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男女比1:96の世界で、女性だらけの警察大学校に男一人で入学しました(1/96前日譚)  作者: Pyayume
一年目「孤立」

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第8話「零一」

教場を出たとき、空気は少しだけ違っていた。


廊下の奥の方で朝倉の声が聞こえたが、数メートル先壁にもたれている横峯を見つけた。


「……終わった?」


「ああ。」


「顛末…どうなったの。」


「退校。事件化なし。」


端的に言った俺を見つめていた横峯の目が、わずかに揺れた。


「組織の人間同士とはいっても、男性絡みを考えると軽くない?」


「組織的合理だろ。」


「佐藤はどう思ってるの?」


「妥当。」


俺と横峯の間で、時が止まった。


「…………私なら、……怒るよ。」


「怒りは何も解決しない。」


「でも、それが人間ってことじゃない?」


横峯は視線を落とす。


「佐藤はさ、全部処理できちゃうんだね。」


その声から、わずかな苛立ちが混じったのに気づいた。


それは否定したかったが、否定する材料が見つからなかった。


今も後ろではSPが一定距離で立ち、横峯はそれを見た。


「強化されるんでしょ。護衛。」


「ああ。……ただ、守られる代償は自由だ。」


横峯は小さく息を吐く。


「……大丈夫だよ。」


「何が?」


「SPが増えたところで、佐藤は孤立に戻らないよ。」


俺が視線を上げ横峯の顔を見ると、少しだけ微笑んでいたことに気付く。


「私たちはきっと、ゆっくり変わるから。」


横峯の静かな声を否定する気にはならなかった。


廊下の奥で、朝倉と干川がこちらを見ている。


その表情から、教場の空気は確実に変わっていると実感できた。


---


食堂に移動して席を見つけて座ると、朝倉が向かいに座る。


「さっきのやつ、もう一回説明して。判例との接続のとこ」


隣に座ってきた干川も自然に椅子を引き、距離が物理的に縮まる。


俺は鞄に入れていた逐条解説とノートを開く。


「わかった。……まず、管理権の所在を確定する部分からだ。」


食事を取りながら俺が説明を始めると、2人の視線が学習の色に変わり、真剣に耳を傾けている様子だ。


横峯は朝倉の隣で、山盛りのマヨネーズご飯に手を付けていた。


その様子の後ろで、姫野が朝倉の後ろで背中合わせに座っているのが分かった。


気になるのか時折向けられる視線は冷たいままだ。


姫野の隣に座っていた最上は、食べ終わったのか、トレーを持って立ち上がる。


その2人が俺に抱いている対抗心は消えていないようだった。



食べながらの俺の解説が終わり、朝倉と干川が席を立つと、横峯から声がかかる。


「今日の講義、本当に助かったよ。」


「横峯がきちんと咀嚼して出力したんだ。自分の力だよ。」


「そんなことない。全部、組み立て方も含めて教わった。ありがとう。」


素直な言葉をかけられ、俺は口角があがるのが分かった。


「一人で抱えると限界が来るから、思考法は共有した方が強い。それに、共有しても、価値は減らないものだ。」


「そう?自分だけが持ってるノウハウって強くない?」


「周りが知っていたら、その分再現性が高まるだけだ。」


俺の言葉に横峯が小さく笑う。


「やっぱ合理的だね。」


「そうか」


「後さ、……姫野に言い返してた時思ったんだ。私、ああいう言い方できないなって。」


俺は答えるのに、少しだけ間を置く。


「何故?事実を述べただけだろう。」


「簡単だよ。嫌われるのが怖いから。」


横峯の率直な言葉を受け、俺は少し考える。


「嫌われても、事実は変わらないだろ。」


「でも。……関係性は変わるんだよ。」


横峯の言っているのは確かに正論だった。


「ねえ。…今日、ちょっとだけ教場の空気変わったと思わない?」


「学習装置の機能として見られているだけだろ。」


「それ、嬉しい?」


「俺に対する客観的な評価だ。」


「質問の答えになってないって。」


そう言って横峯が八重歯を見せた。


「そうじゃなくてさ、入校直後と比べて、独りじゃなくなった感じ、しない?」


真っ直ぐに見ながら言う横峯の言葉に、わずかに胸がざわつく。


「それは、教場の中だけだろ。」


「それでもさ、ゼロと1は違うよ。」


横峯による静かな断言に、俺は頷かなかったが否定もしなかった。


ずっと感じていた守られる存在、管理対象、そんな言葉。


だが教場では、少しだけ役割が生まれたように思う。


孤立よりはましだが、完全な受容ではなく、完全な排除でもない。


教場の空気が、確実に変わり始めている。


俺は依然として、慎重に扱われる存在だ。


しかし、ゼロと1は違うという言葉は、否定しなかった。

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