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男女比1:96の世界で、女性だらけの警察大学校に男一人で入学しました(1/96前日譚)  作者: Pyayume
一年目「孤立」

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第10話「肩書」

「さて、本意ではないが、別の教官からの指摘で確認することがある。」


関が重々しく言いながら取り出したのは、強盗殺人事件の演習問題だった。


「これ系の問題、一年次に完答したのは歴代で初めてだそうだ。」


そう言って関は俺の答案用紙を問題の隣に置いた。


「犯行動線の構築が早すぎる。さらに、侵入経路の特定、犯人の心理変遷、逃走経路の選択にも触れている。被疑者心理の推定が具体的すぎる。仮想事例であるはずの現場に、血液乾燥時間、遺体硬直進行、実況見分の手順まで記載したな。」


答案を示されると、俺の記述には、犯行時での躊躇の時間、手袋の素材選択理由まで書かれている。


「机上訓練の結果及び、合理的推測です。」


「想定事例を事前に入手し、試験までに問題を推測し、回答を用意していた。そういう見立てをする者もいるとは思わないか?」


わずかに、空気が変わった。


「現場経験の無い一年次は教科書的な一般論をベースに考察する。だが佐藤、お前は現場経験者の視点で書いている。これが、試験中に思い至ってまとめたとは俄に信じがたい。」


否定せず、沈黙する。


俺に前世と呼称すべき記憶があること、これは誰にも話していない。


「実際、試験問題は全教官が1題づつ作成し、試験開始1時間前に学校長が選ぶ。不正が不可能な以上、問題視はしない。……だが記録は残る。」


そこで関は深くため息をついた。


「……これは佐藤の過去を詮索するために聞くわけでは無いが、……過去に犯罪被害歴は?」


「ありません。」


俺は心の中で、『少なくとも、この人生では。』と呟き、沈黙した。


「……わかった。……能力は疑っていないが、警察は緊密な連帯が必要な集合体だ。個人の突出は、組織にとって扱いづらい。」


関は静かに言う。


「扱いづらい、ですか。」


「ああ。佐藤は優秀だが国家資源でもある。さらに、繁殖プランの受講を蹴って入校しているというイレギュラーだ。」


「扱いずらそうですね。」


関は疲れたような表情に変わり、自身の頭を掻いた。


「……まったく、……そういう訳だ。2年目も観察は続くと肝に銘じてくれ。」


「承知しました。」


「……最後に、別の教官が佐藤を机上型優等生と評価していた。理屈が先に立つため、感情の振れ幅が小さく、被害者共感性が低い。……そいつが言いたいことは一つ。佐藤が刑事には向いてないと、そう断じている。」


言葉自体に悪意はないが、俺の胸には刺さる言葉だった。


「反論はするか?」


「ありません。」


事実の一部と認識しているし、現時点の他人の評価を変えるつもりもない。


関はわずかに目を細める。


「……本当にないのか。悔しくはないか。」


「…評価は評価です。」


「わかった。……2年次も座学成績の上位は維持できるだろう。だが評価は能力だけで決まらないのがこの組織だ。」


関がファイルを閉じた。


「最後のは、塩なのか毒なのかは佐藤が判断しろ。……以上、次の最上を呼べ。」


「はい、ありがとうございました。」


俺は敬礼し、部屋を出る。


すると廊下には同期の班員がいた。


「次、最上。関教官が待ってる。」


姿勢を正して立っていた最上が俺を一瞥し、そのまま返事をせずに扉の中へ消えた。


近くに居た朝倉が、壁にもたれながら、尋ねる。


「で、拍手喝采、来年もよろしくーみたいな?」


「薬物所持とカンニングを疑われただけだ。」


「…えっ、何それ?」


朝倉の顔から軽薄さが消える。


「薬物って……本気で?」


「脳波が安定しすぎているらしい。」


俺の回答に、干川が目を丸くする。


「安定してて疑われるの?理不尽すぎない?」


「それが異常な安定だというデータがあるらしい。」


姫野が腕を組んだまま言う。


「逆に、何でそんなに揺れないの。」


「自分の脳波なんて、自分じゃ分かんないだろ。」


「優秀すぎるのも問題って……カンニング疑惑も含めて……それ、嫌じゃないの?」


横峯が、少しだけ遅れて口を開き、俺と視線が合う。


「疑うことは職業病だ。警察組織としては正しい確認だと思う。」


「でも、疑われたんでしょ。」


数秒、言葉を探すが上手く返せない自分が居た。


横峯は納得していない顔で、「私は嫌だな。」と言った。


「何が、嫌なんだ?」


「佐藤が、常に観察対象だったり、管理対象だったりすること。」


その言葉は決して軽くない。


それを察した朝倉が、空気を変えるように笑う。


「まあまあ!!優秀すぎるのも罪ってことで!!」


干川が大きく頷く。


「来年も1位でいてくれたら、それはそれで気持ちいいけどね。」


「座学番長で終わらないことね。」


そう言った姫野は組んでいた腕をほどき、トイレの方向に踵を返した。


直後、廊下にわずかな沈黙が訪れ、横峯が小さく息を吐く。


「こんなに、うちの組織に向いてる人いないのに。」


「今話したのは現時点の評価の1つってだけだ。特に否定する材料も無い。」


俺の言葉に横峯は首を振る。


「材料、作ればいいじゃん。」


「どうやって。」


「まだ分かんない。でも、佐藤が必要な人間だって、私が証明する。」


真剣に唐突な宣言をする横峯が、少し面白く感じる。


「何で、横峯が証明するんだよ。」


「勉強、……ずっと教わってるから。」


それだけ言って壁にもたれた横峯の表情には、わずかな焦りが混じっている。


横峯の順位と、俺の順位、その差は数字で示されている。


そろそろ1年目は終わる。


成績は最上位、評価は保留、観察対象、机上型、国家資源。


俺の肩書だけが増えていく。


だがそんな中で、横峯は、俺を『国家資源』とは呼ばない。



廊下の窓から差し込む冬の光が白い。


守られる存在が、刑事になれるのかという問いは、まだ解答欄の空白にある。


2年目の跫が、ゆっくりと聞こえる。

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