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青春短歌〜言葉にできない気持ちを、私たちは三十一文字にする〜  作者: 老川
一年生夏休み

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15/16

寺社吟行の歌

 創作を終えた部員が一人二人と山門の前に立つ高橋のもとに集まり始める。最後にやってきたのは三上だった。


「おっと、俺が最後か。みんな満足したなら、宿に戻って発表といこう」


 心なしか元気に見える三上に従って、みんなで来た道を宿へと帰る。相変わらず車通りは少なく静かな通りだったが、今はそれが良い趣のように思えた。


 宿に戻り男子の部屋に集まる。部室と違いホワイトボードはないが、藤原から短冊が配られた。それぞれに自分の歌を書く時間だ。


 私も自分が寺で作った歌を眺めながら、どれを選ぶべきか悩む。吟行の最中には良い出来だと思ったものも、時間をおいて改めて見ると粗が目立って見えた。何度も読み返しながら、これならみんなに見せられると思う歌を一種選び、短冊に書き始める。横目に見ると、先輩たちも自信の一首を書き始めたいるようだった。


 何度かペンが止まりそうになるが、なんとか最後まで書き切った。全員が書き終えて顔を上げるのはほとんど同時だった。


「みなさん、とてもよく集中していましたネ。歌の出来も楽しみになりました」


「みんな真剣ですからね。さあ、今日は誰からいこうか」


「しずくちゃん、たまには最初にどう?」


 急に話を振られ、心臓が小さく跳ねた。取り繕って、なんでもないような顔を作る努力をする。


「えっと、じゃあ…発表します…」


 ひよりが体の前で小さく拍手をして歓迎してくれた。息を整えて、自分の歌を書いた短冊をみんなの方へ向ける。


「私の歌はこれです」


 –––––古寺に参り言葉を紡ぐとき青い空響くセミの声


「なるほど」


 目で短冊をなぞっていた三上が一息ついて言葉をこぼす。


「いつもの朝倉さんの歌とは雰囲気が違う気がするな」


「しずくちゃんの景色を歌にしようっていう気持ちが伝わってくるよ」


「青い空にセミの声が響いているっていう風景は素朴だけど、日本人ならみんな共感できる光景だから強いね」


「ただ、最後の部分は少し字余り気味だな」


「はい…どうしても調整しきれなくて…」


「そっか。じゃあ明日明後日で頑張ろうね!ということで、次は私です!」


「なにが『ということで』なんだよ」


 藤原のツッコミにめげることなく、ひよりが勢いよく自分の短冊をみんなに見せてくれた。


 –––––セミが鳴き葉が青々と茂る夏あなたはどこで汗を流すか


「ひよりは、やっぱりこういう感じなんだな」


「どこか朝倉さんの歌とも似たところがあるな。セミの声と茂った葉の景色を詠んだ歌か」


「私も思いました。でも、“汗を流す”っていう表現で一気に夏らしさが増していて流石だなって」


「ありがとう、しずくちゃん!」


「それは確かにそうかもしれない。遠く離れていても、同じ夏っていう感じかな?」


「それじゃあ、次は藤原いってみようか」


 –––––重なった歴史に心巡らせる花々たちは知らず輝く


「哲平、相変わらず歌は上手だよね」


「なんで不満そうなんだよ」


「まあまあ。しかし、本当にいい出来だな」


「とても素敵だと思います」


「“歴史に心巡らせる”自分と“知らず輝く”花の対比が綺麗だな」


「ありがとうございます。そこは意識したので気づいてもらえて嬉しいです」


「流石だな。じゃあ最後に俺の歌だ」


 –––––伴たちと訪れる寺山門に刻まれたとき思いを寄せる


「雰囲気は哲平の歌と似てますね」


「そうですね」


「三上先輩の歌の方が少し内省的かな?」


「そんな気がするな」


「この“刻まれた”っていう表現は彫刻とかけてるんですか?」


「ああ、一応そのつもりだ」


「なるほど。実物を見ると二倍楽しめるわけですね」


「そういう表現もあるんですね…勉強になります」


 ぱちぱちぱち。


 発表が終わったところを見計らって、高橋が手を叩く音が響いた。


「みなさん、普段の活動の成果がよく出ていますネ。とても良い歌だったと思います」


「ありがとうございます。それじゃあ、今日はここまでにしようか。夕食まで少し休んでくれ」


「部屋に戻ろっか、しずくちゃん」


 腰を上げたひよりに促されて男子部屋を後にする。頭にこびりついたあの歌の残滓は少し薄くなっていた。

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