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【大人の落語】まん汁怖い

作者: 辛口カレー
掲載日:2026/03/07

えー、昔から「十人寄れば気は十色」なんてことを申しまして、一人一人お顔の形が違いますように、ご気性というのもそれぞれ違います。

そうなると、嫌いなモノなんかも色々と違ってくるようで……。



「おう、今日はせっかく皆で集まってんだ、それぞれが嫌いな食べ物を言い合うってのはどうだ?」


「そりゃ面白そうだな」


「俺はピーマンが嫌いだね。あの青臭い苦みがダメなんだ」


「子供かよ」


「じゃあ、そういうお前は何が嫌いなんだ」


「俺はキャラメルがダメだね」


「どうしてだよ、美味(うま)いじゃねーか」


「ほら、アレって歯にくっつくだろ。子供の頃、そのせいで銀歯の(かぶ)せ物がボロっと取れちまってさ。それ以来、キャラメルがダメなんだ。あとは同じ理由でガムだな。いつ歯の被せ物が取れるか怖くて、とても食べる気にはならないな」


「俺もだ。特に(もち)は怖くて食えねぇな。一発で銀歯の被せ物が持ってかれるから」


「あ、それ分かるなー」


「俺は煎餅(せんべい)がダメだな」


「どうしてだい」


「この前、煎餅をボリボリ食ってたら突然ガリッて音がして、何だろうと思ったら奥歯が欠けちまっててさ。それ以来、固い食べ物が怖いんだ」


「なるほどな。っていうか、ここに居るのはみんな歯が弱いヤツばっかりだな。カルシウムが足りてないんじゃねーのか? 小魚を食えよ。あるだろ、ほら、アーモンド小魚とか」


「その小魚が固いって言ってんだよ」


「情けねぇなぁ」


「じゃあそう言うお前は、何も怖い食べ物は無いのかよ」


「俺は『まんじる』が怖い」


「何だよ、まんじるって。饅頭(まんじゅう)とは違うのか?」


「字で書くと『まん汁』だな。俺は『まん汁』が怖くてしょーがねぇ」


「だから何だよ、『まん汁』って」


「『まん』は、肉まんとか中華まんの『まん』さ。オシャレに言えば点心だな。お前、小籠包(しょうろんぽう)って知ってる?」


「知ってるに決まってんだろ」


「あれって、『まん』の中から汁が出てくるだろ。それを『まん汁』って言うのさ」


「それ、ふつうはスープって言うけどな」


「汁は汁だろ。ていうか、汁は英語に訳すとジュースだから、『まんジュース』って言ってもいいかも知れないな」


「なに『マングース』と『ポンジュース』をごちゃ混ぜにしたような言い方してんだよ」


「べつに言い方なんてどうでもいいけどさ。とにかく俺は『まん汁』が怖いんだ」


「なんでだよ、小籠包から出てくるスープは美味(うま)いだろ」


「ときどき臭い『まん汁』があるんだよ。腐ったチーズみたいな強烈な臭いのヤツが。そんな汁をジュルジュルすすった日にゃ、トラウマもんだぜ。あの強烈な臭いは、ちょっとやそっとじゃ消えやしねぇ」


「どんだけ外れを引いてんだよ。そこまで運が無いなんて相当なやつだぜ。一度占い師にでも観てもらった方がいいんじゃねーの?」


「……ねぇねぇ、何の話をしてるの?」


「あれ、珍しい。女の()もいたのか」


「最初から居たわよ」


「そっか、ちっとも気付かなかったな。コイツ、『まん汁』が怖いんだって。お前は何か怖いものってある?」


「私は『がまん汁』が怖い」

読んでいただき、ありがとうございました。

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