【大人の落語】まん汁怖い
えー、昔から「十人寄れば気は十色」なんてことを申しまして、一人一人お顔の形が違いますように、ご気性というのもそれぞれ違います。
そうなると、嫌いなモノなんかも色々と違ってくるようで……。
「おう、今日はせっかく皆で集まってんだ、それぞれが嫌いな食べ物を言い合うってのはどうだ?」
「そりゃ面白そうだな」
「俺はピーマンが嫌いだね。あの青臭い苦みがダメなんだ」
「子供かよ」
「じゃあ、そういうお前は何が嫌いなんだ」
「俺はキャラメルがダメだね」
「どうしてだよ、美味いじゃねーか」
「ほら、アレって歯にくっつくだろ。子供の頃、そのせいで銀歯の被せ物がボロっと取れちまってさ。それ以来、キャラメルがダメなんだ。あとは同じ理由でガムだな。いつ歯の被せ物が取れるか怖くて、とても食べる気にはならないな」
「俺もだ。特に餅は怖くて食えねぇな。一発で銀歯の被せ物が持ってかれるから」
「あ、それ分かるなー」
「俺は煎餅がダメだな」
「どうしてだい」
「この前、煎餅をボリボリ食ってたら突然ガリッて音がして、何だろうと思ったら奥歯が欠けちまっててさ。それ以来、固い食べ物が怖いんだ」
「なるほどな。っていうか、ここに居るのはみんな歯が弱いヤツばっかりだな。カルシウムが足りてないんじゃねーのか? 小魚を食えよ。あるだろ、ほら、アーモンド小魚とか」
「その小魚が固いって言ってんだよ」
「情けねぇなぁ」
「じゃあそう言うお前は、何も怖い食べ物は無いのかよ」
「俺は『まんじる』が怖い」
「何だよ、まんじるって。饅頭とは違うのか?」
「字で書くと『まん汁』だな。俺は『まん汁』が怖くてしょーがねぇ」
「だから何だよ、『まん汁』って」
「『まん』は、肉まんとか中華まんの『まん』さ。オシャレに言えば点心だな。お前、小籠包って知ってる?」
「知ってるに決まってんだろ」
「あれって、『まん』の中から汁が出てくるだろ。それを『まん汁』って言うのさ」
「それ、ふつうはスープって言うけどな」
「汁は汁だろ。ていうか、汁は英語に訳すとジュースだから、『まんジュース』って言ってもいいかも知れないな」
「なに『マングース』と『ポンジュース』をごちゃ混ぜにしたような言い方してんだよ」
「べつに言い方なんてどうでもいいけどさ。とにかく俺は『まん汁』が怖いんだ」
「なんでだよ、小籠包から出てくるスープは美味いだろ」
「ときどき臭い『まん汁』があるんだよ。腐ったチーズみたいな強烈な臭いのヤツが。そんな汁をジュルジュルすすった日にゃ、トラウマもんだぜ。あの強烈な臭いは、ちょっとやそっとじゃ消えやしねぇ」
「どんだけ外れを引いてんだよ。そこまで運が無いなんて相当なやつだぜ。一度占い師にでも観てもらった方がいいんじゃねーの?」
「……ねぇねぇ、何の話をしてるの?」
「あれ、珍しい。女の娘もいたのか」
「最初から居たわよ」
「そっか、ちっとも気付かなかったな。コイツ、『まん汁』が怖いんだって。お前は何か怖いものってある?」
「私は『がまん汁』が怖い」
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