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男女比1:96の世界で、女性だらけの警察大学校に男一人で入学しました(1/96前日譚)  作者: Pyayume
一年目「孤立」

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第9話「評価」

1月某日。


進級試験結果が張り出された掲示板の前には、独特の静けさがあった。


学校生活で規律を叩き込まれている学生は、歓声も、ため息もない。


ただ、紙に印字された順位を確認するための視線だけが、規則正しく行き交っている。


警察大学校において、成績という序列は機能であり、将来の配置予測資料に過ぎないというのが俺の考えだ。


一学年の成績、その最上段に俺の名前はあった。


総合1位。


関教場の空気が、わずかに揺れる。


「やっぱり、国家資源様が1番ね。」


最初に声を出したのは朝倉が、肩をすくめ、掲示を指し示す。


「座学はぶっちぎり、術科も文句なしの安定感。次年度の優等生枠確定じゃん!」


軽い調子だが、以前のような露骨な揶揄や嘲笑ではない。


その様子を見た干川が、距離を詰める。


「すごいよね。でもさ、守られてる環境でそれだけ取れるのって、逆に安心だよね!」


干川の声に棘はなかった。


ただ、守られている、危険を排除されている、だから集中できる、という世界の前提が透ける。


付かず離れずの距離に居た姫野は、一瞥して、短く言った。


「特別扱いなんだから、当然でしょ。」


その一言には肯定も否定もなく、恵まれている環境である以上、最低でもこの程度は取るべきだ、という合理的判断を感じた。


最上は2位という自身の順位を確認し、わずかに眉を寄せた。


「机上問題は、分析力があれば点になるから。今回の評価軸がそうだっただけ。資質や能力の優劣じゃない。」


負けを認めない声音で、俺をしっかりと睨みつけてきた。


横峯は、最後まで何も言わなかった。


そして、掲示を見つめ、視線を下げ、俺を見る。


「……おめでとう。」


そう言った横峯は自分の名前の位置を確認し、ほんの僅かに唇を引いた。


その言葉だけが、順位や属性ではなく俺個人に向いていた。


俺の口元がわずかに緩む。


「ありがとう。」


一年目年度末評価何て、スタートラインに立つ前の準備運動の一部だ。


しかし、それを伝えるほど野暮にはならなかった。



続いて、成績掲示板の隣に、面談日程が貼り出された。


一年次総括個別面談。


そこでも俺の名前は、最上段にあった。


横峯がそれを見上げながら言う。


「トップだから最初?」


「整理番号順だろ。」


「そういうことにしとく。」


朝倉が横から覗き込む。


「優等生代表君!どんな総評もらうのか気になる〜。」


それに干川が続く。


「詳細な精神安定性チェックとか医師診断があるんでしょ?資源だし。」


姫野は無言で、最上は一瞥しただけで興味を示さなかった。


「特別なことはないだろ。」


そう答えたが、俺の内心は違っていた。


常時SP護衛対象、精神状態の変化は組織リスクになる。


特別なことはない、なんてことがあるはずがない。


---


年度末総括面談の定刻前となった。


俺が立つ教官室前の廊下は無機質で、蛍光灯の白い光が均一に床を照らしている。


俺の背中から一定距離を保って、SPが立つ。


その存在は視界に入らないようでいて、常に意識の端にある。


午後のチャイムが鳴り終わったのを合図に、俺は3回扉をノックした。


「入れ。」と言う関教官の声は、いつも通り低い。


「入ります!」と返事をして入室すると、机上には分厚い評価資料が整然と並んでいた。


成績、術科、生活態度、心理検査等、この学校でやってきた全ての個人情報が集まってるのだろう。


「まず、学業成績の評価から。」


関は手元の資料を見ながら、確認するかのように指でなぞった。


条文解釈精度が高い、事例問題における演習での論点抽出が迅速かつ正確、憲法・行政法・刑法・刑事訴訟法は苦手無し。


「つまるところ、全科目優秀で総合1位だ。各教官とも、歴代で上位に入る優秀さと舌を巻いている。担当教官としても文句はない。」


「ありがとうございます。」


関は手元の資料を1枚めくった。


「だが、特記事項がある。……初の男性学生につき、慎重運用を継続。……精神安定性は継続観察対象とし、現状通り週に1度のメンタル検診が必須。……三年次以降の現場実地研修については、段階的判断が必要なため保留。」


関の言葉に感情はなく、ただ上からの指示を伝えたように聞こえた。


俺は無言でわずかに頷く。


「微塵も表情が変わらないな。……想定内か。」


「はい。」


関は、俺をじっと見た。

「本当に佐藤は動揺しないな。」


「想定を超えておりませんし、合理的な判断と思っていますので。」


「合理的か……」


そう言いながら、関が1枚の紙を取り出した。


「今回受けた心理検査結果の詳細だ。」


視線だけが俺に向く。


「知能検査、自己効力感、問題解決能力、ストレス耐性、いずれも高水準。だが特異値があるとのことだ。」


「どの項目ですか。」


「ストレス負荷時の脳波の揺らぎだ。ストレスがかかってここまで脳波がぶれないのは、異常だそうだ。それこそ、薬物によるコントロールをしているかのような。」


関は値踏みするかのような視線を俺に向ける。


そのまま数秒ほど、視線がぶつかり合った。


沈黙が重く、鼓動の音が耳元で鳴り響くような感覚があった。


同時に俺は、耐えかねたようにふっと視線を斜め下へ落とした。


すると、関の険しかった眉間の皺が、わずかに緩む。


「……薬によるコントロールや、嘘をついている人間の反応じゃないな。」


関は手元の資料を閉じ込んだ。


「佐藤はただの一般優秀学生だと、報告することにする。」


「……ありがとうございます。」


俺は、関に軽く会釈した。


しかし、『ただの一般優秀学生』というその言葉が気になった。


その報告書の中に、俺の知らない何かが書かれているような予感を感じた。

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