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青春短歌〜言葉にできない気持ちを、私たちは三十一文字にする〜  作者: 老川
一年生一学期

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7/16

いざコンクールへ

 翌朝、私はまひると一緒に登校していた。


「へー、しずく、短歌部に入ったんだ!」


 横を歩くまひるが驚いた顔を見せた。見学には行っていたが入部にまで至るとは思っていなかったらしい。


「うん。先輩たちもいい人だったし、私も何か挑戦してみたいなって」


「そっか。楽しいといいね!」


 そこで言葉を切ったまひるが何かに気づいたような表情を見せる。


「そうだ!古文の授業で短歌が出てきたら、しずくに教えてもらえるね」


「えっと…私、まだ勉強中だから…それに、現代語のしかわからないよ…」


 そんな会話をしながら歩く桜並木はこれまで以上に綺麗に思えた。


 翌日の放課後、私はまた短歌部の部室を訪れていた。ここへ来るのはまだ数回目だが、入部届を出したおかげか、あるいは気持ちの上での変化か、少し慣れた気がした。


 ノックをして扉を開けると、すでに先輩三人が揃っていた。奥に座った三上が歓迎するように右手を上げた。


「こんにちは、朝倉さん」


「しずくちゃん、やっほー。もう部員なんだから、いちいちノックしなくてもいいんだよ」


「こんにちは。まあ、慣れるまでは仕方ないよね」


「こんにちは…」


 先輩たちとの会話のテンポにも随分と慣れたものだ。緊張を覚えるよりも、心地よさがまさって思えた。


 荷物を置いて椅子に座ったところで、三上が話を切り出した。机の上にA4大のポスターを広げて見せる。


「それじゃあ、みんな揃ったところで一つお知らせしよう。今回は短歌部としてこのコンクールに参加することにした。締切は夏休み前だから、今学期中にみんなの作品をまとめて応募しようと思う」


 三上の話が終わると、三人で顔を寄せ合いポスターを覗き込んだ。そこには、「高校生夏の短歌コンクール」と書いてあった。高校生五人まででグループを作り、一つのテーマについて短歌を寄せ合って応募するとのことだ。正直、自分にはまだ少し遠いもののように思えてしまった。


 躊躇いながら小さく右手を上げる。


「あの…私、コンクールに出せる短歌を作れる気がしないんですが…」


「それは安心してくれ。今学期はこのコンクールを目標に据えて、朝倉さんに教えるのを中心にみんなで短歌の勉強をしていく。それと並行して、いつものような歌の発表と感想の会も行っていこうと思う」


 三上の自身ありげな顔に少し緊張感を削がれつつ、私はそれ以上の不満を告げることはできなかった。


「しずくちゃん、部長も最初から入選しろって言ってるわけじゃないから、そんなに緊張しないで」


 ひよりのフォローで完全に安心できたわけではなかったが、せっかく短歌部に入ったのだから少しでも楽しめたら良い。今はそう思うことにした。


 短歌についての勉強会は、次の部活から早速始まった。


「まずは五七五七七のリズムを尊重するところから始めよう」


 三上が言った。


「字余りというのがあって、聞いたことがあるかもしれないけれど、多少文字数が前後することも許される。とは言え、五七五七七のリズムというのはそれが心地よいものであり、日本人に慣れ親しまれたものとして残っていることも事実だ。まずは素直にそれに従おう」


 三上は言葉を切り、ホワイトボードに目を向ける。


 –––––春の日に言葉に出会い人に出会い育っていきたい私は新芽


 そこには私の作った歌が貼ってあった。緊張で背筋が伸びる。


「前回の歓迎会で朝倉さんが作った歌を見よう」


 三上がホワイトボードにペンを走らせた。


 –––––はるのひに ことばにであい ひとにであい そだっていきたい わたしはしんめ


「全体的に初めてにしてはよくできているけれど、“ひとにであい”の部分が字余りになっている。この部分が整えられると、もっとよくなるかもしれない」


「あとは言葉の重なりをどう捉えるかですね」


「ああ、藤原の言う通りだ。“出会い”と言う言葉が連続している。これが一つのリズムを作っているという好意的な見方もできるが、言葉を変えた方がよくなる可能性もあるな」


「例えばこんなのはどうでしょう」


 今度は藤原がホワイトボードに書いた。


 –––––春の日に言葉を見つけ人に会う育っていきたい私は新芽


「これもいいけど、私は雰囲気が変わった気がするな。“言葉を見つけ”っていうのはかなり主体的でしずくちゃんの言いたかったことに合っているのか微妙だと思う」


「その辺りは微調整と最終的には好みの問題だな。朝倉さんはどう思う?」


「えっと、そこまで深く考えられてなかったので…でも、藤原先輩が書いてくださったもののほうが、“出会い”の部分がくどくなくていい気がしました」


 少し胸が痛んだ。自分では頑張ったつもりで、先輩たちにも褒めてもらえたと思っていたばかりに、少し言葉が刺さった。私の声の調子が変わったからか、三上が声をかけてくれた。


「本格的に歌を作るようになったら、こういう批評や推敲のプロセスが大事になってくる。最初は緊張するだろうけれど、少しずつ慣れていってほしい」


 そのとき、部室の扉が開いた。入ってきたのは顧問の高橋だ。


「Hi! みなさん、お疲れ様です。朝倉さんも頑張っていますネ」


 陽気にやってきた高橋にみんなも挨拶を返す。その様子に私も少し元気が出た。


「早速、新入生の歌の添削ですか」


「高橋先生、新入生を励ます話でもしてくださいよ!」


 日和からの無茶振りに、高橋が少し困った顔をした。少しの逡巡ののち、高橋が口を開いた。


「そうですネ…それでは、徒然草に書いてある話を紹介しましょう。徒然草の第一五〇段に書かれています。芸事を身につけようとする人は上手でないうちは隠れて練習しようとしがちです。けれど、それでは上達しません。未熟なうちから上手な人たちに混ざって馬鹿にされても恥じずに練習する人は、生まれつきの才能がなくても、大成することができます。先輩たちに歌を見せることや意見をもらうことは、時に恥ずかしいでしょうが、その継続がきっと朝倉さんの力になるでしょう」


 気づけば私は高橋先生の話を聞き入っていた。コンクールに向けて不安は消えていなかったけれど、できることを頑張ってみたいと思った。

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