇さえあればそこら辺を走っている。部活というものに入っているわけではないのだが、かなり速いほうだ。


「にしてもお前、毎日図書室行ってるよな」


 それは仕方ない。それが僕の日課となってしまっているのだから。


「別にいいだろ」


「好きな子でもいんのか?」


「ぶっ」


 瞬の言葉に思わず吹き出してしまった。図星というわけではないのだが。

 全く、瞬はたまにこうやって急に変なことを言う。僕は純粋に調べたいことがあるだけだというのに。


「図星か?」


「図星じゃない!」


 繰り返すが図星ではない。


「瞬は調べようとしないものだよ」


 僕の言い方が気に食わなかったのか、瞬はムスッとした顔になる。


「何だよその言い方。まるで俺がバカでマヌケなバカみたいじゃないか」

 そこまでは言ってない!あと何故自分でバカを二度言った!?自覚してるのか!


「そうじゃなくて、歴史の資料だよ。第二次世界大戦の。瞬はあの資料見たくないんだろ?」


「まあな。あんなの聞くのもうんざりだ」


 瞬はどういうわけか、歴史の中で第二次世界大戦だけを嫌う。僕は逆に知りたいと思う方なのに。


「まあいいや。もう俺は走ってくるよ」


「がんばれよ」


「お前もな」



 瞬と別れてから数分。僕は図書室でいくつかの資料を読みあさっていた。

 図書室には僕以外誰もいない。放課後の図書室にいるのは基本的に僕だけだ。他の生徒や先生は図書室には来ない。みんなは早々に帰るか、自分の趣味(瞬の場合走ること)に没頭している。


 夜になればさすがに施錠をするために先生がくる。しかし、僕は毎回その時間まで図書室に居座るため、先生達から鍵を預けられてしまった。

 ちゃんと規定の時間までに鍵を掛けてくれるなら、ギリギリまで読んでいていいと言われたのだ。

 本来なら十五分前に追い出されるのだが、先生に見つからないように隠れていたら、そのままバレずに鍵を掛けられたのだ。慌てて自分がまだいることを伝え、鍵を開けてもらったが、こっぴどく怒られた。同時に、心底呆れられた。

 おかげで鍵を渡してもらったが、時間を忘れて読み耽ってしまうため、時間が過ぎてしまうことが多々ある。


 そして、今日も時間を忘れて読み耽ってしまった。規定の時間はとうの昔に過ぎ、もう真夜中だ。

 ちょうど図書室の一番端の角に、多くの資料があったのだ。

 今までそんな角まで行ったことがなかったため、初めて見る資料ばかりある。


 おかげで、時間ギリギリの所から大量の初めて見る資料を読み始めてしまったのだ。


「さすがにこれは、怒られるなぁ…」


 今まででも、時間を過ぎてしまうことは多くあった。それが先生に知られた日は、少し注意されて終わった。

 そして今回はさすがにまずい時間になってしまった。鍵返却は免れないかもしれない。


 急いで図書室の施錠をし、校舎を出ると、僕は不思議な光景を目にした。


 真夜中の校庭。


 満月が明るく照らしている。


 さもそこが舞台であるかのように、一人の少女が踊る。

 ひらひらと、ゆらゆらと、ふわりふわりと、舞う。


 幻想的に。


 華やかに。


 美しく、舞う。


 少女の艶やかな黒髪は長く、季節は夏だというのに、一切の日焼けを感じさせない陶器のように白い肌。少しでも力を入れてしまえば折れてしまうのではないかと思うほど、華奢で細い腕と足。

 まるで、何かに哀しんでいるかのようにも見える。


 少女はしばらく踊った後、こちらを向き、一礼をした。

 どうやら、僕が見ていたことは気付いていたようだ。


「どうでしたか?私の踊りは」


「とても良かったと思うよ。どこか別の世界にでも迷い込んだんじゃないかと錯覚するほどに」


 お世辞ではなく、純粋な感想だ。彼女の踊りはとても幻想的で、周りの風景さえもが幻想世界に変わったかのように思えた。

 僕の率直な感想に対し、彼女は口元を手で抑えながらクスクスと笑った。


「いくら何でも、私はそこまですごくはありませんよ」


 彼女は僕の方へと歩いて近付きながら、言葉を続けた。


「私なんか、ちゃんと講師から教えてもらったこともない、ただの素人なんですから」


「え?それじゃあ今のは……」


「私の独学です」


 彼女は僕の目の前で止まり、ふわりと微笑んだ。その笑顔に、僕はどぎまぎしながら、ふとあることに気づいた。


「その制服……」


 彼女はこの高校の制服を着ていた。しかし、それは十年以上前の制服だった。

 校内に当時の写真があったため、ハッキリと覚えている。


「これですか?母がこの高校に通っていたと聞いたので、ここに来るために着てきたんです。何か変でしょうか?」


 どうやら彼女は制服が変わったことを知らないらしい。


「いや、その制服は十年以上前に変わったんだよ」


「え?それは、盲点でしたね」


「君、もしかして…」


「はい。私はこの高校の生徒ではありません」


 先ほどの彼女の言動から何となくそうなのではと思ったが、そういうことか。


「たしかに、二十年近く経ってしまえば、変わってしまってもおかしくありませんね」


 少し話をして、僕は気づいた。

 彼女は、僕達とは違う存在だ。


「そういえば、自己紹介がまだだったね。僕は宮橋葉一みやはしよういち。この高校に通ってる。君は?」


「私は、羽島水夏はしまみずか。これからよろしくお願いしますね。葉一」

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