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告白②

 その後、陽太と彼女は、当然のように星に関するさまざまな話で盛り上がった。

 話の内容はというと、こんな感じだった。


 水星は自転と公転の速さが比較的近いため、一日の長さが地球の約半年分もあるのに対して、木星は公転に比べて自転のほうがはるかに速いため、一日は地球の約十時間分しかないこと。

 気象衛星などの静止衛星は、地球の重力と衛星自体の遠心力が釣り合っていないと静止できないため、高度が三万六千キロに限定されていること。

 そして、これがもっとも重要なことなのだが、ドレイクの方程式により、宇宙人と人類が出会える可能性は決してゼロではないこと。


 陽太は我を忘れて、天体関連の話を熱く語り続けた。彼女は陽太の話を聞きながら、あるときは楽しそうに笑い、あるときは不思議そうに質問を投げかけてきた。

 質問の内容は的外れなものも多かったが、少なくとも星や宇宙に対する好奇心や情熱だけは、十分に伝わってきた。

 何事も、情熱が第一だ。知識は後からついてくる。高校時代の天文部の顧問の口癖を思い出した。

 喋り過ぎてすっかり乾いてしまった口をコーヒーで潤した陽太は、このような会話で踏むべき手順を、しっかりと踏んでいないことに気がついた。

「そういえば、まだ名前を聞いていませんでしたね」

 すると、彼女は右手で口を隠すような仕草を見せながら「そういえば、そうですね」と小さく笑った。

「佐伯……、美羅です」

「みら、ですか。珍しい名前ですね」

「よく言われるんです、変わってるなって。でも、偽名じゃないですよ」と言うと、彼女は今一度、柔らかく笑い、バッグの中から取り出した学生証を見せてくれた。

 名前の欄には、確かに「佐伯美羅」と書かれていた。

 ――素敵な名前だ。

 迂闊に口にすると笑われるかもしれない。だが、真剣にそう思った。

 そう思ったところで、気がついた。学生証の上の部分には大学名が書かれていた。陽太は、美羅という名前の次に、その大学名に意識が向いた。

「大学は、浅見女子大学なんですね」

「あ、そういうことになりますね」

 美羅は、今まで気がつかなかったことが、よほど可笑しかったのだろう。全天でもっとも明るい恒星といわれるシリウスかと見紛うほどの、明るい笑顔を弾けさせた。

 その屈託のない美羅の笑顔の眩しさが、陽太の純粋な好奇心をますます刺激した。

 浅見女子大学は、陽太が通う帝洋大学から歩いて十数分ほどの場所にある大学だ。駅からはやや遠いが、帝洋大学の学生である陽太たちと同じ駅を利用している浅見女子大学の学生も多い。

「通学は、電車で?」

 ちょっと馴れ馴れし過ぎるかとも思ったが、聞かずにはいられなかった。

「はい。駅からは歩きですけど」

 ――ということは、同じ駅を使っている?

 陽太が住んでいるのは、大学の最寄り駅から二駅離れた藤木市の駅の近辺だった。一九九〇年代の香りがする、今どき珍しい淡いブルーの外壁をもつマンションだ。普段、陽太はそこから自転車で大学に通うことが多いが、天気が悪いときや寒いときは電車を使っていた。

「俺もときどき、電車を使います。ひょっとしたら、駅ですれ違っていたことがあったかもしれませんね」

 美羅は、何かを考えているかのように、ほっそりとした顎に人差し指を当てた。その表情の色っぽさに、陽太はどきりとした。

 だが、美羅はそんな陽太の心の騒めきに気づくはずもない。やや気まずそうな表情を浮かべたかと思うと、桜色の唇から、思いもかけない言葉を発した。

「あの……。急にこんなこと言ったら驚かれるかもしれませんけど……。白石さんですよね?」

 その言葉通り、陽太は驚いた。

「はい、確かに白石ですが……。どうして、それを?」

「やっぱり……」

 美羅は、納得したように、大きく頷いた。首の動きに合わせて見え隠れするうなじに、陽太は意味もなく見とれた。

「私、実は白石先輩と同じ高校の一年後輩なんです。天文部の部長だった先輩のことは、高校時代から知ってました。さっき本を拾っていただいたときに『ひょっとしたら』と思ったんですけど、先輩が星の話をあんまり嬉しそうにするもんだから、つい言いそびれてしまって……」

 その言葉に、急に恥ずかしさがこみ上げてきた。陽太は、美羅のうなじから視線を逸らした。

 ――ひょっとして、自分は美羅の都合も考えずに、勝手に話を進めてしまっていたのだろうか。

「迷惑、でしたか?」

 恐る恐る、聞いてみる。

「そんなことないですよ。楽しかったです。ただ、先輩だと気づいたときには、本当にびっくりしましたけどね。世の中、狭いですよね」

 ――よかった。

 美羅の優しさが垣間見える否定の言葉に、陽太は胸を撫で下ろした。

 笑ったときに微かに見える八重歯が、とても魅力的だった。

 その後、陽太はレポートを忘れて、美羅と語り合った。

 気がつくと、夕方近くになっていた。結局、レポートはまったく進まなかったが、最早そのような些末なことはどうでもよくなっていた。

 そして、別れ際。

 ファストフード店の前で手を振りながら、思わず口にした。

「あの、また会ってもらえますか?」

 美羅の表情が、ぱっと明るくなった。

 美羅は、非日常的な状況のなかで浮き足立っている陽太の耳元で、囁いた。

「はい、もちろんです」

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