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裏側  作者: 空虚
1/1

ep.1

帰りのホームルームで渡された進路希望調査の紙。

中学の頃でさえ、この紙一枚のわずかな空欄を埋める事が苦痛だった。


やりたい事なんて見つかっていない。

将来の夢なんて分からない。


中学の時ですら、「君たちには無限の可能性がある」と言いながら、その可能性を探し出す事を大人たちは手伝ってはくれない。

あくまでも自分次第なのだと。

それに、今の自分には到底知ることのできない、あるいは知っても想像もつかない仕事が存在し、誰かがそれをすることで世界が回っている。

それだけは何となくわかっていた。


無限の可能性を信じてアレコレ挑戦する事は時間的にも経済的にも不可能だ。


そんな限られた世界で、やりたいと思えないものばかりが目の前に積まれている。そう感じていた。

よくもまぁ皆、迷いなくやりたい事や将来の夢を持てるものだと。

よくも見つけられたものだと。

どうやって見つけたのかを一人一人に聞いてみたいところだが、どうせ「親の影響」だとか「何となく」とか、「昔から好きだったから」とか、そういう話になるのだろう。


この紙の事以外にも連絡事項を言う担任の話を聞き流しながら、どうしたものかとペンを回した。悩む程に椅子の背もたれに身を預ければ、摩擦の少ない座面からずるずると腰が滑り落ちて行く。


「そんな態度じゃ内申点はやれないな。この時期からの内申点も大事だからな?」と言われる。

「悩める青少年になんて事をー。」なんて棒読みで返せば、「帰宅部が言えたことか?」と突っ込まれ、痛いところを突かれたと少し苦く思った。


「来年はもう3年生だ。就職組となれば来年の今ぐらいに企業面接が順次始まる。実質もう一年を切ってると言って良いだろう。進学にしろ就職にしろ、行く先をちゃんと考えるように」


耳が痛いような、どこか不安を煽られたような言葉の締めくくりに、それじゃホームルーム終わり!と残し、活発な女性の担任教師は足早に教室を出ていった。



 昨日で夏休みも終わりを告げ、二学期が始まった。その初日に早速進路希望調査を配られ、憂鬱な新学期が更に重くなったように感じていた。


校内をゆっくり歩きながら帰路に就く。辺りを見れば、いつもより何処か寂しい空気感が漂っていた。それは一部の部活で3年が引退した事が主だろう。

それに対して、どこか人通りが増えた下校する影。その人の波に紛れつつ寄り道をしに足を向けた。


ありきたりにゲームセンターやカラオケには足を運ばずに、少し離れた所の精肉店でメンチカツを買い食いするために。


下校時刻というか、部活前の時間というか、15時を回った頃合いは小腹が空く。

早速買ったメンチカツを口に運べば、サクッとした衣の感触の後に口に広がる揚げ物の塩味と肉汁が染みるように旨い。


食べ終わって残った包装紙をくしゃっと丸めながら、ふとして横を向いた。

目に映るのは乱反射する水面と、綺麗に刈りそろえ整備された河川敷。

ここは登下校ルートの途中にある一級河川に架かる古ぼけた橋。

日差しは熱いものの、通り抜けていく風が心地良い。


少しだけ感傷に浸りたいのか、欄干に肘をつけば当然のように熱さを感じる。それも少しすれば慣れたのか僅かに熱が引いたのか割と平気になってしまった。始めに受けた熱に僅かにひりついた感触を覚えながらも、ただ遠くを意味なく眺めていた。


手の中で遊ばせていた包装紙が不意に吹いた風に取られ落ちていく。


「あっ」と思わず声が漏れた。


欄干の外、空中に投げ出され不規則に下へ落ちていく。

その時の声が聞こえたのか、ただ偶然こちらを見上げていたのか、1人の少女と視線が合った。


どこか儚げな顔立ちで、綺麗な髪が風に揺れて、思わず視線が釘付けになってしまった。


ゴミを投げ捨てたわけではないが、どこか居た堪れない。


どうしようかと苦笑いで軽く手を振るも、特に気にする様子もなく、河川敷から上がる階段へと向かっていった。こちらへ回ってくるのかと心拍が上がっていたが、そんなこともなく土手の向こうへと消えたらしい。


少しくらい愛想があっても良いだろうにと、無反応だった事を思いかえし、何処か癪に障った。


にしても、あの人に見覚えはない。

同じ学校の制服ではないのだから当たり前だ。

だが、こんな時間に他の高校の生徒に会う事もそうない筈。

街中のゲームセンターやカラオケとかなら兎も角、こんな橋でとは……。

近くの子なのだろうか。


いや、いい。

また会うとは思えないし、仮に会う事があったとしても話す機会があるとは思えない。


何にしても、目先考える事は進路の話。

流されて行った包装紙と一緒に進路希望調査の紙も無くしてしまいたかったな。

無くしたところで、提出期限が変わるわけでもないから、無意味な抵抗ではあるが、少しくらいこの憂鬱な感情を、横に置いてしまいたかった。


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