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青春短歌〜言葉にできない気持ちを、私たちは三十一文字にする〜  作者: 老川
一年生一学期

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短歌部へようこそ

 新入生向けの案内に記された短歌部の部室は校舎の一階、日当たりの悪い隅の方にあった。扉の前に立つと空気がどこかひんやりしている気がした。落ち着きなく鼓動の音を響かせる心臓を宥めながら、一つ深呼吸をする。扉を軽くノックすると、中から応諾の返事が聞こえた。もう一つ小さく深呼吸をしてから扉をゆっくり開く。


 部屋の奥にある大きな窓から日差しが差し込んでいた。逆光の中、三人の男女が座っていることが分かった。


 廊下との明暗の差に目をしばたかせていると、奥に座った一人が立ち上がった。


「見学の子かな?短歌部へようこそ」


 鷹揚な様子でこちらに両手を広げて見せる。返答に困っていると、座ったままの女子生徒から呆れたような声が届けられた。


「部長、わざとらしいですよ。新入生さんが困ってるじゃないですか」


 立ち上がった男子生徒–––––どうやら部長らしい–––––が堂々とした態度から一転、眉根を下げて申し訳なさそうな顔をした。


「すまん。困らせたかったわけじゃないんだ」


 部長は軽く咳払いをすると、改めてこちらに向き直った。


「短歌部へようこそ。部長の三上伸之です。気楽な部活だから、あんまり身構えずに中へどうぞ」


 手招きに応じて部屋に入ったところで自己紹介をしていなかったことに気がついた。


「えっと、新入生の朝倉しずくです。あの、ポスターを見かけて…」


 初対面の三人を相手に辿々しくなってしまったが、どうやら意図は伝わったらしい。


「朝倉さんね。私は木暮ひより、よろしくね」


 先ほどの女子生徒が返事をしてくれた。


「あのポスター良かったでしょう!みんなで選んだんだ」


「みんなでって、お前はあんまり協力しなかっただろ」


 座ったままのもう一人の男子からツッコミが入った。


「俺は藤原哲平。よろしくね朝倉さん」


「そんなことないよ。私も頑張って選んだもん!」


「ほら、新入生相手にちゃらけ始めるなよ」


 二人のやりとりを三上が止めに入る。


「まあ、こんな感じで人数も少ないしアットホームな部活だから」


 いい感じにまとめられた気がしないでもないが、少なくとも歓迎されているらしいことは間違いなさそうだった。木暮に勧められるままに荷物を置き、椅子に座る。


「えっと、じゃあ」


 椅子に座り直した三上が声を発した。


「どうしようか?」


「「部長…」」


 木暮と藤原が異口同音に失笑の声を上げた。


「実のところ、今年初めての見学希望なものだから、どうしたらいいものか、」


 頭をかきながら三上が言葉を繋ぐ。


「朝倉さんは、短歌ってどのくらい知ってる?」


「えっと、中学校の授業で習ったのと百人一首くらいしか知らないです」


 唐突な質問に困惑と申し訳なさを覚えつつ正直に答える。


「そのぐらい知ってれば十分だよ」


 三上が大袈裟な頷きを見せた。


「短歌は五七五七七の合計三十一文字で作られる和歌で、難しい決まりもあんまりない、この部活と同じで気楽に始められるものなんだ。短歌部は自作の短歌を発表しあったり、歌集を読んで勉強したりが主な活動かな。ちなみに、」


 三上は言葉を切って紙を広げた。


「朝倉さんが見たのはこのポスターだね」


 –––––われ歌をうたへりけふも故わかぬかなしみどもにうち追はれつつ


 廊下で見たポスターと同じ言葉が綴られていた。


「これは若山牧水という、明治から昭和にかけて活躍した人の歌なんだ」


 このポスターを見るのは廊下に続いて二度目だったが、やはりどこか心を惹かれるものがあった。今はそれがどういう感情なのかは分からなかったが。


「この部室には牧水の歌集とか、いろんな本が置いてあるから、入部したらそれを眺めて勉強してみるのもおすすめだよ」


「朝倉さん、何か聞きたいことはある?」


 隣に座った木暮から尋ねられた。


「私、何も知らずに来てしまったので、何を聞けばいいか…」


 尻すぼみに声が小さくなるが木暮は聞き取ってくれたらしい。


「じゃあ、今日はいつもの活動風景を見学してもらおうか。何かあったらいつでも言ってね!それでいいですよね、部長?」


「ああ、そうしようか。今日は春の歌を読んで発表する予定だったんだ」


 三上がそう言うと、藤原が短冊状に切られた紙を三上と小暮に配った。


「発表のときはこの紙に自分の歌を書いて、ホワイトボードに貼り付けることにしている。と言う訳で、朝倉さんはみんなが書くのを少し待ってくれ」


 その言葉を待っていたかのように、木暮と藤原が真剣な表情で紙にペンを走らせる。少し遅れた三上も同じように真剣な顔を見せた。三人が書き終わるまでにそれほど長い時間はかからなかった。

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