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青春短歌〜言葉にできない気持ちを、私たちは三十一文字にする〜  作者: 老川
一年生夏休み

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庭園吟行の歌

 翌日、私たちは弁当を携えて、同じように吟行へと赴いた。目的地は昨日とは異なり、季節の花が見られるという庭園だ。入場料を払って中へ入ると、彩り豊かな、それでいて爽やかな夏の花が咲き誇っていた。


「というわけで、今日の吟行の会場はここだ。昼食はみんなでとるから、十二時にあそこのベンチに集合にしよう。それまでは各自、創作に励んでくれ」


 先輩たちから離れ、手近な花壇へ歩みを進める。青色の花から心なしか良い香りがする気がした。庭園はゆっくり回っていると一日では足りないほどの広さがあるらしく、顔を上げて見渡しても終わりが見えないほどの花園だった。


 花壇の間に配置された歩道を歩いていると周りの花に目を奪われてしまう。しばらくの間、私は短歌のことなどすっかり忘れて花を見ることに夢中になっていた。


 気を取り直して、バインダーを手に、歌作りに頭を切り替える。その瞬間、ふとあの歌が頭をよぎった。だが、今日は昨日よりも気持ちが早く切り替えられた。考えても仕方がないし、せっかくの素敵な光景を歌に残したいと思った。


 集中して、景色に目を向け、音に耳を傾け、ペンを走らせていると、待ち合わせ時間まではあっという間だった。


「すみません。お待たせしました…」


 入場口近くのベンチに戻るとすでに他の四人は集まっていた。


「いや、時間には遅れてないよ。それじゃあ昼食にしようか」


 ベンチに座り、宿で作ってもらった弁当をみんなで食べる。視界に映るあざやかな花のおかげでただのおにぎりもいつもより美味しく感じられた。食事中も庭園内の花についてや、そこから受けたインスピレーションについて話は盛り上がる。次第に話は短歌のことへと移っていった。だから、その話題にひよりが触れたのも自然なことだったのかもしれない。


「それにしても、コンクールの最優秀賞はすごかったですよね」


 動揺で少し肩を揺らしてしまった。周りにばれないように平静を装う。


「あの壬生さんという人の歌だな。確かにあれはすごかった」


「正直同じ高校生の歌とは思えなかったです」


 三上も藤原も口々にあの歌のことを褒める。


「壬生さんという名前は聞いたことがなかった気がするな。高橋先生はご存知でしたか?」


「いえ、私も初めて聞きました。もしかしたら、一年生かもしれませんネ」


 一瞬、誰も言葉を継げなかった。


「あの歌を詠んだのが一年生かー。しずくちゃんはどう思う?」


「私は…同い年とはとても思えなかったです…」


 ひよりに聞かれて、正直な感想を答える。てっきり、先輩たちと同じように上級生だと思っていたので、同い年があの歌を作ったとはとても想像できなかった。心の奥の繊細な部分をざらりと撫でられたような気分だった。


「まあ、ここでどうこう言っても分からないしな。あれだけの歌を読む人だ。これからもコンクールなどで名前を見かけることはあるだろうし、何かの機会に会うこともあるかも知れない」


 その三上の言葉を最後に、話はまた別の話題へと移っていった。楽しげに話す先輩たちを横目に私は一人取り残されたままだった。庭園の花は変わらずあざやかに咲いていた。


 昼食を終えると私たちは再び別れて吟行を行なった。昨日よりも時間が長くあったので、できた歌の数も出来もある程度満足のいくものだった。


 決められた集合時間になるとみんなで揃って宿へと戻った。昨日と同じ、発表の時間だ。


「今日は俺から発表しようかな」


 今日は三上が自ら口火を切った。


 –––––あざやかに彩る花と青々と広がる葉どもの報せる夏


「夏らしい素朴だけど素敵な情景ですね」


「花と葉の色の対比が決まってます」


「ありがとう。“青々と”の部分は昨日の木暮の歌を参考にさせてもらったんだ」


「風景と夏の訪れの実感という内面がきれいに繋がってるのも、さすがだと思います」


「景色だけで終わらずに、内面に繋げるのも大事なんですね…」


「ああ。風景から感じ取ったことを言葉にして歌にすると、一気に深みが増す気がするな」


「勉強になります…」


「そんなしずくちゃんは、どんな歌を詠んだの?」


「えっと、私のはこれです」


 –––––花々の陽射しを浴びて輝く鳥や虫も盛り上がる夏


「うん。昨日よりは全体がまとまっている気がするね」


「さっきの話だと、内面の部分が確かに不足してるね」


「昨日と今日で風景を言葉にすることはだいぶできるようになってきたから、あとはそこから感じたことを乗せられると、いい歌になるだろうな」


「でも、しずくちゃん確実に上達してるよ。その調子!」


「ありがとうございます…」


「じゃあ、次は俺が」


 –––––蓮の葉の浮かぶ様は涼しげに我の心もつられて揺れる


「藤原先輩は花じゃなくて“蓮の葉”なんですね」


「素材の選定にもセンスが光るな。しかも、情景が目に浮かぶようだ」


「“涼しげに”っていう言葉のチョイスも上手いですよね。風景と感情を自然に繋いでて。…ちなみに、哲平の心は、なんで揺れてるの?」


「それは想像に任せる。そんなお前はどんな歌を詠んだんだよ?」


「私のはこれだよ!」


 –––––夏の日に花たちとともに日を仰ぐ熱きは陽射しか君への心か


「木暮は今日も恋の歌か…」


「よくネタ切れにならないよな…恋の歌ばっかりなのに、いい歌を作るからタチが悪い」


「言い方がひどいよー。恋の歌は昔から提案でしょ。それにちゃんと観察したことも歌に取り入れてるもん」


「あの…私はひより先輩の歌好きですよ。背伸びしてない感じで、スッと入ってきます」


「…恋愛経験ないから全部背伸びだけどな」


「ちょっと哲平!余計なこと言わないの!それより歌の評価をしてよ」


「まあまあ二人とも…歌としてはよくできてると思うぞ。風景の描写と内面の描写がきれいに結びついている。…とても恋愛経験がないとは思えない」


「部長までひどーい!」


「ほらほらみなさん、あまり騒いでは宿の方にご迷惑ですヨ」


 先輩たちが半ば恒例行事のようなじゃれあいを始めるが、見かねた高橋が仲裁に入った。


「今日もいい歌ばかりでした。昨日よりも一段と磨きがかかっていましたネ。話題に上がっていた、風景と内面の対比は非常に重要なテーマですから、明日は意識してみるのもいいでしょう」


「ありがとうございます。それじゃあ、今日の活動はここまでにしよう。夜は近くの夏祭りに行くから、またロビー集合ということにして、少し休憩してくれ。じゃあ、一度解散」


 風景と内面、その言葉を忘れないように頭の片隅に刻みながら、私はひより先輩と一緒に部屋に戻り夏祭りまで時間を潰すことにした。

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