流星群②
陽太と翔は、学校に到着すると、迎えのために校舎から降りてきた後輩とともに屋上に上がり、あらかじめ準備しておいたマットの上に仰向けに寝転んだ。
屋上は街灯よりも高い場所にあるため、寝転んでしまうと、見えるものは星の光以外にほとんどない。
だが、マットの上に陣取ったばかりの陽太の目は、まだ暗闇に慣れていないせいか、数個の一等星の姿しか捉えることができないでいた。
目が慣れるまでの時間つぶしといった感じで、何気なく耳を澄ませてみる。
周囲で同じように寝転んでいる女子生徒たちのひそひそ話が、漏れ聞こえてきた。「彼氏」、「告白」といった単語が聞き取れた。多分、ロマンチックな雰囲気に浸りながら、恋バナに花を咲かせているのだろう。
少し離れた場所に目を遣ると、数人の生徒たちが天体望遠鏡を交代で覗き、星を観察していた。
天頂に近い西の空を向いている望遠鏡の方角から推測すると、恐らくはくちょう座の一等星デネブ、わし座の一等星アルタイル、こと座の一等星ベガからなる巨大な三角形辺りを眺めているのに違いない。
改めて夜空を見上げると、暗闇に目が慣れてきたせいだろうか、透き通るように澄み渡った空一面に、星々が宝石のように輝いているのが見えた。
――綺麗だ。
星が見える幸せを全身で感じながら、陽太は空に全神経を集中させた。
時折、流星が光の筋を描きながら消えていった。その度に、陽太の胸は意味もなく高鳴った。同時に、集まった生徒たちから歓声と拍手が沸き起こった。
流星が消えると、我に返った陽太は、手を頭の後ろに組みながら翔に問いかけた。
「大学は、どうだ?」
「まあ、薔薇色とまではいきませんが、くすんだ鶯色ぐらいのキャンパスライフを、それなりには楽しんでますよ。それより、先輩の就職活動は、どんな感じなんですか?」
「ああ、インターンシップも、ようやく一段落した。これから先は、エントリーシートを提出したり、会社説明会に行ったりで、また忙しくなるよ。その後は、卒業論文もあるしな」
「就職活動って、大変なんですね」
翔は空に向かって手を伸ばしながら、まるで他人事のように笑った。
「来年は、お前も同じようになるんだぞ」
そうなると、こうして一緒に星空を眺めるなどという青春ごっこも、しばらくはお預けだ。
「そうですね。だったら、そのときまでは鶯色の世界でしっかり遊んどかなきゃ。青春は、一度きりですからね」
「何を、昭和世代の親父みたいな臭い台詞を言ってるんだか」
陽太が呆れると、翔はおもむろに上体を起こし、陽太に顔を向けた。
「それにしても、驚きましたよ」
「何だよ、突然」
「先輩が美羅とつき合いはじめたこと、ですよ。最初、話を聞いたときは本当にびっくりしたんですから」
「何だ、そんなことか」
美羅とつき合っていることを翔に話したのは、去年のことだ。今さらという以外に、表現のしようがなかった。
そんな陽太の戸惑いを知ってか知らずか、翔は急に真顔になった。
「美羅、高校時代のことを先輩に話したりします?」
陽太は思わず顔を上げ、翔の方向に目を向けた。
「何で、そんなことを聞くんだ?」
「いえ、ふと思いついただけですよ。別に深い意味はありません」
翔は頭を掻きながら、目を細めて笑った。その表情を何気なく眺めながら、陽太は考えた。
「そういえば、高校時代のことはあまり話さないかな。別に話したくないわけじゃないんだろうけど。まあ、機会がなかったんだろうな」
翔は「そうですか」と気のない返事をした。
自分から聞いてきた割には淡白な翔の返事に、陽太は少々、肩透かしを食らった気持ちになった。
そのときだった。
これまでの流星よりもはるかに明るい光の筋が、夜空を横切った。
――火球、か?
火球とは、とくに大きく、明るい流星をさす。
珍しさに感心する間もなく、火球は途中で弾けるように数個に分かれたかと思うと、そのまま地平線の彼方へと消えていった。
――今、美羅は、あの流星の下辺りにいるんだろうか。
今すぐ美羅のもとに駆けていって、力一杯抱き締めてあげたい。そう、強く思った。




