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青春短歌〜言葉にできない気持ちを、私たちは三十一文字にする〜  作者: 老川
一年生一学期

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4/16

春の歌

「さあ、みんな書けたかな」


 三上が顔を上げて木暮と藤原を確認する。


「最初に発表したい人は?」


「じゃあ俺から」


 藤原が控えめに手を挙げた。そのまま立ち上がってホワイトボードに紙を貼り付ける。


 –––––桜花散りゆく様に春を覚える散り切る頃に我はいずこへ


「次は私ですかね」


 木暮が後に続くように立ち上がると、自分の紙を貼り付ける。


 –––––桜散る景色はあちこちで見られるまだ見ぬあなたも見ていることか


「うん、じゃあ最後に俺だな」


 そう言って三上が最後に自分の分を貼った。


 –––––春が来た新しきことに挑むとき我らはここで君を迎える


 三人の短歌が並んだのを見ると、どれも春や桜についてのものだったが、三者三様で面白く思えた。それにポスターと違ってすっと意味が理解できた。


「見たらわかると思うけど、私たちで歌を詠むときは大体いつも口語、つまり現代語で書くんだ。だからポスターにあった歌よりも意味がわかりやすいし、始めるのにもそんなに緊張しなくて良いよ」


 横から木暮が補足してくれる。


「けど部長、この歌ちょっと露骨じゃないですか?」


 彼女はそのまま三上の方へと顔の向きを変えた。


「元々はポスター用に作った歌だったから…新入生が来たから結果オーライってことで」


 そう言った三上はホワイトボードをチラッと見る。


「そう言う木暮は相変わらず恋の歌なんだな」


「はい!今年こそはこの歌の運命の人に出会いたいです」


「恋愛経験がない割にいい歌作るよな」


「いいじゃん!好きなんだもん」


 藤原も加わり、あっという間に三人による議論が始まってしまった。


「藤原は素朴でいい歌だな。散る桜という分かりやすいテーマに自分の将来を重ねることでうまくオリジナリティが出ている気がする」


「ありがとうございます」


「でも、ちょっとありがちじゃない?」


「せめて定番と言ってくれよ…そういうお前は“見る”の字がダブりすぎじゃないか?」


「そういう哲平も“散る”って二回言ってるじゃん」


 三人の議論はヒートアップしていく。短歌部という言葉からイメージしていたよりも活発な部活なのだということが伝わってきた。


 外野から三人を眺めていると、こちらを向いた木暮と目が合った。


「朝倉さんはどれか気に入った歌とか、気になることとかあった?」


「えっと、私は木暮先輩の歌が気になりました。難しいことは分かりませんけど、素敵だなって」


「やった!ありがと、朝倉さん」


 木暮が大袈裟にガッツポーズをしてみせた。


「まあ、こんな感じで作った歌を発表し合って意見を出すのがよくある光景の一つかな。この歌にも書いたように俺らは新入生大歓迎だから、最初は勉強から始めて次第に自作したり議論に参加したりするようになれば良いよ」


 そう言って三上がまとめ始めたところに、一つチャイムが鳴った。部活見学の終わりを告げるチャイムだ。


「もう終わりの時間か。水曜日と金曜日は活動してて見学もできるから、興味があったらまた来て欲しい」


「今日はありがとね、朝倉さん!」


「お疲れ様」


 三人に見送られるようにして部室を後にする。見学の時間は短いものだったが、アットホームな雰囲気を知れただけでも良かったと思えた。それに参加することもできなかったが、議論を眺めていただけで高揚感が伝わってきた。


 昇降口を出て駅に向かって歩く。駅までの桜並木を普段より少しゆっくり歩いた。三人の作った短歌の意味が少しわかった気がした。


 家に帰ってスマホを取り出すと、タイミングを見計らったかのように、まひるからの着信が入った。


「もしもし?」


「あっ、しずく!もうおうち着いた?」


「うん、今帰ったとこ」


「おかえり!ねえねえ、短歌部ってどうだった?」


 まひるに短歌部の感想を語る。思っていたよりも明るく歓迎してもらえたこと。先輩たちが真剣に短歌に取り組んでいることが伝わってきたこと。いつもと違いしずくの方が多く話していたが、まひるはちゃんと話を聞いてくれた。


 話に区切りがついたところで一息つくと、まひるに尋ねられた。


「じゃあ、しずくは短歌部に入ってみるの?」


「どうしよう…とりあえず、また見学に入ってみようと思うけど」


「そっか。何かあったら話聞くからまた感想聞かせてね!また月曜日ね!」


「うん。またね」


 通話が終わり暗くなったスマホの画面を前に軽く息を吐く。感想を話しているうちに、短い部活見学の時間を思いの外楽しめていたことに気がついた。


 今ならと思い、SNSアプリを立ち上げる。短い言葉で短歌部の感想を綴り、勢いに身を任せて投稿ボタンを押した。一つきりだった投稿数が二つに増えた。

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