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青春短歌〜言葉にできない気持ちを、私たちは三十一文字にする〜  作者: 老川
一年生一学期

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10/16

春の出会いの歌

 その日もうまく言葉が出てこないまま部活の時間を過ごすばかりだった。周りの先輩たちは相談を重ねながら着実に短歌を仕上げに向かっていた。その様子を見て焦りがつのり、余計にうまく言葉を紡げない時間が増えていた。


「良かったら、これ見てみて」


 藤原が本を二冊差し出してくれた。表紙を見ると、『国語辞典』と『季寄せ』と書いてあった。


「あの、これは?」


「歌作りって言葉と向き合う時間が長いでしょ。でもずっと考えてるだけよりも、色々と眺めてみるほうがいいこともあるんだ。だから、例えば『出会い』について辞書で調べたりしてもいいかなって」


「…なるほど。あの、こっちはなんですか?」


「これは季語がまとまった本だね。俳句作りに使われることが多いけれど、短歌でも季節の言葉を入れることは多いし、眺めていると新しい歌のきっかけが見つかることもあるよ」


「…そんなのがあるんですね。ありがとうございます」


 藤原の言葉に従い、まずは辞書を引く。「出会い」の項目はすぐに出てきた。


 ––––––その人や物と思いがけず(初めて)会うこと。


「出会い」なんて当たり前に知っている言葉だと思っていた。だが、改めて意味を調べ、その上で自分のこれまでの短歌を見返すと、「思いがけず」や「初めて」というニュアンスが十分に含められていない気がした。確かに辞書を引くだけでも気づきがあるようだ。


『季寄せ』と書いてある方も手に取って開いてみた。「春」と銘打たれた章の中に、「気候」や「生活」などの節がある。日常的に使う言葉もあれば、小説の中でしかみたことのない言葉や、聞いたことのない言葉まで色々な言葉が書き連ねてあった。これまでの部活で先輩たちの歌に聞き馴染みのない言葉を見ることがあったが、なるほど、こういうところからネタを拾っていたのかもしれない。私にもまだ見つけられていない言葉がきっとある気がした。


 結局、この日は二冊の本と格闘しているうちに活動時間が終わってしまった。まだ、自分の想いを言葉にして出すことはできていなかったが、少し前に進めたように思えた。


 次の活動日には先輩たちがコンクール用の短歌を発表することになった。まだ出来上がっていない私は少し焦ったが、そんな私の参考にして欲しいということらしかった。


「まずは私ですね」


 –––––春はやて桜舞うなか君と会うこれからの日を楽しく思う


「以前作ったしずくちゃんの歓迎会の歌をもとに改作しました」


「どこか恋愛の空気を残しつつ、ちゃんと『出会い』というテーマが伝わってくるいい歌だな」


「それに結びのおかげでワクワク感がありますね。次に俺のはこれです」


 –––––水温み花鳥虫と顔を出す誘われ出れば新たな出会い


「これは自然の情景が浮かぶきれいな歌だな」


「“水温み”って春の季語?」


「『季寄せ』に載ってて気に入ったから使ってみたんだ」


「なるほど。普段の勉強の成果が出てるな。じゃあ俺の歌も発表しよう」


 –––––装いの軽くなりゆく街中に見つけ出すは季節の出会い


「三上先輩は直接季語を使っていないのに、季節が伝わってきていいですね」


「確かにあったかくなった時期の歌だっていうのが自然に分かりますね」


「ありがとう。服装に関する季語は色々とあるんだけど、大体が着物の話だったりして馴染まなかったんだ。結構悩んだ部分だから伝わって嬉しいよ」


「しずくちゃん、私たちの歌、参考になりそう?」


「…はい。とっても素敵で勉強になります。自分で短歌を作るようになって、改めて先輩たちの凄さが分かりました」


「ありがとう。でも朝倉さんの歌にも朝倉さんにしか出せない良さがあるはずだから、自信を持ってあと少し頑張ってみよう」


 三上の言葉にひよりと藤原も頷いて見せた。先輩たちの歌はまだ遠く思えた。けれど、その遠さを理解できるようになったことは少し嬉しかった。それに前までは辛かった言葉を探すことが、こんなに楽しいと思えたのは初めてだった。

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