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青春短歌〜言葉にできない気持ちを、私たちは三十一文字にする〜  作者: 老川
一年生一学期

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11/16

私の答え

 それからの私は授業の合間の時間にも短歌のことが頭から離れない日々を送っていた。


「それで先輩がね…しずく、聞いてる?」


「えっと、ごめん」


 向かいに座り弁当を食べるまひるに目を向けると少し不貞腐れた顔をしていた。


「また短歌のこと考えてたでしょ」


 まひるは弁当箱から卵焼きをつまんで口に含んだ。


「締め切りまであと少しって言ってたもんね。でもあんまりぼーっとしてると危ないよ」


 弁当を食べ終えたまひるは弁当箱を片付けるとスマホを取り出した。そのまま少し画面を眺めると、こちらに差し出してきた。


「まひると一緒に帰らなくなったときにいい写真撮れたんだよ。見て見て!」


 そう言われて画面を見ると、学校からの帰り道の桜並木が写っていた。桜の花が舞う中に日の光が差し込み、キラキラと輝いて見えた。その光景を見て、胸の奥が少しほどけた気がした。


「あんまり頭使ってると疲れちゃうから、きれいな写真でも見て休憩しよ」


 怒ることもなくそう言って笑ってくれるまひるに肩の力が抜けた。そのまままひるに言われるままに写真を眺めていると、その間だけは短歌のことを忘れることができた。


 放課後、私は少し軽くなった心のまま、桜の光を思い出しながら、短歌部の部室へと向かった。コンクールへの緊張や焦りは心なしか和らいでいた。


「こんにちは」


 部室の扉を開けて中に入ると、ひよりだけが中にいた。


「しずくちゃん、やっほー」


 カバンを置いて席についた。ノートとペンを取り出すが、思ったように言葉は出てこないままだった。意を決してひよりの方へ向き直る。


「あの、ひより先輩…」


「なーに?」


「ひより先輩って、どんなときに短歌を思いつくとかってありますか?」


「私はね、恋愛ものの漫画読んだりドラマ見たりしてるときとか、あとはスマホの写真を見返してるときとかが多いかなー。しずくちゃん、まだ悩んでるの?」


「はい…参考にさせてもらえたらなって」


「うんうん。頑張っててえらいよ。それだけ頑張ってればきっとできるよ!」


「おう、早いな、二人とも。お疲れ様」


「こんにちは」


 そこで扉を開けて三上が部室に入ってきた。後ろから藤原も続く。


「こんにちは…」


「こんにちは!」


「二人で何の話をしてたんだ?」


「女の子の秘密です。しずくちゃんは頑張ってるので応援してあげてください」


 そう言ってひよりが微笑んだ。先ほどの相談は内緒にしてくれるようだ。


「そうか…それじゃあ聞かないでおくが、頑張ってくれ」


 三上もそれ以上聞くことなく、静かに笑みを向けてくれた。


「あの藤原先輩、今日『季寄せ』お借りして帰ってもいいですか?」


「うん、いいよ。頑張ってね」


 何度も書き、何度も消して。ようやく一首が形になったのは日付が変わる直前だった。


 –––––風光り新芽ほころぶ春が来た人に言葉に出会う季節か


「わあ、素敵だね」


「うん、いい歌だと思う」


「見事にスランプを脱したな」


 次の部活に作った短歌を持参すると、先輩たちは口々に私の短歌を褒めてくれた。不調続きだったために、自分の作ったものを人に褒めてもらえるという久しぶりの経験に心の底から嬉しくなった。


「ありがとうございます。先輩たちのアドバイスがとっても助けになりました。藤原先輩も本貸してくれてありがとうございました」


「哲平に『季寄せ』借りてたんだね。“風光り”って言葉は本から取ったの?」


「はい。春の季語にあって…幼馴染に見せてもらった桜並木の写真を思い出したんです。素敵な言葉だから使って見たいなと思ったんです」


「有効活用してもらえて嬉しいよ」


「これでみんなの歌が出揃ったな」


 三上がカバンからタブレットを取り出した。


「早速だが、ここで応募しようと思う」


「もうですか?」


 コンクールのことは分かっていたが、すぐに応募すると聞いて心臓が跳ねた。


「ああ。朝倉さんがいい歌を作ってくれたし、この勢いに乗っていこうかなと。それにあんまり先送りにしてると、余計に緊張しちゃうだろ」


「私は賛成です!せっかくだからみんなで応募しましょう」


 藤原も無言で頷いて同意を示した。本当にこのまま応募するらしい。


 三上先輩がタブレットを操作し、コンクールの応募フォームを開いて私たちの方に向けた。すでに高校名や氏名は入力済みのようだ。


「みんな思い入れがあるだろうから、自分の歌は自分で入力することにしよう。俺はもう入力してあるから、次は誰でもいいぞ」


「はいはーい!私がいきます」


 ひよりが元気に手を上げてアピールする。その勢いのままタブレットを受け取ると、キーボードに指を走らせた。入力を終えたひよりは顔を上げると端末を藤原に差し出した。


「はい、哲平」


「おう」


 そのまま藤原も入力を終えてしまった。


「最後は朝倉さんだね」


 藤原にタブレットを渡される。必死に落ち着けようとしていたはずの心臓が胸の奥で暴れていて、自分のものではないみたいだった。目をつむり、小さく息を吸って呼吸を整える。先輩たちに見守られながら、半ば勢いに身を任せるように、自分の短歌を打ち込んでいく。入力を終えると、そこには四つの短歌が並んでいた。


 –––––装いの軽くなりゆく街中に見つけ出すは季節の出会い


 –––––春はやて桜舞うなか君と会うこれからの日を楽しく思う


 –––––水温み花鳥虫と顔を出す誘われ出れば新たな出会い


 –––––風光り新芽ほころぶ春が来た人に言葉に出会う季節か


「うん、いい感じだな」


 画面を確認した三上が頷いてそう告げた。


「よし、それじゃあ応募ボタンを押すぞ」


 三上はそこで不自然に言葉を切った。


「部長、もしかして緊張してます?」


「なっ、仕方ないだろ。よし、押すぞ!」


 全員で小さな画面を覗き込むように、三上の操作を見守る。全員が同じ方向を向いて、同じ気持ちでいるようで、それが少しこそばゆくて嬉しかった。

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