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◇動き始めた学園生活

「ただいま帰りました。」


私は玄関の扉を開け、皐月さんが居るであろうリビングへと向かった。

いつもは皐月さんが出迎えてくれるが、今日はそれがない。

皐月さんは出掛けているのかな?

そう思いながらリビングに入ると、皐月さんが難しい顔をしてお茶を啜っているのが目に入った。


「皐月さん、ただいま帰りました。」


私は皐月さんに帰った事を伝えた。

皐月さんはそこで漸く私に気がついたみたいで、「もう、こんな時間なのね・・・。」と呟いた。


「皐月さん?」


「百合亜さん、着替えが終わったら、大切なお話があります。」


「・・・・大切なお話?」


「えぇ。とにかく、着替えていらっしゃい。」


「はい。」


私は不思議に思いながらも自分の部屋に行き、着替えを済ませ、ふと机の上に置いてある宝箱を見た。

私の大切な思い出が詰まった宝箱だ。

いつもの優しい雰囲気じゃなく何故か緊張している様子の皐月さんに少し不安を感じた私はその不安を和らげる様にそっとその宝箱に触れた。


「・・・・皐月さんが待ってる。」


私は不安を打ち消すかの様にそう呟いてリビングへ向かった。



***************



私は皐月さんの目の前に座り、温かい紅茶を一口飲んで一息ついた。


「皐月さん、お話って何ですか?」


「・・・・・・」


「皐月さん?」


「百合亜さん・・・・今朝、この手紙が届きました。」


「手紙?」


私は皐月さんが差し出した手紙を受け取った。

その手紙は封が開いていて、おそらく中身を皐月さんが確認したのだろう。

普段は勝手に百合亜の手紙を読んだりしない皐月さんだったがこの手紙に関しては別だった様だ。それほど緊急を要したのかもしれない。

差出人を確認するけど封筒には私の名前以外何も書かれていない。


「百合亜さん、勝手に手紙の封を開けてしまってごめんなさいね。でも、差出人が差出人だけに、すぐ中を確認したかったものだから。」


「差出人って・・・・名前は書いてないですよ?」


「そうね。・・・・その封蝋があるでしょう?それは、八重桜学園(やえざくらがくえん)の理事長が使っているものなの。だからその手紙は八重桜学園の理事長からってことになるわね。・・・手紙の内容は学園からの入学案内だったわ。」


「・・・・え!?皐月さん?・・・・私が春から行く高校は聖蘭高校です。」


私は皐月さんが手紙の封を勝手に開けてしまった事など気にしていなかった。それよりも八重桜学園の入学案内という言葉が引っかかる。私は八重桜学園の試験すら受けていないから、入学案内がくるはずがないのだ。


この八重桜学園は名門校で、学費が高額なので一般の生徒はほとんど通えない学校の一つだ。

剣道部はかなりの強豪で、私も行ってみたいと一度は思った事があるけど、学費の問題もあったので希望校の中に最初から入れていなかった。

私は奨学金が受けられる聖蘭高校へ志願した。聖蘭高校もそこそこ剣道部が盛んだったからだ。



私は子どもの頃に誘拐された事があったらしい。

自分はあまり覚えていないのだが、それ以来母親の栞が自分の身は自分で守るようにと私に色んな事を学ばせた。

剣道もその中の1つで、やり始めは自分の身を守る為だったが百合亜はとても気に入っている。出来れば剣道の盛んな学校へ通いたいと思っていた。


だから八重桜学園の入学案内が来たと聞いた時には間違いなんじゃないかと思うと同時に期待というか嬉しいというか、とにかくワクワクする気持ちが芽生えたのは確かだった。

でもその入学案内が間違いでもそうじゃなくても八重桜学園に憧れはあったが通うとなると私にとってあまりにも大きな壁がある事は分かっていた。


名門なだけに偏差値も高くおまけに学費も高い。しかも、その学校はこの家から通える場所ではない。通えるのは通えるがとても時間がかかる。

普通にその学園に入学出来るお金持ちの学生達は自分の家から車のお迎えがあったりお抱えの別荘があるので寮の必要性がない。

だから八重桜学園には寮が必要視されていなかった。

私は学園の近くに別荘があるどころか親戚すらいないし家からの車のお迎えがあるわけでもない。

だからもしこの学園に入学するとなると必然的に1人暮らしをする事になるだろう。でもそれだとやはり出費が気になる。

それにお母様との思い出が詰まったこの家を離れるのも皐月さんの側を離れるのも嫌だった。


(もう大切な人とお別れをするのは嫌だ。)


「えぇ、そうね。・・・でも、これはもう決まってしまっているのよ。八重桜学園理事長から直々にあなたに通達があったの。」


「そんな・・・・。きっと何かの間違いです。私は試験すら受けていないんです。それに私、1人暮らしなんて出来ません。お迎えだってないし、学園近くに別荘や親戚の家があるわけじゃないしそうなったら必然的に1人暮らしをする事になるでしょう?それに・・・・この家から離れるのは嫌です。」


「大丈夫。私も百合亜さんを1人暮らしさせるつもりはありませんから。この学園には選ばれた一部の生徒だけが入室を許可される特別な建物、木漏れ日荘という寮があって、百合亜さんは4月からそこへ入寮する事になっています。」


「・・・・っ!!皐月さん!!」


私はテーブルを叩いて立ち上がった。

冷めてしまった紅茶がティーカップの中で揺れた。


(どうしてそんな何でもない様な・・・平気な顔してそんな事が言えるの?私はここから出て行きたくない。お母様との思い出が詰まったこの家で皐月さんと一緒にずっと暮らしていきたいと思っているのに!!)


感情が抑えきれなくて拳をぎゅっと握って立ち上がった私を皐月さんは冷静な眼差しで見つめてくる。


(どうして皐月さんはそんなに冷静でいられるんだう。私と離れ離れになっても皐月さんはちっとも寂しくないのかな?やっぱり私は足手まとい?迷惑だって・・・めんどくさいって思ってるのかな。それでも・・・皐月さんがどう思っていようと、私はやっぱり寂しいよ。)


それに、ここにある桜の木の下であの男の子と出会った。・・・・あの子と出会うことが出来るかもしれない唯一の場所からも離れる事になってしまう。あの子は私が困った時に助けに来てくれると言った。今はまだあれから1回も会いに来てくれた事がないけれど、でも私がここにいる限りは会える可能性もゼロじゃない。もし、私がここから離れてしまったら・・・その会える可能性は・・・きっと無くなってしまうだろう。


(どうやったら皐月さんはこの思いを分かってくれるのだろう。どうやったらここに留まる事が出来る?)


私はどうしていいのか分からなくなり、瞳に涙を浮かべて俯いた。

皐月さんに分かってもらえなくて、もどかしくて仕方なかった。テーブルの上で拳を作った手をもっとぎゅっと強く握る。


すると、その拳の上にひんやりとした柔らかい掌が重なった。

皐月さんの手だった。

その掌は私の心を包み込んでくれるみたいで、ささくれ立った気持ちを少し落ち着かせてくれた。でもその事に私は少し寂しさも感じた。だって私がそれを納得してしまうという事は・・・・それはここから・・・・この大切な場所から離れる覚悟を自分でしてしまったという事になるから。


「百合亜さん?分かっていますよ。あなたはここから離れたくないのでしょう?」


私は顔を上げ、皐月さんを縋るように見つめた。


「私もあなたと離れるのは辛いのよ。・・・出来れば聖蘭高校へこの家から通って欲しいと思っているの。

でも、あなたは八重桜学園へ行き、多くの事を学ぶべきだわ。百合亜さんは剣道に力を入れたいと思っていたのでしょう?

八重桜学園の剣道部は全国でも1、2を競うほどの強さの学園だもの。こんなチャンスはないでしょう?」


私は皐月さんの言葉を聞きながら少し冷静になった。

そして私の手に添えてある皐月さんの手が少し震えているのに気がついた。

そういえば、学校から帰った私を毎日の様に玄関で出迎えてくれている皐月さんは今日様子が変だった。リビングのテーブルに座ったままで難しい顔をしてこの手紙を見つめていた。

皐月さんだって何も感じていない訳ではないのだ。自分だけが寂しく思っている訳じゃない。きっと皐月さんも寂しいと思ってくれているのに、それを我慢して私に良い境遇で勉強させようとこんなに必死に説得してくれているのに、私は自分が寂しいからってまた皐月さんに辛い事を言わせてしまってる。

そうだよね・・・。もしこの入学案内が本物ならこんなチャンス2度とない。自分のやりたいことが思いっきり出来るのんだから。でも入学するには問題があった。


「でも皐月さん、この学園は学費が高くて奨学金制度も聞いた事がありませんし、私には入学金すら支払う事が出来ないです。・・・・やっぱり入学は難しいと思います。」


私はストンと椅子に座り、今日届いたという八重桜学園の入学案内が入った封筒を見つめた。


「百合亜さん、その手紙にはこう書かれています。

”入学金や授業料などの学費は一切不要。寮の家賃なども要りません。必要な物はこちらで全て用意致します。その代わり、条件があります。”」


「え・・・?お金要らないんですか?そんな虫のいい話。その条件って言うのがもしかして物凄く大変な事・・・とか?」


私は不安になった。

入学金や授業料、寮のお金さえも必要ないなんて、きっととんでもない条件を言ってくるに違いない。

なんてったって、なんの代わり映えもしない私を強制的に入学させようとしている変わった理事長だ。


「そんな不安そうな顔をしなくても大丈夫ですよ。

・・・・条件は、木漏れ日荘に入寮し、成績は常に学園上位をキープする事、剣道部に所属し結果を出すこと。

そして、”Prunusプラナス”に所属すること。以上です。」


「皐月さん・・・・。木漏れ日荘に入寮する、成績学園上位をキープする、剣道部で結果を出す事は分かりましたが、”Prunusプラナス”に所属する事って、何ですか?」


「おそらく、生徒会か何かだと思います。詳しくは学園の入学手続きを正式に済ませてからの説明になるみたいですよ。」


私は考えた。

皐月さんの口ぶりからしてこれはもう決定事項らしい。

私1人が嫌だと言った所でどうにかなりそうもない。それによって皐月さんに迷惑がかかるのはもっと嫌だ。

生徒会とかは大変そうだけど、生徒に出来ない様な事を学園理事長が強制する訳がないだろうしここは諦めて八重桜学園の入学手続きを済ませよう。


「分かりました。入学手続きをします。」


私がそう言うと、皐月さんはホッとした様子を見せた。

そして苦笑しながらこう言った。


「そう・・・・。百合亜さんがここを離れるのは寂しいけれど、一生会えなくなる訳ではないし、ここは百合亜さんの家なんだからいつでも帰ってくればいいのだし。それに、もう聖蘭高校の内定も取り消されてしまっていたから自分で納得して八重桜学園に行ってくれるのは良いことだと思うわ。」


(え???)


私は耳を疑った。

今、皐月さんは”聖蘭高校の内定も取り消されてしまっていたから”と言わなかっただろうか?

私の聞き間違いかな?そんな事あるわけがない。本人が全く知らない内に内定取り消しなんて・・・・。私は疑惑の眼差しを皐月さんに送った。


「あら、何かおかしな事言ったかしら?」


「あの、皐月さん?今、”聖蘭高校の内定も取り消されてしまっていたから”と言われました。」


「えぇ、言ったわよ?全く、あの人達は困った人達よねぇ。

いくら百合亜さんを八重桜学園に入学させたいからって、せっかく百合亜さんが頑張って受かった高校をあっさり内定取り消しにするなんて。」


爆弾発言だ。

本人はまったくそんな事とは思っていないみたいだが、かなりショックな出来事を皐月さんはあっさりと言ってしまっている。

私はこれから、何の苦もなくあっさりと人の内定を取り消し出来る様な強敵とやり合わなければならないのか・・・・。

いや、やり合う必要はないのか?

でも、条件を満たさなければ学園にすら居られなくなる可能性もある。

無事高校生活を最後まで過ごせるのか心配だ。


(そういえば、秋君や美咲にも高校を変更した事を伝えなくちゃ。また一緒の学校に行けるって一緒になって喜んでたのにまさかここにきていきなり私だけ違う学校になるなんて。)


心強い戦友を失った事がかなりの痛手だ。

どちらにしても全く知らない所に行く事になるのだが、親友達が側に居るのと居ないのでは桁外れに安心感が違う。

でも決定してしまった事だ。明日2人には話そう・・・・。



***************



翌朝、私は重い足取りで学校へ向かった。

秋君や美咲にどこから話せばいいのか・・・・。

不本意だけど私の身勝手でいきなり高校を変更してしまった。

お互い同じ高校に行けるとあんなに喜んでいた2人を前にちゃんと話が出来るのかな。

そう思っているといつの間にか教室にたどり着いていた。

教室の入り口に差し掛かり、教室の中を見る。

2人はもう登校していて、百合亜を見つけると笑顔で挨拶をしてくる。


「百合亜、おっはよ!!」


「おはよ~!・・・?百合亜、教室入らないの?」


「・・・あっ、うん入る・・・・。2人ともおはよ。」


私は自分の机に向かい、鞄を机の横に掛けた。

そして椅子に座る。


(どうしよぉ。話さないといけないのに、やっぱり2人の反応怖くて切り出せないよぉ。)


その様子を眺めていた2人がお互いの顔を見て、首を傾げた。

明らかに私の様子がおかしいと思ったんだろう。

昨日学校で別れるまでは私に変わったところはなかったし、もしかしたら家に帰ってから何かあったのかもしれないと思った2人は私が座っている席へとやって来た。


「百合亜、何かあったの?」


「えっ!?どうしてっ!?」


「どうしてって、・・・・なぁ?」


「うん。明らかに百合亜の態度、おかしいわよ。家で何かあったの?それとも登校中に誰かに何か言われた?」


百合亜自身は気づいていないが、百合亜はかなりモテる。


美咲は光に当たると金色に見える天然はちみつ色の百合亜の髪の毛を見つめた。それは風によってふわふわ揺れていた。それが陶器の様な真っ白い百合亜の肌を際立たせた。

瞳は大きくクリクリしていて髪と同じはちみつ色。

百合亜の優しくおっとりした性格も相まって周りの人間にはこの小動物を危険から守ってあげなければっ!!と思わせる雰囲気を作り出しているのだ。

でも実際、普段おっとりしていて優しい百合亜は、かなり武術にたけているので何かあった時は守ってもらうどころか反対にか弱い者を守らなければ!・・・・という内面を持っている。


しかし百合亜とそんなに近しくない周りの人達はそんな百合亜の外見だけを見て憧れを抱く者も多い。

陰でファンクラブがあるくらいだ。

普段はファンクラブ内で”抜け駆け禁止令”がある為、百合亜に危害が加わることはないが、それが他校となると話は別だ。


これまでにも何度か、登下校中に数人の男の子に囲まれた事があった。

いくら武術にたけていても男数人がかりでは百合亜も1人で対処するのは難しい。

やはり百合亜も女の子だけにかなり恐怖を覚えたみたいだ。


男の子本人達は恋愛感情によってお近づきになりたいだけだが、まったく色恋に関心がない百合亜は恐喝だと思い、手酷くあしらっている。

それでも百合亜に近寄ってくる者が後を絶たないのだ。


しかも、ここには自分が人気ある事を自覚しているが、百合亜一筋の為他の女の子にはまったく興味を示さない人物がいる。


百合亜の幼馴染、須藤秋はサッカー部のエースで明るく誰とでも友達になれる性格で、かなりモテる。


サッカーの試合会場も女子率が高く、告白された事も数えきれないくらいある。

そんな秋が百合亜一筋という状況は周知の事実。

知らないのは百合亜本人だけだ。


その状態も気に入らないのか、百合亜は熱烈な秋ファンに何回か呼び出しを受けた事がある。


百合亜は「秋くんは大切な幼馴染です」と言って上手くかわそうと思っているのだが(いや、きっと本気でそう思っているんだろうけど)、その説明でだけで恋する乙女達は納得いくわけもなく、上手くいっているのかいないのかそういった秋ファンが百合亜に詰め寄るなんて事も後を絶たない。


百合亜の親友である(自分で言うけど)私、舞島美咲もまあ2人と同類だと思ってるけどね。

容姿端麗で長い黒髪が艶々していて背が高く、いつも燐としていてカッコイイとよく言われる。これは私のファンクラブ情報。それ以外でもお父様に連れて行ってもらったパーティーなんかでもよく言われる。


成績も良い方だと思うし、スポーツもそれなりにこなす。

性格は、はっきり自分の意見を言う為少しきつく感じると思うけど、弱い立場の者をほっとけない正義感の強いところも自分では気に入っているし何かと先生に頼られたり女子からの人気も高いと思ってる。


そんな私達2人が百合亜に溺愛していていつも一緒にいるから、嫉妬した馬鹿な奴(秋と私のファン共)が百合亜の登校中にまた何かやらかしたのかと思ったのだ。

しかし、百合亜はふるふると頭を振ると、「お昼休みに、2人に話があるの。」と言った。

私達は納得出来なかったけど、とにかく昼休みには百合亜の態度がおかしい理由が分かると知って担任がHRの為に教室に入ってきた事をきっかけに自分たちの席に着いた。



***************



-----昼休み-----


百合亜、秋、美咲の3人は冷たい風が吹く季節の中、中庭のベンチに座ってお弁当を広げていた。

今日は太陽が出ているのでこの季節にしては暖かい方だ。


「んで、何があったんだ?」


秋君が急かす様に聞いてきた。


「ちょっと、話にくい事かもしれないでしょ!そんなに焦らさないでよ。百合亜、自分のペースで話していいからね?」


そんな2人のやり取りを見ているとなんだか切なくなった。

2人共私の事をとても心配してくれている。

私は覚悟を決めて昨日あった出来事を2人に話し始めた。



-----


---------


-------------


----------------------。



それから、2人は黙って私の話を聞いてくれた。

話終わっても2人は口を開こうとはしなかった。


(当然だよね。私だってもし反対の立場で突然そんな事言われたらすごくショックだと思うし。)


2人に何て声を掛ければいいのか分からなかった。

でも、これから一緒におくるはずだった高校生活を自分が急に逸脱したことは変わる事ない事実だった。

私は自分を心配してくれていた友達を傷つけたのだ。その事で胸がズキズキ痛くなり、息苦しくなってくる。


「ごめんなさい・・・・。」


私はどうしても2人に謝らずにはいられなかった。

自己満足かもしれないが、今の自分が2人に伝える事の出来る唯一の言葉の様に思えた。


「うん、分かった・・・・。」


(え?)

私は俯いていた顔を上げて美咲を見た。でもそこに私を責める様子はなかった。


「分かった・・・・の?」


「あぁ、分かったよ。」


「秋君・・・・?」


もっと責められると思っていたのに、2人の落ち着いている態度に拍子抜けする。


「どうしたの?百合亜。まさか私が百合亜のこと、”酷い!一緒に高校に行こうって約束したのに!裏切り者!”とか言うと思ったの?そんなの、言うわけないでしょ。」


「だな。百合亜がわざと俺たちから離れて行こうとしているわけじゃないし、俺たちを傷つけようとしているわけじゃないってのは分かってるし。話聞く限り百合亜の知らないところで話が進められていたみたいだし・・・・。何か裏がありそうだしな。」


「そうね。あの名門、八重桜学園が試験もなしにいきなり入学許可出すなんて少し変よね。」


「少し調べてみるか・・・・。」


「そうね・・・・。」


なんだか、こちらも私を置き去りにして話が進めてる気がする。調べるとか・・・・なんなんだろぅ・・・・?


「あ、百合亜、早くお弁当食べちゃわないとお昼休憩なくなっちゃうわよ?」


「えっ!?ええ?」


「食うの遅せぇなぁ。俺が手伝ってやろっか?」


「ちょっと、百合亜のお弁当を狙うなんていい根性してるじゃないの。」


「俺は厚意で言っただけだろぉ!?」


「百合亜の作ったお弁当食べたいだけじゃないの!」


「チッ・・・・。バレたか。」


そんな2人のやり取りを呆然と眺める。いつもと同じ風景。

2人共怒っていないみたいだ。

もっと・・・”違う高校で寂しい”とか言ってくれるかなって思っていたけれど、そんなの私の我儘だよね。

自分が高校変更したくせに、こんな事思っちゃいけないんだ。

2人が酷いことした私を無条件で許してくれたって事だけでも有難い話だよね。

私は少し寂しく思いながらも残りのお弁当を平らげていくのだった。


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